2020年07月24日
アイデアよもやま話 No.4703 誇るべきスパコン世界一の「富岳」!

6月23日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でスパコン世界一の「富岳」について取り上げていたのでご紹介します。 

 

番組で、咳をした際の飛沫の動きをコンピューターで再現した映像が紹介されました。

新型コロナウイルスなどの対策で使われています。

このシミュレーションを可能にしたのが日本のスーパーコンピューター(スパコン)「富岳」です。

この「富岳」、1秒当たりの計算速度などが世界一となりました。

 

6月23日に開かれた会見で、理化学研究所の松本 紘理事長は次のようにおっしゃっています。

「世界のトップに立ったからといって慢心することなく、今後も更に「富岳」の力を引き出せるような努力をして参る所存でございます。」

 

神戸市にある理化学研究所 計算科学研究センター内の真っ白で無機質な部屋に整然と並べられているのが「富岳」です。

理化学研究所と富士通が開発しました。

性能を競う世界ランキングで1位になりました。

1秒間の計算回数は41.5京回と、前回1位だったアメリカのスパコンの約3倍です。

「富岳」は高さ2mのラックと呼ばれる装置、432個が接続され、コンピューターの頭脳に当たるCPU(中央演算処理装置)が搭載されています。

通常のパソコンに搭載されるCPUは1つですが、「富岳」には約16万個搭載されています。

このCPUは富士通が独自で設計・開発しました。

スパコン開発に詳しい、日本経済新聞のAI量子エディター、生川 暁さんは「富岳」の性能について次のようにおっしゃっています。

「勿論、数は重要だと思うんですが、やっぱりそれをうまくネットワークで結んで制御するところにはものすごく高度な技術が使われていると。」

 

「富岳」は、国費1100億円が投入された国家プロジェクトです。

菅官房長官は、6月23日に開かれた会見の場で次のようにおっしゃっています。

「大変喜ばしいことであり、わが国が直面する様々な課題の解決に資する成果が生み出されることを大いに期待をしたい。」

 

この「富岳」で実際に何が出来るようになるのでしょうか。

実は、新型コロナウイルスへの対策で既に活用されています。

オフィスや病院などで咳をした時に飛沫がどれほど飛ぶかを「富岳」で計算し、シミュレーションしたCG映像を番組で取り上げていました。

元々、「富岳」は来年に運用を開始する計画でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、前倒しで4月から使用を開始しました。

日本のスパコンと言えば、2011年に同じく世界一の性能となった「京」が知られています。

しかし、その後の開発競争ではアメリカや中国の企業が相次いで世界一の記録を塗り替える米中、2強体制になりました。

今回、「富岳」で日本がトップに返り咲くのは9年ぶりのことです。

そして、「富岳」最大の特徴について、理研計算科学研究センターの松岡 聡センター長は次のようにおっしゃっています。

「アプリケーションで最高の性能を出すことを目標として、その結果として今回世界一の四冠が達成出来たと。」

 

今回、単純な計算速度の他に、AIの学習性能やビッグデータの処理性能を示す部門など4つの部門で1位を獲得、また消費電力も少なく、実用性の高さが特徴です。

今後、「富岳」をいかにビジネスや研究の場で活用するかが重要です。

最も期待される分野の一つが薬の開発です。

生川さんは次のようにおっしゃっています。

「例えば、薬の候補となる物質を試すようなシミュレーションや実験をする時に、「京」だったら1年くらいかかる計算を「富岳」では場合によっては数日で出来てしまう。」

 

「富岳」を支える半導体技術、かつては日本の電機メーカーの独壇場でしたが、その後国際競争に敗れ、今はその陰もありません。

半導体は自動運転技術の開発や災害や温暖化などの予想、そして軍事技術の開発などでも欠かせない技術です。

今回、富士通が高性能な半導体の開発に成功したことには大きな意味があるといいます。

生川さんは次のようにおっしゃっています。

「やっぱり半導体のような重要な技術を台湾、韓国とか、アメリカやヨーロッパも含めて海外にばかりに頼っていていいのかっていう議論はある。」

「日本の半導体の復権につなげられるかとか、そういうことを期待する声も勿論あると。」

 

