1月27日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で神戸牛が680円で食べられるお店について取り上げていたのでご紹介します。
消費税増税などの影響で外食産業に逆風が吹く中、焼肉業界にも価格競争の波が押し寄せています。
良い肉を安く提供する秘策な何なのでしょうか。
1月29日オープンする神戸牛牛 本町店(大阪・中央区)、メディア向けの試食会で松山 知弘社長が次のようにおっしゃっています。
「日本一と言われる、高級な和牛の“神戸牛”を日本一リーズナブルに提供する。」
神戸牛とはブランド牛の但馬牛のうち、「霜降りの度合い」など厳しい基準をクリアした牛肉です。
値段は驚きの「神戸牛カルビ」の1人前680円(税別)からです。
日本一安いとうたうこのお店、より安い値段で“神戸牛”を売っているお店を見つけたお客には「情報料1万円」を提供するというキャンペーンまで実施する徹底ぶりです。
自信の背景にあるのは、コストカットの様々な工夫です。
1つ目は、店の狭さです。
松山社長が次のようにおっしゃっています。
「狭くなればなるほど(お客の)滞在時間は少し短くなりますから、ぎゅうぎゅう詰めの酒場に行ったりすると、そこはぎゅうぎゅう詰めで楽しいと同時に長くいることはないと。」
ぎゅうぎゅうに座ってもらうことでお客の回転率を上げる作戦です。
2つ目は、仕入れにも工夫があります。
直接セリで肉を確保する独自の流通ルートで中間手数料をカットします。
3つ目は、使えない肉は系列の居酒屋でメンチカツなどに利用して無駄をなくします。
4つ目は、お客が自分のスマホで注文するなど、お客の手を借りることで人件費も節約します。
価格競争の中で、敢えて高級な“神戸牛”に絞ることに商機があるといいます。
松山社長が次のようにおっしゃっています。
「“神戸牛”がこれほどまでに有名なのにもかかわらず、(高いから)召し上がったことのない人の方が多いと。」
「このお店は20坪あるんですけど、月商1000万円以上のお店にしたいと思っています。」
一方、焼肉のファーストフードを掲げるのは焼肉ライク 船橋ららぽーと前店(千葉県船橋市)です。
有村 壮央社長は次のようにおっしゃっています。
「フードコートのようなかたちで、私どもコンセプトとして、より焼き肉を身近に気軽に楽しんでいただくというのがありまして。」
タッチパネルによる注文などIT化を進め、人件費を抑えることで低価格メニューを武器に急速に拡大してきました。
1月27日にオープンしたお店も200人近い行列が出来る人気ぶりです。
そして、今回のお店では今までにはないコストカットの仕掛けがあるといいます。
有村社長は次のようにおっしゃっています。
「こちらの方に「PICK UP HERE」と書いてある、出来上がったものをお客様自身で運んでもらうようなセルフ化を進めることによってかなり人件費が削減出来るのではないかと思っています。」
通常、店員が配膳して次の仕事にかかるまでには約30秒かかります。
そこでセルフサービスを導入し、人件費を抑えたのです。
お客の反応ですが、ある女性客は次のようにおっしゃっています。
「問題ないですね。」
「自分で取りに行く方がファーストフードな感じでいいかなって思います。」
またある男性客は次のようにおっしゃっています。
「サラダバー的な感じでいい。」
更にセルフレジも導入、こうした“完全セルフ化”によって人件費を抑えることが出来れば、今後値下げも考えられるといいます。
有村社長は次のようにおっしゃっています。
「ここのお店でトライアルしたものを全国に成功モデルとして広げていくという意味では、人件費の部分でしっかり下がったと。」
「お客様の反応を見ながら還元していくことは考えております。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
神戸牛と言えば、今でも忘れられない思い出があります。
5年前に、EV(電気自動車)の日産「リーフ」で実際に遠距離ドライブを体験してみたいと思い立ち、広島県までドライブしたことがあります。(参照:アイデアよもやま話 No.3115 EVによる長距離ドライブ体験から見えてきたこと その1 現状の問題点!)
その時に神戸にも立ち寄り、生まれて初めて神戸牛を食べました。
そのお店に入ってすぐに小さな男の子の大きな声が聞こえてきました。
「美味しい!」という心の底から叫んでいるような大声でした。
子どもながらに思わず神戸牛の美味しさを声に出したのだと思われます。
この子どもの声を聞くだけで、この子どもを連れて来た両親も食べに来た甲斐があったと思ったのではないでしょうか。
勿論、私も神戸牛の美味しさを実感しました。
さて、今回はそれぞれに工夫を凝らしている飲食店の事例を2つご紹介しました。
他の事例も加えて、そのキーポイントを以下にまとめてみました。
・コストカット
独自の流通ルートによる中間手数料のカット
料理にロボットの活用
・回転率の向上による売り上げ増
・食材の使えない部位を他の系列店で利用
・セルフ化の徹底
バイキング形式の導入
注文や会計のセルフサービス
・“神戸牛”など、他のお店で扱っていない料理に絞った店舗展開
こうしてまとめてみると、今やこれらの項目は既に大なり小なり、多くの飲食店で導入されています。
こうした状況で懸念されるのは、コスト競争に巻き込まれる消耗戦です。
こうした競争から逃れるために必要なのはやはりお店の独自性です。
そこのお店でしか食べられないような美味しくて魅力的な料理を提供していれば、お客は長時間並んでも、また多少値段が高くても来てくれます。
また、とてもゆったりした雰囲気でウエイトレスなどの接客態度もとても素晴らしければ、やはり特別に料理が美味しくなくても、あるいは多少値段が高くてもお客は来てくれます。
そういう意味で、ブランド力のある高級な和牛の“神戸牛”を扱う神戸牛牛は、普段はとても高くて食べられないと思われていいた“神戸牛”を680円という低価格で提供している点でとても優れたビジネス戦略を展開していると思います。