2019年12月07日
プロジェクト管理と日常生活 No.618 『危うい日本の石炭火力発電!』

10月4日(金)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)でアル・ゴア元アメリカ副大統領による警告について取り上げていたのでご紹介します。

 

今、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん(16歳)をはじめ、世界中の若者たちが地球温暖化への対策を求めて立ち上がっています。

そして、この問題に30年以上前から取り組んできたのがアメリカのアル ゴア元副大統領(71歳)です。

このほど来日し、日本にも対策を呼びかけました。

温暖化対策のイベントに登場したゴアさんは次のように演説しています。

「日本の平均気温は次の80年で更に5.4℃上昇する可能性がる。」

 

世界中で起きている気候変動の実態を説明し、“皆さんの選択が未来を決める”と呼びかけました。

大学時代から地球温暖化に関心を持っていたというゴアさん、クリントン政権で副大統領を務めた1997年には温室効果ガスの排出削減目標を定めた京都議定書の採択に大きな役割を果たしました。

 

政界を引退してからは世界各国で温暖化対策を訴える活動を本格化しました。

2006年には、映画「不都合な真実」を公開、このままでは氷河が溶け、海面が上昇し、都市が水没すると訴えました。

それから10年余り、ゴアさんが映画で訴えた懸念は現実のものとなっています。

ゴアさんは次のようにおっしゃっています。

「20年前、科学者たちが出した警告は正しかったと証明されました。」

 

ハリケーンや台風が大型化、毎年の熱波をはじめ世界中で異常気象が猛威を振るっています。

9月に開かれた温暖化対策サミットでは、60ヵ国が再生可能エネルギーの導入などを発表しました。

一方で、日本は新たな対策を表明しませんでした。

ゴアさんは、“京都議定書で日本が世界に示したリーダーシップが弱まっている”と危惧して次のようにおっしゃっています。

「ここ数年、日本の気候変動への取り組みは変わってしまいました。」

「日本は東南アジア諸国に税金を使って石炭火力発電所の建設を支援するのではなく、太陽光や風力発電を取り入れるよう促すべきです。」

 

気候変動の影響を最も受けるのは若者たちです。

日本を含む世界中の若者の切実な声に大人たちは直ちに応えるべきだとゴアさんは次のように訴えます。

「気候変動は人類が直面する最重要課題です。」

「私には4人の子どもと7人の孫がいて、未来の世代を気にかけています。」

「未来の世代が我々のせいで破壊された世界に暮らすことになれば、グレタさんが言ったように“決して許さない”と言って当然です。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

一方、10月7日(月)付けネットニュース(こちらを参照)で日本の石炭火力発電が「座礁資産」になるリスクについて取り上げていたのでご紹介します。

 

日本では再生可能エネルギーのコスト低下によって、石炭火力発電関連施設には、最大710億ドル相当の「座礁資産(市場・社会環境激変により価格が大幅に下落する資産)化リスク」があると、東京大学とイギリスのシンクタンクのカーボントラッカー、機関投資家が運営するカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)は10月6日に調査報告書を公表しました。

 

報告書は、現在稼働中と計画段階の日本の石炭火力発電施設の経済効率性を、プロジェクトファイナンスのモデルを用いて分析しました。

低稼働率と、陸上風力、洋上風力、太陽光といった再生可能エネルギーのコスト低下が日本の石炭火力発電能力に打撃を与える可能性があるとの見方を示しました。

 

洋上風力、太陽光、陸上風力のコストはそれぞれ2022年、23年、25年までに、新規計画中の石炭火力発電よりも安くなり、既存の石炭火力発電と比べても洋上風力と大規模太陽光は25年、陸上風力は27年に長期の限界コストが安くなるといいます。

 

また報告書は、世界の気温上昇を2度未満に抑えるという国際的な合意「パリ協定」に基づく取り組みを達成するには、計画中と稼働中の石炭火力発電施設を閉鎖する必要があり、それに伴って710億ドルの座礁資産が生じて日本の消費者が電力価格上昇という負担を強いられかねないと警告した上で、もし日本政府が速やかに石炭火力発電施設の計画と建設を中止すれば、290億ドル分のリスクは回避出来ると付け加えました。

 

日本政府は、再生可能エネルギーを主要な発電の手段とすることで50年以降の早い時期に発電における温室効果ガス排出をゼロにして、パリ協定を達成出来ると表明してきました。

ただ2011年の福島第一原発事故を受け、2010年に80%だった化石燃料輸入への依存度が2016年に95%近くまで上昇し、発電によって排出される温室効果ガスは25%増加したことが、国際エネルギー機関(IEA)のデータで分かりました。

 

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

 

また、プロジェクト管理と日常生活 No.611 『私たちが思っているよりも緊迫化している地球温暖化リスク その1 16歳の少女の訴えが世界を動かす!?』でもお伝えしたように、現実に地球温暖化のスピードは専門家の想定よりも速いスピードで進んでいるようです。

 

こうした状況において、確かに2011年の福島第一原発事故を受け、日本のエネルギー政策は大きな影響を受けました。

同時に、火力発電の割合が一気に上昇し、それに伴ってCO2排出量も大幅に増え、世界的な地球温暖化対策にマイナスの影響をもたらしています。

 

一方で、日本の「第5次エネルギー基本計画」(2018年7月3日閣議決定 詳細はこちらを参照)によれば、2030年に実現を目指すエネルギーミックス水準(電源構成比率)は以下の通りです。

再生可能エネルギー:22〜24%

 原発       :20〜22%

 化石燃料     :56%

 

一方、2050年に向けては、日本が掲げている「2050年までに温室効果ガスを80%削減する」という高い目標の達成に向けて、「エネルギー転換」を図り、「脱炭素化」への挑戦を進めていくとしています。

 

こうした流れの中で、11月27日(水)放送の「ニュース7」(NHK総合テレビ)は、東日本大震災の津波で壊滅的な被害に遭った宮城県女川町にある東北電力・女川原発2号機が再稼働の前提となる審査に事実上審査に合格したと報じていました。

 

日本の進めるエネルギー政策について、今回ご紹介した内容からすると、以下の点で明らかに世界の流れから立ち遅れている、あるいは逆行しているように思います。

・原発による核廃棄物の最終処分場所の確保の保証が曖昧な状態にも係わらず、原発の再稼働、あるいは新規原発の稼働計画を進めていること

・他の化石燃料に比べて低コストではあるが、CO2排出量の最も多い石炭火力発電の途上国向けの導入支援を進めていること

石炭火力発電は「座礁資産」になるリスクがあること

 

一方で、以前にもお伝えしたように、今や再生可能エネルギー発電のコストは急速に低下している一方、原発関連コストは福島第一原発事故以降、万一、福島第一原発事故のような事故が起きた場合の対応コストが上昇しています。(参照:アイデアよもやま話 No.4378 福島第一原発事故の対応に最大81兆円!?

こうしたデータをどこまで真摯に受け止めて日本政府はエネルギー政策を検討しているのか分かりませんが、いずれにしても近い将来、再生可能エネルギー発電は原発や火力発電よりも低コストになることは明らかなのです。

しかも、再生可能エネルギー発電は原発よりもはるかに安全です。

また、化石燃料は可採年数(ある年の年末の埋蔵量をその年の年間生産量で割った数値)がいずれゼロを迎えることは明らかですが、再生可能エネルギーはこうした制約がありません。

更に、アイデアよもやま話 No.4457 再生可能エネルギー革命を先取りする投資マネー!でもお伝えしたように既に再生可能エネルギー発電は原発や火力発電よりも低コストであると見ている投資機関もあるのです。

そして、こうした情報をベースに再生可能エネルギーへの投資が急拡大しています。

ですから、石炭火力発電の途上国向けの導入支援を進めていることだけ取り上げても、世界各国から日本のエネルギー政策に対して疑問が投げかけられることは明らかです。

しかし、現政権は既得権益を握っている企業に配慮しているためなのか、ソフトランディングを目指しているからなのか、現実の地球温暖化のスピードに追い付いていけるようなエネルギー政策を取っていないと思われます。

 

こうしたことから、国の政策として早期に再生可能エネルギー発電を主軸としたエネルギー政策に大きく舵を切るべきなのは明らかだと思うのです。


 
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