2021年07月10日
プロジェクト管理と日常生活 No.701 『新型コロナで新たな治療薬の動き』
3月16日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で新型コロナで新たな治療薬の動きについて取り上げていたのでご紹介します。

新型コロナウイルスの治療薬で新たな動きです。
抗うつ剤の治療薬、「クロミプラミン」にコロナウイルスが体内に侵入するのを阻害する効果があることが九州大学などの研究で明らかになりました。

今回の発見をしたのは九州大学などの研究グループです。
実験で新型コロナウイルスへの有効性が見つかったのはうつ病の治療薬「クロミプラミン」、「アナフラニール」という商品名で広く使われています。
研究グループを率いるのは九州大学薬学部生理学分野の西田基宏教授です。
西田教授は元々心臓の研究が専門で、様々な病気の既存薬の中に心不全の治療にも用途を拡大出来る薬はないか、探していました。
新型コロナウイルスで心臓病の持病がある人が重症化し易いことから、心不全に効果のある既存薬ならコロナ治療にも有効かもしれないと考えたのが今回の研究のきっかけでした。
西田教授は次のようにおっしゃっています。
「本当にウイルスの侵入を止めることが出来るということを確認するために、1つの細胞を可視化する共焦点レーザー顕微鏡を用いて評価を行っています。」

様々な病気に使われている約1200種類の既存薬を検証し、心不全の抑制に非常に強い効果を持つ13種の薬を抽出し、連日この顕微鏡で観察と検証を続けた結果、はっきりとウイルスの侵入を防ぐ効果が認められたのが「クロミプラミン」でした。
九州大学薬学研究院の加藤百合助教は次のようにおっしゃっています。
「最初は複数の化合物(薬)の中から1つ選んでくる作業も大変だったんですけども、それが実際に目で見て誰でもわかるように効くというのはすごくインパクトがあるというか、それは感動。」

通常、新型コロナウイルスが人間の体の細胞に接触すると新型コロナウイルスの表面にあるSタンパク質と呼ばれる突起の部分が体の細胞のACE2と呼ばれる受容体に結合、ACE2と共に新型コロナウイルスが細胞内に侵入します。
しかし、「クロミプラミン」を投与すると、Sタンパク質とACE2が結合した後、細胞内への侵入が阻害されることが分かりました。
西田教授は次のようにおっしゃっています。
「既承認の新型コロナウイルス治療薬と作用機序が異なるというところに強みがあります。」
「作用の異なる薬を併用するということが理想的な戦略になると。」

共同で研究に当たる国立医薬品食品衛生研究所の検証によると、新型コロナウイルスの治療薬として承認されている「レムデシビル」を単独で使用した場合、細胞の感染率は一定の低下に止まりますが、「クロミプラミン」を併用するとゼロに近い水準にまで下がることが分かりました。
更に変異ウイルスにも効果が期待出来るといいます。
西田教授は次のようにおっしゃっています。
「変異体がどんどん見つかってきて、しかも感染力が強いものがどんどん出てきていますよね。」
「今回見つけました「クロミプラミン」はウイルスの変異に関係なく効く可能性があると。」

実際に病院で薬の投与方法の策定などに携わる家入一郎薬剤部長は次のようにおっしゃっています。
「この薬は古い薬なので安全性に関しては(検証済みなので)ほとんど問題ないと思うんですね。」
「予防と治療の側面があると思うんですね。」
「目的に応じた臨床研究というか治験をしていくということがこれから必要かなと。」

西田教授たちの研究グループは、今後動物実験で安全性や有効性を更に検証し、迅速な実用化を目指すということです。

新型コロナウイルス治療薬としての承認を目指して治験が進められている既存薬は数多くあります。
ノーベル賞を受賞した大村智さんらが開発した「イベルメクチン」(商品名「ストロメクトール」)は、アフリカなどでの寄生虫による感染症の特効薬、細胞実験で新型コロナウイルスの増殖を抑える効果が報告されています。
東京都の医師会は使用を提言しています。
東京都医師会の尾崎治夫会長は3月9日に次のように提言しています。
「(「イベルメクチン」は)重症化予防が期待出来るデータも海外では沢山出ています)。」
「やはりこういった薬を使うことが出来ないかと。」

