2020年05月09日
プロジェクト管理と日常生活 No.640 『緊急事態宣言をプロジェクト管理の観点から見ると・・・』

4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を踏まえ、新型インフルエンザ等対策特別措置法(こちらを参照)に基づく緊急事態宣言が発令されました。

そして、発令後約1ヵ月の収束状況は期待通りの成果が得られず、5月4日に正式に政府は全都道府県を対象に5月6日までの期限を5月31日まで延長することになりました。

 

政府は、緊急事態宣言の発令に伴い、人との接触を8割削減という目標を設定し、国民や企業などに協力を強く要請しました。

そして、連日のように都道府県ごとに人との接触の削減状況が報じられてきました。

しかし、新型コロナウイルス対策として、真の狙いは感染者数ゼロであり、人との接触を8割削減という目標はその手段なのです。

ですから、本来であれば、4月7日の緊急事態宣言の発令時に、その期限である5月6日までに例えば感染者数を全国で10人にすると言ったような数値目標を設定し、期限前にその目標を達成出来ればその日をもって解除し、出来なければ、期間を1ヵ月延長するといったような内容を政府は国民に向けて公表すべきだったのです。

 

もし、このような数値目標が設定されていれば、そして期限前でも目標が達成出来れば解除され、目標が達成出来なかった場合にはその後更に厳しい具体的な対策が国民に明らかになっていれば、また安倍総理自らが毎日都道府県ごとの感染者数、および人との接触の削減割合を国民に向けて発信し続け、繰り返し国民の取るべき行動について協力を依頼していれば、かなり状況は変わっていたと思います。

なぜならば、もし安倍総理自らが毎日公表されるこれらの数値、および達成度合いをベースに直接国民に依頼事項などを語りかけて、国全体の一体感を持たせ、一方国民一人ひとりが、あるいは各自治体が毎日こうした状況を把握することにより、後どのくらい頑張れば目標を達成出来るかという意欲を高めることが出来たからです。

 

要するに、新型コロナウイルスとの闘いに対する日本政府のこれまでの対応はプロジェクト管理の観点からはとても適切とは言えないと思うのです。

プロジェクト管理の観点から言えば、緊急事態宣言発令時に、いつ緊急事態を解除するかどうかのチェックポイントを5月6日として、この日までの適切な達成目標を数値的に設定し、その目標達成に向けて国はどのような対策を実施し、国民や地方自治体には具体的にどのような協力要請をするのかを分かり易く説明し、目標達成の場合、および目標未達成の場合のその後の対策まで含めて明らかにすべきだったのです。

同時に、とても重要なことは企業や国民が緊急事態宣言の全面解除までは資金的に安心出来るような対策を国が責任を持つと明確に伝えることでした。

ちなみに、チェックポイントについてはこれまでプロジェクト管理と日常生活 No.116 『チェックポイントはマスター・スケジュールの重要な通過点!』プロジェクト管理と日常生活 No.138 『花火大会の開催にもチェックポイントがありました。』などで何度となくお伝えしてきました。

 

ところが、緊急事態宣言の期限5月6日まで1週間ほどの4月末の時点でも政府は明確な基準がないまま1ヵ月程度延期する意向だったのです。

このままダラダラと現状追随型の対応をしていたのでは、多くの企業も国民も経済的にも精神的にも疲弊してしまいます。

しかも国家財政も底なし沼状態になってしまいます。

ちなみに5月5日(火)付けネットニュース(こちらを参照)によれば、今回の期間延長による経済損失は実に45兆円と見込まれています。

今年の国家予算が102兆円あまりですから、そのざっと40%以上ととんでもないほどの巨額です。

しかも経済損失は6月以降も膨らむ可能性があるのです。

 

本来であれば、国民の健康や命を守るだけでなく、こうした経済損失も考慮し、2月くらいの時点で緊急事態宣言を発令し、2ヵ月程度の期限を設定し、一方で休業に伴う企業や従業員への十分な支援金を手当てして、多くの国民が安心出来る状態を確保しつつ、是が非でもその期間内で目標とする感染者数の収束を達成するために政府は最大限の取り組みをすべきだったのです。

まさに、リスク対応策は早ければ早いほど効果的なのです。

しかし、残念ながら政府はこうした早期の対策は打ち出さず、政府としては一生懸命に取り組まれたと思うのですが、多くの国民の目には政府の真剣さがあまり感じられませんでした。

勿論、「3つの密」(密閉・密集・密接)を守らなかった国民がある程度いたという事実も見逃せません。

しかし、それでもこうした緊急事態において、安倍総理は日本国のリーダーとして毅然とした態度で国民に理解を求め、あらゆる方策を絞り出して感染者数の収束を達成するべきだったと思うのです。

 

これまではチェックポイントに焦点を当ててお伝えしてきましたが、そもそも政府はこれまで新型コロナウイルスとの闘い、すなわち感染者数の収束を1つのプロジェクトとして、国民経済への影響などを踏まえて、目標とする感染の収束期限、および累積感染者数など、何をもってプロジェクトの完了とするかを明らかにしてきたでしょうか。

こうした数値目標を設定してこそ、PCR検査可能な施設数、あるいは感染者の受け入れ可能な病床規模など、関連する様々な対策を数値的に整合性を持ってあらかじめ計画的に準備出来るのです。

ところが、これまでの政府の対応は現状追随型で数値的な管理はまりなされてきませんでした。

 

しかし、最近ようやく本来の動きが出始めてきました。

5月5日(火)付けネットニュース(こちらを参照)で以下のように報じています。

 

大阪府は、緊急事態宣言の期間中でも、外出自粛や休業要請の段階的な解除を行う、独自の基準、すなわち出口戦略を発表しました。

その基準は以下の3つです。

・経路の不明な新たな感染者の人数が10人未満であること

・PCR検査における陽性率が7%未満であること。

・重症者の病床の使用率が60%未満であり、これらが原則7日間続くこと

 

ただし、再び経路不明の新規感染者の増加比が、前の週より1以上であることや、経路不明の新規感染者数が5〜10人以上であること、更にPCR検査における陽性率が7%以上の3つの基準を満たした場合は、あらためて自粛の要請を段階的に実施するといいます。

 

こうした大阪府の動きを受けてか、5月6日(水)付けネットニュース(こちらを参照)でざっと以下のように報じています。

 

安倍総理は5月6日夜、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「緊急事態宣言」の解除基準について、5月14日を目処に公表する考えを明らかにした。

また、専門家に解除基準作成を求めるとした。

 

ということで、ようやく政府も大阪府の動きに促されるかたちで本来の方向性を持って取り組み出したようです。

 

繰り返しになりますが、プロジェクト管理的な考え方に則れば、本来、4月7日よりもっと早い時期に政府は緊急事態宣言を発令し、その際出口戦略、すなわち解除目標日、緊急事態宣言の数値的な解除基準、および解除目標日までに政府や自治体、そして企業や国民が取り組むべき対策を明らかにし、同時に企業や国民がその期間中に被る経済的な被害額の一定額を補償することを明言すべきだったと思うのです。

こうした対応が政府により実施されていれば、今年のゴールデンウイークも例年ほどではないにしても、今回よりは制限が緩い状況で過ごせたと思うのです。

 

ということで、一口に災害と言いますが、その取り組み方次第で、人災が要因となり被害を拡大させてしまうということを今回の新型コロナウイルス問題で実感しています。

それにしても今回の期間延長による経済損失が実に45兆円と見込まれているのは何とも空しい気持ちになってきます。


 
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