2021年08月09日
アイデアよもやま話 No.5029 参考にすべきオードリー・タンさんの基本的な考え方!
4月13日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でオードリー・タンさんの基本的な考え方について取り上げていたのでその一部をご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

昨年のコロナ禍で日本のGDP成長率(2020年)が前年比マイナス4.8%と大きくマイナスとなる中、いち早く新型コロナウイルスを封じ込め、3.1%とプラス成長を続けたのが台湾です。
その立役者で、今世界が注目する人物がデジタル担当大臣のオードリー・タンさん(39歳)です。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.633 『参考にすべき台湾の新型コロナウイルス対策』
当番組で単独インタビューしました。

天才プログラマーと称され、10代にしてアメリカのシリコンバレーで起業、トランスジェンダーを公表し、SNS上では自らの性別を無としています。
タンさんは台湾史上最年少の35歳でデジタル担当大臣に就任しました。
タンさんはインタビューで次のようにおっしゃっています。
「(台湾はデジタルの力で社会や政治を大きく変ええてきた、まさに世界の中でも成功例だと思うが、)台湾ではデジタルが人と人を結ぶものだと皆理解しています。」
「若い人たち、あるいは高齢者、誰もがテクノロジーで自分の期待を実現出来るのです。」
「市民に合わせてくれと迫るわけではありません。」

デジタル化は世代に寄らず、暮らし、社会を便利にするもの、タンさんは若者と高齢者という両極の世代に焦点を当てることによりデジタル化の普及につながったと説きます。

「デジタル民主主義のプラットフォームがあったとしても、事実を共有出来なければ、残念ながらどれも実現することは出来ません。」
「コロナ禍においては透明性を示すことで市民によって軌道修正出来ることが分かりました。」
「市民は国の失敗を指摘することが出来るからです。」

なお、台湾でのデジタル化のカギとなったのが所有率100%に近い全民健康保険カードです。
一方、日本のマイナンバーカードの所有率は28.8%(4月11日時点)と、3割に達していません。
台湾では市民の政府への信頼が高く、その背景にはタンさんが重視する徹底した情報の開示、「透明性」があります。

「(そうした社会に変わっていったのは何年前からかという問いに対して、)重要な出来事の一つが2014年の「ひまわり学生運動」です。」

「ひまわり学生運動」は中国本土と台湾の間でサービスや貿易を開放するという協定に反対した市民による抗議運動です。
撤回を求め議会を占拠、タンさんはこの一部始終を内部から生中継で配信しました。
この運動は後に政権交代へとつながったのです。

「それ以来、台湾社会が広く政策を提示するようになりました。」
「若者たちも社会問題により自発的に参加するようになったのです。」
「分岐点となった重要な出来事でした。」

さて、タンさんが提唱する新たな投票方法が「クアドラティック ボーティング」です。
主に政策面で使う想定ですが、ここでは7人のうち3人が選ばれる選挙とします。
その特徴は、一人一票ではないことです。
有権者にはポイントが与えられ、票に代えて投票する仕組みです。
例えば99ポイント与えられたとします。
1×1など、ポイントを二乗したものが票となります。
一人に最大投じられるのは9票で81ポイント使えます。
18ポイント余るので、これを使い、別の二人に3の二乗の9ポイントで3票ずつ投じるなど、ポイントを様々に割り振ることが出来、多様な投票が可能になります。

「(民主主義国家の世論が2つに分断されて、AかBかの議論になるが、「クアドラティック ボーティング」の考え方で多様な意見を多様なかたちで実現することは出来ないかという問いに対して、)一部のエリートが物事を決定する状態から誰もが新しい考えや方向性を示せるように変わっていきます。」
「それが共同作業の精神です。」
「勿論、「クアドラティック ボーティング」のお陰というのもありますが、限定投票や他の投票方式でもうまくいきます。」
「重要なのは心持ちを変えることです。」

開かれた政府を目指すタンさんですが、ミャンマーの軍事クーデターや中国政府が施行した法律で事実上言論や選挙制度の自由を失った香港など、コロナ禍での民主主義への危機感がありました。

「(新型コロナウイルスの)パンデミックのさ中、民主主義は世界各地で下降線をたどってしまいました。」
「国家による監視や監視された資本主義がパンデミックを理由に人々の活動に入り込んでいます。」
「日本と台湾は世界的な緊急事態を考える時に、民主主義がより好ましい選択肢になるようもっと協力する必要があると思います。」
「(軍事力を増していく国にデジタル民主主義という手法で対抗していくことは可能かという問いに対して、)中国政府がやっているような検閲はごめんだと皆互いに思っているんです。」
「人権問題もそうですが、実際のところ、中国政府をアンチテーゼとすることで台湾の中では価値観の共有を加速させています。」
「(今の台湾と日本の関係性についてどう見ているかという問いに対して、)人間の強い意志があるからと言って、自然を克服出来るということはないですよね。」
「そんなことは不可能です。」
「究極の状況は自分たちの手に負えません。」
「地震や台風などで常々思い知らされています。」
「むしろ私たちは経験から打たれ強さや団結力を理解していて、それが台湾と日本を結び付けていると思います。」