会見に出席した富士通の時田 隆仁社長は次のようにおっしゃっています。

「今回の開発を通じて、あらためて日本の技術力の強さ、そしてものづくりの強さを世界に示すことが出来たのではないかと考えております。」

 

来年にはアメリカが「富岳」の性能を超えるスパコンを投入する見通しです。

また量子コンピューターといった新しい仕組みを使った開発も進んでいて、競争が一層激しくなりそうです。

 

なお、「スパコン」世界ランキングは以下の通りです。

            (1秒間の計算速度)

1 富岳(日本)     41京5530兆回

2 サミット(アメリカ) 14京8600兆回

3 シエラ(アメリカ)   9京4640兆回

4 神威太湖之光(中国)  9京3014兆回

5 天河2号(中国)    6京1444兆回

 

解説キャスターで日経ビジネスの編集委員、山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。

「何といっても、実用性、使い勝手を重視している、それを重視しながらスペックでもトップに立ったというのは凄いと思います。」

「今やっているのは、既存の薬の中からどれがコロナに効くのかとかというスクリーニングをやって、ここでも何か発見出来たら凄いことだし、自然災害が日本でしょっちゅう起きているので、こういうとこでもいろんな貢献をしてもらいたいと思いますけど。」

「やっぱりスパコンというのは使われてなんぼの世界ですから、今度は使われ方でナンバーワンを目指してもらいたいですね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

次に、6月29日(月)放送の「時論公論」(NHK総合テレビ)でもスパコン「富岳」について取り上げていたのでご紹介します。

なお、今回のスピーカーは科学担当の解説委員、水野 倫之さんです。

 

高性能の「富岳」が実現した背景には先代の「京」の反省がありました。

「京」は当時の民主党政権の事業仕分けで「2位じゃ駄目なんでしょうか」と追及されて、事業凍結の可能性もありました。

その後、世界一の計算速度を目指すあまり、使い勝手の悪いスパコンとなり、利用が広がらなかったのです。

具体的には、CPUの開発で日本独自の使用にこだわって作り込んだため、使えるアプリが限られ、ガラパゴス化してしまいました。

「京」はその後、世界一こそ獲得しましたが、特に企業の利用は100社あまりに止まってしまいました。

そこで「富岳」は「京」を教訓に、使い勝手の良さが当初から開発目標となりました。

「富岳」という名前も富士山のようにすそ野が広い、つまり利用が広がるようにとの願いが込められています。

それを実現するために、CPUについては、日本独自ではなく、世界でも広く使われているイギリスの方式を取り入れました。

こうすることで、パソコンで使うパワーポイントさえも「富岳」で動かせるということで、アプリの開発も進むと見られています。

こうした使い勝手の良さに加えて、日本が得意な超微細な加工技術を駆使し、配線の間隔がわずか10億の7mという高密度の回路を持つCPUが完成して、速さも実現し、今回4冠が達成されたというわけです。

 

では世界一の性能で何が可能になるのか、それをイメージするためにまずは先代「京」の成果を見ます。

東日本大震災では周期が長い地震動で超高層ビルが大きく揺れましたが、今後予想される南海トラフ地震ではどうなるのか、「京」のシミュレーションの結果、高さ60mの最上階の揺れ幅は最大6mに達することが分かり、その後の防災対策に生かされています。

また医療分野では、CT(コンピュータ断層撮影法)のデータをもとに患者の心臓を17万以上の要素に分解して正確に再現することに成功、心臓の病気でどんな手術方法を選択すればその後の病状が良くなるのか、事前にシミュレーション出来るようになり、実際に臨床で生かされています。

更にモノづくりの分野では、従来のスパコンで描き出したクルマの空力特性のシミュレーションで滑らかに見える空気の流れも「京」では空気を20億の要素に分けて計算することで、実際には細かく波打っていることが分かります。

この結果をもとに、メーカーは車体のデザインを変えて燃費を改善することが可能になりました。

 

「富岳」も同じように地震、津波などの防災や医療、それに産業利用に加え、宇宙の進化の解明など、基礎的な研究にも利用していくことが決まっていますが、計算速度は「京」の40倍あります。

「京」で1年かかっていたシミュレーションが「富岳」だと数日で可能で、しかもより詳細に出来るようになるわけで、来年度からの本格運用に向けて大きな期待が寄せられているわけです。

