2021年09月22日
アイデアよもやま話 No.5067 中国がCO2排出量ワーストから脱却へ!?
5月24日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でCO2排出量ワーストから脱却する中国について取り上げていたのでその一部をご紹介します。

発電の約60%を石炭火力で賄う世界第2位の経済大国、中国ですが、国内外から大気汚染の原因と問題視されてきました。
そこで中国政府は“脱炭素”の達成に向け再生可能エネルギーなどの比率を上げようと国を挙げて乗り出しています。

眩しいほどの陽光が降り注ぐ中国内陸の地、青海省では日照時間の長さを活かし、大規模な電源開発が行われています。
砂漠を走ると見えてきたのは無数の太陽光発電パネル、中国が威信を賭け、2012年に建設が始まった巨大メガソーラー、海南州太陽光発電所、その広さは東京23区とほぼ同じ広さ、現在3分の1程度が完成、既に一般の原子力発電所の9基分に匹敵する出力があります。
地元政府の幹部は次のようにおっしゃっています。
「青海省と地元政府は国のCO2排出量ゼロに貢献したい。」
「2025年までの14次5ヵ年計画で1000万kwの発電所を3つ作る。」

CO2排出量世界一の中国が掲げる野望ですが、2020年9月に開催された国連総会の場で、習近平国家主席は次のようにおっしゃっています。
「2030年までにCO2排出量のピークに到達するよう努め、2060年までにCO2の排出量実質ゼロを達成するよう努める。」

その達成にもう一つ欠かせないのが原子力発電です。
現在49基が運転している中国はアメリカ、フランスに次ぐ3位、福島第一原発事故以降の日本とは対照的に中国では今、世界で最も多い17基が建設中です。
発電量に占める原発の割合を現在の約5%から2035年までに約10%に引き上げる計画です。

コロナ禍の4月、北京では国営企業の“ゆるキャラ”も登場した原発推進を掲げる大規模展示会、その目玉が中国が独自に開発したとする最新型(第3世代)の原発、華竜1号です。
今年1月に初めて営業運転を開始しました。
福島第一原発事故の対応策もあるといいます。
中国核工業集団の関係者は次のようにおっしゃっています。
「華竜1号は電気無しでも自然に作動する受動的な安全システムを3系統持っています。」

緊急時に外部電源を失ったとしても、水を自然に循環させて原子炉を冷却する仕組みになっていて、メルトダウンを防げるとしています。
その会場にはフランスの原子力代替エネルギー庁やロシアの原子力の国営企業など海外勢も多数参加しています。
世界の原子力のけん引役を目指す中国、協力関係を結ぼうと各国の機関や企業が集まりました。
イギリス大使館の担当者は次のようにおっしゃっています。
「イギリスの商品やサービスを中国の原子力産業に輸出することやイギリスの原子力産業へ中国の投資を促進することに関心がある。」

またロシアからの参加者は次のようにおっしゃっています。
「この展示会は有意義だと思う。」
「国際市場での(原子力の)可能性を示せる。」

中国は既に原発を輸出、巨大経済圏構想“一帯一路”と連携し、最初の輸出先となったパキスタンでも華竜1号が建設され、営業運転を開始したばかりです。
積極的な輸出政策でイギリスやアルゼンチンでも華竜1号の導入が決定、業界団体の幹部は資源確保の観点からも原子力が重要だと訴えます。
中国核能行業協会の張延克理事長は次のようにおっしゃっています。
「原子力開発は国のエネルギー安全保障の能力を強化する。」
「石油や天然ガスは外国への依存度が高く、エネルギー安全保障は大きな圧力に直面している。」
「エネルギー構造の変革は急務だ。」

世界の原発の状況(添付参照)は、運転中の原発では日本は9基、世界ではアメリカ、フランス、中国の順になっています。
そして、建設中、計画中を含めると、今後、中国が圧倒的な伸びを見せています。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「2011年の東日本大震災で原発事故があって、日本の原子力政策がストップしたわけですけど、それだけじゃなくて欧米の原子力を推進するエネルギー、力がだいぶ弱くなった。」
「その影響が出ているんだろうと思います。」
「(そうした中でも中国だけは原発を推進しているということだが、意外なのは原発発電量のシェアが4.9%と低いという指摘に対して、)原発を沢山つくってもエネルギーの需要がどんどん増えているので、例えば中国は昨年だけで原子力発電所30基分の石炭火力をつくっているんです。」
「先ほども出ましたが、習近平さんが2030年にCO2排出量のピークを付けると言っていたのが、その時点でも原発の発電量のシェアは10%いかないんですね。」

