2021年11月07日
No.5106 ちょっと一休み その799 『クラシックカーの改造EV化!』
7月20日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でクラシックカーの改造EV化について取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付は全て番組放送時のものです。

EVの新車生産への動きが加速する中、全く異なるアプローチも出てきています。
ロールスロイスのような高級クラシックカーがずらりと並ぶ場所、実はEVに改造する工場なのです。
2018年創業の自動車ベンチャー、ルナズ(イギリス・シルバーストン)では熟練の技術者たちが半年ほどかけてクラシックカーをEVに改造していきます。
まずクラシックカーを完全に分解、その後バッテリーの配置場所や電気系統などを再び設計し、組み立て直すのです。
CEOのデビッド・ロレンスさんは次のようにおっしゃっています。
「データで再設計することが技術の要です。」

完成したEV版の1961年製ロールスロイス「ファントムV」の価格は7500万円〜となっています。
内装については、当時の特徴をなるべく残しています。
運転席と後部座席の間には伝統的な間仕切りスクリーンもあります。
一方で、ロレンスさんは次のようにおっしゃっています。
「エアコンなど、今のロールスロイスで必要な機能は付けています。」
「クラシックカー市場だけでなく、EVのロールスロイスが欲しい人も狙っています。」

先月、サッカーの元イングランド代表のデビッド・ベッカムさんがルナズの株式の10%を取得し、注目されました。
更にロレンスさんは次のようにおっしゃっています。
「これがトラックの中身だ。」
「改造で何を節約出来るかチェックします。」

実は今後、トラックやごみ収集車など産業用の運搬車でも改造EVを増やす計画なのです。
欧米だけでごみ収集車は約8000万台もあるため、EVに改造する需要は高まると見ています。
これを見すえ、ルナズは改造EVの生産能力を現在の年間120台から数年で4000台にまた一気に拡充する計画です。
ロレンスさんは次のようにおっしゃっています。
「クルマは将来世界で約20億台になります。」
「どうEV化するか考えないと。」
「全部新車というわけにいかないので、改造は一つの答えです。」

このEV化ですが、どうしてヨーロッパがここまで力を入れているのかという、その背景には“脱炭素化”を進めていかないと市場からの退場を迫られてしまうという“炭素負債”という考えがあるといいます。
解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「“炭素負債”というのは企業に課す炭素税ですね。」
「そして排出量取引などで企業が負担するコストということになるんです。」
「要するに“脱炭素”でもたもたしていると、環境コストが増して企業の経営が苦しくなる、そういう意味ですね。」
「(“炭素負債”の規模について、)日本経済新聞が世界で炭素を排出する主な企業、1000社について試算したんですね。(添付参照)」
「2050年までの負担額は実に4000兆円を超えるという結果が出てきました。」
「その内訳なんですけども、日本企業の負担額はEUよりは少ないんですけども、“炭素負債”をしょい込むことによって赤字になっちゃう企業が出てくるのですけども、その割合は7割近いんですよね。」
「EUは相対的に“炭素負債”の負担が小さくて済む。」
「そこでEVなどにシフトすることによって自分たちの負担をもっと減らして、逆に言えば相対的な競争力を増そうとしているわけですよね。」
「先ほどの4000兆円を巡るゲームが今繰り広がれているというふうに見ていいんじゃないでしょうか。」

日本も負けていられません。
この状況をどうにかしなければなりません。

以上、番組の内容をご紹介してきました。

今から10年ほど前、日産「リーフ」の発売をきっかけにガソリン車をEVに改造する中小自動車関連企業が雨後の筍のごとく現れました。
そしてあちこちで改造EVの展示会が開催されるまでになりました。
しかし、こうした改造車は低価格ではあるものの構造がとても簡単で当然のごとくフル充電での航続距離はとても短く、やがてほとんどの企業は改造ビジネスから撤退してしまいました。
この改造ビジネスが話題になった時、もし、既存のガソリン車、中でもスタイルのいいクラシックカーなどをEVに改造する企業が現れれば、一部のコアなオーナーからの引き合いがあるのではないかと思っていましたが、この時には現れませんでした。

今、EVの新車生産への動きが加速する中であらためてEVへの改造ビジネスに本格的にチャレンジする企業が現れたのです。
2018年創業の自動車ベンチャー、ルナズでは熟練の技術者たちが半年ほどかけてクラシックカーをEVに改造しているといいます。
改造といってもクラシックカーを完全に分解してからEV用に組み立て直すのですから当然高額になります。
更に現在市販化されているガソリン車のEV化を望んでいる人の需要にも応えるといいます。
しかし、これについては、ほとんどのガソリン車のEV化が進みつつある中において遠からずEVの新車として登場してくるはずです。
ですから、EV改造車の需要はあくまでもクラシックカーのような特殊なガソリン車のEV化を望む限られた人たちによるものと見込まれます。

なお、ルナズは今後、トラックやごみ収集車など産業用の運搬車でも改造EVを増やす計画といいます。
しかし、このビジネスをうまく軌道に乗せるためには、エアコンなど従来の機能を残しつつ、実用的なフル充電での航続距離を確保し、しかも新規のEV、あるいは燃料電池車と比較して燃料費も加味した価格が低いかどうかがカギとなります。
更に、完全自動運転車時代の到来を考えると、自動運転機能を追加する費用がどうなるかというのも懸念材料となります。
更に走行中の安全の確保も高いハードルになります。

一方で、ヨーロッパを中心にEV化が加速する背景には“脱炭素化”という時代の強い要請があります。
その結果、“脱炭素化”を進めなければ“炭素負債”という炭素税が課せられてしまうのです。

それにしても添付の“炭素負債”の金額は、世界規模で企業の中には存続を脅かされるほど大きいことが分かります。
ひょっとしたらEUが排出量取引を伴うこうした制度の導入を進める背景には、この制度そのものを新しいビジネスとして位置付けているのかもしれません。
ですから、改造EVビジネスへの取り組みにあたって、炭素税の金額次第ではこのビジネスを進めるうえで追い風になるのです。
ルナズはこうしたことも計算に入れて改造EVビジネスの将来性を考えているのかもしれません。

もう一つの背景ですが、欧米、あるいは中国の自動車関連メーカーがハイブリッド車の技術では到底日本のメーカーに追いつけないという認識からEVマーケットで一気に日本の自動車メーカーを追い越そうという企みがあるという専門家の見方もあります。

ですから、EV開発競争で出遅れており、しかも当面はハイブリッド車の生産に軸足を置いている日本の自動車メーカーにとって今後の舵取りは非常に難しいと危惧されます。(参照:アイデアよもやま話 No.5049 EVを巡る世界的潮流!

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています