2019年12月14日
プロジェクト管理と日常生活 No.619 『堤防が浸水被害を拡大!?』

11月13日(水)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で堤防が浸水被害を拡大させるリスクについて取り上げていたのでご紹介します。

 

台風19号の被害に遭った岩手県山田町のある地区では東日本大震災をきっかけに造られた堤防が浸水被害を拡大させたと見られています。

住民を守るはずの堤防でなぜ被害が大きくなってしまったのか、番組で取材しました。

 

10月13日午前6時頃、辺り一面が水に浸かった住宅地、岩手県山田町船越 田の浜地区で地元の消防団員が撮影した映像では、多くの住宅の1階部分が浸水し、約80棟の住宅が被害を受けました。

被害の一因となったのは、長さ400m、高さ約3mの堤防です。

東日本大震災の津波で大きな被害を受けたこの地区、津波対策として昨年5月に完成しました。

堤防から内側には住宅地、そして山があります。

今回の台風19号の豪雨では山から大量の水や土砂が流出、住宅地に向かって流れ込んだ水を堤防がせき止めるかたちとなりました。

 

この地区に住む田代 次雄さん(80歳)は妻と二人で暮らしていた自宅が全壊し、今も後片付けに追われています。

今回の台風で2階建ての自宅は1階部分が全て浸水しました。

電気製品や家具はほとんどが使えなくなりました。

8年前(2011年)の震災でも同じ場所にあった自宅が津波で全壊、老後の資金を取り崩し、1600万円をかけて再建しました。

ようやく日常が戻って来た中で、二重被災に見舞われました。

7人いる孫たちとの触れ合いを楽しみに自宅を再建した田代さんですが、その場所が今回の台風で奪われました。

田代さんは次のようにおっしゃっています。

「(台風がなければ、ずっと暮らすはずだったかという問いに対して、)もう一生、孫の時代まで。」

「ここはね、孫のために私は作ったんですよ。」

「一番大事な子どもたちの田舎を作っていきたいと思っていたのが破壊されたから、それが一番悔しいですね。」

 

8年前の震災と今回の台風、2度にわたり被災した田代さん、高齢のため再建に向けた資金繰りも厳しく、今後の見通しは立っていません。

田代さんは次のようにおっしゃっています。

「一番感じるのは、これ(堤防)をどうするのか。」

「(同じやり方で堤防を復旧したら住みたくないのかという問いに対して、)住みたくないですよ。」

「また同じことになるでしょうよ、いつかは将来。」

 

町は堤防を建設するにあたって、大雨対策として4ヵ所の排水溝を設けていました。

それにも係わらず、なぜ水をせき止めてしまったのか、砂防学が専門の岩手大学 農学部の井良沢 道也教授は11月3日に山田町の堤防周辺で調査を行いました。

注目したのは堤防から300mほど高台にある場所です。

直径1mに満たない用水路、山から流れ込んだ土砂などが詰まり、ここから水や土砂が溢れたと見ています。

そして、これらが住宅地を下って堤防に向かって流れ込み、排水溝を詰まらせた可能性が高いと見ています。

井良沢教授は次のようにおっしゃっています。

「ここ(用水路)に大量の土砂が来て閉塞して、ここから道路が川沿いになって水と土砂を流した。」

「あれぐらいの穴にこれだけ大量の土砂が出てきたら、全く流す力がなかったということですね。」

 

井良沢教授は、東日本大震災の被災地では住民が海の近くから高台に移転するケースが多く、土砂災害に巻き込まれるリスクが高まっているといいます。

今回の堤防については用水路の拡張など、土砂災害への対策が必要だったと指摘しています。

「海から来る津波が非常に深刻だった地域ですので、海に対しての備えは非常に増したと思うんですが、山から来る災害に対してこれから少し備えをしていく必要があるなと痛感しました。」

 

なお、番組ではこの他にも台風19号で亡くなった人は92人、行方不明は3人(NHK調べ)となっていますが、亡くなった人の約15%に当たる13人は通勤など仕事関連で移動中だったと報じていました。

災害時の避難行動に詳しい静岡大学の牛山 素行教授は次のようにおっしゃっています。

「無理に帰らせるのではなく、あるいは出勤させるのではなくて、特に危険な状況が予想されている場合には出勤、あるいは退勤について、“そんなに無理しなくていいですよ”と(言う)、そういった社会的な取り組みが増々重要になってくると思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通して分かるのは、これまで主に大地震や大津波の対策に焦点が当てられてきましたが、台風などによる集中豪雨もこれまでの想定をはるかに上回る雨量に達し、土砂災害リスクの対応策の再検討をせざるを得ない状況になってきたのです。

実際に東京都では既に地下空間に一時的に雨水を貯める「調整池」は、計11河川25ヵ所で調節池が整備済みといいます。(詳細はこちらを参照)

また、私の住んでいる神奈川県内でも地上にある調整池を見かけます。

 

なお、今年発生した各地での想定外の記録的な集中豪雨による被害をベースに考えると、具体策として以下のような項目が挙げられます。

・高台などに設置されている用水路、あるいは住宅地の排水溝の太さの見直し

・津波対策として設置された堤防が貯水地としての機能を果たしてしまい、住宅に浸水被害や土砂災害をもたらすリスク対応策として、集中豪雨用の大型貯水施設の更なる建設

 

しかし、こうした対応策も地球温暖化の進行とともに、集中豪雨の雨量はどこまで増えるか計り知れません。

そして、その対応策との追いかけごっこはどこまで続くか分かりません。

ですから、やはり根本的な対応策は地球温暖化の大きな要因とされるCO2排出量の削減なのです。

しかも日本だけが一生懸命取り組んでもその効果は極めて限定的なのです。

中国やアメリカを始め、世界各国が共に協力して取り組むことが必須なのです。


 
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