イギリス大使館からの1月31日(金)付けメールでイギリスの地球温暖化対策について取り上げていました。
そこで、3回にわたってその内容をご紹介します。
2回目はイギリスの洋上風力発電についてです。
イギリス・国通商部の宮北幸代上席商務官は次のようにおっしゃっています。
「イギリスには大規模なデベロッパー(開発業者)が存在しないため、政府は定期的に電力買い取り価格のオークションを実施し、世界から投資を募り、外資系の企業を上手に取り込みながら、地域のサプライチェーンを構築しています。」
「そして、デベロッパーやパブリックセクター、教育機関が連携したクラスターを整え、生産性や競争力向上、イノベーションの創出を通じて地域経済の成長を後押ししています。」
洋上風力発電のプロジェクトには、プロジェクト管理や建設、運転や保守というウィンドファーム(集合型風力発電所)の全要素が含まれ、地域に雇用を生み出します。
イギリス政府は2030年までに洋上風力発電の設備容量を30GW(現在の約4倍)に拡大する予定で、約2万7000人の雇用を創出すると見込んでいます。
同時に、国内部品の調達率60%を達成する目標も掲げています。
そもそもなぜイギリスは、洋上風力発電を推進するようになったのか、宮北上席商務官は次のようにおっしゃっています。
「イギリスにはもともと、北海油田のオイル&ガス事業のエンジニアリングで培われた技術があり、それが強みとしてあります。」
「洋上の構造物や海底・海中調査などのノウハウは、洋上風力発電の設置にも生かされており、実際にオイル&ガスの分野で強みを持つ企業が洋上風力発電に参入するケースが多くなっています。」
イギリス政府は、洋上風力発電に革新技術を導入するため、2013年にイギリスの研究・試験施設と専門家が結集したイギリス洋上再生可能エネルギー・カタパルト(Offshore Renewable Energy Catapult)を創設し、同時に巨額の公共研究開発(R&D)費を投入し、風力タービンの大型化による定格出力の向上をはじめとする各種イノベーションを通じて、ここ数年で大幅なコスト削減を実現しています。
イギリス内に8カ所ある洋上風力発電のクラスター(集団)のうち、ハンバー(Humber)のプロジェクト・オーラではハル大学を中心にメーカー、開発者、サプライチェーン、学術界、イノベーション機関など官民が一体になりクラスターを形成しています。
そのイギリス政府が今取り組んでいるのが、洋上風力発電の世界市場に最先端のスキルや専門性を提供することで、その重要なターゲットの一つが日本市場です。
日本はイギリスと同じ島国で国土も広くないことから、洋上風力発電の市場として潜在的に大きな可能性があると見なされています。
ただし水深の浅い大陸棚の多いイギリスと違い、日本は海底が深いため、着床式(基礎が地面に固定されたもの)ではなく浮体式(洋上に浮かんだ浮体式構造物を利用したもの)の洋上風力発電が求められます。
宮北上席商務官は次のようにおっしゃっています。
「現在イギリスでは、世界各地の水深の深い海域への設置に対応するため、浮体式構造のイノベーションにも取り組んでいます。」
「既に日本の商社や電力会社の一部が、イギリスの洋上風力発電のプロジェクトに投資しており、イギリス企業とのパートナーシップを基に、その技術やノウハウを日本に導入する試みが始まっています。」
以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。
イギリスの洋上風力発電の取り組みにおける特徴を以下に要約してみました。
・イギリスには大規模なデベロッパー(開発業者)が存在しない
・政府は定期的に電力買い取り価格のオークションを実施し、世界から投資を募り、外資系の企業を上手に取り込みながら、地域のサプライチェーンを構築している
・デベロッパーやパブリックセクター、教育機関が連携したクラスターを整え、生産性や競争力向上、イノベーションの創出を通じて地域経済の成長を後押ししている
・イギリス政府は2030年までに洋上風力発電の設備容量を現在の約4倍に拡大し、約2万7000人の雇用を創出すると見込んでいる
・同時に、国内部品の調達率60%を達成する目標も掲げている
・イギリス政府は、洋上風力発電に革新技術を導入するため、2013年にイギリスの研究・試験施設と専門家が結集したイギリス洋上再生可能エネルギー・カタパルト(Offshore Renewable Energy Catapult)を創設し、同時に巨額の公共研究開発(R&D)費を投入し、各種イノベーションを通じて、ここ数年で大幅なコスト削減を実現している
・イギリス政府が今取り組んでいるのが、洋上風力発電の世界市場に最先端のスキルや専門性を提供することで、その重要なターゲットの一つが日本市場である
・イギリスでは、世界各地の水深の深い海域への設置に対応するため、浮体式構造のイノベーションにも取り組んでいる
こうして見てくると、イギリスは洋上風力発電を再生可能エネルギー発電の大きな柱とし、以下のような要件をうまく組み合わせて大きな1つの戦略として展開しているように思えます。
・自国に不足している大規模なデベロッパーや資金については海外の機関投資家や企業を取り込むこと
・同時に地域のサプライチェーンを構築すること
・デベロッパーやパブリックセクター、教育機関が連携したクラスターを整え、生産性や競争力向上、イノベーションの創出を通じて地域経済の成長を後押しすること
・国内部品の調達率を高めること
・洋上風力発電関連の研究機関を創設し、同時に巨額の公共研究開発費を投入し、各種イノベーションを通じて大幅なコスト削減を実現すること
・世界市場にこうした洋上風力発電の最先端のスキルや専門性を提供すること
・同時に各国の状況に対応したイノベーションにも取り組むこと
こうしたイギリスの洋上風力発電に取り組む国家戦略は、国の柱となり得る基幹製品の研究開発、および世界展開に際し、どの国にも大いに参考になると思うのです。