2021年08月22日
No.5040 ちょっと一休み その788 『なぜ物価上昇が必要なのか?』
4月27日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でなぜ物価上昇が必要なのかについて取り上げていたのでその一部をご紹介します。
なお、日付は全て番組放送時のものです。

今日、日本銀行(日銀)が発表した最新の物価見通しですが、日銀は物価の上昇率の目標として2%を掲げています。
ただ、新型コロナウイルスの影響で2020年度はマイナス0.4%、1年前と比べて下落しました。
今後については2023年度でもプラス1.0%にとどまる見通しを示しました。
これについて、黒田日銀総裁は今日の会見で次のようにおっしゃっています。
「(物価上昇率)2%の実現には時間がかかっており、そのこと自体は残念なことであります。」

物価が上がらないというと、消費者はモノを安く買えるので良いことのように思えますが、なぜ物価を上昇させなければならないのでしょうか。
日銀は余計なことをしているのではないかと思ってしまいますが、物価が上がらないと困ったことがあるのです。

物価が上がらないと企業は売り上げが伸びないのでその分儲からなくなってしまいます。
そうすると、そこで働いている従業員の賃金が上がりません。
そうすると、従業員の財布のひもが固くなってお金を使わなくなってしまいます。
そうするとモノが売れなくなります。
すると、企業は仕方なく、更に値下げをすることにつながります。
そうすると物価が上がらないというところに戻ってきます。

日本は長い間、こうしたよろしくない循環が続いてきたので、それを断ち切ろうと日銀は2%の物価上昇を目指してきたわけです。
しかし、日銀が思うようには物価は上がらないようです。
日銀が今日発表した物価見通し、2021年度についてはプラス0.1%と1月時点のプラス0.5%から下方修正しました。
その理由について、黒田総裁は次のようにおっしゃっています。
「携帯電話通話料の引き下げがかなり大きく下押ししているということは事実でありまして、それがなければ21年度の物価上昇率は(更に)プラスであっただろうと。」

物価の下押し要因について、3月から通信大手が相次いで携帯電話料金の値下げに踏み切ったことをあげた黒田総裁、携帯電話料金の引き下げだけで物価を0.5ポイントから1.0ポイントほど下押しする見込みだと説明しました。
黒田総裁が就任する前の2013年1月、白川前総裁時代に導入した2%の物価目標、しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、黒田総裁が任期を迎える2023年度になっても達成出来ない見通しです。

日銀が10年かけても難しい物価上昇が難しい状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「これ(物価上昇)は難しいんですよ。」
「2つ説があります。」
「1つは、雇用の形態が大きく変わって、1つは非正規労働者が急激に増えたということ。」
「で、1996年から2015年の20年間に正社員(0.0%)、パートタイム(0.2%)、合計(マイナス0.6%)なんですが、1人当たり賃金は全く増えていない。」
「2016年以降も雇用が賃金の上昇より重要だという考え方が根強いのでやっぱり賃金が上がらない。」
「で、賃金が上がらないと物価が上がらないと、そういう格好になっています。」

「(黒田総裁は今日の会見で、実際に物価上昇を経験すれば人々の意識は変わってくるのではないかというように話されていたが、日本の問題は物価上昇をしばらく経験していないということなのかという問いに対して、)物価が上がらないもう一つの説が刷り込み効果と言われるんですけども、まさに物価上昇を経験していない人がどんどん増えているということなんですね。」
「東京大学の渡辺努先生が消費者1万5000人を対象に調査した結果がここにあるんですが、物価の上昇を予想する人の割合が2015年(77%)、2016年(69%)、2017年(62%)と、どんどん減少しているんですね。」
「で、こういった刷り込みがどんどん強まっていることで、物価上昇を期待しない。」
「私がバブル時代の経験の話をしても全くピンとこない。」
「「インフレっていったい何?」っていう、そういうことなんじゃないでしょうか。」
「(ただ物価目標として掲げている2%が難しいのであれば、もうちょっと現実的な数字に変更した方が良いのではないか、こういう声も聞こえてきますが、)そう思うんですが、今、世界の中央銀行はだいたい2%という目標を掲げていて、日本だけそれを降すと経済が縮んでいく、その循環から逃れられなくて、円高が進む可能性があるんですね。」
「で、“鰯(イワシ)の頭も信心から”というと言い過ぎかも知れませんが、日銀が2%と唱え続けないといけないというのがこの物価2%目標だと私は思います。」
「(しばらく達成出来なかったとしても掲げ続けておくべき目標なんだという指摘に対して、)そうです。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

なぜ物価上昇2%が必要なのかについてご紹介してきましたが、これからお伝えする内容はあくまでも私の私的見解であることをまずお断りしておきます。

まず何が何でも物価上昇2%を達成すべきかについてですが、スタグフレーションという言葉がるように、不景気なまま物価上昇、すなわちインフレが進行してしまってはかえって人々の暮らしはきつくなってしまいます。

では、スタグフレーションにならずにある程度の物価を上昇せせるためにはどのような方策があるのでしょうか。
以下に私の思うところをまとめてみました。
・中間層と言われる人たちの収入を上げて、購買意欲を高め、モノやサービスの売上高を伸ばす
・そのために、国は以下の方策を実施する
  国として、あるべき将来像(例えば、持続可能な社会の実現)を描き、具体的な目標を設定する(例えば、太陽光発電の発電量、xxギガワットをxx年までに実現、EVの新車台数、xx台をxx年までに実現、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により労働生産性、xx%アップをxx年までに実現など)
これらの目標達成に関連のある事業を進める企業に対して、ヒト・モノ・カネのあらゆる面(税制面での優遇、補助金の支給など)で支援する
あらゆる企業が事業を進め易いように政策金利を低く抑える
労働流動性を高め、特に重点施策に関連のある企業が人材確保が容易になるような施策を打ち出す
・同様に企業は以下の方策を実施する
  DX(デジタルトランスフォーメーション)を核に、生産性の向上を目指す
  自社の持つ技術やスキルで国の重点施策に関連する事業への進出の可能性を検討する
  得られた利益を積極的に従業員に還元する

こうして見てくると、以下のような経済活動を中心とした国のあり方が見えてきます。
・国は常に日本の未来は明るいと国民が期待出来るようなビジョンや未来像を国民に提示し続ける
・より多くの企業がそれぞれ個性的で魅力的な商品(製品やサービス)を継続的に提供し、売り上げや利益を伸ばし続ける
・その利益を積極的に従業員に還元する
・一方、DXの推進に伴い、働く場を失った低所得者層に対する対策として、国はベーシックインカム制度を導入する(参照:No.5010 ちょっと一休み その783 『世界の富裕層の割合から見えてくる格差社会』

煎じ詰めれば、国の経済的な基盤は国民、あるいは企業のバイタリティ、そして絶えざるチャレンジ精神だと思うのです。
そして、国の進むべき道筋を提示し、こうした国民や企業の活動がし易い環境をより高めることが国の役割だと思うのです。
こうした国全体の行動プロセスがうまく機能し続けることにより、自ずと魅力的な商品やサービスが生まれ、売り上げ増に結び付き、従業員の収入増につながり、消費の増加、ひいては物価上昇につながるという望ましい経済的な循環をもたらすというわけです。

 
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