2020年02月05日
アイデアよもやま話 No.4557 ミライを創る『大切な真実』とは!

昨年10月8日(火)放送の「視点・論点」(NHK総合テレビ)でミライを創る『大切な真実』について取り上げていたのでご紹介します。

なお、今回の論者は京都大学客員准教授、瀧本 哲史さんでした。

 

1990年代にはジャパンアズナンバーワンと称され、世界の時価総額上位企業を日本企業が殆どを占める時代から、この20年間、日本はその地位を一貫して落して来ました。

時価総額上位企業は、アップル、アマゾン、グーグルなどアメリカの新興企業が占め、日本は、中国、インドなど新興国にどんどん抜かれる国になろうとしています。

この間、急に日本人の何かの能力が落ちたり、日本社会が構造的に変わったという証拠を見いだすのはなかなか難しいかと思います。

むしろ、私はこの原因を外部環境の変化、世界のゲームのルールが変わったことに求めます。

キーワード的にいうのであれば、それはグローバル資本主義とコモディティ化ということになろうかと思います。

グローバル資本主義は一言で言えば、世界中で最適なものを集めて提供する、世界で唯一の特徴を持った会社が国境を越えて世界の標準になり、圧倒的な競争力を持つようになるということです。

アップル、アマゾン、グーグルは全てそういう企業です。

実は、日本企業でも、村田製作所、日本電産と言った唯一の特徴をもった会社は今でも高い今日競争力を持っています。

逆に、顧客から見て優劣がつきにくい状態、つまりコモディティ化が起こり、特色のない複数の供給者がいる製品はいかに客観的に品質が高かろうと、価格競争になり易く買いたたかれます。

日本の「おもてなし」ですら皆が同じようにやって、過当競争になっているため、世界の観光市場のなかで特に高価格がつきません。

この傾向は今後増々AIの進展によって強まるでしょう。

過去のデータを元に最適化する、パターン化するのはコンピューターの最も得意とするところです。   

「今まで」と「これから」の違いは、「課題を解く」から「課題自体の発見」が大事であり、「100%の真実」は価値がなく、「半信半疑。少数意見が多数に変わる」に価値が生じる訳です。

「今までの延長で改善」しても「非連続、破壊的な発見」に簡単に上回られてしまうわけです。実際、グーグルもアマゾンも当初はその将来に対して懐疑的な意見が多数を占めていました。

小型モーターで世界の標準となった日本電産も、永守社長が元々勤めていた会社の上司、銀行、日本のメーカーは、彼の考えを真面目に取り上げませんでした。

Facebookの初期の投資家であり、オンライン決済の世界の標準になったペイパルの創業者でもある、エンジェル投資家、創業期の企業を専門に投資する投資家のピーター·ティール氏は「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう」と必ず問いかけるそうです。

現代はまさに、この「大切な真実」が大きな価値を持つ時代であり、既に分かっていることをより一生懸命にやることの価値が落ちている時代なのです。

それでは、どのようにして、この「大切な真実」を見つけることが出来るようになるのでしょうか。いろいろな切り口があると思いますが、過去、新発見をおこなった偉人達の例を研究してみると、「例え反対する人がいても、現状に対する違和感を大切にする」ことにあろうかと思います。

分かり易くするために、近代的な病院、看護制度の祖であるナイチンゲールを例にとりましょう。

彼女は、どちらかというと博愛精神的な文脈で注目されがちな人ですが、科学史の文脈では、統計学者として取り上げられます。

ナイチンゲールの時代には看護の重要性は顧みられず、看護に当たるスタッフの社会的地位もかなり低いものでした。

ナイチンゲールはクリミア戦争の従軍経験を通じて、この通説に対して強い違和感を感じました。

そこで、兵士の死亡原因を統計的に調査した結果、戦闘の負傷を直接の原因で死亡する兵士よりも、その後の看護の質の低さによる感染症などで死亡する兵士が多数を占めることを証明し、看護の重要性を説きました。

これは、当時のイギリスで激しい論争を呼びましたが、最終的にナイチンゲールの主張が通り、これが現在の看護システム、病院の設計までにつながっています。

周りの反対を押し切って、自分がつかんだ「大切な真実」を仮説とし、それを事実をもって証明するというのは多くの新発見で見られる現象です。

窒素ガリウムをつかって青色LEDをつくるというアイディアを実験を通じて、証明、実用化し、ノーベル賞を受賞した中村修二さんも会社から理解を得られず、会社に隠れてこそこそと研究を続けていました。

iPS細胞を発見してノーベル賞を受賞した山中先生も、最初の研究資金を検討する審議会では、たった一人をのぞいて「SFのようだ」「無駄金」などと低い評価だったそうです。

実は、「大切な真実」の目の前を通りがかった人は沢山いると思います。

ただ、ナイチンゲールは貴族で数学教育を受けており、中村さんは隠れても出来るぐらい研究施設が素晴らしく、山中さんは、たった一人でも応援してくれる人に出会えたのがある意味ラッキーだったのです。

 

さて、以上を踏まえた上で、日本の社会システムは、「大切な真実」あるいはそれをつかんだ人を大切にするような仕組みになっているでしょうか。

残念ながら、そうはなっていません。

教育システムは、新しいことを見つけることよりも、今までの知識を覚えて、それを再現することが重視されています。

勿論、基礎的な知識、現状を知らなければ、それを打ち破ることも出来ないわけですが、手段である知識が目的になっており、「大切な真実」を見つけることとは無関係な、ただのクイズ大会になっています。

日本の意思決定システムや意思決定者であるエリートを選抜する仕組みも同じように「大切な真実」の発見能力よりも、既に分かっている知識の再現能力や整合性を説明する能力が重視されているように思います。

最も多くの資本を所有し、最も権限を持ち、従って、最も重要な意思決定をすべき政府、公共セクターにおいて、この傾向はより顕著と言えるでしょう。

こうした仕組みは、欧米先進国キャッチアップ型国家として最も成功したかつての日本には最適でしたが、「大切な真実」が世界を支配する新しいゲームのルールになった現代のグローバル資本主義においては、見直しは避けられないと考えます。

一方、現代社会に合わせた教育改革の方向として、「すぐに社会に役立つことを教えよう」「社会に役立つ研究を重視しよう」という方向が打ち出されつつあります。

しかし、これは現代社会に合わせているようで真逆な方向だと実は考えています、

というのも、社会にすぐに役立つことは、現代においては、「大切な真実」によってそう遠くない将来打ち破られる知識であり、それを身につけても、安く買いたたかれます。

また、新発見を行った研究者は口を揃えて、「役に立つかはあまり考えなかった。動機は、むしろ知的好奇心だった」と答えています。

今必要なのは、「大切な真実」を追求したくなるような知的好奇心を刺激することと、貴族でなくても、偶然に恵まれなくても、社会全体が「大切な真実」の価値、可能性を認め、守り育てていくような仕組みに変えていくということなのではないか、と考えています。

それは、未来の可能性を信じて、すぐに成果が出なくても、教育や基礎研究に投資していくということではないかと考えています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず、瀧本さんのおっしゃった内容を以下に要約してみました。

1990年代にはジャパンアズナンバーワンと称され、世界の時価総額上位企業を日本企業が殆どを占める時代から、この20年間で日本はその地位を一貫して落して来た

・この原因は外部環境の変化、世界のゲームのルールが変わったことと思う

・キーワード的には、グローバル資本主義とコモディティ化と思う

・「今まで」と「これから」の違いは、「課題を解く」から「課題自体の発見」が大事であり、「100%の真実」は価値がなく、「半信半疑。少数意見が多数に変わる」に価値が生じることにある

・「今までの延長で改善」しても「非連続、破壊的な発見」に簡単に上回られてしまう

・現代はこの「大切な真実」が大きな価値を持つ時代であり、既に分かっていることをより一生懸命にやることの価値が落ちている時代である

・この「大切な真実」を見つけるには、「例え反対する人がいても、現状に対する違和感を大切にする」ことが必要である

・日本の社会システムは、「大切な真実」あるいはそれをつかんだ人を大切にするような仕組みになっていない

・日本の現在の教育システムは、新しいことを見つけることよりも、今までの知識を覚えて、それを再現することが重視されており、手段である知識が目的になっており、「大切な真実」を見つけることとは無関係な、ただのクイズ大会になっている

・今必要なのは、「大切な真実」を追求したくなるような知的好奇心を刺激することと、社会全体が「大切な真実」の価値、可能性を認め、守り育てていくような仕組みに変えていくということなのではないかと思う

・それは、未来の可能性を信じて、すぐに成果が出なくても、教育や基礎研究に投資していくということではないかと思う

 

以上、私なりに要約してみました。

 

私は瀧本さんの指摘している内容に大いに賛成です。

実は、私はインターネット(ネット)が普及し始めた頃、SE(システムエンジニア)として外資系コンピューターメーカーに勤務していましたが、業務で実際にあるソフトの販売会社をネット検索して簡単に候補として数社を見つけることが出来ました。

このことで、ネットの可能性に身震いするほどのショックを受けたことを今でも鮮烈に記憶しています。

これからはあらゆるモノがネット上でやり取りされるようになると直感したのです。

そして、その後徐々にネット社会のメリットを生かした革新的なビジネスの試行錯誤が繰り返されて今に至っているのです。

その結果、今日まで無数のベンチャー企業がネット関連ビジネスに果断に挑戦し、一時はネットバブルと揶揄されたこともありました。

その中の一つ、アメリカのベンチャー企業、アマゾンも誕生した当初は、そのビジネスモデルについて専門家からもその将来性を疑問視されていました。

しかし、今ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の一画としてネット通販業界では確固たる地位を築いております。

このように、残念ながら「大切な真実」は専門家も含め、多くの人たちにはある程度時間が経過してみないと分かりにくいのです。

 

こうした流れと並行して、昨年ノーベル化学賞の受賞で一躍有名になったリチウムイオン電池の実用化も相まってパソコン、携帯電話、スマホというネット上のコミュニケーションのツールも高機能化、低価格化が進みどんどん普及して、今では若者を中心にほとんどの人にとって必需品となっています。

また、こうした流れの延長線上で、AIやロボット、あるいはセンサーといったテクノロジーもどんどん進化しています。

また、今思えば、今言われているIoT(モノのインターネット化)という概念も既にインターネットが普及し始めた時に芽生えていたのです。

そして、今では自動車の自動運転や遠隔医療、ロボットホテル、あるいは顔認証、防犯カメラといったようにどんどんビジネスのニューフロンティアが誕生してきています。

 

こうして見てくると、やはりインターネットの発明こそが今回のテーマである「大切な真実」の根幹を成していると思うのです。

あらゆる情報がデータというかたちでネット上でつながり、しかもその各データは人手を介さずに自在に加工することが出来、ユーザーの望むかたちで提供出来るのです。

 

ですから、こうした一連のテクノロジーの従来にないメリットを最大限に駆使して新しいビジネスモデルを具現化した企業が既存の企業群を短期間のうちに凌駕してしまうことは決して不思議ではないのです。

例えてみれば、竹槍と戦車との戦いのようなもので勝負にならないのです。

 

ではなぜ1990年代にはジャパンアズナンバーワンと称された日本企業が現在のように総じて競争力が無くなり、元気がなくなってしまったのでしょうか。

そのキーワードは、以前から言われている“生き残るのは強い者ではなく環境に上手く適応した者である”だと思います。

要するに、テクノロジーを中心にビジネス環境の大転換という「大切な真実」に相対的に鈍感であったのです。

しかし、考えてみれば、このことは日本だけでなく、欧米の企業も総じて多くの日本企業と同様な状態だったのです。

 

ということで、国を問わず、”いかに早く新たな「大切な真実」に気付き、それに真摯に向き合い、課題として認識し、素早く実用化に結び付け、世界共通のビジネスモデルとして展開するか”というのがこれからの経済の覇権争いを制するカギになると思うのです。


 
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