「(日本はどうかと考えた時に、2030年にCO2排出量の46%削減という目標を掲げているわけですが、それを達成するためにも原発をどう考えていくべきかという問いに対して、)再生可能エネルギーを強化して活用していくのは第一前提なんですけど、しかしながら原発もある程度のシェアが必要なると。」
「で、過去20年近く、日本は原発を新しく作ってないんですよね。」
「なので、そのための人材を確保して育てることなどが絶対必要なんだろうと思います。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

番組を通して分かるのは、中国は“脱化石燃料”に向けて太陽光を中心とした再生可能エネルギー、および原発の積極的な導入に取り組んでいるということです。
しかし、これらの取り組みでも国内の経済成長に伴う電力需要に追い付かず、石炭火力で何とか電力の不足分を補おうとしているというのが現状なのです。
しかも、2030年にCO2排出量のピークを付けるという目標を掲げていますから、少なくとも2030年まではCO2排出量は増え続けると見込まれます。
しかも、2060年までにCO2の排出量実質ゼロを達成するよう努めるという方針です。
また今後の経済成長が見込まれるインドなどの途上国は2030年以降もCO2排出量は増え続けると見込まれます。

一方、プロジェクト管理と日常生活 No.708 『基準年が異なる各国の温暖化ガス排出量の削減目標』でもお伝えしたように欧米や日本は今後毎年CO2排出量の削減に向けて取り組んでおります。
そして、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による「1.5℃特別報告書」(2018年)では「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ」の実現が必要であるとしています。
問題は、先進国と途上国を合わせた世界全体でのCO2排出量の削減をいかに進めるかですが、これについては「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」の場で締結国が議論を進めています。
ちなみに、次回の第26回、COP26はイギリスのグラスゴーで今年10月31日〜11月12日に開催される予定です。(こちらを参照)

なお、国別CO2排出量の割合(2018年)、および国別一人当たりCO2排出量(2018年)についてはこちらを参照下さい。
このグラフを見ると、やはり中国のCO2排出量の割合が28.4%、そして一人当たりCO2排出量が6.8トン/人という数字は無視出来ません。
中国の経済成長率は先進国に比べて今後ともしばらくは高いですから、CO2排出量の割合は当面増え続けると見込まれます。

こうした中国におけるCO2排出量の削減よりも経済成長を優先させる方針を阻止する方策の一つがEUで2026年から全面実施される予定の国境炭素税です。(参照:アイデアよもやま話 No.5049 EVを巡る世界的潮流!
日本製のEVのEUへの輸出に際し、この国境炭素税は無視出来ません。
今回の自民党総裁選でも“脱原発”が一つの争点になっていますが、CO2排出量の削減に向けては、CO2排出量ゼロの原発は魅力的に感じますが、EUの一部の国は福島第一原発事故を契機に一気に“脱原発”への流れが起きています。
原発にはいったん事故が起きた時のリスクがとても大きいのです。
ですから、国境炭素税への対応を考えると、“脱原発”については“言うは易し行うは難し”なのです。

ということで、中国は再生可能エネルギーによる発電や新規原発の急速な展開に取り組んでいますが、まだまだ膨大な需要に応えられず、石炭火力に依存していますが、世界的な国境炭素税の導入により、石炭火力の新設にブレーキがかかると見込まれます。
このブレーキをきっかけに中国が更に再生可能エネルギーによる発電や新規原発の展開を加速させれば、ひょっとしたら中国はCO2排出量ワーストから脱却し、世界で1位、2位を争うようにCO2排出量ゼロを実現してしまうかもしれません。
習近平国家主席率いる今の中国にはこうしたすさまじいパワーを感じます。
更に中国はこうした国内での成果をもとに途上国を中心にCO2排出量ゼロに向けての取り組みを展開していき、途上国への支配力を強めていくことは目に見えています。

こうした中国の素早い取り組みの波に日本が飲み込まれることのないように、そして日本が再生可能エネルギーで世界的な主導権を握るためには早急に再生可能エネルギーへのシフト、および“脱原発”を実現すべく、プロジェクト管理と日常生活 No.708 『基準年が異なる各国の温暖化ガス排出量の削減目標』の最後にお伝えしたいくつかのアイデアの候補の実用化を目指すべきだと思うのです。


添付:


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています