昨年12月25日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で「巨大データ社会 あなたのデータのゆくえ」をテーマに取り上げていました。
そこで、今回は私生活動画収集プロジェクトに焦点を当ててご紹介します。
昨年12月24日夜、東京都内の某所を番組レポーターが訪ねたのは、システムエンジニア(SE)のAさん(29歳)の自宅です。
家賃8万円ほど、6畳のワンルームマンション、迎えたクリスマスイブですが、彼女とともに過ごせない特殊な事情がありました。
部屋の2ヵ所の隅には小型のカメラがそれぞれ1台、玄関とトイレにもそれぞれ1台設置されています。
なので、Aさんの彼女はこの部屋には来たくないというのです。
実はAさん、1ヵ月の契約で私生活を24時間撮影されるプロジェクトに参加しているのです。
映像は全てケーブルを通って部屋の隅にあるハードディスクに記録されます。
その映像データは個人を特定出来ないように処理したうえで、必要とする企業などに提供されるといいます。
Aさんは次のようにおっしゃっています。
「面白そうだなという好奇心と20万円もらえるのは凄いと思って。」
「全然気にならないので、お風呂を出てパンツを履く時とかぐらいは気を使いますけど、それ以外は正直なところ(カメラは)ないものとしてほぼ扱っています。」
この私生活動画収集プロジェクトの名は「EXGRAPH」、約1300人の応募があったといいます。
今回のプロジェクトには女性も参加しています。
先ほどの男性と同様、6畳ワンルームの部屋にカメラ4台が設置されています。
カメラのある生活について、この女性、Bさんは次のようにおっしゃっています。
「カメラは確かに気になるんですけど、嫌悪感を示すほどのものではなく、自分のアーカイブ(記録)みたいのが残れば面白いんじゃないかな。」
「(トイレのカメラについて、)パジャマがワンピースだったり、長めだったので気にならなかったというのはあるかもしれません。」
教育関連の企業に勤めるというBさん、お金に困ってプライバシーを売るわけではないといいます。
「(20万円は高いか、安いかについて、)夜遅く帰るので、その間は撮られてないことを差し引けば20万円は妥当じゃないかと思っています。」
24時間私生活の動画を収集するプロジェクト、番組は仕掛人を直撃しました。
私生活動画収集プロジェクトを主宰する遠野 宏季さんは次のようにおっしゃっています。
「一つはデータの活用で、今オンラインのSNSだと検索エンジン、後はECサイトでデータの活用が進んでいるんですけど、この身の回りの部屋の中などのデータが十分に活用されていないというのをどんどん活用して、健康だとか身の回りをより良くすることが出来るんじゃないかという思いで一つはやっています。」
遠野さんがこの一風変わったプロジェクトを立ち上げる裏には意外な背景がありました。
京都大学大学院に在籍中の3年前(放送時点)、AI(人工知能)を使うベンチャー企業、株式会社Plasma(プラズマ)を立ち上げました。
そこで医療や人体に関する分析を手掛けていましたが、ある壁にぶつかったといい、次のようにおっしゃっています。
「解析する技術があっても元のデータがないと駄目な中で、今回どこの会社もとろうとしなかったデータをリスクを取ってとってみたら、それを解析するとどんな良いことがあるか。」
遠野さんは2018年に会社を京セラグループに売却、そこで得た売却益で新たな企業を対上げ、人にまつわるデータを取得する側に回ったのです。
遠野さんは次のようにおっしゃっています。
「動画を見れば、人の行動もある種の感情も何に使っているか見れるので本当にリッチなデータです。」
「それに対して、何となくきちんと議論せずに使わないのは社会にとって損失だと思っています。」
「使えるものを使わないというのは。」
「正しい使い方をすれば、社会の役に立つものと信じています。」
「批判は大歓迎です。」
そして24時間撮影生活を続ける男性、Aさんのお宅に遠野さんがやってきました。
実は、昨年のクリスマスイブが実験の最終日だったのです。
4台のカメラを撤収し、パソコン、ハードディスクも1分ほどで回収し終えました。
この時の遠野さんとAさんとのやり取りは以下の通りです。
(遠野さん)
「いつでも参加出来るという状況の時に参加したいと思いますか?」
(Aさん)
「そもそもお金もらえてというのが続くんだったら、個人的には参加したくてですね。」
遠野さんは次のようにおっしゃっています。
「(今回収集した映像データについて、)最小限の使う部分を被験者さんと相談させていただきまして、それ以外はすぐに削除する予定です。」
「(データの活用について、)新しい選択肢が出来たのは大きな一歩かなと思います。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
番組を通してまず感じたことは、遠野さんもおっしゃっているように、いくらAIなどを駆使した解析技術が進んだとしても、肝心のデータがなければ、あるいは不足したり、精度が悪ければ、有効な解析をすることは出来ないということです。
そして、遠野さんは、自宅における丸ごとの私生活という、言わば個人の暮らし関連データのニューフロンティアを見つけ、プロジェクトとして動かしたのです。
このプロジェクトを通して、遠野さんがどのような視点で分析し、そこからどのような結果が得られるのかとても興味が湧いてきます。
なお、このプロジェクトを自宅だけでなく、業務中の動きも対象にすれば、更にいろいろなことが見えて来て、様々な視点から業務改善を図ることが出来るのではと思いました。
まさに、“働き方改革”を進めるうえでの有効なツールになり得ます。
また“教育改革”などにおいても同様です。