2021年06月12日
プロジェクト管理と日常生活 No.697 『変異ウイルスの感染状況から見た東京オリンピック・パラリンピック開催の妥当性!』
6月4日(金)付けネット記事(こちらを参照)で東京オリンピック・パラリンピック開催における政府と専門家との意見の相違について取り上げていたのでその一部をご紹介します。 

・コロナ禍の中での東京五輪・パラリンピックのリスクを指摘する専門家の動きに、政権与党が警戒を強めている。五輪で国民の祝祭ムードを高める政権の狙いに、水を差しかねないと見るからだ。感染防止対策で専門家の知見に頼りつつ、「五輪は例外」とするかのような政権の姿勢に批判も出ている。
・6月4日(金)午前の記者会見で、田村憲久厚生労働相は政府対策分科会の尾身茂会長らの動きに釘を刺した。五輪に伴うコロナの感染拡大リスクをめぐり、尾身氏らが「考え方」を示そうとしていることについて、「自主的な研究の成果の発表ということだと思う。そういう形で受け止めさせていただく」と述べたのだ。

以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。

なお、5月28日付けネット記事(こちらを参照)で尾身茂会長が専門家としての苦悩を語られているので御覧ください。

そもそも緊急事態宣言関連サイト(こちらを参照)を見ると、東京をはじめ10の都道府県は6月20日までは3回目の緊急事態宣言の再延長期間にあります。
また、まん延防止等重点措置については、首都圏の埼玉 千葉 神奈川の3県だけでも6月20日まで対象とされています。
一方、東京オリンピックの開催式はその約1ヵ月後の7月23日が予定されているのです。

ここで、現状を以下にまとめてみました。
・政府は東京オリンピック・パラリンピック開催に向けてリスク、およびその対応策における専門家の声に真摯に耳を貸そうとせず、ひたすら突っ走り見切り発車をしようとしている
・このような現実を直視しようとしない政府の意向に、半数以上の国民は開催に向けて安心感が持てない
・変異型ウイルスにおける感染拡大の収束の見込みが見えない
・医療施設の受け入れ態勢がひっ迫している
・ワクチン接種2回の実施状況はまだ道半ばである
・東京オリンピック・パラリンピック開催期間中の国民の外出者数が読めない

こうした状況においては、医療専門家でなくても常識的に考えれば、今回の東京オリンピック・パラリンピック開催は中止するか延期するという判断が妥当と考えます。
その理由は、開催地の中心である東京が緊急事態宣言の期限である6月20日に解除を迎えられるかどうか分からないこと、更に6月20日に解除出来たとしても海外から選手をはじめとするオリンピック・パラリンピックの関係者が来日するので、その分感染拡大のリスクが高まり、その結果医療崩壊のリスクも高まるからです。
なお、一部の専門家は来日者数の増加よりも、開催中の国民の外出者数の増加による感染者数の増加を危惧されています。

一方で、出場選手の方々はオリンピック・パラリンピックを目指してこれまで大変な努力をしてきたのは明らかです。
また、IOC(国際オリンピック委員会)や政府をはじめ国内の開催関係者の方々はどうも“はじめに開催ありき”で開催を前提として取り組んでいるように見えます。
こうした状況において、連日のようにテレビ番組では開催の可否をテーマに取り上げていますが、明確な根拠をもとにした結論は出されていないようです。

また、6月7日(月)放送の「ニュース7」(NHK総合テレビ)では以下のように報じています。

菅総理大臣は参議院決算委員会で、東京オリンピック・パラリンピックを巡り、国民の命と健康を守ることが開催の前提条件だとして、実現に向けて感染対策に全力をあげる考えを示す一方、前提が崩れればそうしたことを行わないと述べました。

このように菅総理はおっしゃっておりますが、具体的にどのような条件が整えば開催するかについては全く触れておりません。
これでは国民に対する説明責任を果たしているとは到底思えません。
ですから、こうした状況で万一開催中に感染者数が増加し、医療崩壊に至れば、この1点だけで現政権は持たないはずです。

そこで、プロジェクト管理の観点から、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けてどう取り組むべきだったか、あるいは今後どう取り組むべきかについて以下のまとめてみました。

