2020年09月12日
プロジェクト管理と日常生活 No.658 『10万円給付のウェブ申請システム開発における信じられない実情!』

8月21日(金)付けネットニュース(こちらを参照)で10万円給付のウェブ申請システムの不備について取り上げていたので以下にその要旨をご紹介します。

 

・国民に一律10万円を配る特別定額給付金事業で、オンライン申請のためのシステムを準備する時間が足りず、十分なテストが出来ないまま受け付けを始めていたことが政府関係者の話でわかった

・オンライン申請は開始直後から世帯情報などの入力誤りや重複申請が多発し、給付を担当する市区町村が確認や補正作業に追われるなどして混乱し、都市部を中心に給付が大幅に遅れる原因になった

・担当した官僚の一人は「給付方針が定まらなかったことで、約1カ月あったはずのシステムの開発期間が10日間になった。本番稼働の予行演習をする時間がなく、システムトラブルにつながる最低限の欠陥の確認をしただけで、あとは実際に動かしながら不具合を修正していくしかなかった」と話す

・入力の誤りや漏れ、重複申請などの不備は、自治体が住民基本台帳と照合して初めてわかる状態で、内閣府は自治体などの指摘を受けて、6月15日までに51カ所を改修した

・オンライン申請は、全国の市区町村の98%に当たる約1700の自治体で実施したが、こうした確認作業の業務負担や郵送申請との二重払いの可能性を理由に、7月30日までに111自治体が中止・停止した

 

以上、要旨をご紹介しましたが、6月5日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でもこのウェブ申請システムはオンラインとは名ばかりの人海戦術で逆に大きな負担となっていると報じていました。
なお、2015年に約3000億円かけて導入されたマイナンバー制度で発行されたマイナンバーカードがウェブ申請システムには必要ですが、カードの普及率は16.7%といいます。(5月末時点)


こうしたシステム開発における標準的な進め方に照らすと極めて初歩的な知識が生かされていないことが分かります。

それは、オンラインでのデータ入力から始まって目的とする処理が完了するまでオンライン上でのデータ処理だけで済ませるという考え方が生かされていないことです。

このシステムでは入力の誤りや漏れ、重複申請などの不備は、自治体が住民基本台帳と照合して初めてわかるというのですから、これではかえって申請処理が手間取ってしまうことになってしまいます。

ですから、111の自治体が途中で中止・停止したというのは当然の結果を言えます。

 

また、約1カ月あったはずのシステムの開発期間が10日間になったことに対するシステム開発側の対応のまずさです。

通常、システム開発中の開発期間の短縮というような重大な変更の際には、稼働時期の延長、あるいは開発規模の縮小などの対応策を検討し、それに対してシステムオーナー側と討議して対応策を決定します。

ところが、そうした討議が不十分だったのか、あるいはしなかったのか分かりませんが、本番稼働の予行演習をせず、システムトラブルにつながる最低限の欠陥の確認をしただけで、あとは実際に動かしながら不具合を修正していく方法を選択したというのです。

こうしたことが事実であれば、ユーザーである国民や地方自治体に与えるディメリットを無視した、まず当初の計画通り稼働させるという、本末転倒な最悪のシステム開発と言えます。

もし今回ご紹介した内容が事実だとすれば、そもそもこのシステム開発はやらない方が良かったし、税金の壮大な無駄遣いといえます。

 

さて、こうしたシステム開発における知識のレベルが官庁内において一般的だとすれば、これまでもどれだけの税金の無駄遣いがなされてきたのか、恐ろしくなります。

考えてみれば、マイナンバーカード制度を立ち上げた際に、様々な利便性を想定して国民にメリットをきちんと説明したうえで速やかにオンライン化を進めていれば、今回の新型コロナウイルス対策として、給付金やアベノマスクの配布もとてもスムーズに進んだと思われます。

 

このような状況で国がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めてもまた税金の無駄遣いになってしまうのではないかと危惧されます。

以前、台湾における新型コロナウイルス対策を成功事例としてご紹介しましたが(添付参照)、これから日本が本格的にDXに取り組んでいくに際し、DXの本質を理解している国会議員、あるいは民間人を担当大臣に据え、民間からDX、あるいはIT関連の知識に詳しく、大型プロジェクト開発のマネジメントの経験もある専門家をプロジェクトマネージャーとして招き入れることが成功要因だと思います。

 

最近、DXに向けた中国の活発な動きにおける報道記事を見ていると、どんどん中国の動きから引き離されていくのではないかととても心配になってきます。

これからの経済を中心とした社会のあり方を考えると、“DXを制する国こそ世界を制する“という想いが強くなってきます。

 

ということで、是非、政府やより多くの企業には米中に負けないくらいの意気込みでDXに取り組んでいただきたいと思います。

 

添付:台湾の成功事例

プロジェクト管理と日常生活 No.633 『参考にすべき台湾の新型コロナウイルス対策』

No.4626 ちょっと一休み その718 『新型コロナウイルス対策におけるビッグデータの活用で民主主義が問われている!?』

アイデアよもやま話 No.4627 新型コロナウイルスとの闘い その6 社会への影響と対策 ― 台湾の事例!


 
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