2021年01月30日
プロジェクト管理と日常生活 No.678 『信託銀行による株主総会の議決権の誤集計問題の対応策』

昨年9月、信託銀行による株主総会の議決権の誤集計問題が報じられていました。

そこで今回はプロジェクト管理の中の問題管理の観点からこの問題についてご紹介します。 

 

まず始めは昨年9月23日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」(テレビ東京)を通してのご紹介です。

 

三井住友信託銀行が株主総会の議決権の集計を不適切に扱ってきたとお伝えしましたが、その集計作業をみずほ信託銀行と共同で設立した会社、日本株主データサービス(JaSt)が行っていたということです。

そのためみずほ信託銀行でも400社分を検証しているということです。

こうした株主の意向が反映されてこなかった状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「(こうした状況は、株式会社は一体何なのだという話になるという指摘について、)選挙で投票箱を捨てたというようなものですから、とんでもない話ですよね。」

「でも根っこにあるのは、ここでもデジタル化の遅れの問題が現れているんだと思うんですね。」

「2017年の数字なんですけども、株主総会で電子的な議決権行使をやっていた企業のウエイト(占める割合)なんですけども、アメリカでは9割、日本では1割ということですから、やっぱり郵便に頼る度合いが非常に高かったっていうのがこういう問題の根っこにあるんだと僕は思いますよ。」

「(そんなに日本は世界と違っていたのかということかという問いに対して、)ここでもやっぱり“デジタル化”、キーワードはここですね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

次は昨年9月24日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)を通してのご紹介です。 

 

昨年9月23日にお伝えした株主総会の議決権の行使の集計に誤りがあった問題で、三井住友信託銀行とみずほ信託銀行は昨年9月24日に1346社分の集計で誤りがあったと謝罪しました。

発端となったのは昨年7月末の東芝の株主総会での集計ミスでした。

WBSは東芝宛てに送られた書簡を独自に入手しました。

タイトルは「第三者委員会の設置の要請」とあります。

送り主は東芝の筆頭株主のファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントです。

書簡では、株主総会が公正に運営されていたかを調査するよう強く求めています。

 

昨年9月24日午後5時から始まった緊急会見で三井住友信託銀行は受託する975社で株主総会に議決権処理に誤りがあったと発表、議決権の行使書が期限内に郵送されていたにもかかわらず、集計からはずれていたのです。

 

発覚の発端となったのは、昨年7月末に開催された東芝の株主総会でした。

東芝のもの言う株主であるシンガポールの投資ファンドの議決権行使書は期限日の昨年9月30日に到着しました。

しかし、翌日9月31日の株主総会では無効とされたのです。

無効になった行使書は議決権ベースで1.3%、ただ東芝によれば、もし有効だったとしても車谷社長の取締役選任など、決議への影響はないとしています。

 

なぜ、こうしたことが起きたのか、その背景について緊急会見で三井住友信託銀行の海原淳専務執行役員は次のようにおっしゃっています。

「大量の処理をするためには、少しでも早く作業を始めたいというようなことで前倒しでそれ(行使書)をもらうというようなことを郵便局にお願いをして・・・」

 

株主から送られてきた議決権行使書は郵便局から順番に送られます。

しかし株主総会の繁忙期に限り、本来の配達日よりも1日早く受け取れるよう「先付け処理」を行っていました。

これにより本来、行使期限の翌日届く書類が期限内に届くことになります。

 

東芝のケースでは、本来31日に届くものも実際は30日に届いていました。

これを三井住友信託銀行は(本来の配達日である交付証の日付が期限の翌日であった場合には)集計の対象から外していたのです。

 

こうした対応に、会社法に詳しい中島経営法律事務所の原正雄弁護士は次のようにおっしゃっています。

「議決権行使書は会社が定めた締め切りまでに届いたものは受け付けなければならないと定められていますので、「通常であればこの日に届くはずだったというのは関係なく、現実に受け取った日」ということになります。

 

同じ問題はみずほ信託銀行でも起きています。

371社で同様の処理をしていたことが発覚、両行合わせて1346社の株主総会の決議で株主の声が適切に反映されない事態となっています。

 

