これまでも“経営の神様”と言われている松下電気(現パナソニック)の創業者、松下幸之助(1989年 94歳没)については、アイデアよもやま話 No.3194 興味深い松下幸之助の人材抜擢法!でお伝えしていました。
そうした中、昨年4月27日(土)放送の「あの人に会いたい アンコール」(NHK総合テレビ)で松下幸之助について取り上げていました。
そこで番組を通して、松下幸之助の金言に焦点を当ててご紹介します。
(商売の厳しさについて)
「商売人が事業をやって儲けないということは、戦争で負けるのと一緒ですわ。」
「戦(いくさ)行って首取られるのと一緒ですわ。」
「それはあきまへんがな。」
(部下が失敗した場合の対応について)
「失敗の内容によりますよ。」
「部下は非常に失敗しますな。」
「そうすると僕は怒らなかった。」
「どっちかというと慰めました。」
「そう心配するなと。」
「もういっぺんしっかりやればいいではないか。」
「そしたら成功するかもしれないから、しっかりやってくれと。」
「決してしからなかったです。」
「というのは、本人は失敗したことを苦に悩んでいるからです。」
「それを叱ったらやる気がなくなってしまう。」
「その時は力をつけてやらないといけない。」
「君、心配しなくてええ。」
「それで会社つぶれへんと。」
「だいたいそういう調子です。」
「なぜ社員を叱らなかったかというと、小さな失敗はよく叱ったものですよ。」
「こんなもの分からんのかと叱ったりしますけどな。」
「しかし、大きな失敗をした場合はね、むしろこっちが引き受けないと。」
「社長に心配をかけずにやるとよく言いますけどね、社長にしてみれば一番の心配は社長がしないといけないですよ。」
「それが仕事なんです。」
「社長が心配するのを嫌になったら、社長を辞めたらいいです。」
「どんどん心配になってくると。」
「うるさいことみんな起こってくる。」
「これが社長の生きがいだと。」
「これであればこそ、自分が社長をしている意義があるんだというようにならんと苦労が増えますな。」
(儲けは一番後の清算 先憂後楽)
「(企業で一番大切なことは、生き残るということが一番大切ですが、その生き残ることの基本は儲かること、もう一つは人間関係が良いということでは、という指摘に対して、)そうですが、儲けが先に立つとやはりことが汚くなりますよ。」
「だから儲けは一番後の清算ですな。」
「だから奉仕を先に持ってこないといけないです。」
「で、結果が儲かると。」
「政治家だったら先憂後楽ですな。」
「諸売人もそれです。」
「先憂後楽と言うことは何にでも通用しますな。」
「その志のない者は上に立てませんな。」
昭和50年代、松下幸之助は、これからの日本はもっと混迷した社会を迎えるだろうと予測しました。
昭和54年、私財70億円を投じて松下政経塾を設立、将来の日本のために新しい考え方で社会を動かす人材を育てたいと思ったのです。
また、研究や文化活動にも惜しみなく援助を行いました。
そして次のようにおっしゃっています。
(日本の本当の復興について)
「今まではうたかたの繁栄だったわけですな。」
「だいたい戦後30年(1945年〜1975年)というものは高度成長に経済が発展してきましたな。」
「それは外国の援助というものによってやったですな。」
「だから、日本の国民の自力によって戦後の復興したんじゃないですね。」
「僕が考えるに、3年も4年も戦争して負けたと。」
「昔であれば、民族が奴隷になったり、非常に苦しみを味わいますわな。」
「ところが、日本は戦争に負けたその日から救済されているでしょ。」
「一つは技術もあげましょうと、食べ物は一つ援助しましょうと、政治の方も教えましょうと。」
「そういう結構な負け方というのはないでしょう。」
「そこにそもそも甘えがあったわけですな。」
「その甘えが積もり積もって、今日つけを支払いせねばならないですな。」
「今、物資は豊かですけども、精神的には貧困であると。」
「戦後30年にして、ようやく日本は精神な敗北をしたんですな。」
「日本の持てる精神ですな。」
「日本人の古来のね。」
「そういう良いものがあるとするなら、ここらで精神復興しなければいかんですよ。」
「精神復興即、それは日本の本当の復興になります。」
なお、日本でいち早く週休二日制を取り入れ、日本人の勤労意識に大きな影響を与えました。
また、水道の水のように豊富に物資を送り出せば、誰もが簡単に手にすることが出来る、松下幸之助が唱えた“水道哲学”のもと、テレビ、洗濯機、冷蔵庫などの家庭用電化製品が次々と生産されました。
製品は飛ぶように売れ、日本人の生活スタイルに変化をもたらしました。
事業を通じて、人々の生活文化の向上に貢献する、松下幸之助の経営の精神は常に社会とともにありました。
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
松下幸之助は、商売の厳しさについて戦を例に取ってお話されていますが、果たしてどれだけの経営者が経営に失敗したら自分の命は無くなるくらいの覚悟を持っているでしょうか。
こうした言葉から、松下幸之助の経営に賭ける覚悟、あるいは凄みをうかがい知ることが出来ます。
また、「儲けは一番後の清算」という言葉については、プロジェクト管理の中のプロセス管理の重要性につながる言葉だと思います。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.606 『売上を伸ばす店長の極意とは!』)
商売の究極の狙いは、世のため人のためであり、その目標を目指して一生懸命に事業に取り組んでいれば、結果は後からついてくるというプロセス重視の考え方です。
ところが、成果の一つ、すなわち儲けを第一義に目指して事業に取り組むと、どうしても無理が生じていて、粉飾決算や製造データの改ざんなどの不正行為につながってしまうのです。
これでは、本末転倒で社外的なイメージダウンや多くの従業員の士気(モーラル)の低下という、数値には表されなくとも大きな損失をもたらすことになるのです。
さて、松下幸之助は日本でいち早く週休二日制を取り入れ、日本人の勤労意識に大きな影響を与えたといいます。
こうした従業員の暮らしを考慮した施策も“経営の神様”と言われる所以だと思います。
一方、松下幸之助が唱えた“水道哲学”は、当時の日本の状況を考えれば、とても理に適っていたと思います。
しかし、地球環境問題やエネルギー問題が世界的に取りざたされる現在は、“持続可能な社会”の実現が世界的に共通の課題となっています。
ですから、もし今も松下幸之助が存命であれば、“水道哲学”ではなく、“持続可能な社会”の実現の重要性を唱えていると容易に想像出来ます。