解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「(原田さんは多様な意見を吸い上げるという「クアドラティック ボーティング」の投票方法に以前から注目されていたそうですが、)というのは我々は多数決というのが民主主義の大前提だと考える。」
「つまり二者択一ですよね、AかBかと。」
「いや、そうじゃないんじゃないかと。」
「もっと世の中は多様になっているし、いろんな意見。」
「例えば、この投票方法というのは地方自治体が橋を建て直した方がいいんじゃないかとか、水道事業の積立金をもっと増やした方がいいんじゃないかとか、いくつも選択肢がある。」
「その時に住民にどれがいいですかと聞いた時に一つの政策に集中するんじゃなくて、いろんな政策の優先順位を付けてくれると。」
「(皆さんがどう思っているかが分かるという指摘に対して、)そうですね。」
「これは非常にみんなの意見を知るうえで有効な方法だと思うんですね。」
「(このインタビューは最初から最後まで台湾の政府の方でも録画されており、政府のホームページで公開されるということだが、)タンさんのキーワードに「徹底的な透明性」という言葉があるんですね。」
「台湾の海峡を挟んだ向こう側には中国があります。」
「で、皮肉なんですけど、デジタル化と最も相性がいいのが中国共産党で、国が情報を統制して監視をすると、そういう仕組みなわけですね。」
「これに対抗してタンさんがおっしゃっていましたけど、「徹底的な情報の公開」をやる。」
「私たちのように、誰の取材を受けてどういうやり取りをしたかというのがみんなホームページに残っているわけですね。」
「そういうことで市民と行政、あるいは政治との距離を縮めて市民の信頼度を高めるということがデジタルの基本哲学になっているんですね。」
「で、ここが日本に今一番足りないところじゃないかなと。」
「この基本哲学を重視したいと思います。」
「(デジタル民主主義にとっては「徹底的な透明性」が最大の強力な武器になるということかという問いに対して、)そうですね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通して、オードリー・タンさんの基本的な考え方を以下にまとめてみました。
・デジタル化は世代に寄らず、暮らし、社会を便利にするものである
・デジタル民主主義のプラットフォームがあっても、事実を共有出来なければどれも実現出来ない
・事実を共有出来れば、市民は国の失敗を指摘したりすることが出来る
・「クアドラティック ボーティング」の適用により、多様な意見を多様なかたちで実現出来るようになる
・中国の覇権主義、人権無視政策が、民主主義という同じ価値観を共有する台湾と日本を結び付けている

注目すべきは2014年の「ひまわり学生運動」が今の台湾のデジタル民主主義を構築するきっかけになっていることです。
要するに、民主主義は自然に作られるものではなく、市民の置かれた状況が市民の想いとかけ離れてしまった時に市民が自ら立ち上がって勝ち取るものなのです。
また、時を経て、市民のこうした意識が劣化してくると、それに甘えて時の政権の政策レベルも低くなってくるというのが一般的なのです。
今の日本の政治の様々な劣化の一因も総じて日本国民の意識レベルの低下がもたらしているのではないかと危惧します。

それから、タンさんは「情報の徹底的な透明性」が最大の強力な武器となるデジタル民主主義を唱えていますが、一方でデジタル化と最も相性がいいのが国が情報を統制して監視するという中国共産党による国家運営の仕組みであると解説キャスターの原田さんはおっしゃっています。
要するに、どんな制度や仕組みであっても、それを運用する立場の組織がどんな意図を持って運用するかでまさに似て非なる結果をもたらすのです。

また、「クアドラティック ボーティング」という投票方法についてですが、この基本的な考え方は従来の二者択一という枠組みを打ち破って、投票者の想いをよりきめ細かに投票に反映する手段としてとても優れていると思います。
実は、私もこうした考え方を以前から持っていました。
要するに、何事においてもある観点で、その問題や課題に対して解決する意欲が強ければ強いほど、これまでの常識を打ち破る斬新なアイデアが生まれてくることをタンさんは証明してくれているのです。

原田さんはタンさんが進めるデジタル民主主義の基本哲学が日本に今一番足りないところではないかと指摘されています。
プロジェクト管理と日常生活 No.705 『リスク管理の観点から見た東京オリンピック・パラリンピック開催の危うさ』で政府と国民とのタイムリーな情報共有による相互の信頼感の獲得の必要性についてお伝えしました。
こうした政府による国民への対応で見習うべきはタンさんの打ち出している国民との信頼関係を重視する「国民との情報共有」政策です。
ところが、残念ながら現政権の国民との情報の共有における姿勢は出来るだけ詳細な説明はしないようにするという真逆の姿勢が感じられます。

 
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