まず、チェックポイントの設定です。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.640 『緊急事態宣言をプロジェクト管理の観点から見ると・・・』
本来であれば、専門家の意見を参考に、ワクチン接種数、感染者数、あるいは療施設の受け入れ態勢など、開催要件を定め、例えば6月20日をチェックポイントと定め、この日までにこうした要件を満たせば開催し、満たせなければ開催は延期、あるいは中止という判断をするようにIOCをはじめ、国内の主催関係者は規定すべきだったのです。
そして、こうした目標を少なくとも開催の半年ほどまえに菅総理が国民に直接働きかけて国民に広く協力を求め、開催に向けて国全体が一体感を持って取り組むべきだったのです。
ところが、残念なことに菅総理は6月7日時点でも具体的な内容は一切示さず、評論家のように一般論を述べるに止まったのです。
これは何も菅総理だけの責任ではありません。
IOCもやはり“初めに開催ありき”でこうした明確な目標を明確に世界に向けて示さずになんとか開催にこぎつけたいという意向が働いていたと推測されます。

ということで、仮に東京オリンピック・パラリンピックが開催されて、それほど感染者数が増えなかったとしてもプロジェクト管理の観点からすれば、合格点には達していないと判断出来ます。

次に変異ウイルスの感染リスク対応策ですが、具体的には以下の通りです。
(各国の選手団や関係者について)
・来日までに全員ワクチンを2回接種しておくこと
・来日直前にPCR検査を受け、陰性であること
・訪日期間中、定期的にPCR検査を受けること
・訪日期間中、あらかじめ決められた場所以外には出向かないこと

(各国の選手団や関係者と接触する国内の方々)
・各国の選手団や関係者と接する前にワクチンを2回接種しておくこと
・ワクチン接種後に定期的にPCR検査を受けること
・開催会場は全て無観客とすること
・チェックポイント(例えば6月20日)以降、国民はオリンピック・パラリンピックの開催終了まで極力ステイホーム、および在宅勤務をするよう、政府は国民に要請すること
・医療体制として、コロナの感染患者の受け入れについて可能な限り余裕を持たせておくこと
・医療機関はコロナ治療薬を十分に用意しておくこと

さて、昨年の新型コロナウイルスの感染拡大以降、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、どうも国と国民との間の一体感が欠けた状態が続いているように思えてなりません。

そこで、こうした一体感を持ったかたちで開催に取り組むためにどのようなプロセスが必要であったかを以下にまとめてみました。

・政府は国のコロナ禍対策を策定する
  コロナ禍を終息させるための道筋を明らかにする
  その際、以下の項目について留意する
   デジタル化などのテクノロジーを最大限に活用する
   定量的な観点で感染状況や対策の有効性などを示す
  政府、国民、企業などの役割を明確にする
・政府はコロナ禍の感染状況、および対策の員直状況について、データに基づいてタイムリーに国民に分かり易く説明する

考慮点
・政府は、多くの国民が納得出来るだけの適切な政府の実施する政策を打ち出す
・政府は、国民や企業などに行動抑制を強いるだけでなく、政府の政策に積極的に協力した国民や企業などに対して何らかの報奨制度を用意する(既に海外の一部の国では、ワクチン接種済みの人には何らかの特典が与えられている)
・東京オリンピック・パラリンピックの開催、あるいは緊急事態宣言の解除に向けてはチェックポイントを設け、国民や企業に目的意識を持たせて協力を要請する(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.640 『緊急事態宣言をプロジェクト管理の観点から見ると・・・』

東京オリンピック・パラリンピック開催を予定通りに開催することを主眼に私の思うところをまとめてみましたが、まず新型コロナウイルスの感染拡大を出来るだけ早期に収束させることこそが多くの国民が望んでいることなのです。

しかし、幸か不幸か日本は2020年のオリンピック・パラリンピック開催国に選ばれたのです。
そして、開催国として決定された当初、多くの国民の気持ちは歓迎ムードで沸き立っていました。
ですから、以前にもお伝えしたように政府が東京オリンピック・パラリンピック開催をテコに真剣にというより適切にコロナ禍対応に取り組んでいれば、予定通り2020年の開催、およびコロナ禍の収束。そして経済の回復を遂げられていたはずなのです。

そういう意味で、コロナ禍の収束の目途がついた時点で、政府はコロナ禍対応の是非について、何が問題だったのかしっかり反省していただきたいと思います。

 
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