WBSは東芝の筆頭株主、エフィッシモキャピタルマネジメントが東芝に送付した書簡を入手、株主総会について第三者委員会を立ち上げて調査するよう東芝に要請し、株主総会の公正な運営は株式会社制度の根幹をなすものであると強い口調で述べています。

エフィッシモキャピタルマネジメントの関係者は次のようにおっしゃっています。

「東芝は集計の誤りを含めて全てを調べ直して発表する必要がある。」

「問題の責任は集計業者にあるのではない、東芝のガバナンスの問題だ。」

 

手続きの不備があった一部の企業に対して、株主が裁判所に総会決議の取り消しを訴える可能性もあります。

 

海原淳専務執行役員は次のようにおっしゃっています。

「あまりにも当たり前にずうっとやってきたということで、今回のような集計方法に問題があると認識出来なかったということが正直なところだと思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

最後は昨年9月28日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)を通してのご紹介です。 

 

大手信託銀行が運営を受託した企業の中で、インターネットで議決権を行使出来る環境を整えていた企業は昨年7月末時点で約45%に止まっています。

こうした現状について、議決権のネット行使システムなどを手掛けるアステリア株式会社の平野洋一郎社長は次のようにおっしゃっています。

「インターネット投票の仕組みを整えていない企業が半分以上あるというのは、インフラとして大きな問題だと思います。」

「(今回の問題で)これまでアナログでやってきたことの弊害が露呈した・・・」

 

ただ2008年からインターネットを通じた投票を導入しているアステリアの株主総会でさえ、ネットによる投票は全体の2割に届いておらず、株主サイドがネット投票に慣れていないという課題もあります。

一方で、今回の問題がデジタル化が進むきっかけになるとの期待もあります。

平野社長は次のようにおっしゃっています。

「デジタル化というものが国の政策として取り上げられていますけども、こういう旧来的なもの(株主総会)を(新しい)ルールとして民間も進めることで日本の国のデジタル化を更に進めることが出来る・・・」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

さて、WBSの3つの番組を通して、信託銀行による株主総会の議決権の誤集計についてご紹介してきましたが、この問題を以下に整理してみました。

(問題)

・株主総会の議決権行使書が期限内に郵送されていたにもかかわらず集計から外れていたため、議決権行使書の一部が無効となった

 

(原因)

・株主から送られてきた議決権行使書は郵便局から順番に送られるが、株主総会の繁忙期に限り、本来の配達日よりも1日早く受け取れるよう「先付け処理」を行っており、これにより本来、行使期限の翌日届く書類が期限内に届くことになっていた

・ところが、本来の配達日である交付証の日付が期限の翌日であった場合には集計の対象外としていた

 

(影響)

議決権行使書の一部が無効となった

・すなわち株主総会の不公正な運営は株式会社制度の根幹を揺るがすものである

・手続きの不備があった一部の企業に対して、株主が裁判所に総会決議の取り消しを訴える可能性もある

 

(問題対応策)

・株主総会の開催会社は第三者委員会を立ち上げて集計の誤りを含めて全てを調べ直し、必要に応じて再集計し、その結果を公開する

・万一、再集計の結果が株主総会の議決に影響が出た場合、速やかに株主総会の議決結果を訂正し、公開する

 

(再発防止策)

・株主総会を開催した企業はガバナンスの観点から株主総会に係る全てのプロセスを見直し、デジタル技術を最大限に生かしたプロセスに変更する

・株主が対応し易い議決権行使書入力プロセスをオンライン上で構築し、より多くの株主にオンライン入力での議決権行使の協力を求める

 

こうしてまとめてみましたが、今回ご紹介した問題は、日本の一般企業のデジタル化への取り組みへの消極さが露呈したことを物語っております。

恐らく、欧米の企業であればこうした問題を長年放置することはなく、とっくにデジタル化により解決していたと思われます。

 

さて、ガバナンスの不十分な議決権行使書プロセスは今回の誤集計が発覚するまで続いてきたので過去の株主総会まで遡っての調査が必要です。

同時に、これから国を挙げてのデジタル化の推進、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みに当たっては、単に仕組みをデジタル化するだけでなく、その仕組みを利用する立場の人たちへの啓もう活動、あるいは分かり易いガイドやサポート体制がとても重要であることを忘れてはならないのです。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています