会員が使いたい時に自由に使用出来るカーシェアリングのメリット、ディメリットについてはこれまでアイデアよもやま話 No.4281 進化するカーシェアリング!などで何度かお伝えしてきました。
そうした中、昨年10月29日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でカーシェアリングに潜む落とし穴について取り上げていたのでご紹介します。
カーシェアリングの登録者数の推移ですが、この10年でほぼ10倍と急速に成長しています。(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団調べ)
個人同士がクルマを貸し借りする個人間カーシェアリングと呼ばれるサービスも注目を集めるなど、そのすそ野は広がっています。
一方で、市場の拡大とともに新たな犯罪も生まれています。
大阪府に住む20代の男性、田中さん(仮名)は番組の取材に対して次のようにおっしゃっています。
「マジかと思ったんですけど、700万円ぐらいのローンだけが残りますよね。」
田中さんは、NTTドコモが提供しているカーシェアリング「dカーシェア」を利用、昨年700万円で購入した新車、BMW
Z4を自分が使わない日に貸し出すことで臨時収入を得ています。
「dカーシェア」は、免許証の写真を撮ってドコモ側に送り、個人情報を登録すると、誰でもスマホのアプリかレンタカーやカーシェアリングを利用することが出来るサービスです。
昨年7月、40代の男から田中さんのクルマを借りたいと連絡がありました。
その男と待ち合わせ、免許証で本人確認をした上で愛車を貸し出しました。
しかし、「明日の18時以降なら返却出来る」というメールを最後に連絡が取れなくなりました。
田中さんは慌ててドコモに連絡しました。
この時のドコモとのやり取りについて、田中さんは次のようにおっしゃっています。
「「トラブルは当事者同士で解決して下さい」とまず言われたんですね。」
「もう頼りにならんなって思いましたね」
仕方なく警察に被害届を出した田中さんでしたが、事態は昨年10月に入り急転、この男、濱田 明宣容疑者(当時42歳)が別の詐欺事件で逮捕されたのです。
きっかけは中古車販売店からの通報でした。
店にやって来た濱田容疑者の様子を不審に思ったからです。
「現金が欲しいから、すぐにこのクルマを売りたい。」
店員が濱田容疑者の出した免許証に爪を立てたところ、文字が簡単に剥がれ落ちたといいます。
濱田容疑者は田中さんとは別の人からもクルマを騙し取っていて、この店に持ち込んで売ろうとしていたのです。
実は、濱田容疑者が田中さんに提示したのも偽造の免許証でした。
顔写真は本物ですが、名前が濱田ではなく、石飛になっています。
田中さんのクルマも別の中古車販売店に転売されていましたが、事件が発覚したこともあり、手元に戻って来ました。
田中さんは次のようにおっしゃっています。
「当日持ってきた免許証が偽物にすり替えられていても、僕らオーナーとしては分からないので、見抜けないですよね。」
「厳密な審査があるとホームページとかに記載しているので、それを信じて貸し出ししているわけなんですよ。」
「前提条件として、そこが担保されていないので、オーナーとしても「どうするべきやねん」ってなりますね。」
この問題について、NTTドコモの吉澤 和弘社長は会見の場で次のようにおっしゃっています。
「実際にカーシェアで借りに来た時に、本人の免許証と確認するという照合作業が出来ていなかったということで、それ(本人確認)はすぐに出来るようにしたわけですけども、・・・」
事件後、NTTドコモでは顔写真の登録を義務化し、免許証に加えて保険証などの提出を求めることで本人確認の仕組みを強化しました。
ただ、盗難被害の補償については検討中としています。
一方、個人間のカーシェアリング最大手「Anyca(エニカ)」を運営するDeNA(ディー・エヌ・エー)も補償についての対応を進めています。
「Anyca」は信頼性を高めるため、本人確認にAIを導入、登録された情報の不正見地に活用しています。
更に、万一不正が起きた場合に利用者への補償やトラブル対応を充実させるため、SOMPO HD(損保ホールディングス)と合弁会社を設立しました。
エニカの事業責任者、馬場 光さんは次のようにおっしゃっています。
「しっかりした補償制度を作っていくだとか、そういったトラブルが起こらないように予防するような仕組みをちゃんと作っていくことが大事だと思っています。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
そもそもカーシェアリングにはどのようなリスクが潜んでいるのでしょうか。
また、どのようなリスク対応策が考えられるのでしょうか。
以下にまとめてみました。
(貸し手側のリスク)
・借り手のドライバーの中には乱暴な運転をする人もおり、クルマの寿命を短くしてしまう
・借り手のドライバーが事故を起こしたり、何かにぶつけてしまったりして修理が必要になり、その結果、自分が乗る予定だったのに乗れなくなってしまう
・また、下取りする際のクルマの査定価値を下げてしまう
・借り手のドライバーが自動車保険の対象外の事故を起こしてしまい、その際の取り決めがカーシェアリング会社によりきちんと明記されていない
・また、借り手のドライバーに何らかの責任がある事故の発生時にその人に支払い能力がなく、その件の処理に巻き込まれてしまう
・借り手のドライバーにより転売されてしまったようなケースは全て自分で対応せざるを得ない
(リスク対応策−貸し手、および借り手)
・カーシェアリングを利用する際、上記のリスクに照らして、カーシェアリング会社の利用規約がどうなっているかを見極め、その結果で利用するかどうかを判断する
(リスク対応策−カーシェアリング会社)
・借り手による転売のようなのリスクも含めて出来るだけ多くのリスクを洗い出し、そうしたリスクに照らして、出来るだけリスクが発生しないように、またリスクが発生した際も貸し手、借り手が必要最小限の対応、あるいは損害で済むような合理的な判断のうえで、利用規約を作成する
なお、カーシェアリングはクルマという資源の有効活用を拡大するうえで、とても理に適ったサービスです。
ですから、このサービスを健全なかたちで普及させるために、関係省庁にはカーシェアリング会社に対して一定のガイドラインを提供することが必要です。
ということで、クルマに限らず、これからも様々なシェアリングサービスが拡大していくと思いますので、関係省庁には先手、先手で早期のガイドラインの作成が求められるのです。