2020年03月28日
プロジェクト管理と日常生活 No.634 『コロナショックとリーマンショックは似て非なるもの』

世界各地で感染が拡大する、中国の武漢に端を発した新型コロナウイルス肺炎について、3月11日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、「新型コロナウイルスはパンデミックと言える」と述べて世界的な大流行になっているとの認識を示したうえで、各国に対して対策の強化を訴えたと報じられています。

そうした中、3月16日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でコロナショックとリーマンショックとの相違、および対応策について取り上げていたのでご紹介します。

 

(発生源)

リーマンショック:アメリカの住宅ローン

コロナショック :中国の武漢

共通点     :世界への波及(*) 


* リーマンショックの場合は、アメリカでの住宅ローンを束ねた商品化商品が世界に広がったが、コロナショックの場合は、春節などの旅行で中国人が世界中に行ったことで広まった

    また、リーマンショックの場合は、アメリカの問題がフランスのパリバショックというかたちで顕在化したが、コロナショックの場合は、アジアの問題だと思っていたら、イタリアで感染が爆発的に広がった

 

(メカニズム)

リーマンショック:金融機能のマヒ ⇒ 世界的な需要の蒸発

コロナショック :世界的な消費蒸発の懸念 ⇒ 金融不安の拡大

相違点     :双方で金融と消費の影響の流れが逆

 

(対応策)

リーマンショック:アメリカの銀行に公的資金を注入

         大規模な財政・金融政策

コロナショック :検査体制・病院の確保

         ワクチンの開発

         消費の喚起

         企業・雇用の支援

 

なお、リーマンショックの際には中国が一気に4兆元(現在の交換レートで約60兆円)の景気対策を実施しました。

こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「まさに中国が世界経済の歯止め役になって、結果として中国の台頭が加速したわけです」。

「一方で、今回(のコロナショック)なんですけども、その中国のパワーはリーマンショックの時とは違います。」

「まさにコロナショックの発生地ですからね。」

「で、どうなるのかというと、世界各国はどうも自分を囲い込む、ブロック化が進むんじゃないのかということが懸念されるところです。」

「ブロック化が進んでしまいますと、もう世界活動が委縮しますので、どうやってその誘惑を抑えるのかというところが今回のポイントになってくると思います。」

「(これで経済が回っていくのかという問いに対して、)一番悪いケースは1930年代のようにブロック化が世界経済の収縮と戦争を招いてしまうような事態ですね。」

「それはどうしても防がなければいけないと思います。」

 

一方、番組コメンテーターでピクテ投信投資顧問 シニア・フェローの市川 眞一さんは次のようにおっしゃっています。

「まさに今、EUのブロック化が進みそうになってきていますので、そういったところにもきちっと対応していかなければいけないと思うんですけども、まず重要なことは滝田さんがおっしゃっておられましたように、コロナウイルスの感染の拡大をいかに抑止するか、これが一丁目一番地だと思うんですね。」

「こういった感染対策というのは、基本的には3つのプロセスから成ると思うんですけど、一つ目は感染拡大の抑止、これが最重要です。」

「今日(3月16日)、この点については日銀の政策は評価しますけど、二番目は信用不安をいかに緩和していくかという。」

「それがある程度目途が立ってきた段階で、(三番目の)本格的な景気対策を打つということだと思うんですね。」

「で今回、トランプ大統領が間違えてしまったのは、三番目から行ってしまったわけですね。」

「これ多分、大統領選挙を相当気にされたからだと思うんですけども(新型コロナウイルスを)過小評価してしまったと。」

「ところが、その間にアメリカで感染が急激に拡大することによって、いかにFRBが利下げをしても心理的に「もっと感染が広がってしまうんじゃないか」というところに人々の気持ちが行ってしまっていると。」

「ここは日本政府が非常にうまく対応したところで、いろいろ批判はありましたけれども、大規模イベントの中止要請をしたりとか、小中高校の休校の要請をしたりとかいうことで、そういう意味ではやはり世界がまず一番目の感染拡大の阻止をして、それに耐えることによって次のステップにいつ移行出来るか、これがポイントになると思いますね。」

「これは副作用を伴います。」

「消費をかなりギュッと締めなきゃいけない面はありますけど。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

新型コロナウイルス肺炎がこれほど世界中の多くの人たちに感染し、また経済的にもリーマンショックと比較されるほどの影響を与えると想像出来た人はほとんどいなかったと思います。

そして、今のところ、世界的な視点でいつ新型コロナウイルス肺炎が終息に向かうのか分からないような状況なのです。

 

今回の問題への対応にあたってまず思うのは、世界的にどの国もパンデミック(感染症の世界的な大流行)クラスの感染症を想定したリスク対応策がきちんと整備されていなかったということです。

 

このことは置いておいても、新型コロナウイルス肺炎の問題は、中国の湖北省武漢で新型コロナウイルス肺炎の発生が確認され、武漢当局が昨年12月30日に「原因不明の肺炎患者確認」を公表した後、速やか、かつ適切な対応がなされていれば、中国の一部の地域内での感染騒ぎで済んだはずなのです。

 

世界中の人たちは、このことについて大いに認識する必要があります。

そして、世界保健機関(WHO)を中心に、新型ウイルスによる感染症の再発防止策として世界共通のガイドラインの発行が求められます。

こうしたガイドラインがあれば、今回のようなパンデミックになるまでのリスクを防げると思うのです。

ただし、こうしたガイドラインを有効なものとするためには、各国の国内における情報の風通しがよくなくてはなりません。

こうした意味では、特に中国においては、共産党一党独裁による権力集中の弊害を取り除く必要があると思います。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.632 『中国、ビッグデータで新型コロナウイルス肺炎の感染経路を特定!』

こうしたガイドラインが作成され、中国の中央政府と地方政府との間の風通しがよくなっていれば、もし今回と同様の新たな感染症が発生したとしてもパンデミックには至らなかったと思うのです。

 

さて、番組を通して分かるように、新型コロナウイルス肺炎と比較されるリーマンショックは似て非なるもので、原因は全く異なります。

ですから、対応策も当然異なるのです。

また、個々の国による具体的な対応策の相違は当然あってもいいのですが、大きな枠でのプロセスは同じであるべきです。

そうした中で、トランプ大統領の今回の対応策で気になるのは、市川さんの指摘されているように、当初のその影響の過小評価による、感染拡大の抑止よりも景気対策を重視してしまったことです。

その結果、感染拡大を許し、金融政策の効果を少なくしてしまったのです。

ですから、リスク対応策に限らず、今回のような大きな問題の発生においても出来るだけ早期に、しかも適切に対応することがとても重要なのです。

 

ということで、まだまだ新型コロナウイルス肺炎の世界的な収束は見えませんが、一段落したところで感染病のパンデミックにおける世界各国共同での再発防止策の検討をすべきだと思うのです。


 
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