2021年04月24日
プロジェクト管理と日常生活 No.690 『中国式“法治”の脅威!』

昨年11月27日(金)放送の「深層ニュース」(BS日テレ)で中国式“法治”の脅威について取り上げていたのでご紹介します。

なお、日付は全て番組放送時のものです。

 

中国国営の新華社通信によると、習近平国家主席は、11月16日〜17日に開かれた「法治」に関する党の重要な会議で「立法、法執行、司法などの手段を総合的に使って闘争を繰り広げなければならない」と述べたといいます。

この習近平国家主席の発言の狙いについて、元香港総領事館専門委員、外務省専門分析員などを歴任し、中国情勢に詳しい神田外語大学教授の興梠一郎さんは次のようにおっしゃっています。

「これは原文を見ると、「法に従って国を治める」と書いてあるので、日本流にいう法治ではないですね。」

「要するに、法律というものを使って統治する。」

「それから、これの最も大事なポイントとして、習近平氏が言っているは“党の指導”、党がいわゆる日本流に言えば“法治”ですね。」

「“法”を使って国を治めるということに対する、党の指導というのがトップにきている。」

「だから、党が法治の対象ではない。」

「つまり法の支配じゃないですね。」

Rule of Lawじゃなくて、Rule by Lawなんです。」

「(つまり、本来は法律によって統治者をコントロールするべきものが、党の指導を徹底するために法律を道具として使うということなのかという問いに対して、)国家管理というわけですね、“治国”。」

「彼(習近平国家主席)になってから頻繁に使っていますけどね。」

「中国の伝統的な法家、その思想ですよね。」

「ですから、西洋流のRule of Lawじゃないんですね。」

「統治手段としての法律。」

「で、共産党はそれを指導する対象であって、法の下に置かれてはいない。」

 

また、同じく中国情勢に詳しく、元海上自衛官で駐中国防衛駐在官などを務めた笹川平和財団上席研究員の小原凡司さんは次のようにおっしゃっています。

「中国でいう法律は、今興梠さんがおっしゃっている、日本でいう法律とは意味が違いうと思います。」

「というのも中国では中国共産党が全てに超越する存在で、憲法よりも上にあるんですよね。」

「ですから中国では共産党の目的遂行のためのあらゆる行為が正当化されると。」

「その目的とは何なのだというと、中国共産党が、彼らは永遠にと思っているでしょうけれども、長期にわたって統治を続けることだと。」

「今、そのための根拠を与えるものとして、法を使うという考え方なんだと思います。」

 

その中国式の法治で象徴的なものが、習指導部が香港の統制を強化するために今年施行した香港国家安全維持法です。

香港の一国二制度が揺らぐ中、中国が更なる動きを見せています。

中国の国会に当たる全人代が11月11日、香港の議員資格に中国や香港政府に忠誠を誓うなどの新条件を定めました。

香港政府は即日、これを根拠に民主派議員4人の資格はく奪を発表しています。

また、新条件では香港独立を主張し、外国に香港への介入を求めても議員資格を失うと定められています。

習指導部がアメリカの政権移行期に空白を狙って民主派への更なる締め付けに踏み切ったとう見方もある中で、笹川さんは次のようにおっしゃっています。

「おっしゃる側面はあると思うんですが、ただアメリカの政権移行期の空白がなければやらなかったのかというとそんなことはないんですね。」

「やるかやらないかの問題ではなくて、いつやるかという問題なんだと思います。」

「中国にとって共産党が指導的な地位を継続することは絶対的な正義なので、その正義のために行われることは全て正当化される。」

「で、香港の一国二制度、これは元々台湾に対して言おうとしていたことですけど、一国二制度というのは過渡期であって、その間も中国共産党の指導は行き渡っていなければならないというのが中国共産党の考え方ですから、それを徹底するためにどのような手段を取ろうと、それは中国では正当化されるということなんだろうと思います。」

 

また、興梠さんは次のようにおっしゃっています。

「この議員の資格をはく奪したっていう、これ4人ですよね。」

「それが11月11日でしたね、全人代の常務委員会がそういう措置を発表したということで。」

「実はその2日前の9日にアメリカが中国の香港を管轄する香港マカオ(事務)弁公室の副主任という4人を制裁対象にすると発表しているんですよ。」

「4対4なんです。」

「それはあまり報道されてないんですが、実はこれ仕返しなんですね。」

「それでプラス4人がなんで問題なのかっていう理由の一つとして、要するにアメリカに制裁を働きかけたっていう、香港の人権侵害を行っていると言われる香港関係の官僚に対して。」

「それが一つ理由に入っていると。」

「で、もう一つ大事なのは今回この4人を本当は議員の資格をはく奪するっていうのは立法会という香港の議会で、議会の3分の2で決定するわけですよ。」

「犯罪を犯したとか、1ヵ月以上収監されたとか、決まりがあるんですよね、基本法というのが。」

「だから今回だけそういう議会を飛び越えて中国の全人代の常務委員会で決めて、それで香港政府がこの人は資格がないって決めたら、資格はく奪をやっちゃったわけですよ。」

「それでその理由が、これからこれが法的規範になるんだと書いてあって、法的規範というのが政治的しきたりなんだって書いてある。」

「基本が愛国精神、彼らには愛国精神がないっていう超法規的な理由なんですね。」

「(つまり中国に対して愛国精神がないと見られると、香港の議会での賛同がなくても中国からダイレクトに処罰が下る、そういう前例が出来てしまったということなのかという問いに対して、)そうですね、それを執行するのは香港政府ということだけど、北京が「この人は駄目ですよ」と言うと、香港がやると。」

「そこに、その規範が香港の愛国者がやるべきで、それが政治的しきたりで、それが法律規範になるんだと堂々と言っているわけだから。」

「(愛国というゆるい理由で、それを法律的規範に結びつけてしまうというのはめちゃくちゃではないかという指摘に対して、)めちゃくちゃですね。」

「だから基本法も全く無視しているしね。」

「基本法には議員がちゃんと議論することになっている。」

「もう一つは愛国の定義ですよね。」

「あの人たち(議員の資格をはく奪された4人)は愛国者ですよね。」

「香港を民主化して基本法に則ってやろうという人達なわけだから。」

「でも共産党にとっては脅威だっていうことだから。」

「中国では(共産)党イコール国なんですから。」

 

その香港では今週月曜日(11月23日)、無許可の集会を扇動したなどとして、公安条例違反罪に問われた“民主の女神”、周庭さんたち、香港の民主活動家3名が有罪と認定され、ただちに収監されました。

こうした状況について、小原さんは次のようにおっしゃっています。

「元々一国二制度というのは過渡期だけの話であって、しかもその間も中国の統治をやるということは変わらないんですよね。」

「ですから、先ほどいかなる行為、それも中国の正義を守るためであれば、中国にとっては正義というのは共産党の統治ですから、それを守るためのいかなる行為も正当化される。」

「ただ正当化と言っても、それを法律に則って行うと言いたいがための法の整備ということになりますし、法律は国家安全維持法を見てもそうですけれど、何をやったらこれに抵触するのか分からないんですね。」

「非常に恣意的にその罪状が決められるような内容で法律を全部作っていくと、中国がやりたいことをやろうとした時にどの条文でも当てはめられると。」

「これに該当したということが言えるんだろうと。」

「後は愛国主義教育と言っていますけども、結局は香港に根付いている自由や民主主義という考え方を根こそぎ無くすということですから、そういった意味では今アメリカやイギリス、その他の西欧先進諸国が批判している、新疆ウイグル自治区における少数民族に対する弾圧と根は同じだということが言えると思います。」

 

「(内モンゴル自治区でも中国語教育が押し付けられていたり、学校教育の中にも入り込んできているが、その理由について、)やはり異質な分子がいるというのが非常に怖いんですね。」

「中国共産党は実は非常に怖がりで、自分たちが革命で政権を取った政党ですよね。」

「で、革命というのは暴力ですから、そして今も権威主義国家であり、選挙では政権交代しない。」

「ということは、革命でしか交代しないだろうと考えると、いつ自分たちがそういう目に遭わされるか分からないという恐怖心は常に持っていますから、そうすると異質な人たちがいるというのはとても怖い。」

「自分たちと違うのも怖いし、反対されるのも怖い。」

「だったら同一化してしまうことが一番早いんだと。」

「ですから、モンゴルにしろ新彊にしろ、言語ですとか文化そのものを無くしてしまって漢民族化してしまう。」

「そのために漢民族も大量に入り込んでいますし、そういった入り込んだ人たちが元々そこに住んでいた少数民族たちにどんどん入り込んでいって、そこでも漢民族の文化、あるいは中国語を広めていって、元々のものを無くしてしまう。」