 

では、この世界一の性能を最大限に生かしていくためには何が求められるのか、様々ありますが、まずは「京」では広がらなかった民間利用の拡大に力を入れること、そして緊急を要するような、国民的な課題解決に向けて素早く研究テーマを選定し、利用出来る体制をあらかじめつくっておくこと、この2点が重要になると思います。

「富岳」の利用は大学や研究機関が多くなると見られますが、文部科学省は当面は全体の利用額の15%程度を民間に振り向ける考えを示しています。

しかし、利用が広がらなかった「京」でも民間利用は最大14%はあったわけです。

まずは、この民間枠の目標を最初からもっと高く掲げる必要があると思います。

そして「京」の成果を紹介するなどして、これまでスパコンを使う機会や技術がなかった企業に対して利用を積極的に呼びかけていくことが求められます。

また、緊急を要するテーマをいかに早く選定して「富岳」を利用し、研究成果を出していくかも課題になります。

その点、今回新型コロナウイルス対策で文部科学省と理研がまだ調整中だった「富岳」を4月から急きょ動かして研究を開始したのは妥当な判断です。

既に成果も得られ始めており、今後の運用の参考になると思います。

オフィスのシミュレーションで、マスクをせずに咳をすると、正面の人には飛沫がかかりますが、隣や斜め前の人にはあまり飛ばないという計算結果を数週間で分析し、発表することが出来ました。

更に2000以上ある他の病気の治療薬の中から新型コロナウイルスに効く可能性のある薬を見つけ出す研究についても間もなく成果を発表出来るということです。

ただ、こうした対応は異例で、今回「富岳」が調整中だったため利用枠を容易に確保出来たものです。

通常、研究テーマは原則、応募で、専門家でつくる委員会が審査して数ヵ月かけて選定されます。

利用枠は数ヵ月先までほぼ埋まっている状況です。

今後、今回のような緊急の課題が出て来た場合に同じような手続きをしていては間に合わないわけで、民間を含め、既に決まっている利用枠の一部を制限して速やかに利用することなどが想定されます。

ただ、利用を予定していた企業などには大きな影響が出てくるわけで、来年度からの本格運用を前にこうした緊急避難的な利用についてのルールづくりを急ぐ必要があると思います。

 

スパコンはアメリカと中国が激しい競争を繰り広げていまして、「富岳」の1位も数年以内には取って代わられるのは確実で、順位にこだわることはあまり意味がありません。

ただ、今回のような緊急課題でスピーディに様々な提案が出来ることが分かれば、巨額の国費をかけることについても国民の納得は得られると思います。

今回の1位をきっかけに、その性能を最大限活かしていけるような体制つくりを急いで欲しいと思います。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

今回、2つの番組を通してご紹介したスパコン「富岳」ですが、「京」の開発時の教訓を生かして開発を進めた結果、単純な計算速度、実際のアプリを入れた際のシミュレーションのし易さ、ビッグデータの処理性能、AIの学習性能の4つの部門で2位に圧倒的な差を付けて1位を獲得し、消費電力も少ないといいます。

ですから、実用性の観点で非常に優れているのです。

こうしたことから、「富岳」はまさに世界に誇れる技術力の成果と言えます。

 

今後、他の既存の技術との組み合わせにより、いろいろな分野の研究の場での活用が大いに期待出来ます。

とりあえず、今は新型コロナウイルスがパンデミック状態に陥っているので、ワクチンや治療薬の早期開発への活用で最大限に貢献していただきたいと思います。

 

なお、富士通は「富岳」の開発に際し、高性能な半導体の開発にも成功したといいますから、この成果は半導体技術における日本の復権でもあるわけです。

そして、半導体は自動運転技術など様々な開発に欠かせない技術です。

 

ということで、今後ともスパコンに限らず、量子コンピューター、AI、ロボット、IoT、半導体などの先端技術分野においては常に世界のトップを目指すべく、“日の丸企業”には活躍していただきたいと願います。

同時に、こうしたスパコン、あるいは量子コンピューターの利用を必要とする企業が大小を問わずタイムリーに利用出来るような環境を整備することも求められます。

なぜならば、こうした活用により企業の研究開発競争力を格段に高める可能性があるからです。


 
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