昨年10月28日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でコロナ禍で変わるエンターテインメント業界について取り上げていたのでご紹介します。
コロナ禍で中々人が集まれない中、エンターテインメントのあり方も急速に変わってきています。
東京・秋葉原にあるAKB48劇場、新型コロナウイルスの影響で昨年2月26日から観客を入れての公演を中止しました。
昨年9月から公演は再開したものの、定員250人に対して観客数に91人と上限を設けるなど(番組放送時)、会いに行けるアイドルなど簡単には会えなくなってしまいました。
更にライブにも異変が起きています。
ファンによる掛け声が禁止され、ペンライトを振ったり、拍手で応えるだけです。
AKB48の村山彩希さんは次のようにおっしゃっています。
「MCで(お客が)笑っているのか、滑っているのか全然分からないんですけど、このかたちだからこそ新しい挑戦が多分出来ると思うので、これからもここ(劇場)を盛り上げていきたいと思います。」
新型コロナで変わるエンターテインメント業界、コロナ禍でどのような決断をしてきたのか、業界のトップランナーである秋元康さんにエンターテインメントの新たな姿を聞きました。
「(新型コロナウイルスの感染拡大の状況において、どういうことを考えたかという問いに対して、)「3密」を避けることはエンターテインメントの熱狂とは反対側にあることなので非常に大変だとは思いましたけども、エンターテインメントがコロナによってどう変わるかではなくて、この世界や生き方がどう変わるかで、ここに合わせたエンターテインメントがあるだろうだろうな。」
AKB48や乃木坂46の生みの親で総合プロデューサーでもあり、古くはおニャン子クラブをはじめ次々とトップアイドルを世に送り出してきた秋元さん、美空ひばりさんの「川の流れのように」の作詞も手掛けるなど、45年間エンターテインメント業界をけん引してきました。
秋元さんは次のようにおっしゃっています。
「とにかく今は“熱狂とは何か”が最大のテーマじゃないですかね。」
「“熱狂”というのは狭い空間の中で密になって汗を飛ばし、応援し、ライブというのは多分そういうものだったと思うんですよね。」
「一緒の熱狂を感じていたものが熱狂が危険だという今の状況がこれからのエンターテインメントにどう影響していくかな。」
昨年10月27日、秋元さんが総合プロデューサーを務める乃木坂46、白石麻衣さんの卒業コンサートのリハーサルが行われていました。
コロナ禍でコンサートをネットで生配信するというかたちを取らざるを得ませんでした。
白石さんは次のようにおっしゃっています。
「みんなの体調面を第一に考えた時に、オンラインというかたちを取ったんですけども、一人でも多くの方に見てもらえるオンラインはすごく私は新しいし、素敵だなと思ったので・・・」
リアルなコンサートのように収容人数の制限がないことや遠方からでも参加し易いといった点でメリットがある一方、秋元さんには次のような懸念もありました。
「人間の目っていうのは自分が見たいものを見ているわけですね。」
「ところが、配信・オンラインで、ライブであるとか舞台とかを見るとやはりそこでスイッチングされているので自分が見たいものではない。」
「全員が同じところを見なければいけないという、そこにちょっと不自由さがあるような気がしますね。」
新型コロナで熱狂の伝え方の試行錯誤は続く一方、熱狂の生み出し方にも今大きな変化があるといいます。
「視聴者が見たいものを一生懸命探してみる。」
「マーケティングリサーチをしますから、要するにここにはどんなお魚がいるのかなっていうのはみんなが同じように調べるのでみんな同じようなエサで同じような場所に釣り糸を垂らすことになってしまって、視聴者の皆さんからお叱りを受けるのはどの番組を見ても同じじゃないかと。」
「視聴者が見たいものもすごく大事なんですが、作り手側が作りたいものを作って、(視聴者が)どう受け止めて下さるかの時代に来ているんじゃないかな。」
誰もが楽しめる最大公約数の番組ではなく、特定の人の心に訴える最小公倍数の番組作り、公開後大ヒットが続く映画「鬼滅の刃」はまさにそうした作品だといいます。
「「鬼滅の刃」にしてもアニメ化されても、まだ一部の人たちが熱狂していたものが広がっていって、普段はアニメなんか見ない人たちが「面白いんだって」って言って広がっていって、今回の大ヒットになるような、ああいう世代や層がドミノ倒し、パタパタと倒れていくようなヒットの仕方をするんじゃんないかなと。」
そして今週(番組放送時点)、秋元さん自身が新たな試みとして企画・原作を手掛けたドラマがスタートしました。
業界のタブーに挑んた、その名も「共演NG」です。
舞台は弱小テレビ局が社運を賭けたドラマの制作現場、かつては恋人同士で今は共演NGの大物俳優二人がドラマで共演するというものです。
このドラマについて、秋元さんは次のようにおっしゃっています。
「僕なんかはまず虫眼鏡で太陽光線を集めて、集めないと発火しないじゃないですか。」
「その発火させるポイントをどこにするかということは考えますよね。」
「あまり広いとフォーカスが合わないと、結局は“帯に短し襷に長し”で誰にも刺さらない中庸なものになっちゃうんで、千人、1万人の中で「面白そうだ」よりもこの10人が熱狂的に「面白い」と思うことが我々の非常に狙いではありますね。」
「(エンターテインメント業界のこれからの軌道について、)僕が信じているのはこうなって欲しいなと、これ(右肩上がり)は希望的な観測なんですけども。」
希望的観測と話す理由は、まず向き合うべき現実があるかです。
「苦労なさっている分野の業界の皆さんがいるので、医療も応援しなきゃいけないし、そういうところから一丸とならないと。」
「多分エンターテインメントってそこの全てが満たされながらの楽しみであり、それを切り離してエンターテインメントだけ良ければいいわけではないので、我々も頑張らないといけないと思いますけどね。」
見えない熱狂をどう作りだしていくかはエンタメ業界だけでなくほかの業界にも当てはまる話だと思います。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
まず番組を通しての秋元さんの印象を以下にまとめてみました。
・エンターテインメントとは何かを客観的、かつ科学的に追及していること
・エンターテインメントと社会との関係についても自分なりの考えを確立していること
なお、秋元さんは、「エンターテインメントがコロナによってどう変わるかではなくて、この世界や生き方がどう変わるかで、ここに合わせたエンターテインメントがあるだろうだろうな。」とおっしゃっています。
要するに、初めに“エンターテインメントありき”ではなくて、あくまでもエンターテインメントは人生の一部であるというスタンスなのです。
ですから、エンターテインメントは人々の暮らしに寄り添っているとも言えます。
この基本的な考え方はエンターテインメントに限らず、どの業界においても通用するはずです。
コロナ禍が長期間にわたって続いており、多くの業界は大変な苦境に追い込まれています。
そこから抜け出すには、まずコロナ禍において、人々が、あるいは社会の求めるものは何か、すなわち需要の変化を見極めることがスタートポイントです。
全く需要が無くなるということはあり得ません。
なぜならば常に人々は何らかの欲求を持っているからです。
コロナ禍での新たな需要の象徴的なキーワードは“巣ごもり需要”です。
要するに“自宅にこもったままで、これまで通りの暮らしにより近い時間を過ごせるか、あるいはどのようにより楽しい暮らしを送れるか”という課題に対する的確なアイデアをかたちに出来るかどうかが企業の存続を左右するのです。
ですから、特にコロナ禍の影響を強く受けている業界においては、コロナ禍以前のビジネスモデルに縛られるのではなく、新たなビジネス環境に即した業態に生まれ変わるくらいの覚悟で臨むことが求められているのです。
なお、秋元さんは「とにかく今は“熱狂とは何か”が最大のテーマじゃないですかね。」とおっしゃっているように、エンターテインメントの究極の狙いの一つは“熱狂”だと思います。
しかし、コロナ禍においては「3密」回避を基本に“熱狂は危険”という状況を余儀なくされているのです。
ですから現状ではリアルなコンサートでは収容人数を制限したり、ファンによる掛け声を禁止したりというようなことが行われています。
更に、秋元さんも指摘されているように、オンライン映像では自分の観たい情景を見ることが出来ないという不自由さがあります。
一方で、オンラインコンサートは遠方からでも参加し易いといったメリットがあります。
しかも録画がコンサート後も配信されれば、ファンの方々はいつでも自分の好きなミュージシャンのコンサートを自宅で楽しむことが出来ます。
ですから、今の映像技術を駆使すれば、オンラインコンサートの弱点をある程度はカバー出来ると思います。
一方、オンラインコンサートにはリアルコンサートにはないメリットがあります。
このプラスマイナスを考慮すると、コロナ禍は図らずもオンラインコンサートという新しいマーケットを創造したと言えるのではないかと思えてきます。
卑近な例ですが、私は竹内まりやの大ファンですが、彼女のコンサートは滅多にありませんし、しかもコンサートが開催されても簡単にはチケットが手に入りません。
ですから、彼女のようなとても人気のあるミュージシャンのコンサートがコロナ禍をきっかけにオンラインでも気軽に観れるようになれば、多くのファンの心を癒せるのではないかと思うのです。
また、秋元さんも指摘されているように、オンラインコンサートなどオンラインでの配信を前提に「作り手側が作りたいものを果断に作ってみる」というチャレンジが作り手に求められていると思うのです。
公開後大ヒットが続く映画「鬼滅の刃」はまさにこうした作品の象徴的な存在なのです。
ということで、どんな状況においてもどの業界においても需要が全く無くなることはないので、その潜在需要を的確に捉え、それに応えるような商品やサービスを提供出来れば、必ず道は開け、更なる成長軌道に乗ることが出来るのです。
要はアイデア次第なのです。
そしてコロナ禍後を見据えた事業継続のキーワードはDX(デジタルトランスフォーメーション)なのです。
単なるデジタル化はなく、デジタル化を大前提とした今後進むべき事業やビジネスプロセスの大変革、すなわちデジタル変革を制する者がこれからのビジネスを制すのです。