2020年06月09日
アイデアよもやま話 No.4664 クロマグロ減少に救世主!?

以前、アイデアよもやま話 No.1454 マグロの完全養殖で日本人の食生活を救う!で近畿大学によるマグロの完全養殖の成功についてお伝えしました。

そして、今や“近大マグロ”はブランド魚として確立され、大学直営の専門料理店を開店し、大盛況といいます。

そうした中、3月2日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でクロマグロ減少の救世主について取り上げていたのでご紹介します。 

 

日本が世界一消費しているのは高級魚のクロマグロですが、天然資源の減少で国際的な漁獲規制が敷かれています。

そんな中、味はクロマグロにも匹敵するという幻の魚に注目が集まっています。

都内の居酒屋チェーン店、魚盛の新宿三丁目店では今幻の魚を特別に食べられるキャンペーンを行っています。(番組放送時点)

それは肉厚で鮮やかなピンク色をした刺身です。

お造りが8切れで1499円(税別)です。

これを食べた男性客は次のようにおっしゃっています。

「マグロよりこっちの方がいいんじゃないですか。」

 

この魚の正体について、調理長の松村 直彦さんは次のようにおっしゃっています。

「これはスマという魚です。」

「(カツオと)そっくりなんですけども、違う種類なんです。」

「(腹に)斑点みたいのが少し出ているのがカツオと違うところですね。」

 

体長は約60cm、お腹の黒い斑点が特徴のスマ、マグロやサバと同じサバ科に分類されますが、水揚げ量は極めて少なく、市場にはめったに出回らないため、幻の魚と言われているのです。

知名度はないものの、その身は“全身トロ”と言われるほど上質な脂がのっていて、味もクロマグロと比べ遜色ないとされているのです。

長く幻の魚と言われてきたスマですが、このお店で使われていたのは天然ものではなく、愛媛県で生産された養殖もの、その名も”媛スマ”です。

店長の佐藤 理仁さんは次のようにおっしゃっています。

「養殖ものの方が安定して入ってくるのが我々としてはメリットで、値段は(マグロと)ほぼイコールなんですけども、鮮度が良く、しっかり回転していくので優秀な食材なのかなと思います。」

 

夜が明けた午前6時、愛媛県愛南町の沖合で、全国有数の養殖魚の産地として知られ、”媛スマ”もここのいけすにいるといいます。

宇和島海漁業生産組合の理事、尾崎 洋祐さんは次のようにおっしゃっています。

「この(いけすの)中に1500(匹)ぐらいおります。」

「エサはイワシ、サバ、アジとかいろいろですね。」

 

スマは稚魚を捕獲してから育てる一般的な養殖とは違います。

まず親のスマに卵を産ませて、それをふ化させてから育てる完全養殖というサイクルの中で産まれたスマなのです。

愛媛県と地元の愛媛大学、更に県水産研究センターがタッグを組み、2013年から研究を開始し、約4年かけて世界初の完全養殖に成功しました。

昨年11月、安定的に供給出来る仕組みが確立したことから、ブランド魚”媛スマ”として販売を始めました。

その扱い方も普通の養殖魚とは違います。

餌を付けた釣り針で魚体に傷を付けないように1匹ずつ釣り上げます。

すぐにえらの内側を切って血を抜き、塩分を含んだ粒の細かいマイナス1℃の特別な氷の中に入れ、鮮度を保ちます。

その日のうちに地元の水産業者に運び、体脂肪を計測、中にはマグロの中トロ並みに脂ののったスマもあります。

乾燥を防ぐ特殊なシートに包み、東京や大阪の飲食店に向けて出荷されます。

実はこの”媛スマ”、漁業関係者にとってもメリットがあります。

尾崎さんは次のようにおっしゃっています。

「成長は早いと思います。」

「だいたい5月に5〜10cmだった稚魚が半年で2kgぐらいにはなります。」

「(スマは)儲かると思いますね。」

 

ブリやマダイよりも成長が早いため、生産コストを抑えることが出来るのです。

そのうえ、価格は1kg当たり3000円台というマグロ並みの値が付くことから、収益を生む養殖魚として期待されています。

地元、愛媛県はスマのブランドを更に高めようと動き出しています。

2年後には稚魚の生産量を今の4倍の年間8万匹に増やし、”媛スマ”の販売を加速させるといいます。

愛媛県庁漁政課の課長、橋田 直久さんは次のようにおっしゃっています。

「我々はスマをマグロの代替品とは一切考えておりません。」

「新しい赤身の美味しい魚ということで、広く皆さんに食べていただきたい。」

 

幻の魚が幻ではなくなり、食卓に並ぶ日も遠くないかもしれません。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

マグロのような高級魚は世界的に漁獲量が多く、天然資源の減少で国際的な漁獲規制が敷かれています。

ですから、このまま推移していくと、いずれ絶対的に漁獲出来る量が少なくなり、従って価格もグッと高くなり、ほとんどの日本人の口には入らなくなってしまいます。

そうした中、完全養殖魚として量がある程度確保出来るようになり、自然の魚とほぼ同等、あるいは自然の魚の価格以下にまで下がってくれば、消費者としてはとても有り難いと思います。

ですから、近畿大学や愛媛大学などの研究者には、今後とも是非安くて美味しい完全養殖魚を目指して研究を進めていただきたいと思います。

更に、完全養殖魚の量が輸出出来るほどまで増えれば、輸出産業の一画としても期待出来ます。

あるいは完全養殖魚の養殖システムそのものをそっくり輸出する方法も考えられます。

そうすれば、多くの国々により安く養殖魚を提供することが出来るようになります。

 

ということで、いつか機会があれば”媛スマ”と“近代マグロ”を食べ比べてみたいと思います。


 
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