2021年02月26日
アイデアよもやま話 No.4889 中国への投資増、それとも縮小か?

昨年10月8日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で中国への投資のあり方について取り上げていたのでご紹介します。 

 

昨年9月、菅総理の就任後、初めて行われた中国の習近平国家主席との電話会談で、習近平国家主席が「中国は安定した供給網と公正で開かれた貿易・投資環境を維持する」とわざわざ言及したことが経済界で注目を集めました。

背景には何があるのでしょうか。

 

新型コロナウイルスで日本企業が突きつけられたサプライチェーンの見直し、大きな負担を迫られる企業に対し、加藤官房長官は会見の場で次のようにおっしゃっています。

「デジタル化、サプライチェーンなど新たな課題に対する集中的な改革に必要な投資を行っていく、またそれを支援していく。」

 

経済産業省は海外に拠点を置く日本企業が国内にサプライチェーンを戻した場合、補助金を支給する仕組みを開始、2200億円の予算に対し、8倍を超える1兆8000億円の応募がありました。

その中に中国から日本国内に生産拠点を回帰する動きもあります。

生活用品大手のアイリスオーヤマ株式会社は補助金を利用、中国・大連と蘇州にある工場に依存していたマスク生産の体制を見直しました。

 

また、山形県の医薬品原薬メーカー、株式会社エースジャパンは7割ほどの原料を中国から輸入していましたが、一部を自社で生産するため来年夏(番組放送時)にも県内に工場を建設します。

 

一方、中国国内では別な動きもあります。

江蘇省蘇州市、新型コロナウイルスで未だ日中間の往来が出来ない中、開かれたのが日本企業を誘致するための「中日地方発展協力モデル区」が設置された、その説明会です。

日本企業、約300社が参加、こうした説明会が各地で行われ、日本企業の誘致は中国の国家戦略になっています。

日本国内からもオンラインで参加、会場内ではほとんどの人がマスクをしていません。

コロナ後の経済回復をアピールする場にもなっています。

蘇州市は日本企業を呼び込もうと広大なモデル区を設置し、税金免除など様々な支援策を用意、マンションなどインフラ整備も急ピッチで進めています。

そのモデル区を担当する中国共産党の幹部、蘇州市相城区委員会の顧海東書記は次のようにおっしゃっています。

「日本からの最先端人材には、マンションを購入する際、最高1000万元(約1億5000万円)の補助を出す。」

「日本企業を引き寄せる魅力はどんどん高まっている。」

 

中国側のアプローチは積極的です。

新型コロナウイルスで一時日本への供給がストップするなど、逆風の中、なぜ今誘致を強化するのでしょうか。

上海総領事の磯俣秋男大使は次のようにおっしゃっています。

「中国は日本を含めて外国企業を呼び込んでいるんですね。」

「一緒に発展していきたいという意図と考えがあるのは非常に明白で、それを企業がリスクとチャンスを合わせて考えながら判断されていくだろうと考えております。」

 

中国に16支店を持つメガバンク幹部の見方ですが、みずほ銀行の常務執行役員、菅原正幸さんは次のようにおっしゃっています。

「14億人の巨大マーケットがある国ですから、今年(番組放送時)もGDPの成長率が唯一プラスになる国だということだと思いますよ。」

「民間企業からすると、やはり魅力に感じるんじゃないでしょうかね。」

 

地元政府の支援優遇策を背景に中国への投資を更に進める企業もあります。

蘇州市内にあるオフィス用家具大手、イトーキの子会社、諾浩家具(中国)有限公司の工場では中国での製造にこだわる理由があります。

書類棚の基礎部分の製造工程は機械化が難しく、東南アジアなどへの移転には時間がかかります。

日本に戻すにはコストがかかり過ぎるといいます。

イトーキは上海など周辺に分散していた工場を蘇州市内に統合し、効率化を目指しています。

その先に中国国内の巨大マーケットがあります。

範楠総経理は次のようにおっしゃっています。

「日本からの注文の伸びは既に安定している。」

「中国国内向けの需要は成長の余地が大きい。」

 

更にイトーキは蘇州市の支援を受け、新たなオフィスを準備中です。

入居するのは地元政府ビルです。

家賃は3年間無料で改装費用5000万円の支給も受けました。

更に3年間、企業が支払う税金の一部が還付されます。

範楠総経理は次のようにおっしゃっています。

「蘇州市の政府は資金面で非常に大きく支持してくれる。」

「だから私たちはここに統括会社を設置出来る。」

 

日本企業の誘致を強化する中国、日本の中国戦略も転換点にあります。

こうした状況について、解説キャスターで日経ビジネスの編集委員、山川龍雄さんは次のようにおっしゃっています。

「今の日本人はマスクの苦い経験がありますよ。」

「日本の消費者のために発注して中国で作ってもらったものがいざという時に止まったわけですよ。」

「それで多くの日本人は困ったわけで、中国の消費者向けのものは地産地消でいいと思いますけど、日本のものはちょっと考えちゃいますよね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

中国への投資を増やすべきか、それとも縮小すべきか、中国への投資のあり方を考えるうえで、中国は投資先としてどのような特徴を持っているのかについて、ネット記事(こちらを参照)も参考に以下にまとめてみました。

(メリット)

・世界一の巨大なマーケットである

 ・人件費を抑えられる(低賃金)

 ・中国進出に際し、資金面や税金面などで優遇される

(問題)

 ・中国共産党は国際ルールを無視して、自国企業の育成、成長、競争力強化に有利な施策をいろいろと打ち出している

 ・外資が中国に進出するために中国企業と合弁企業を設立することが求められ、従って合弁先企業に技術情報が漏洩するだけでなく、中国共産党に技術情報が筒抜けになる

・中国共産党は抜いた技術情報を使って、国営かそれに近い競合企業を立ち上げ、そこに大量の助成金をつぎ込んで競争力を高める

 ・更に、例えば中国国内で販売する電気自動車(EV)やハイブリッド(HV)に使う走行用バッテリーは、必ず中国製品を採用すべしという条件も突きつけられる

(リスク)

 ・中国共産党の意向次第で、いつどのような要請を受けるか分からない(例えば、コロナ禍において、国外から進出しているマスクメーカーが自国向けに輸出しようとしても中国向けの優先を強いられた)

 

ということで、中国はとても魅力的なマーケットである一方、いろいろな問題やリスクがあるので、進出企業はこうした視点から中国進出の可否を判断することが求められるのです。

一方、日本政府は最低限でもコロナ禍など緊急時の必需品の確保に対応出来るように、国内メーカーには地産地消の割合をある程度確保するように要請することが必要です。

同時に、国際ルール無視を続けるに対して中国に対して、現在はアメリカが矢面に立って、中国を非難し、関税引き上げなどで対応していますが、国連は国際ルールに照らしてタイムリーに改善要請や何らかの制裁を課すことが必要です。

このまま中国の暴走を許せば、習近平国家主席が率いる中国共産党による世界制覇が進み、やがて人類は自由に意見が言えなくなる“暗黒の社会”での暮らしを強いられてしまうことを覚悟しなければならなくなるのです。


 
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