2020年07月29日
アイデアよもやま話 No.4707 ロケットの洋上打ち上げで宇宙ビジネス拡大へ!

4月3日(金)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)でロケットの洋上打ち上げ について取り上げていたのでご紹介します。 

 

昨年5月、ベンチャー企業、インターステラテクノロジズ株式会社(北海道広尾郡)により北海道でロケットが打ち上げられました。

従来こうしたロケットの開発や打ち上げは国などが行ってきましたが、近年民間によるロケットの打ち上げビジネスが拡大してきています。

というのも、インターネットの通信や気象の観測などに使われる小型の人工衛星を比較的小さなロケットで打ち上げられる需要が急速に高まっているからなのです。

しかし、ロケットが打ち上げられる発射場は限られています。

国内で宇宙空間に打ち上げ実績のあるのは3ヵ所しかないのです。

宇宙にロケットを飛ばしたいと考える企業のニーズに対し、施設の不足が懸念されるようになっています。

 

そうした中、注目されているのが広大な海です。

洋上でのロケット打ち上げに乗り出すベンチャー企業、ASTROCEAN株式会社(アストロオーシャン 東京都中央区)が現れました。

茨城県沖、80kmの海上で2月に船上に設けた発射台からロケットを打ち上げる実験が行われました。

ロケットは目標の高さ4kmに無事到達、貴重なデータを取ることが出来ました。

この実験を主導したASTROCEANの森 琢磨社長は、元々石油などを掘削する会社に勤めていましたが、海底の掘削に使うリグと呼ばれる設備が石油価格の低迷で余っているのを目の当たりにし、何かに転用出来ないか、思いついた用途がロケットの発射場でした。

森さんはこのアイデアの事業化に向けて2018年に起業、今は比較的小さなロケットを船の上から打ち上げ、技術の蓄積を進めています。

森さんは次のようにおっしゃっています。

「打ち上げられる場所と回数を増やしたいと。」

「宇宙業界全体でもっといろんなチャレンジが出来る環境をつくりたいと思っています。」

 

海の上での打ち上げには、陸に比べて大きなメリットがあるといいます。

小型ロケットを研究する千葉工業大学の和田 豊准教授はこれまで陸上の発射施設でロケットを打ち上げてきましたが、様々な課題を感じていました。

ロケットの打ち上げ前には多くの関係者との調整が必要です。

現地の自治体や上空を行き来する飛行機の運航に係わる航空管制センター、更に沿岸の漁業者など調整には1年かかることもあるといいます。

それが洋上からの打ち上げになると、調整の相手や時間が大幅に減らせるのです。

千葉准教授は次のようにおっしゃっています。

「格段に調整する方々とのやり取りが少なくなります。」

「飛躍的にロケットの打ち上げ機会は増えていくんじゃないかと思っています。」

 

広大な海を発射場へと変える森さんの構想、実用化に向けて課題となっているのが水深の深い海域で船を安定させることです。

森さんは今、ゼネコン大手の大林組と船を係留するための新たな錨を開発しています。

一般的な錨では水深が深くなるほど船が波や風の影響を受け易くなるからです。

開発しているのはサクションアンカー(吸引式錨)と呼ばれる特殊な錨です。

錨の中は空洞になっていて、その空洞から水を吸い上げることによって錨を海底により強く食い込ませることが出来ます。

この錨を使うことで、深い海でも船をより安定させることが出来るといいます。

事業化に向けて企業との商談も始まりました。

森さんが訪ねたのは国内で初めて民間単独で始めたロケットを宇宙空間に到達させたベンチャー企業、インターステラテクノロジーズです。

この会社ではロケットを発射する施設を北海道に所有していますが、今後打ち上げの頻度を高めるため他にも打ち上げ場を確保したいと考えてます。

そこで目を付けたのが海での打ち上げです。

インターステラテクノロジズの稲川 貴大社長は次のようにおっしゃっています。

「洋上打ち上げで船で出て行って打ち上げることが出来れば、時期に係わらず打ち上げが出来る、いろんな条件を避けることが出来るという、ロケットを打ち上げるタイミングの可能性をすごく広げるんですよね。」

 

森さんは今年度中に洋上での打ち上げでロケットを宇宙空間まで到達させ、事業化への足掛かりにしたいと考えています。

森さんは次のようにおっしゃっています。

「ロケットの打ち上げ数を世界で日本が一番になるようにしたい。」

「世界から日本で人工衛星を打ち上げたい企業がいっぱい日本に集まればいいなと思っています。」

 

ロケットの打ち上げ需要が高まる中、各国が今この洋上打ち上げに注目しています。

中国では日本に先駆けて昨年6月に洋上からの打ち上げに成功しています。

一方、アメリカでは上空を飛ぶ飛行機からロケットを打ち上げる技術の開発が進むなど、世界各地で新たな発射方法の開発が進んでいます。

宇宙ビジネスも大競争時代に入りつつあるようですが、その中で日本は勝ち残っていけるのかというところで、宇宙産業が日本でも発展していくか、今が正念場です。

日本は高性能な衛星やロケットを製造する技術はありますが、産業としての規模はアメリカなどに後れを取っています。

今後、ロケットを打ち上げる回数が増えれば、それだけビジネス拡大への可能性が高まります。

洋上打ち上げが定着するかどうか、今後も注目したいと思います。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

以前にもお伝えしたように、資本主義社会においては絶えず企業家は事業の拡大を目指し、そして投資機関は新たな投資先を探し求めています。

そして、今や地球上ではグローバル化が進み、経済のニューフロンティアとして宇宙にも関心が向けられつつあります。

ですから、官民を問わず、ロケット打ち上げという新たな需要を満たすために、ロケット打ち上げビジネスは今後飛躍的に伸びていくと見込まれます。

 

ところが、現状では、いろいろな制約からこれまでのような陸上での打ち上げを大幅に増やしていくことは困難な状況にあります。

そうした中、今回ご紹介した洋上のロケット打ち上げは陸上に比べて大きなメリットがあるというのです。

一方、アメリカでは上空を飛ぶ飛行機からロケットを打ち上げる技術の開発が進んでいるといいます。

このように世界的に新たな発射方法の開発が進んでいますので、ロケット打ち上げビジネスは戦国時代を迎えつつあると言えます。

いずれ、最も安全、かつ低コストのロケット打ち上げビジネスに収束していくと思いますが、是非ASTROCEANにはその先駆者としてこの戦国時代を勝ち抜いていただきたいと思います。

また、ロケット本体のビジネスについても同様のことが言えます。

ですから、インターステラテクノロジーズにもこのニューフロンティアでの闘いを勝ち残っていただきたいと思います。

 

ちなみに、森さん(当時、石油会社勤務)は政府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S−Booster2018」で最優秀賞を受賞しています。(詳細はこちらを参照)


 
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