2021年03月13日
プロジェクト管理と日常生活 No.684 『日本政府におけるデジタル化の課題』

前回、日本企業におけるデジタル化の課題についてご紹介しました。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.683 『日本企業におけるデジタル化の課題』

では、日本政府におけるデジタル化の課題はどうでしょうか。

 

菅総理はデジタル庁の新設など、デジタル化への取り組みにとても真剣のようです。

しかし、2月12日(金)付けネット記事(こちらを参照)を読むと、とても心配になってしまいました。

以下に記事の一部をご紹介します。

 

・新型コロナウイルス対策のスマートフォン向けの接触確認アプリ「COCOA」が感染症対策の切り札として導入されながら、グーグルの基本ソフト「Android」の利用者に4か月余りもの間、感染者との接触が通知がされていなかった。

・驚くことに、この不具合は去年9月末からだった。実に4か月余りもの間「COCOA」は機能せず、放置されていたのだ。

・しかも不具合は感染の「第3波」のさなかに起きていた。

4か月もの間見過ごされた不具合はなぜ起きたのか、発覚の経緯は以下の通りである。

アプリの開発は業者に委託しているが、報告によると、障害は去年928日のバージョンアップに伴って生じた。今年に入って「通知が来なかった」というSNSの発信や報道を受けて、業者がスマホを用いて動作検証をしたところ、接触の値が想定と異なる形で出力され、正しく通知されていないことが判明した。それまでは、模擬的な検証にとどまっていた。

・原因は以下の通りである。

端末どうしが近くにあれば、リスクが高いという値を相手の端末に返す。離れていたり、接触機会が短ければリスクが低い値を返すが、一律に接触の程度に関わらず、リスクが低いと判定されてしまった。

・4か月間、この問題に気がつかなかった理由は以下の通りである。

感染拡大に備えて、速やかに多くの人に利用してもらうことを重視して、アプリを作っていた。そのため、十分なテスト環境を構築するのが遅れたのは事実。その後、テスト環境を整えて実物のスマホでテストをすべきところをしておらず、問題点の気づきの遅れにつながった。

・利用者から「陽性者と接触しているはずだが、通知がこなかった」という問い合わせは、確かにあった。ただ指摘全体の中の数として決して多いものではなく、その時点では「問題ない」と業者から回答があった。

・浮き彫りになったのは、アプリを改修したあとに実際の機種で動作確認をしていなかったというずさんな運用の実態だった。

・「歴史に残る失態。痛恨の極みだ」と話すのは、接触確認アプリの開発に当たって、当時IT担当の副大臣として陣頭指揮を執った自民党の平将明(衆議院議員)だ。

・致命的な不具合を防げなかったことについて、政府内に専門の知識や技術を備えた人材が不足している現状に課題があると言う。

・アプリ開発には改修がつきものだが、委託された業者側がアプリの保守管理体制を確立できたのは、去年6月のアプリの運用開始から1か月半後だった。その理由について、業者側は「ほかのアプリ開発の仕事もあるなかで、人繰りの調整が必要だった」と取材に答えた。

・ただ、不具合に気づく機会がなかったかと言えば、そうでもない。取材を進めると、「COCOA」の不具合は、去年11月時点でインターネット上で指摘されていた。アプリなどのプログラムに関する情報について技術者らがやりとりしている「GitHub」という専門のサイトだ。「現在のAndroid版では接触が検知されることはないと思われます」という投稿があったのだ。機能の根幹に関わる具体的な指摘もあった。それにも関わらず、問題を指摘する投稿が顧みられることはなかった。

・また、今年に入るとSNS上でも、「COCOA」が機能していないという投稿が相次ぐようになっていた。「陽性登録したのに、過去14日間どころか、私が濃厚接触者にしてしまった家族にさえ、誰にも通知が来ていません」 PR会社社長の次原悦子もそうした1人だ。みずからが感染した経験を踏まえて「COCOA」が機能していないことをツイッターで発信していた。

・次原は、国民民主党代表の玉木雄一郎に不具合を伝え、玉木は、113日の衆議院内閣委員会で「COCOAは機能しているのか」と単刀直入に厚労省にただした。これに対し、厚労省の担当者は「1メートル以内で15分以上実際には接近していなかったり、ブルートゥース機能をオフにしてしまったりなど、適切に作動できていないケースも考えられる」と答弁した。不具合の原因が利用者側にあるかのような姿勢だった。

・陽性と判明していた次原は、アプリやスマホのアップデートを最新にしてブルートゥースの設定を確認したが、息子のスマホを隣に並べても、通知が届かなかったという。

・しかも、次原がスマホに入れている「COCOA」は、厚労省が「問題ない」としているiPhone」版だ。次原は、今も不安を隠せないと言う。

ITエンジニアの関治之は「COCOA」の品質管理の複雑性が事前に十分認識されていなかったと指摘する。関は、IT技術を社会に役立てるため設立された一般社団法人の「コード・フォー・ジャパン」の代表理事を務めアプリの立ち上げに向けた検討にも関わった。

「(アップルやグーグルから提供される)要件が頻繁に変わる状況だった。開発のノウハウもない中で、対応しなければいけないのは結構大変なことだ。結果をみると、そこは十分な対応ができていなかった。ほかの国の接触確認アプリと比べてもアップデート数が少なく、あまりタイムリーな対応もできていなかったところをみると、アプリの運用に対してしっかりとした体制がとれていなかった」

