5月28日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で「”7割経済”に商機あり」をテーマに取り上げていました。
そこで2回にわたってご紹介します。
1回目は“従業員シェア”についてです。
新型コロナウイルスの感染で第2波への警戒が続いていますが、経済活動は少しずつ再開しています。
ただ様々な制約の中での経済活動となります。
消費や人出なども平時の7割程度に留まりそうだということで、こうした状況は“7割経済”とも言われています。
こうした中、企業はどう向き合おうとしているのでしょうか。
5月28日、夕方開かれた日産自動車の決算説明会で、内田 誠社長は「(中期経営計画で)世界の生産能力をこれまでの8割にあたる年間540万台体制にする」と明らかにしました。
同日、政府が発表した5月の月例経済報告でも、国内の景気は「急速な悪化が続いており、極めて厳しい状況にある」としています。
また、西村経済再生担当大臣は次のようにおっしゃっています。
「まさに過去に例を見ない厳しい状況が続いてきているんだろうと思います。」
「全体として我が国を取り巻く環境が非常に厳しい状況にあると。」
5月28日から首都圏でも専門店を含む全館で営業を再開したイオンモール幕張新都心(千葉・美浜市)では、オープンと同時に買い物に訪れる人の姿がありましたが、再開はしたものの様々な制約があります。
専門店街の営業時間を通常は午前10時から午後9時までのところ、午後7時までに短縮しました。
更に密室になるエレベーターでは、通常24人乗りですが、足元の床が区切られていて4人乗りになるようにしています。
フードコートでは、座席数を通常の半分に減らし、椅子は対面にならないようにL字型に配置しています。
イオンモール幕張新都心のゼネラルマネージャー、小林 純一さんは次のようにおっしゃっています。
「飽くまで感染防止対策を講じたうえでの“新しい生活様式”の防止対策に則った営業体制を恒常的に講じていくことがこれからは大事であろうというふうに思っています。」
制約がある中での経済再開は食卓にも影響を与えていました。
葉物野菜の代表格、キャベツです。
都内に展開しているスーパーチェーン、アキダイの秋葉 弘道社長は次のようにおっしゃっています。
「天候によりキャベツの価格は非常に左右されるというのはあるんですけども、今年は天候プラスコロナということもあって、私たちもあまりにも想像出来ないような価格帯になったりしましたね。」
「一番高かった時は、3月の中旬ぐらいですね。」
「都知事の方で週末の外出規制があって、仕入れ額で1個500円ぐらいまで上がったと。」
「(赤字での販売だが、)お店の価格でいうと350円、そこからある程度の高値が続いて、ここ最近では238円ぐらいになって、180円になったり、高値の中でちょっと乱高下している状態で・・・」
取材した5月28日のキャベツの値段は180円、昨年の2〜3倍の値段だといいます。
在宅勤務をする人や子どもの休校が増えて、家で食事をする機会が多くなったことも価格の急騰につながったといいますが、更なる問題も生じています。
群馬県の最も西側に位置する嬬恋村、国内屈指のキャベツの産地です。
キャベツ農家を訪ねると、価格が乱高下している理由が見えてきました。
松本農園の松本 裕也さんは次のようにおっしゃっています。
「(外国人技能)実習生が普段なら4月の頭(始め)に入って来る予定なんですけど、今年コロナの騒ぎで全く入って来ないという話になりまして、・・・」
「出荷量が多分すごい少ないと思うんですよ、全国的に見て。」
「で嬬恋のキャベツが出始めると、多分値段も落ち着いてくると思うんですけど。」
嬬恋村ではこの春受け入れ予定だった外国人技能実習生およそ320人のうち入国出来たのは100人ほど、深刻な労働力不足になっているといいます。
今、こうした人手不足が全国の農家に広がっていて、結果的にキャベツなどの価格を乱高下させる一因になっているようです。
そんなキャベツのピンチを救おうと、新たな試みが始まっていました。
5月から働き始めた望月 由香利さん(54歳)、村にあるリゾートホテルで働いていましたが、嬬恋村の観光施設も新型コロナウイルスの影響で観光客が激減、仕事がない状況が続いていたといいます。
そこで望月さんは地元農家の組合などが始めた“従業員シェア”に応募しました。
周辺のホテルや飲食店に勤める人に一時的に農家で働いてもらう仕組みです。
望月さんは次のようにおっしゃっています。
「毎日規則正しく(体を)動かしている方が、休業になったからって家に閉じこもっているよはいいですね。」
「この景色の中にいた方が。」
嬬恋村ではこの“従業員シェア”の仕組みで約50人が一時的に農家で働き始めていて、地域一丸で収穫の最盛期となる6月を迎えます。
