9月15日(火)放送(再放送)の「BS世界のドキュメンタリー選」(NHKBS1)で「不死身のスーパー耐性菌抗生物質が効かない未来」をテーマに取り上げていました。
そこで3回にわたってご紹介します。
1回目は耐性菌抗生物質が効かなくなる未来についてです。
2016年9月、国連 耐性菌に関する特別会合で以下の意見が出されました。
「薬剤耐性菌の脅威は危機的な状況です。」
「薬剤耐性に対応出来なければ、人類に未来はありません。」
また、イギリス政府 耐性菌問題の特別報告官、ジム・オニールさんは次のようにおっしゃっています。
「“薬剤耐性”は科学的な側面と社会活動の両面からハイレベルで協議すべき問題です。」
「耐性菌の問題を単なる保健衛生の分野でなく世界経済の課題として各国で取り組むべきだと提起するのが私の役割でした。」
「薬剤耐性菌を放置すれば、恐怖のシナリオとなります。」
「2050年に世界で年間1000万人が死亡、主要国も途上国も関係ありません。」
「ガンによる死亡者数を上回るでしょう。」
「今後30年余りに予想される経済的損失の累計は100兆ドルに達します。」
「薬剤耐性菌はエボラなどの感染症と違い、唐突には発生しません。」
「ニュースで突然発生を知り、「世界の終わりだ」と騒ぐ病気ではないのです。」
「ひっそり進行し、徐々に危険度を増していきます。」
「ヨーロッパの国がこの問題に取り組んだとしても地球の裏側の国が対処しなければ結局被害を受けます。」
「テロや気候変動と同じように薬剤耐性菌は国際問題です。」
「世界全体、80億人の問題なのです。」
「皆の協力が必要です。」
イギリス政府が委託した「オニール・レポート」(2016年)は薬剤耐性(AMR)の深刻化と抗生物質が効かない将来を警告しました。
メキシコ国連大使、ファン・ホセ・ゴメス・カマチョさんはこのレポートについて次のようにおっしゃっています。
「ジム・オニールの報告は衝撃的でした。」
「薬剤耐性の恐るべき性質を明瞭にまとめたのです。」
「2050年までに薬剤耐性は世界最多の死因になるでしょう。」
「何より世界経済への損失が甚大です。」
「GDPの3.5%にもなる額で、世界に危機感が広まりました。」
さて、デビッド・リッチさんがインドのスラム街の孤児院で働いていた2011年、コルカタの線路を歩いていて列車に衣服の袖がからまり、車両にひかれてしまいました。
列車の下から救出されて小さな診療所に運ばれ、そのまま片足を切断されました。
そして、デビッドさんはアメリカ・シアトルに戻って入院し、血液検査を受けました。
翌日には検査結果が出ました。
この時の状況について、感染症学者のジョン・リンチさんは次のようにおっしゃっています。
「損傷部から無数の細菌が検出されたうえ、試した薬剤全てに細菌は強い耐性を示しました。」
「私は直ちに手を止め、デビッドの隔離を指示しました。」
「細菌の動きがとにかく心配でした。」
「診察を続けながらもどうすればいいか全く分からない。」
「ラボから届いた検査結果によると、彼の病原菌には普通の薬剤は効かないのです。」
「抗生物質と手術で一度は完治しても数週間後に傷口が開き、再び感染症が起こりました。」
「多くの薬に対してR(耐性)が見つかりました。」
「複数の薬を組み合わせ、長期戦に託しました。」
またデビッドさんは次のようにおっしゃっています。
「「未知の感染症で治療法が不明」と言われました。」
「「いくつか試してはみるが、効くとは限らない」と。」
「細菌はとても小さいのでどこが感染しているか肉眼では特定出来ません。」
「傷口を見ても見えないのです。」
「薬剤耐性菌はたんぱく質の膜に覆われています。」
「ボールのような外膜に包まれ、耐性菌は冬眠状態で隠れています。」
「冬眠から覚めると感染症から再発するわけです。」
「「30%〜40%の確率で再発する」と毎回言われました。」
「最後の治療の時も。」
「生命は常に生き延びようとします。」
「道端の雑草さえわずかな土で芽吹き、繁殖していくのです。」
「人間も同じです。」
「自分自身を受け入れ、生物学的に本質を理解すると、生き残るために闘うのが好きになります。」
「それこそが人生の意味です。」
「私は生きているだけで幸せです。」
「死に直面したからこそ全てをありがたく思う。」
「息をすることや雨のしずく、匂いにも感謝しています。」
感染症学者のジョンさんは次のようにおっしゃっています。
「近代的な医療行為が出来るのは抗生物質のお蔭です。」
「抗生物質なしには出来ないことを挙げてみましょう。」
「全ての手術、例えば関節を手術した人は手術部位の感染症を防ぐため、抗生物質を注射されます。」
「帝王切開や奥歯の抜歯、骨髄移植や臓器移植、抗生物質がないとどれも出来ません。」
さて、医学史研究家のケビン・ブラウンさんは次のようにおっしゃっています。
「1875年に世界で初めて特定の細菌が特定の感染症を引き起こすと実証されました。」
「1928年、この実験室(イギリス・ロンドン市内)でアレクサンダー・フレミングが世界を変える偶然の発見をしました。」
「彼は細菌の培養皿にカビの混入を発見したのですが、カビの周りだけ細菌がいませんでした。」
「カビが細菌の発育を妨げる物質を分泌していたのです。」
「フレミングはそれをペニシリンと名付けました。」
「ペニシリンは何にでも効く奇跡の特効薬と見なされました。」
「人類は傲慢にも「感染症は過去の話だ」と言いました。」
「しかし、人類と病原菌との闘いはその後も続いてきました。」
「細菌が反撃を始め、“薬剤耐性”の仕組みを発達させました。」
「フレミングは1943年には耐性菌の危険性を警告していました。」
「適度の使用や誤用の影響を明確に述べていました。」
フレミングは生前次のようにおっしゃっています。
「ペニシリンが市販されるようになると、自己流の治療で十分な量を服用しない患者が出るでしょう。」
「薬が少ないと病原菌が死滅せず、ペニシリンへの耐性を学習する逆の危険性があります。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきましたが、以下にその要点をまとめてみました。
・人類と病原菌との闘いは永遠に続く
・薬剤耐性菌の脅威は危機的な状況で、薬剤耐性に対応出来なければ、人類に未来はない
・薬剤耐性菌の問題は単なる保健衛生の分野でなく世界経済の課題として各国で取り組むべきである
・薬剤耐性菌を放置すれば、2050年に世界で年間1000万人が死亡、今後30年余りに予想される経済的損失の累計は100兆ドルに達するというシナリオがある
・手術や臓器移植など近代的な医療行為が出来るのは抗生物質のお蔭である
そもそも1928年にアレクサンダー・フレミングが偶然カビが細菌の発育を妨げる物質、すなわちペニシリンを発見しましたが、そこから人類と病原菌との永遠の闘いが始まったのです。
しかしその後、細菌が反撃を始め、“薬剤耐性”の仕組みを発達させ、将来的には薬剤耐性菌抗生物質が効かなくなるリスクがあるというのです。
しかも、そうした状況に陥った場合に人類共通の問題として、保健衛生面への影響、および経済的な損失が膨大になるとの予測もあるのです。
こうしたことから、世界各国は新型コロナウイルスの治療薬、およびウイルスの開発と並行して薬剤耐性菌対策、すなわち薬剤耐性菌を凌駕する抗生物質の開発に取り組むことが必須なのです。