昨年10月8日(火)付け読売新聞朝刊の一面記事の「サイバー対策 使わず廃止」というタイトルに目が留まったのでご紹介します。
政府機関の機密情報を狙ったサイバー攻撃対策の「切り札」として、総務省が2017年度から約18億円をかけて導入したセキュリティシステムが一度も使われないまま昨年3月に廃止されていたことが会計検査院の調べで分かりました。
使い勝手の悪さやコスト面から各府省庁が使用を見合わせたためで、総務省は「ニーズの把握が不十分だった」としています。
廃止されたのは「セキュアゾーン」と呼ばれるシステムです。
2015年に「標的型メール」によるサイバー攻撃で、日本年金機構から基礎年金番号などの個人情報約125万件が流出したことを受けて導入が決まりました。
総務省は、2015年度の補正予算に開発費やサーバー設置場所の賃貸借料など約18億円を計上しました。
2017年度に完成し、各府省庁がハードウエアなどを共通で整備・運用する「政府共通プラットフォーム」の中に置かれていました。
インターネット環境から遮断された上で、強固なセキュリティ対策が施されており、各府省庁は専用回線で機密情報を閲覧出来ますが、ダウンロードは出来ない仕組みでした。
関係者によると、セキュリティゾーンの高度なセキュリティは各府省庁にとって使い勝手が悪く、保管されたデータの出し入れや訂正には、各府省庁の職員が設置場所まで足を箱ぶ必要があり、使用にあたっては負担金が生じる可能性もありました。
このため、各府省庁は自前のシステムなどで十分と判断したといいます。
総務省については、計画段階から利用を希望していませんでした。
同省は、検査員の調査を受け、今後も利用の見込みがないことや、年間3億6000万円程度の維持・管理費がかかることから、昨年3月末で廃止しました。
同省の担当者は「結果的に利用に至らず、事前に設定や仕様の二―ズを的確に把握すべきだった」としています。
以上、一面記事の内容をご紹介してきました。
今回ご紹介したような総務省による約18億円という大金の無駄遣いは一般企業では考えられません。
しかも、その原因は、プロジェクト管理の観点からすれば、とても初歩的なものです。
ユーザー要求をきちんと把握し、それをシステム要件としてまとめ、それに従ってシステム開発を進めれば、このような無駄遣いは防げたのです。
では、なぜこうした壮大な無駄遣いが発生してしまったのかですが、以下のような原因が考えられます。
・総務省内にシステム開発、あるいはプロジェクト管理の基本的な知識を有する人材がこのプロジェクトに参画していなかったこと
・総務省内に、このシステム導入には億単位という国民による血税が投入されているというコスト意識が欠落していたこと
・この開発案件を請け負った開発会社が業者として、プロジェクトの進め方などについて総務省側に積極的にアドバイスをせず、ほとんど言われるままに作業を進めたこと
なお、昨年11月8日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)では以下のように報じています。
会計検査院は、税金の無駄遣いなどの指摘金額が2018年度は1002億円と、2年連続で1000億円を上回ったとの報告書をまとめました。
省庁別では、経済産業省の約203億円が最も多く、次いで財務省の約154億円、農林水産省の約141億円などとなっています。
なお、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「(この中身について、)これ(202億6103万円)は中小企業基盤整備機構という組織があるんですけども、要するにリーマンショック後は非常に活躍してたんですけども、今、金融の面で平易になっていますから、必要額が相対的に少なくなって、(出資金の約375億円から必要額の約172億円を差し引いた)202億円あまりのお金は余っているんですけど、それは返してということで、決して無駄遣いをやっていたということではないと思います。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
滝田さんの指摘された約202億円は差し引いたとしても、約800億円の税金の無駄遣いが発生していたことになります。
しかも、2017年から2年連続で1000億円を上回ったとの報告がなされているのです。
こうした状況から、所得税や消費税の増税を国民に押し付ける前に、国は各省庁の無駄遣いを徹底的に削減するような取り組みをリードしていただきたいと思います。
そこで、こうした無駄遣いの再発防止策ですが、私の思うところを以下にまとめてみました。
・各省庁の活動には、国民の血税が投入されているので無駄遣いは許されないという認識を徹底させること
・各省庁のシステム部門関係者には、プロジェクト管理の基礎知識の研修を受けさせること
・各省庁のシステム部門関係者は、常識的なプロジェクト管理手法に則ってシステム開発に取り組むこと
・各省庁横断的に、プロジェクト管理の第三者的なシステム監査部門を設立すること
・すくなくとも大規模プロジェクト開発においては、開発の主要局面ごとにシステム監査部門による監査を受けること
さて、アイデアよもやま話 No.4177 普及の遅い霞が関のテレワーク!でもお伝えしたように、一方で省庁によってはテレワークなど前向きな取り組みも進められているのです。
現政権には、こうした流れを取り込んで、「働き方改革」を民間に働きかけるだけでなく、「隗より始めよ」のごとく、ITやAIなどの最新テクノロジーを駆使して、「働き方改革」はその一部と位置付け、行政改革に取り組んでいただきたいと思います。
現状の無駄遣いから推測すると、本気で取り組めば2割程度のコスト削減は十分可能だと思うのです。
ただし、その際には、是非プロジェクト管理のイロハの習得を省庁内に徹底させていただきたいと思います。