2020年11月13日
アイデアよもやま話 No.4799 人類と病原菌との永遠の闘い その3 全ての抗生物質を失ったら、世界中の医療体制は吹き飛んでしまう!

9月15日(火)放送(再放送)の「BS世界のドキュメンタリー選」(NHKBS1)で「不死身のスーパー耐性菌抗生物質が効かない未来」をテーマに取り上げていました。

そこで3回にわたってご紹介します。

3回目は全ての抗生物質を失ったら、世界中の医療体制は吹き飛んでしまうという状況についてです。

 

イギリス・カーディフ大学の微生物学者、ティモシー・ウォルシュさんは次のようにおっしゃっています。

「薬剤耐性に拍車をかける要因は沢山あります。」

「特に家畜の成長促進のため抗生物質を与えていることは確実に原因の1つです。」

「率直に言って、今までの監視体制は根本から間違っていました。」

「病院を調べる人、動物と虫を調べる人、あるいは人間の腸内細菌を調べる人はいても、それらを総合的に見る人がいませんでした。」

 

以下はティモシーさんとベトナム・ハノイの養鶏場の管理者(?)とのやり取りです。

(管理者)

「これは3〜4時間でハエが20匹、自由に飛び回るハエは耐性菌の密かな運び屋です。」

「特に犬や鶏のフンにたかります。」

 

(ティモシーさん)

「言うなればハエは細菌を運搬する連結器です。」

「菌が繁殖する養鶏場や川と人間のコミュニティをつなぎ、食品を売る市場を汚染し、家に入り込みます。」

「感染経路はいくらでも考えられます。」

「薬剤耐性を持つ細菌は養鶏場から市街地に広がるのです。」

 

(管理者)

「法律で禁じられているので、市販の飼料に抗生物質は入っていませんが、これ(コリスチン)を勧められました。」

 

(ティモシーさん)

「(コリスチンは地元の商店で買えることについて、)「コリスチンは貴重な抗生物質です。」

「グラム陰性かん菌による感染症の切り札となっています。」

「コリスチンに強い耐性を持つ菌がまん延したら打つ手がありません。」

 

なお、ティモシーさんは次のようにおっしゃっています。

「私は薬剤耐性を研究して25年になります。」

「耐性がゆっくり広がるのを見てきました。」

「事態が急変したのは2015年です。」

「中国に滞在していた時、中国人の研究者から深刻な話を聞きました。」

「「話しておきたいことがある、コリスチンに耐性となる遺伝子が出現してしまった」と。」

「世界の終わりだと思いました。」

「抗生物質の時代の終わりです。」

 

抗生物質コリスチンの耐性を持つ遺伝子、MCR−1は2015年に特定されました。

そして1年で5大陸30ヵ国に広がりました。

 

ティモシーさんは続けて次のようにおっしゃっています。

「コリスチン耐性のMCRが存在するなんて思いもしませんでした。」

「しかし、証拠とデータから存在は明らかで、まん延率の異様な高さに驚きました。」

「中国だけの問題ではなく、世界に拡散すると思いました。」

「これは多剤耐性菌(3種類以上の抗生物質クラスに対する耐性を持つ菌)のレベルではなく、“スーパー耐性菌”の話です。」

「抗生物質が全く効かないのです。」

 

「国際社会は決断しなくてはなりません。」

「人間に使う抗生物質は動物には使わないと決めるのです。」

「明確な区分を設け、順守しなければなりません。」

「コリスチンは感染症対策の“最後の守り”となる貴重な薬です。」

「“悪夢の細菌”を破壊出来るので、人間用にとっておくべきなのです。」

 

ウォルシュさんの研究チームはコリスチン耐性MCR−1の拡散防止策を中国政府に要請しました。

そして2017年、飼料への使用が2017年に中国で禁止されました。

 

科学ジャーナリストのマリン・マッケナさんは次のようにおっしゃっています。

「2008年、NDM耐性メカニズムが、そして2015年にはMCR−1が発見されました。」

「頼みの綱が失われ、世界はようやく耐性菌の脅威に気付きました。」

「各国の医師や研究者たちは張り詰めた思いで待ち構えています。」

「ほとんどの薬が効かない“スーパー耐性菌”が迫っているのです。」

 