「そういったことが実は香港でも自由や民主主義といった価値観を無くしてしまうという方向に動こうとしている。」

「そこにつながっているのではないかと思います。」

 

興梠さんは次のようにおっしゃっています。

「つまり、多様性を一切排除して、単一にすることによって簡単にひっくり返せない政府を作ろうということで、天安門事件の時、中国政府は武力で鎮圧しようとしたが、今、それが法律に取って代わっているということなのかという問いに対して、)その後、やっぱり愛国教育をやらなきゃいけないという方針になったわけですよね。」

「西側の影響を1980年代にものすごく受けたので、若い人たちが。」

「だからその後は国家意識を持ってきたと。」

「今、香港ではそれが行われているわけですよ。」

「中国は1950年代以降、共産党が政権を取って49年、思想改造をずっとやってきましたから。」

「要するに、西側の影響を大学とか宗教の世界とかから全部排除して、そこを共産党がコントロールしていくと。」

「だから一番大事にするのは教育なんですね。」

「今、香港で行われているのは、例えば教科書を変えるとか、特に歴史ですよね。」

「歴史観を変えるって非常に大事で、共産党にとっては。」

「ですから教科書を中国の教科書に変えようという動きが今あるしね。」

「(すると)歴史観が変わるわけですよ。」

「で、もう一つはやはり香港というのはイギリス式のリベラルスタディスという教育をやっているわけですね。」

「中国で「通式」って書きますけど、それは何かというとディスカッションなんですよ。」

「例えば天安門事件について今日議論すると(いうように)平気でやっているわけですよ、先生が。」

「環境問題とか天安門事件とか。」

「(中国共産党は)それがもう嫌なんですよね。」

「で、今回、??報告でもそこがおかしいって言ってますよ、(香港の行政長官、)林鄭月娥さんは。」

「それは中央政府の意向なんです。」

「だから司法機関と教育がなっちゃいないって繰り返し言い続けているんです、中国の人民日報なんかでは。」

「そこに、そこの社会の価値観とかが出ますよね」

「だから西側の三権分立とかも教科書から外せって言っているし、もう完全に改造が始まっているんですよ。」

「要するに、中国化っていうよりも中国共産党が大陸でやってきた手法をそのまま今移植してやろうとしているから、10年後、20年後に香港の若い人はどうなっているかって。」

「デモもすることもないような人間が出来上がってくる。」

「(今は授業で賛成と反対に分かれて天安門事件を議論したりとか出来ますが、)出来ないです。」

「教員が今度は問われるようになります。」

「(そうすると香港の象徴だった言論の自由は損なわれるのではという指摘に対して、)それは既に始まっていますよね。)」

「だって、この国家安全維持法で何でも引っかかっちゃうわけですから。」

「最高刑で終身刑ですから、もう既にみんな民主派の人たちも組織を解体したり、なりを潜めて発信も出来なくなってきているし。」

「これは大変な威嚇効果があるわけです。」

 

小原さんは次のようにおっしゃっています。

「(確かにイギリスのガーディアン紙によると、林鄭月娥行政長官は施政方針演説で、去年の反政府デモなどで逮捕された若者らのうち、2300人余りが起訴されたということを明らかにしているが、その上で罪を反省するなど、条件をクリアすれば恩赦をする可能性を示唆しているが、これだけの人数の若者が起訴されると、若者は委縮してものが言えなくなってしまうのではないかという指摘に対して、)もともと中国って自主規制の社会なので、自分から安全な方へ動くように仕向けるというのがだいたいやり方なんです。」

「ですから、上が具体的なことは言わない。」

「でも、下はその意をくんで自分が一番安全な行動を取ろうとする。」

「で、その人も下に対して具体的な指示はしない。」

「なので、どんどんみんな上を見ながら安全な方へ、安全な方へと行くので極端な行動になって出たりする、多いんですけど、香港でも自分たちが進んで中国共産党に従うという意思を示しなさい、そしてそのように行動しなさいと、」

「そうすることによって、香港という社会がより今、中国共産党が統一する社会らしくなっていく。」

「自分たちで考えて、自分たちで有無を言うのではないと。」

「ですから、先ほどお話がありましたけど、中国大陸の大学では数年前に???といって7つの言ってはいけないことまで示されて、講義の中で使ってはいけない言葉は7つ示されたりしたんですね。」