他にもリウマチの治療薬「アクテムラ」や膵炎の治療薬「フオイパン」など効果が期待されていますが、承認に至っているものはまだありません。
こうした既存薬の活用について、専門家で日経メディカルの加藤勇治副編集長は次のようにおっしゃっています。
「世界を見ると、もっともっと沢山の薬剤が転用も含めて研究されています。」
「その中から必ずいいものが出てくるんじゃないかなと。」

ただ実験で得られた効果が治験でも同様に得られるかどうかが課題だといいます。
更に既存薬は新薬に比べて薬価が安いため、治験に踏み切らないケースも少なくないといいます。
加藤さんは次のようにおっしゃっています。
「何百億円をかけて臨床試験をして(新型コロナウイルスへの)適応を取得しても1錠10円、20円で既に売っていた薬剤が1000円とか1万円になりますかというと、今はその仕組みはないのでリターンがどうしても期待出来なくなります。」
「企業としてはどうしても二の足を踏んでしまう。」

こうした状況について、解説キャスターで日経ビジネスの編集委員、山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。
「これは世界的な傾向なんですが、どうしても日本のように少子高齢化が進んでいる国というのはワクチンのような予防薬よりも治療薬の方に事業投資とか研究開発に傾斜しがちなんです。」
「そっちの方が儲かるから。」
「ただ、その意味でワクチンで日本が出遅れたというのはまだ仕方がないかなと思える面があるんですが、これで治療薬まで遅れをとってしまったら“泣きっ面にハチ”ですね。」
「(さきほどの3つの治療薬の中でも)「イベルメクチン」は既に海外で驚くような効果が複数報告されているわけです。」
「実際、生みの親であるノーベル受賞者の大村先生も特例承認を認めるべきだと言っていますから、ここは厚労省(厚生労働省)は思い切った特例承認を進める方向でやってもらいたいなと思いますね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

以前にもお伝えしたように、プロジェクト管理の観点から言えば、ワクチンはウイルスの感染予防薬、すなわちリスク対応策であり、治療薬はそれでも感染してしまった場合のコンティンジェンシープランという位置付けになります。
ですから、もし完璧に感染予防可能なワクチンが開発されれば、治療薬は不要ということになります。
しかし、新型コロナウイルスのように未知のウイルスに対処するには、今回ご紹介したようにとりあえず既存の治療薬で治せそうなものを見つけて何とかしのぎ、その間に有効なワクチンを出来るだけ短期間で開発するといった対応になるのです。

さて、様々な病気に使われている既存の治療薬の中には「クロミプラミン」のように新型コロナウイルスの治療薬として活用出来るものもあるといいます。
また、新型コロナウイルスの治療薬として承認されている「レムデシビル」を「クロミプラミン」と併用することによって、「レムデシビル」を単独で使用した場合に比べて細胞の感染率がゼロに近い水準にまで下がることが確認されています。
更に変異ウイルスにも効果が期待出来るといいます。
しかもこうした既存薬の場合、安全性に関しては検証済みなのでほとんど問題ないと期待出来ます。
ですので、新型コロナウイルス治療薬としての承認を目指して治験が進められている既存薬は数多くあるというわけです。
また薬によっては予防と治療、両方の側面があるというのです。
通常、予防薬と治療薬は別々に開発されますが、治療薬が予防薬としての効能もあるというのは薬としてとても望ましいし、優れていると思います。

しかし、既存薬は新薬に比べて薬価が安いため、治験に踏み切らないケースも少なくないといいます。
でも既存薬は新薬に比べて薬価が安いといって、本来新型コロナウイルスの治療薬としても有効な既存薬が治療薬としての使用を阻害するような状況は本末転倒です。
ですから、こうした状況を反映した薬価基準の見直しが求められます。

また、世界的な傾向として、ワクチンのような予防薬よりも儲かる治療薬の方に事業投資や研究開発に傾斜しがちといいます。

また、「イベルメクチン」は細胞実験では新型コロナウイルスの増殖を抑える効果が報告されており、重症化予防が期待出来るデータも海外では沢山出ているといいます。
ですから、山川さんも指摘されているように、こうした治療薬について厚労省は思い切った特例承認を進めることを検討していただきたいと思います。

ということで、特に薬の場合は命に係わるケースがあるので認可に際してはどうしても慎重にならざるを得ないところはありますが、感染拡大が収まらない状況が続くなど、ケーズバイケースで特例承認をすべき時は総理自らが決断を下すといったことが必要となります。

 
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