2021年04月16日
アイデアよもやま話 No.4931 天安門事件当時、日本政府の判断が異なれば、中国は民主化に向けて動き出していた!?

昨年12月23日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で天安門事件への日本政府の対応について取り上げていたのでご紹介します。

なお、日付は全て番組放送時のものです。

 

外務省は今日、作成から30年が経過した外交文書を一般公開しました。

その中で、特に注目されるのが1989年に中国で起きた天安門事件に関連した記述です。

当時、西側諸国が中国を厳しく批判する中、日本は中国に配慮する対応を決めていたことが文書から明らかになりました。

 

1989年6月4日、民主化を求めて集まっていた学生や市民に対し、中国当局が軍を導入して鎮圧した天安門事件、当時西側諸国は厳しく中国を非難し、共同制裁も辞さない姿勢でした。

これに対し、日本政府の対応は明確に異なりました。

今日、外務省が公開した外交文書では、天安門事件を人道的に容認出来ないとしつつも、中国に配慮する方針だったことが事件直後に以下のように記されています。

 

一致して中国を弾劾するような印象を与えることは、中国を孤立化へ追いやり、長期的、大局的観点から得策でない。

まして、中国に対し、制裁措置等を共同して採ることには日本は反対。

 

東西冷戦が続いていた当時、中国が改革・解放政策を維持するためにも孤立を防ぐべきだとの日本の立場が読み取れます。

中国の政治・外交に詳しい専門家、東京大学の川島真教授は次のようにおっしゃっています。

「せっかく資本主義の世界、あるいは市場経済の世界に寄ってきた中国がこれでもっともっとソ連の方に寄っていってしまうんじゃないか、「つなぎ留めるべきである」とそういうような発想なんですね。」

 

当時の日本は中国に多額のODA、政府開発援助を行っていました。

川島教授は次のようにおっしゃっています。

「(日本は)中国に最も手厚く支援をする国なんですよね。」

「そういう中で、自信を持って「日本がやる」とう責任感ですね。」

「「経済協力をやっていけば、中国は民主化していくんじゃないか」、そういう期待(があった)。」

 

事件の翌月、1989年7月に開かれたG7、主要7ヵ国首脳会議、アルシュ・サミット、議長国のフランスが各国に提示した共同宣言の原案では、中国に対する共同制裁の実施にも言及していましたが、日本はより穏やかな表現に留めるよう働きかけていました。

サミット政治声明について、対フランスの申し入れには、以下の記述があります。

 

特定国の人権、及び民主化などへの言及、更には具体的な行動の要求に関しては、慎重に検討することが必要である。

我が国としては、あえて個別、具体的に言及する必要はなく、抽象的な表現に止める

べきてあると考えている。

 

結果、G7の宣言には、「中国の孤立化を避ける」との文言が盛り込まれました。

 

30年前と今とでは国際情勢が大きく変わっていますが、当時の情勢について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「まさに当時は冷戦の最終局面でしたから、中国をソ連寄りに追い込みたくなかったというのは分かるんですけど、もう一つ重要なのは「中国が豊かになれば、やがては民主化する」という判断が外務省にあったわけですよね。」

「見事に外れた見通しだったということになります。」

「(この時の中国に対する欧米の見方が変わってきたということになるのかという問いに対して、)1990年代、冷戦が終わってから、アメリカやヨーロッパの見方は明らかに変わりましたね。」

「典型的なのは2001年の中国のWTO(世界貿易機関)への加盟なんですけど、アメリカは後押ししました。」

「ドーハというところで開かれた閣僚会議で加盟を決めたわけですけども、民主化の見通しが外れたという意味では、まさに“ドーハの悲劇”と言っていい状況だと思います。」

「現状、これでバイデン政権が出てきて、グリップを緩める方向に向かうと、また30年前の出来事がもう一度繰り返されているような、フラッシュバックの感じもあるんじゃないでしょうか。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきましたが、以下にまとめてみました。

・1989年6月4日、民主化を求めて集まっていた学生や市民に対し、中国当局が軍を導入して鎮圧した天安門事件、当時西側諸国は厳しく中国を非難し、共同制裁も辞さない姿勢でした。

・しかし、一致して中国を弾劾するような印象を与えることは、中国を孤立化へ追いやり、長期的、大局的観点から得策でないとし、中国に対し、制裁措置等を共同して採ることに日本は反対した。

・その理由として、資本主義の世界、あるいは市場経済の世界に寄ってきた中国が共同制裁によりソ連の方に寄っていってしまうと考え、「つなぎ留めるべきである」というような発想だったとの見方がある。