・さらに取材を進めると、厚労省から直接委託を受けた業者は、そもそもアプリの開発や運用を担うことを想定していなかったことも明らかになった。

・「COCOA」は「HER-SYS(ハーシス)」と呼ばれる感染者の情報を一元的に管理するシステムの一部として追加で契約された経緯があった。「COCOA」で接触通知のあった人を「HER-SYS」に登録し、感染対策に役立てようという狙いだった。

・しかし、政府の検討会で感染者の特定につながるとして慎重論が相次ぎ「COCOA」と「HER-SYS」は切り離して運用されることになった。

・厚労省の関係者は「システム上、完全に切り離されているので、同じ業者が受託しなければならない理屈はなかった。ただ、接触確認アプリは、絶対に失敗できない事業だったので、過去に実績のある業者を選んだ可能性がある」と述べた。迅速に事業を進めるためとして、業者との随意契約が結ばれている。

・「不具合の背景には、経験不足と人手不足があるとは思う。ただ難易度の高いことをやっているのだから、間違えることはある。だからこそ、建設的な指摘に応えようとする意志が必要だ。間違えたら、早く修正すればいい。そして、修正をしながら改善していくことを、国民に許容してもらう雰囲気をつくるためにも情報公開をしっかりしてほしい」

・ 厚労省は、調査チームを設けて検証を進めるとともに、2月中旬までに不具合の解消を目指すことにしている。

・「COCOA」は、国内の感染対策はもとより、東京オリンピック・パラリンピックで日本を訪れる外国人にも役立ててもらうことを想定している。

COCOA」が再び「切り札」として国民に受け入れられるかどうかは、今回の失態から何を学び、生かせるかにかかっている。

 

以上、記事の一部をご紹介してきました。

 

冒頭で、日本政府におけるデジタル化の課題とお伝えしましたが、記事を通して分かる、新型コロナウイルス対策のスマホ接触確認アプリ「COCOA」における取り組み全般の評価は課題以前の最低のプロジェクト管理のレベルと言えます。

以下に記事の内容をまとめてみました。

 

(問題)

・「COCOA」を感染症対策の切り札として導入したが、グーグルの基本ソフト「Android」の利用者に4か月余りもの間、感染者との接触が通知がされていなかった。

(原因)

・障害は昨年9月28日のバージョンアップに伴って生じた。

・端末どうしが近くにあれば、リスクが高いという値を相手の端末に返す。離れていたり、接触機会が短ければリスクが低い値を返すが、一律に接触の程度に関わらず、リスクが低いと判定されてしまった。

・4か月間、この問題に気がつかなかった理由は、感染拡大に備えて速やかにアプリを作っており、十分なテスト環境を構築するのが遅れ、テスト環境を整えて実物のスマホでのテスト(パイロットテスト)を実施していなかった。

・アプリを改修した後に実際の機種で動作確認をしていなかった。

・致命的な不具合を防げなかったことについて、政府内に専門の知識や技術を備えた人材が不足している現状に課題があると指摘されている。

・「COCOA」の開発を委託された業者側がアプリの保守管理体制を確立出来たのは、去年6月のアプリの運用開始から1か月半後だった。

・厚労省は、接触確認アプリは絶対に失敗できない事業だったので、迅速に事業を進めるために過去に実績のある業者との随意契約が結ばれている。

 

(再発防止策)

・ 厚労省は、調査チームを設けて検証を進めるとともに、2月中旬までに不具合の解消を目指すことにしている。

 

こうしてまとめてみると、厚生省による接触確認アプリ「COCOA」の開発、および保守は、プロジェクト管理の観点から見ると、まさにノーコントロール、不具合のオンパレードです。

特に驚いたのは、アプリを改修したあとに実際の機種で動作確認をしていなかったことです。

こうした事実から見て取れるのは、開発を委託した業者、および厚労省の開発関係者が明らかに基本的なプロジェクト管理の知識やスキルを身に着けていなかったことです。

こうした中で、「COCOA」は国内の感染対策のみならず、東京オリンピック・パラリンピックで日本を訪れる外国人にも役立ててもらうことを想定しているというのです。

今のような「COCOA」への取り組み体制では今後もシステムの運用はとてもおぼつかないと思われます。

そして、東京オリンピック・パラリンピック期間中にこうしたシステムのトラブルが発生すれば、日本のプロジェクト管理のレベルの低さを世界中にさらけ出してしまうというとても不名誉な結果をもたらします。

 

では、とても限られた期間でどのように「COCOA」への取り組みを効果的、かつ効率的に進めるかですが、私は以下のように考えます。

・プロジェクト管理に十分な実績のあるプロバイダーからプロジェクトリーダーレベルの人材を「COCOA」の開発業者、および厚労省の両方に速やかに投入し、プロジェクト管理の基本に則ったプロセスで進めていく

・この進め方をデジタル化の指針、あるいは標準プロセスとしてまとめ、厚労省以外の官庁にも展開する

 

こうした状況において、現政権はデジタル化への取り組みにとても真剣のようですが、「幸いを転じて福となす」という言葉の通り、「COCOA」の不具合を通して、組織的にしっかりとプロジェクト開発、およびプロジェクト管理の基本を身に着けてデジタル化にまい進していただきたいと思います。

 

繰り返しになりますが、「COCOA」の開発に取り組まれた方々のプロジェクト管理レベルはあまりにもお粗末で、これでは“税金の無駄遣い”と言われても仕方ありません。


 
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