観光業の回復が見通せない中で、この取り組みは農業と観光業の両方を救うと期待しています。
嬬恋キャベツ振興事業協同組合の橋詰 元良事務局長は次のようにおっしゃっています。
「今後、「農業」と「観光」の距離が少し近くなって、将来的に農業の嬬恋のいいかたちとして今後どんどん伸ばしていきたい。」
“従業員シェア”で縮んだ市場を乗り切ろうとする動きは別の業界でも見られます。
株式会社日の丸リムジン(東京・港区)には稼働していないタクシーがずらりと駐車しています。
富田 和宏社長は次のようにおっしゃっています。
「4月8日からクルマが動いていないという中で、ほこりが溜まってしまった状態になっております。」
日の丸リムジンは緊急事態宣言が出て以降、営業を休止、先週(放送時点)営業を再開しましたが、稼働率は1割以下で約190人いる従業員のほとんどが休業中です。
従業員には会社から休業手当が支払われますが、タクシードライバーの給与は走った距離に応じた歩合制のため、収入の減少は大きいといいます。
そこで取った対策について、富田社長は次のようにおっしゃっています。
「マイナスを補てん出来るようにということで、初めて会社の制度として「副業」を認めて・・・」
4月末から副業を承認、日の丸リムジンが頼ったのがチルド物流大手の株式会社ムロオ(埼玉・三郷市)です。
実は、物流会社は巣ごもり需要の影響で、スーパーなどへの食品の配送が増え、人手不足が深刻になっているのです。
ムロオの山下 一郎社長は次のようにおっしゃっています。
「仕事はあるけど、ドライバーが集まらないから仕事が出来ないということはコロナ前からもありました。」
「トラックドライバーというライセンスを持った方々が貴重な存在になってきているんです。」
今、ムロオの物流倉庫では日の丸リムジンの従業員11人がアルバイトとして働いています。
手際よくトラックに荷物を積み込む原田 義松さんもその一人で、次のようにおっしゃっています。
「(タクシーの乗客は減ったかという問いに対して、)急にですね、谷底に落ちるように。」
収入源を補うためにムロオで働くことを決めました。
原田さんは大型免許やフォークリフトの免許は取得済み、即戦力として働いています。
ムロオは他のタクシー会社にも声をかけていて、今後こうした取り組みを広げていく考えです。
山下社長は次のようにおっしゃっています。
「これをきっかけにドライバーという貴重な人材をうまくシェアしましょうと。」
「運転の仕事も物流の仕事も継続してやっていただけるような仕組みが出来るかなと思います。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
まず、“7割経済”という言葉ですが、実際にテレビのニュース番組に接したり、知り合いのお店の方の話を伺っていると、今のところ最悪“1割経済”くらいのところもあるというのが実態なのではないかと感じます。
あらためて考えてみれば、日本は少子高齢化の先進国で今後とも経済発展を進めるうえで人手不足は大きな制約の一つです。
現実に、今は新型コロナウイルスの影響で物流や医療の業界を中心に人手不足が深刻で従業員は休む暇もないくらいといいます。
また、新型コロナウイルスの影響で期待していた外国人技能実習生の多くが入国出来ずに人手不足に陥っている農家もあります。
一方、急激に需要が落ち込んでやむなく従業員を休業させているタクシー業界や観光業界のようなところもあります。
要するに、今は極端に人手不足の業界と反対に休業にまで追い込まれている業界の2極化状態なのです。
そしてその両方ともそれぞれ異なる悩みを抱えているのです。
特に休業にまで追い込まれている企業はこのままの状態がいつまで続くのかとても不安だと思います。
既に廃業するかどうかを検討している企業もあるといいます。
そうした中、“従業員シェア”は2極化している両方の業界にとってとても理に適った取り組みだと思います。
そして、この取り組みが確立され、拡大していけば、新型コロナウイルスの収束後の人手不足対策としても機能すると期待出来ます。
勿論、こうした取り組みの前提として、各企業が従業員の副業を認めることが時限立法のようなかたちで必要となります。
さて、“従業員シェア”とは別なアイデアが思い浮かびました。
在宅勤務などで多少時間に余裕のある従業員の方々は多いと思います。
そうした方々がユーチューブやフェイスブックなどのSNSを活用して、趣味の延長として、あるいは今の仕事のスキルを生かした副業、あるいは創業のアイデアをかたちにするという方法です。
勿論、こうした副業を進めるにあたっては、会社の承認が必要になりますが、会社にとってもメリットが多少なりともあるのであれば、新規事業開発にもつながる可能性を秘めているので前向きに検討すべきだと思います。