・当時の日本は中国に多額の政府開発援助を行っており、経済協力により中国は豊かになり、やがて民主化していくという期待を持っていたという見方がある。

・その結果、G7の宣言には、日本の意思が反映され、「中国の孤立化を避ける」との文言が盛り込まれた。

・また、2001年の中国のWTO(世界貿易機関)への加盟をアメリカは天安門事件当時の日本と同じく後押し、中国は加盟出来た。

・このように中国の民主化に対し、天安門事件当時の日本も冷戦後の欧米諸国も見事に見通しが外れてしまった。

・現在、バイデン政権が誕生し、中国に対してグリップを緩める方向に向かうと、また30年前の出来事がもう一度繰り返されるリスクを秘めている。

 

ここまで書いてきて、これまでアップしてきた香港、台湾、あるいは新疆ウイグル地区を巡る中国の人権問題、および一国二制度、そして中国による覇権主義の世界的展開関連の以下のブログを洗い出し、その主なものをまとめてみました。

 

プロジェクト管理と日常生活 No.659 『新型コロナウイルス封じ込めで強気に転じる中国の脅威!』

アイデアよもやま話 No.4874 やはり中国は人権無視の国!

アイデアよもやま話 No.4772 香港国家安全維持法の実態、および中国政府の詭弁!

プロジェクト管理と日常生活 No.666 『国連の専門機関の支配権を強める中国!』

プロジェクト管理と日常生活 No.669 『香港の民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)さんの逮捕から見えてくること!』

プロジェクト管理と日常生活 No.670 『香港の国家安全維持法のカラクリ!』

プロジェクト管理と日常生活 No.671 『国家安全維持法を巡る憂慮すべき事実!』

No.4842 ちょっと一休み その755 『香港は三権分立ではない!?』

 

こうしてみると、私も個人的にいかに中国の覇権主義、あるいは人権無視に対する恐れの気持ちがあるかを再認識出来ました。

 

さて、中国は豊かになれば、いずれ自由主義陣営の仲間入りを果たすだろうというもくろみのもと、日本も含めて、世界の主要国は中国の人権無視、あるいは覇権主義の暴走に対して、曖昧な態度を取ってきました。

ところが、このもくろみは見事に外れ、習近平国家主席率いる中国は今や“覇権主義の権化”と化し、経済的にも軍事的にも世界制覇にまい進しているのです。

ですから、中国の念願が果たされた後の世界は、人権は無視され、自由も奪われ、全ては中国共産党の手のひらの中で、全人類は現在の中国国民と同様の生活を強いられるようになるのです。

しかも、一方では、『中国共産党の幹部の親族が保有する香港の不動産!』でもご紹介したように、中国共産党の幹部の親族は莫大な保有資産を抱えているといいます。

ですから、こうしたことだけ見ても、中国の共産主義は、“まず共産党政権ありき”、次にその幹部、および親族という具合に階層社会が形成されており、見方によっては今自由主義国で問題になっている格差化が常態化しているとも言えそうです。

 

なお、ここでとても残念に思うのは、もし天安門事件当時、日本政府が他の欧米諸国と足並みを揃えて共同制裁をするという判断を下していれば、当時の中国であれば制裁がこたえて、その後の中国の歩みも共産主義が軌道修正されて現在とはかなり変わっていたと見込まれることです。

 

更に源流をたどれば、学生たちの抗議活動は1989年4月に始まったといいます。

民主化に理解を示した胡耀邦・元総書記の死を追悼する学生が集まったのです。

そしてこうした動きが天安門事件につながったのです。

ですから、胡元総書記が亡くならずに中国共産党の主導権を握ることが出来ていれば、その後の展開は民主化に向けて大きく変わっていたかもしれないのです。(こちらを参照)

このように中国共産党の中でかつては民主化、および反民主化を巡って権力争いがあったのです。

 

さて、天安門事件以降、中国による反民主主義、および覇権主義の阻止を旗印にこれまで民主主義陣営の国々は中国に対峙してきたわけですが、繰り返しになりますが、今の中国は経済、および軍事面でアメリカに迫るほどの勢いで強大化しつつあります。

そればかりでなく、覇権主義で突き進み、国連の私物化まで図ろうとしているのです。

 

こうした状況において、自由主義陣営の国々は欧米諸国、および日本を中心に結束して過去の過ちを繰り返すことなく、中国に軌道修正を促すべく、場合によっては経済制裁や軍事的な圧力を駆使して中国に対峙することがとても重要なのです。

当然、このような動きに中国も個別に日本も含めて経済制裁をしかけてくると思われますが、こうした制裁に対しては先進国を中心に被害状況に応じて被制裁国の救済が出来るような仕組みづくりも必要になります。


 
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