アメリカ・ネバダ州の主任疫学者、ランドール・トッドさんは次のようにおっしゃっています。

「70代の女性患者でした。」

「彼女はインドで脚の付け根を骨折し、現地で入院治療を受けていました。」

「帰国後、何らかの症状が出て入院、検査の結果、グラム陰性かん菌の一種、“肺炎かん菌”と診断されました。」

 

疫学者のレオ・チェンさんは次のようにおっしゃっています。

「2016年8月25日、あの日は木曜日でした。」

「感染対策担当の看護師から電話があり、「試した薬剤全てに耐性を示す症例が出た」と報告を受けました。」

「14種類試して効かないなんてそうそうありません。」

「私も初めてでした。」

「本当にショックでした。」

「14種類の薬に何の反応もないのですから。」

 

「あれは金曜日と土曜日でした。」

「週末でしたが、この細菌の正体を突き止めようと皆、懸命に働きました。」

 

「結果が出たのは9月1日でした。」

「アメリカで入手出来る抗生物質は26種類あるのですが、1つも効かないと言われました。」

 

CDC 疾病対策センター(アメリカ・ジョージア州アトランタ)のCDC感染症対策コーディネーター、アレクサンダー・カレンさんは次のようにおっしゃっています。

「CDCは州や地方の臨床検査室に耐性菌の検査を指導していますが、薬が見つからないなんて極めてまれです。」

「普通100件のうち99件は有効な抗生物質が見つかるのです。」

 

「使える薬はきっとあると信じていたのに残念な結果になりました。」

 

アメリカ・ネバダ州の主任疫学者、ランドール・トッドさんは次のようにおっしゃっています。

「悪夢とは恐ろしい夢のことですが、実際に“悪夢の細菌”と呼ばれる耐性菌があります。」

「悪夢は今や現実となっているのです。」

 

イギリス 主席医務官のサリー・デイヴィスさんは次のようにおっしゃっています。

「薬剤耐性菌が大流行したら、社会が関心を持つようになるでしょう。」

「でも、その時を待つ暇はありません。」

「我々は手持ちのカードを使いきってしまったのです。」

 

ガーディフ大学の微生物学者、ティモシー・ウォルシュさんは次のようにおっしゃっています。

「この闘いに勝つ見込みは高くありません。」

「それでも船上から逃げ出さないことが大切です。」

「闘いを続け、災難を遅らせるように全力を尽くすのです。」

 

科学ジャーナリストのマリン・マッケナさんは次のようにおっしゃっています。

「全ての抗生物質を失ったら、世界中の医療体制が吹き飛んでしまいます。」

「私たちは今、導火線に火を着けたところです。」

「爆発までどれだけもつか誰も知りません。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきましたが、以下にその要点をまとめてみました。

 

・抗生物質コリスチンの耐性を持つ遺伝子、MCR−1は2015年に特定され、1年で5大陸30ヵ国に広がった

・MCRは多剤耐性菌のレベルではなく“スーパー耐性菌”で抗生物質が全く効かない

・コリスチンは感染症対策の“最後の守り”となる貴重な薬なので人間用のみの利用に限定すべきである

・全ての抗生物質を失ったら、世界中の医療体制は吹き飛んでしまう

 

前回はカルバペネム系抗生物質を無効にする薬剤耐性菌と人類の闘いについてご紹介しましたが、今回ご紹介した抗生物質コリスチンの耐性を持つ“スーパー耐性菌”との闘いも厳しい状況のようです。

今のところ、コリスチンが感染症対策の“最後の守り”となる貴重な薬ということで人間用のみの利用に限定するというような泥臭い対応策が検討されていますが、こうした対応策では限界があります。

 

MCRは“スーパー耐性菌”で抗生物質が全く効かないということですが、医療研究機関には既存の医療技術、および最先端のAIを駆使して何とか早期に“スーパー耐性菌”を凌駕するような抗生物質を開発していただきたいと思います。

これまで繰り返しお伝えしてきたように、“アイデアは存在し、発見するものである”のですから、必ず開発出来るのです。


 
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