昨年10月28日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で日本政府のデジタル化政策のこれまでの経緯について取り上げていたのでご紹介します。
番組コメンテーターでピクテ投信投資顧問 シニア・フェローの市川 眞一さんは以下のパネルを見せてくれました。
政府のIT基本戦略
・電子商取引ルールと新たな環境整備
・電子政府の実現
行政内部の電子化
官民接点のオンライン化
規制・制度の改革
そして市川さんは次のようにおっしゃっています。
「これいつのものだと思われますか?」
「実はなんと2000年12月27日に政府のIT戦略本部が決定したものなんですね、20年前。」
「で、実際、こういったIT戦略は何回もこの20年間でまとめられていますし、そして政府の中にも内閣官房にIT総合戦略室があるんですね。」
「ですから、やはりスピードが大事だとすると、菅総理が各大臣にきちっと指示を出して、そしてIT総合戦略室が総合調整すれば、実はデジタル庁とかわざわざ法律を通して設けなくても出来ることだと思うんですよ。」
「ですからやはり今スピード感が非常に重要になってきていますから、そういう意味で特に日本は新型コロナ禍の問題でIT化に関しては政府も民間も周回遅れだということは分かってしまったので、ここは組織をつくるとかそういうことではなくて、今まであるメニューをいかに淡々と着実に進めていくか、そういうことなんじゃないでしょうかね。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
まず驚くのは冒頭の「政府のIT基本戦略」に関する記述が2000年に政府のIT戦略本部が決定したものであるということです。
この記述を見てほとんどの方は菅政権が新たに掲げた看板政策の1つだと思われたのではないでしょうか。
市川さんの指摘はまさにその通りだと思います。
日本政府のデジタル化に対する取り組みは2000年に既に方針は打ち出されていたのです。
そして内閣官房にIT総合戦略室が既に存在しているので、わざわざデジタル庁を新設する必要はなかったのです。
ではなぜ折角2000年にIT基本戦略が打ち出されていたのに、引き続き実行に向けた取り組みがなされてこなかったのでしょうか。
ちなみに2000年12月27日の時期は第2次森内閣で2001年4月26日に第1次小泉内閣に引き継がれました。
小泉内閣と言えば、郵政民営化を旗印に「自民党をぶっ壊す」という掛け声で総理大臣の座を手に入れたことで有名です。
もし仮に小泉総理がIT基本戦略を引き継いで「デジタル化で日本を今一度洗濯する」というようなフレーズで持ち前のリーダーシップで日本をリードしていただいていたら今の日本はデジタル化で世界に後れをとるどころか、世界をリードしていたのではないかととても残念に思います。
実は政府によるデジタル化への取り組みでもう一度チャンスがありました。
2015年に施行されたマイナンバー制度です。
その狙いは行政の効率化、国民の利便性の向上、公平・公正な社会の実現といいます。
しかし、この制度は未だにごく一部しか機能していないのです。
もしマイナンバー制度の普及に本気で取り組んでいれば、今も大変な状況にあるコロナ禍対策もスマートな対応が出来ているはずなのです。
では、なぜ日本でのデジタル化がこれまでの20年間で遅遅として進まなかったのかですが、それは歴代の総理にどのような日本に変えたいのかという確たるイメージがデジタル化に関してなかったか、あるいはあっても実現させるだけの突破力がなかったと私は思うのです。
そして現在、ようやく菅総理が政策の柱の一つとして本腰を入れてデジタル化を進めると宣言したのです。
しかもそのきっかけはコロナ禍における給付金配布など、人海戦術による他の主要国に比べての効率の悪さの露呈です。
ですから、もし新型コロナウイルスの感染拡大が発生していなければ、日本政府によるデジタル化はこれまで通り“遅遅として進まず”状態が続いていると懸念されます。
遅ればせながらですが、菅政権には是非他のデジタル化先進国より一歩や二歩先を行く、単なるデジタル化ではないDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指して日本を生まれ変わらせていただきたいと思います。