昨年10月12日(土)付け読売新聞の朝刊記事で2人のノーベル物理学賞受賞者による基調講演について取り上げていました。
そこで、2回にわたってその内容をご紹介します。
2回目は、天野 浩博士による基調講演についてです。
天野博士は基調講演の中で次のようにおっしゃっています。
日本は、CO2の排出量を2050年までに80%削減する目標を立てている。いくらかかるのか、そのコストを考えてみよう。
まずCO2を出さない太陽光発電や風力発電、地熱発電などのクリーンエネルギーの割合を増やす必要がある。太陽光発電だけで実現しようとすると、現在の約400万キロ・ワットの設備を3000万キロ・ワットまで増やさないといけない。それには技術開発が進んだとしても5.2兆円、さらに電力を安定して供給するための蓄電システムの整備に5.2兆円かかる。
合計10・4兆円というのは途方もない金額だが、2030年から50年までの間に電力システムを変えていくとすれば、年5000億円の出費で済む。日本の国内総生産(GDP)の約0・1%だから負担可能な数字だと思う。
そのシステムの鍵となるのが、私のノーベル賞受賞テーマである「青色発光ダイオード(LED)」の材料となった窒化ガリウムだ。例えば海上に大規模な太陽光発電設備を展開した場合、直流を交流に変換する装置が欠かせないが、窒化ガリウムを使えば送電網への高速電力供給が可能になる。シリコンの10倍の電圧まで耐えられるので、装置を10分の1のサイズに小型化出来、電力の損失も10分の1に抑えることができる。
窒化ガリウムの装置を活用し、電線を使わずワイヤレスで電力を送る研究も進めている。電動飛行機や電気自動車、エアタクシーなどが無線で充電出来るようになれば、高齢者や過疎地の人々も移動手段を確保しやすいモビリティ社会が実現すると考えている。
日本の科学技術政策が駄目だとは思わないが、問題点があるのは確かだ。大学への運営費交付金が減り、若い研究者を長期雇用することが難しくなっている。
名古屋大の大学院では、次世代の工学系人材を育てるため、新しいプログラムを始めた。能力の異なる3タイプの人材が協力し、研究開発にかかる期間の短縮に挑む。青色LEDは結晶が出来てから1兆円市場になるまで30年かかったが、これを10年に縮めたい。
以上、基調講演の一部をご紹介してきましたが、特に私の心に響いたのは以下の言葉です。
・2030年から50年までの間に電力システムを太陽光発電に変えていくとすれば、年5000億円の出費で済む
・日本の国内総生産(GDP)の約0・1%だから負担可能な数字だと思う
・電動飛行機や電気自動車、エアタクシーなどが無線で充電出来るようになれば、高齢者や過疎地の人々も移動手段を確保しやすいモビリティ社会が実現すると考えている
要するに、日本のGDPの約0・1%を太陽光発電の導入につぎ込めば、現在の電力システムを全て太陽光発電に置き換えることが出来るというのです。
毎年、年間5000億円の出費で済むなら、太陽光発電の導入は容易に進めることが出来ると思われます。
しかし、現実には太陽光発電は天候に左右されたり、夜間は発電出来ないといような制約があります。
ですから、発電した電気を蓄えるバッテリー、あるいはそれに付随するパワコンなどが必要になります。
ですから現実には毎年5000億円の何倍かの出費が必要になります。
更に、太陽光発電を設置するスペースも必要になります。
これだけの発電量の太陽光発電を設置するスペースを確保するためには、森林の伐採などによる広大な土地を用意する必要も出てきます。
そこで、天野博士は海上での大規模な太陽光発電設備の展開をお考えのようです。
そして、窒化ガリウムを使えば送電網への高速電力供給が可能になるといいます。
いずれにしても、太陽光発電の大量導入には広大なスペースが必要になります。
ですから、今後の電力システムのあり方として太陽光発電のみに依存することが最善の策なのか疑問が湧いてきます。
ではどうするかですが、私が今お勧めしたいのは、以前ご紹介した水素ガス発生装置(参照:アイデアよもやま話 No.4589 ノーベル賞級の画期的な発明
― 電気不要、水と触媒だけで水素を製造出来る!?)です。
この装置であれば、どこでも水素ガスを発生させることが出来、しかもそれほどスペースを必要としないからです。
いずれにしても、窒化ガリウムを使用した送電網への高速電力供給は効果的だと思います。
また、窒化ガリウムの活用で、電線を使わずワイヤレスで送電出来るというのはとても魅力です。
しかもこうした一連のシステムを世界的に展開すれば、一挙にエネルギー問題、および地球環境問題を解決出来るだけでなく、世界的な経済成長にも大きく貢献出来ると思われます。
今、世界は新型コロナウイルスとの闘いで経済的にも大変な状況ですが、是非こうした取り組みを推進して、この闘い後の経済復興策の大きな柱の一つとして日本がリーダーシップを取れればと思っています。