2021年05月29日
プロジェクト管理と日常生活 No.695 『コロナ禍における医療体制拡充への提言』
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、昨年来、医療機関の受け入れ態勢がひっ迫していると言われ続けてきました。
そうした中、1月8日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でコロナ禍における医療体制拡充への提言について取り上げていました。
そこで、今回は医療体制を中心にリスク管理の観点からご紹介します。

政府の新型コロナ感染症の対策分科会メンバーで、東京財団政策研究所 研究主幹の小林敬一郎さんは次のようにおっしゃっています。
「(新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療体制の拡充が求められている中、)医療機関の態勢をもっと拡充しなければいけないということで、一つ議論があるのがどうやって重症者用のICUを増やしていくかということでして、東京医科歯科大学の田中学長などがおっしゃっていることなんですが、ゾーニング改修工事をやることによって、今までコロナに使われていなかったICUをコロナ用に使えるようになると。」
「要するに、(ICUは)大部屋で運用されているので、コロナ以外で患者さんを入れるためには他の残りの空いているベッドがコロナ用には使えなくなっちゃうんですね、感染しますので。」
「ところが、壁で仕切って陰圧装置を付ければ、個室にすれば、一部屋はコロナじゃない他の病気に使えるようになりますので、ベッドを増やさなくても今まであるベッドをちゃんとコロナ用に使えるようになるというかたちで「コロナ用の重症者病床を倍増出来ますよ」という話があるんです。」
「これは一応厚労省の補助金の対象にもなっているんですが、国からは事務連絡が各病院に行っているだけで、本当は知事などが積極的に調整をして増やしていかなきゃいけない。」
「そういう必要があるんだと思いますね。」

また、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは医療のひっ迫について次のようにおっしゃっています。
「全体の医療資源というところで是非小林さんにお伺いしたいのは、民間病院なんですね。」
「民間病院で実際にどのくらい新型コロナの受け入れをしているのか、その枠なんですけども、だいたい2割しか受け入れてないという現状がありますよね。」
「民間ですから、採算が問題になるんなら政府がそれを財政面から後押ししたりすることが出来ると思うんですけど、それにしてもこの状況を是正しないとまずいんじゃないでしょうか。」

小林さんはこの質問に対して次のように答えています。
「医療資源のミスマッチの問題は非常に日本では問題だと私は思います。」
「民間だけでなく、公的病院、公立病院もコロナを受け入れていないところはまだ沢山あると思います。」
「で、そういうところはまず都道府県知事が調整する権限をもう少し明確に法律上書く必要があるんじゃないかということ、もう一つは大きな金額の補助金、例えば一つの病院当たり1億円、2億円単位で大きな補助金を与えることで経営が赤字にならないという補償を与えてコロナの対策に参加してもらう。」
「こういう財政政策が必要になってくるというふうに考えています。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組放送時の1月8日から既に5ヵ月近く経過していますが、重症者用のICUの数は増々ひっ迫状況にあります。
ということは、第4波の変異型のコロナウイルスによる感染拡大に伴い、コロナによる重症者のみならず、コロナ以外の病状の患者さんの命も危険にさらされているということになります。
こうした状況における医療現場関連の政府の対応は後手後手に回っているように思えてなりません。
その具体例を以下にあげてみました。
・民間病院での新型コロナの受け入れは2割程度である
・ワクチン接種のスピードが他国に比べて圧倒的に遅い
・重症者用のICU不足への対応が不十分である
・医療現場は疲弊している
・コロナ患者への対応に積極的な医療機関ほど、経営状況が悪くなる
・コロナ対応の看護師は心身共に疲労が蓄積している
・コロナ対応の医師や看護師への危険手当などの支援が不十分である

リスク管理の基本は、リスクが顕在化する前にあらかじめリスクを洗い出し、その対応策を検討し、それらをタイムリーに実施することです。
こうした対応により、顕在化を未然に防ぐことが出来るのです。
しかし、これまでの政府の対応を見ていると、世界に誇れる際立った対応策は見受けられません。
なぜ、こうした状況が続いているのでしょうか。
以下にその要因をあげてみました。
・新型コロナウイルス、および変異ウイルスの感染拡大は平常時とは異なる緊急事態であり、従って強力なリーダーシップのもとに素早い決断、および取り組みが必要だが、これに対する政府の危機意識が総じて甘い
・誰がコロナ禍対応の実質的な責任者なのか曖昧である
・プロジェクト管理の基本的な考え方がコロナ禍対応策に活かされていない
・従って、問題が浮上してくるたびに、後手後手の対応になっている
・新型コロナウイルスの感染が確認されてから既に1年半近く経過しているにも関わらず、現状を把握する手段として、様々なデータのデジタル化が進んでいない
・更にデジタル化に取り組んでもその品質レベルが非常に低い(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.684 『日本政府におけるデジタル化の課題』

さて、今回ご紹介した、壁で仕切って陰圧装置を付けて個室にすることでコロナ用の重症者病床を倍増出来るというアイデアは病床不足という具体的な問題対応策の一つになります。
本来は、コロナ禍が問題になり始めた、昨年の年初に先ほどあげたコロナ禍で起こり得る問題の具体例を検討し、素早い対応をしていれば、現在とは全く異なる日本の風景を多くの国民は見ることが出来、東京オリンピック・パラリンピックも当初の予定通り、開催出来た可能性があったのです。
ですから、とても残念に思います。

こうしてみてくると、リスク管理(危機管理)における対応力の乏しい現政権の責任はとても重いと思います。
政治はいくら一生懸命政策に取り組んでも、その結果に責任を取らなければならないと思います。
なお、このことは、企業の経営においても同様です。

 
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