2021年08月28日
プロジェクト管理と日常生活 No.708 『基準年が異なる各国の温暖化ガス排出量の削減目標』
4月22日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で基準年が異なる各国の温暖化ガス排出量の削減目標について取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付は全て番組放送時のものです。

解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「(各国の温室効果ガス排出量のグラフ(添付参照)を示しながら、)これは完全に国際政治と言っていいと思うんですけども、それが証拠に削減目標の基準年を見てみたいんですけども、アメリカは2005年ですよね。」
「EUとイギリスが1990年、そして日本が2013年とみんな違うんです。」
「なぜ違うのかというと、排出量が一番多い年を基準にしているわけですね。」
「言わば健康食品のPRみたいなもので、ダイエット効果が一番大きく出そうな、体重が一番重い時を基準にしていると言って見ていいと思います。」
「(だから基準年がみんなバラバラだという指摘に対して、)その通りです。」

では具体的に宣言した目標を見ていくと、アメリカは2030年に半減するという数字を出しました。
またEUが55%減、そしてイギリスに至っては2035年までに78%ということです。
そして日本は2030年に46%減となりました。
こうした状況について、滝田さんは次のようにおっしゃっています。
「各国とも得意技を繰り出していると見ていいと思うんですね。」
「まずアメリカなんですけども、国が広いですよね。」
「ということは太陽光や風力を導入する舞台が非常に多いと言えると思います。」
「ヨーロッパは風向きが一定方向に吹くというメリットがあるわけですね。」
「イギリスについては更に遠浅ですから風力には非常に適しているということがあるんです。」
「日本は残念ながらそのどの条件も満たしていないということでかなり目標を達成することが高いというふうと見ていいと思います。」
「(それでもこうして世界の舞台で発表したからにはやらねばならないということで、大変なのは産業界になるのかという問いに対して、)ズバリ電力コストの上昇を覚悟せざるを得ないということになります。」
「自動車や製造業は言わずもがななんですけども、注目したいのはデジタル、DX(デジタルトランスフォーメーション)なんですよね。」
「例えば、データセンターは言わば電気の塊みたいなものですから、そのコストが高くなってしまうということは国内での立地というのは相当不利になると言わざるを得ない。」
「そういう意味では菅政権が掲げるグリーンとデジタルというのはある意味でジレンマ、衝突しかねないわけです。」
「そこのところをどう克服するか、ななり正念場と言っていいと思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

なお、地球温暖化対策の世界的な枠組みとして「パリ協定」(詳細はこちらを参照)で以下の内容が合意されました。

パリ協定は、2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立しました。

1997年に定まった「京都議定書」の後を継ぎ、国際社会全体で温暖化対策を進めていくための礎となる条約で、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することを目的としています。

気温上昇を2度未満に抑えるためには、2075年頃には脱炭素化する必要があり、努力目標である1.5度に抑えるためには、2050年に脱炭素化しなければならないことが分かっています。

地球温暖化対策の世界的な枠組みの概要は上記の通りですが、、パリ協定のゴールを達成するには、遅くとも2075年に脱炭素化、出来れば2050年までに脱炭素社会を実現させることが必要です。

なお、3月14日(日)放送の「日曜スクープ」(BS朝日)ではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による「1.5℃特別報告書」(2018年)について以下のように報じています。

気温上昇を1.5℃に抑えるにはCO2排出量を2010年比で2030年までに45%、2050年までに実質ゼロにすることが必要である。

こうして合意された目標を達成するために、各国がそれぞれ自国の温暖化ガス排出量の削減目標を設定したわけですが、その基準年がバラバラなのです。

さて、プロジェクトを効率よく進めるための管理手法に成果物管理とプロセス管理があります。
ちなみに、これらの手法についてはこれまでプロジェクト管理と日常生活 No.394 『国の政策にも求められる数値化目標による”見える化”の必要性』プロジェクト管理と日常生活 No.413 『東芝の不正会計にみるプロセス管理の重要性』プロジェクト管理と日常生活 No.435 『 企業活動におけるプロセス管理の重要性!』などでお伝えしてきました。
これらの手法に照らすと、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという各国の成果物目標はほぼ共通しています。
しかし、プロセス管理については、各国の諸事情によりCO2排出量の削減目標やその期限がバラバラになっており、これでは共通の尺度での各国の目標の達成状況が把握出来ません。
本来であれば、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという共通の目標に対して、例えば2030年には一律60%達成するといったように共通のプロセス管理をするべきなのです。
勿論、その裏付けとして客観的に納得の出来るような一連のプロセスが計画されていなければなりません。

なお、プロジェクト管理において、世界的に普及しているCMMIという考え方があります。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.36 『環境の変化への耐えざる順応が出来なければ・・・』
このCMMIでは、組織の成熟度を5つの段階に分けて評価します。
そのレベル4では、定量的に管理された状態 (蓄積された過去のデータを統計的に分析しており、定量的な予測ができる状態)を満たしていることが求められます。
この定量的な管理の考え方に則れば、本来であれば2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという共通の目標に対して、例えば2030年には一律60%達成するといったように共通のプロセス管理をするべきなのです。
勿論、その裏付けとして客観的に納得の出来るような一連のプロセスが計画されていなければなりません。

さて、CO2の排出権取引き制度(参照:アイデアよもやま話 No.4997 温室効果ガスの排出権取引きが過熱!)は2050年の目標を効果的に達成するためのサポートシステムと位置付けられます。
仮に日本がこの取引きに加わると、日本企業は年間に2兆6000億円(消費税2%相当)のお金を排出権を買うために払う必要が出てくると言われています。
この制度のアイデアの出どころはEUであり、EUの中には比較的自然エネルギーに恵まれている国があるというところにEUのしたたかさを感じます。
一方、日本には太陽光や風力といった自然エネルギーに適した地域にはそれほど恵まれていませんが、画期的な再生可能エネルギーに関するアイデアには恵まれています。
ですので、毎年2兆円以上ものお金が海外に出ていくことを考えれば、画期的な再生可能エネルギー発電の研究開発に1兆円くらいかけてでも取り組むくらいの覚悟を持って国が強力なリーダーシップを持って推進していただきたいと思います。

ちなみにこうした候補として以下のようなアイデアが挙げられます。
・超薄型の太陽電池(参照:アイデアよもやま話 No.5001 超薄型の太陽電池!
・充電不要のEV(参照:アイデアよもやま話 No.5043 新開発の太陽電池搭載で充電不要のEVが可能になる!?
・再生可能エネルギーによる水素製造装置(参照:アイデアよもやま話 No.4991 CO2ゼロ水素発電所が今年度内に国内初の商業運転を開始!
・CO2排出量ゼロの水素エンジン(参照:アイデアよもやま話 No.5036 CO2排出量ゼロの水素エンジン!
・EV搭載のバッテリーを構造材料と一体化する技術(参照:アイデアよもやま話 No.5035 EVやスマホから電池パックが消える!?
・人工光生成(参照:アイデアよもやま話 No.5037 注目すべき人工光生成!
・究極の発電装置(参照:アイデアよもやま話 No.2025 私のイメージする究極の発電装置とは・・・


添付:各国の温室効果ガス排出量と削減目標の基準年


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています