2021年11月04日
アイデアよもやま話 No.5104 中国政府がIT企業を締め付ける背景!
7月7日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で中国政府がIT企業を締め付ける背景について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

今週、DiDiの名称で知られる中国で配車サービス大手の滴滴出行が当局から個人情報の扱いを巡って違反があったとして厳しい処分を受けました。
DiDiのようなIT企業を巡っては最近中国政府による圧力が高まっていますけれども、一方で個人情報を巧みに利用した不可解な価格操作も社会問題になっています。

今、中国ではこうしたIT大手のサービスで個人情報を巡る問題が浮上しています。
中国の苦情サイト「黒猫投訴」には以下のような投稿があります。
「買えば買うほど、実際に支払う金額が多くなる。」

あるショッピングサイトで同じ商品を買ったのに、お得意様の方が価格が高くなるというのです。
タクシー配車サービスのDiDiで、乗車場所と行き先を入力すると料金を見積もることが出来る仕組みです。
お客によって価格が違うということで実際に検証してみました。
同じ条件でタクシーを呼んでみると、常連客の料金は初めて使用するお客の2倍以上の料金がアプリの画面に表示されました。
初めて使用するお客にのみ割引が適用されていたのです。
サポート窓口に問い合わせると、当初はこのような価格設定を否定しましたが、お客によって違いが出ることを認めました。
お得意様が損をする、不可解な構図です。

なぜこうした価格差が生じるのか、消費者問題に詳しい専門家、上海情報サービス業協会の陸雷秘書長は次のようにおっしゃっています。
「新たなお客に対して、各プラットフォームは大量の手当てを配っている。」
「とても安い価格でお客を引き付け、プラットフォームを利用する習慣を付けさせる。」

更に専門家が指摘するのはスマホが関わった価格決定の背後にある分析手法です。
陸雷秘書長は次のようにおっしゃっています。
「携帯の種類、ブランド品の嗜好、性別、年齢、学歴、収入、趣味、あなたの“デジタル像”を作ることで価格をどの範囲内で負担出来るか算定する。」
「一つの製品、サービスに対して“千人千価格”が現れる。」

スマホから所有者のあらゆる情報を集め、価格への許容度を探っているのだといいます。

こうした個人情報の扱いについて、中国政府はIT大手への規制を強化、個人情報保護法の制定に向けた準備を進める他、7月4日にはDiDiに対して個人情報の収集・利用に重大な違反があったとして、DiDiのアプリの新規ダウンロードを停止を命じています。
ただ政府の規制強化には懸念もあるといいます。
陸雷秘書長は次のようにおっしゃっています。
「企業にイノベーション力は喪失して欲しくない。」
「(IT大手は)私たちにより良い生活を提供してくれる。」
「イノベーションと消費者保護のバランスをとる必要がある。」

こうした中、中国政府はDiDiのように海外で上場する中国企業に対して規制を強化する方針を発表し、株式市場の動揺を招いています。
7月6日のニューヨーク市場では中国の主要なIT銘柄が軒並み下落しました。
中国政府が7月6日、海外で上場する中国企業に対し、国境を超えるデータの取り扱いに関する規制を強化する方針を発表したためです。
先端技術を巡り米中対立が激化する中、中国のIT企業のアメリカでの上場をけん制する狙いがあると見られます。
更に中国当局は7月7日、過去のM&Aの際に当局への申請がなかったのは独占禁止法違反に当たるとして、ネット大手のアリババやDiDiなどに罰金を課す決定を出しました。

こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「(もともと中国当局はIT企業を重要な産業として後押ししてきたが、なぜここにきてこれだけ態度が変わったのかについて、)DiDiはアプリのダウンロードを禁止されましたし、フルトラックは新規利用者の登録が止められています。」
「どうしてなのかについては、いくつか理由があるのですが、もともと中国のハイテク企業が儲け過ぎだという批判もありますし、こういうIT企業が中国の共産党以上に力を持つことを許さないというメッセージが当局にあるかもしれない。」
「更にアメリカの当局が、中国の企業がアメリカの市場に上場する時に情報開示を徹底するように今求めていますので、中国企業の株主に中国の要人の会社だったり要人の家族の会社だったりすると、これはちょっとマズイということになるんじゃないでしょうか。」
「(中国企業にとってはずいぶん厳しい環境になるのではという指摘に対して、)資金調達がアメリカの市場では非常に難しくなります。」
「で、国家の管理が強くなるとイノベーションを起こそうという、いわゆる起業家精神が圧迫されますので、今までのように急成長を遂げる会社が出てきにくくなるんじゃないかと思うんですね。」
「(ということは中国という国にとってマイナスになる気がするが、)そうですね。」
「資金調達については、アメリカの市場がダメなら香港市場でお金を取るということも出来るかもしれない。」
「そういうふうにデカップリングはある程度覚悟しているかもしれませんね。」
「(そういった状況の中で日本への影響も出てくると思いますが、)ちょっと個別の話になっちゃうんですけども、孫正義さんがいらっしゃるソフトバンクグループはこうした中国企業に出資をされていますので影響を受ける、これはしょうがない状況になっていますよね。」
「それ以外に資本市場全体世界で、米中の対立が影を落とすというような展開になるかもしれませんね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

まず、同じ条件でタクシーを呼んでみると、常連客の料金は初めて使用するお客の2倍以上の料金がアプリの画面に表示されたことについては、それほど驚くようなことではないと思います。
思えば、通販でサプリメントなどを定期購入の注文をする際、初回限定で大幅な割引がなされる例をよく見かけます。
タクシーにおいてもこうした割引が中国では当局による価格設定の規制がないなどの理由で認められているということなのです。

しかし、問題は2回目以降のタクシーの利用料金の決定プロセスです。
携帯の種類や性別、収入などによって一つの製品、サービスに対して“千人千価格”が設定されるというのは顧客を混乱させます。
更にこうした個人情報が本人の了解なしにサプライヤーに筒抜けになっていることです。

ですから、こうした個人情報の扱いについて、中国政府がIT大手への規制を強化、個人情報保護法の制定に向けた準備を進める他、7月4日にはDiDiに対して個人情報の収集・利用に重大な違反があったとして、DiDiのアプリの新規ダウンロードを停止を命じたというのは極めて妥当と言えます。
一方で、勿論、過度な規制により企業がイノベーションの意欲を削ぐことがあってはなりません。

こうした中、中国政府は海外で上場する中国のIT企業に対して規制を強化する方針を発表し、7月6日のニューヨーク市場では中国の主要なIT銘柄が軒並み下落したのです。
その理由は、海外で上場する中国企業に対し、国境を超えるデータの取り扱いに関する規制を強化する方針を発表したためといいます。

更に中国当局は7月7日、過去のM&Aの際に当局への申請がなかったのは独占禁止法違反に当たるとして、ネット通販大手のアリババやDiDiなどに罰金を課す決定を出しました。

IT企業を重要な産業として後押ししてきた中国当局の態度がなぜここにきて変化したか、そしてその影響について、原田さんのコメントを以下にまとめてみました。
・もともと中国のハイテク企業が儲け過ぎだという批判があった
・巨大IT企業が中国の共産党以上に力を持つことを許さないというメッセージが当局にあるかもしれない
・アメリカの当局が、中国の企業がアメリカの市場に上場する時に情報開示を徹底するように今求めているので、中国企業の株主に中国の要人の会社や要人の家族の会社が含まれているとマズイと考えられる
・こうした中国当局による規制はアメリカの市場での中国企業の資金調達を困難にする
・国家の管理が強くなるとイノベーションを起こそうという、起業家精神が圧迫される
・結果として、中国にとってマイナスになる
・こうした中国当局による中国企業への規制強化は日本企業にも影響を及ぼしている
・資本市場全体世界で、米中の対立が影を落とすというような展開になるかもしれない

こうしてみると、あらためて中国においては、憲法や法律は中国共産党が国を統治するための手段であるということが思い起こされます。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.690 『中国式“法治”の脅威!』
中国においては、当局の政策決定の根源には“まず中国共産党ありき”という強烈な意志があるのです。
ですから、表面的には中国のハイテク企業が儲け過ぎだという批判をかわすという政策も国民の不満が高まり、中国共産党への批判が大きくならないように、あるいは巨大IT企業が中国の共産党以上に力を持つことを許さないという隠れた狙いがあるのです。
また、中国の企業がアメリカの市場に上場する時に情報開示を徹底するように今求めているのに対して、中国企業の株主に中国の要人の会社や要人の家族の会社が含まれていることが表面化すると国民の怒りが爆発して中国共産党への批判が高まることを警戒していることも海外で上場する中国企業に対して規制を強化する方針を発表した大きな要因の一つであると思われます。

ということで、中国共産党による自らの存続を万全なものとするための政策と中国企業や中国国民の要望のベクトルが一致する場合には中国共産党にとっても中国企業や中国国民にとってもメリットがあります。
しかし、そうでない場合には中国共産党の意志が優先されるのです。
同様に他国や他国の企業との関係においても同様のことが言えます。
そして注視すべきは、自らの目的達成のためには中国共産党は国内の憲法や法律のみならず、国際的なルールも無視するという基本方針を貫いているということです。
ですから、世界各国、あるいは企業はこうした中国共産党の基本方針を念頭に置いて中国と向き合う必要があるのです。

 
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