「ですから、民主主義だとか、先ほどからお話に出ているような西洋民主主義に関する言葉というのは講義の中でさえ使ってはいけないということになっている。」

「ですから、そういったものを含めて、香港の中でも中国共産党が統一する社会というものを実現しようという現れなんだと思いますね。」

「(私(メインキャスターの鈴木あづささん)が北京に駐在していた時に、電話をしている時に絶対言ってはいけない言葉、これ言うと電話線が切れるとスタッフに言われていた言葉がいくつかあったが、香港警察が今月5日に反政府行為を取り締まる香港国家安全維持法に違反した行為を市民が通報出来る“告発ホットライン”を開設しており、市民同士で監視させることによって、民主派の活動を抑え込むと、つまり市民同士が監視の目を光らせる中国式の統治が香港にも導入しつつあるということなのかという問いに対して、)おっしゃる通りだと思います。」

「中国では、しかも他人を告発する行為を美談として映画化なども過去にはしたりしていますから、その中では自分の親を告発した青年が英雄として扱われるわけですけど、そういったことを香港でも広めていく。」

「そして告発した人には褒章も与えられる、いろんな特典が与えられたりもするわけですし、しなかったらしなかったで、見過ごしたといって罪に問われる可能性すらあるということになると、一般的な人はそういった方向に従う方が楽だと考えるかもしれないです。」

「(賞金まで政府が出すのかという問いに対して、)賞金になるのか、例えば公共サービスを優先的に受けられるといったような特典だったりですとか、そこは具体的には分かりませんけど、実際に現在でも中国大陸の方では??という単位があって、そこでいろいろ特典制になっていますから、良いことをすると公共サービスがより多く受けられるですとか、悪いと公共サービスが受けられないといったような差別化が図られるので、そういったことが香港でも行われる可能性はあると思います。」

「(つまり国の価値尺度による優良市民の選別が行われているということなのかという問いに対して、)はい。」

「しかも公的機関だけで一人ひとりを全て見張るということはほぼ不可能なので、ということは社会全体でお互いに目を光らせた方が効果的ですし、更に社会全体が反中国、反共産党になりにくいといった効果もあると思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通して、中国式“法治”の基本的な考え方、および具体策について以下にまとめてみました。

(中国式“法治”の基本的な考え方)

・中国共産党が全てに超越する存在であり、中国共産党イコール中国である

・従って、中国共産党は憲法よりも上にあり、法治の対象外である

・また、中国共産党が指導的な地位を継続することは絶対的な正義である

・法は、中国共産党による国民への指導を徹底させるための手段である

・また、中国共産党の目的遂行のためのあらゆる行為は正当化される

・こうしたことの目的は、中国共産党が長期にわたって統治を続けることにある

 

(中国式“法治”の具体策)

・台湾および香港を統一するまでの過渡期は一国二制度を運用する

・しかし、その間も香港国家安全維持法の施行など台湾政府や香港政府の法律制度を無視して、中国共産党の指導を行き渡らせる

・香港国家安全維持法(最高刑で終身刑)は内容があいまいで、中国共産党がやりたいことをやろうとした時にどの条文でも当てはめられるようにしている

・香港国家安全維持法に違反した行為を市民が通報出来る“告発ホットライン”を開設しており、市民同士で監視させることによって、市民同士が監視の目を光らせる中国式の統治を香港にも導入している

・愛国主義教育の徹底により、自由や民主主義という考え方を根こそぎ無くし、思想改造により中国共産党への崇拝を徹底させる

・少数民族の弾圧により漢民族への同化を図る

 

こうしてまとめてみると、中国においては2つのことが言えると思います。

・“まず中国共産党ありき”で、まず党幹部とその親族が、そして次に党員が優遇されるという具合に階級社会であること

・自由主義や民主主義は“反社会的”と見なされ、処罰の対象となること

 

そして、こうした習近平国家主席が率いる中国は今や覇権主義を振りかざし、世界制覇を目指していると見られています。

ですから、自由主義や民主主義を信条とする日本は、中国による侵略リスクを軽減するために、他の自由・民主主義陣営国との共同戦線で中国の覇権主義に対抗していくことが求められるのです。

そしてリスク管理のキーポイントは出来るだけリスクが小さいうちに対応策を実施することにあるのです。


追記:
更により詳細に中国式“法治”について知りたい方はこちら(2021年9月27日(月)放送の「視点・論点」(NHK総合テレビ) タイトル「『習近平法治思想』が意味するもの」)を参照下さい。


 
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