2019年12月06日
アイデアよもやま話 No.4505 日韓対立の真相 その2 5億ドルを巡る日韓経済秘史!

アイデアよもやま話 No.4490 “ファクトフルネス”の必要性!で事実や最新の統計を基に物事を見る習慣をつけること、すなわち”ファクトフルネス”についてご紹介しました。

そして、アイデアよもやま話 No.4491 “ファクトフルネス”の必要性を示す2つの事例!では、事例の一つとして今進行中の日韓問題についてご紹介しました。

また、アイデアよもやま話 No.4492 日韓のGSOMIA、望まれる2日後の失効回避!ではGSOMIAの失効は何としても避けるべきであるとお伝えしました。

この問題については、幸いなことにアメリカから韓国への強烈な圧力により失効予定前日に韓国政府は延期を公表しました。

この現在の日韓対立について、8月15日(木)、および8月16日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で「日韓対立の真相」をテーマに2回にわたって取り上げていました。

そこで、これまでお伝えした日韓問題を補足する意味で日韓対立の真相について2回にわたってご紹介します。

2回目は、8月16日(金)放送分を通して、5億ドルを巡る日韓経済秘史についてです。

 

今、輸出管理の厳格化を巡って、日本と韓国の対立が続いていますが、そもそも日韓関係が悪化するきっかけとなったのがいわゆる元徴用工の問題です。

安倍総理の写真を踏みつけ、思い切りパンチ、元徴用工問題で日本に抗議をする集会です。

徴用工とは、日本の統治下にあった朝鮮半島や日本本土で企業の募集・徴用により働いた朝鮮半島出身労働者のことで、推定70万人〜80万人いるとも言われています。

 

昨年、元徴用の4人が日本企業に損害賠償を求めた裁判、韓国の最高裁にあたる韓国大法院は、新日鉄住金(現日本製鉄)に1人当たり約4000万円の支払いを命じました。

そして今年、新日鉄住金(現日本製鉄)と三菱重工が持つ韓国国内の資産が差し押さえられました。

 

この元徴用工らへの賠償を巡る問題で重要なカギを握っているのが過去に日本と韓国の間で結ばれた協定です。

1965年に国交を正常化する日韓基本条約とともに締結されたのが日韓請求権協定です。

日本政府から韓国政府に5億ドル(有償・無償)、現在の価値で約7500億円が経済協力金として支払われました。

これは当時の韓国の国家予算を大きく上回る金額でした。

そのうち、個人への補償金については韓国政府の手で行うということが両政府の間で確認されています。

そのため、日本政府は韓国政府に支払った5億ドルで請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決したとして、日本企業に賠償金の支払いを命じた昨年の韓国最高裁の判決を受け入れないという考えです。

ですから、日本政府は韓国が国際条約を破っているというスタンスを取っており、韓国政府に是正に向けた措置を要求しています。

 

番組では韓国に支払った巨額のお金の行方を知ろうと、「請求権資金白書」という重要な資料を入手しました。

この資料は44年前に韓国政府が発行したもので、今回特別に入手しました。

中には5億ドルの使い道が詳細に書かれており、現在の対立の原点を読み解くことが出来ます。

日韓の問題を解決するはずだったこの5億ドルの行方、そして水面下で進んでいる新たな解決策について独自に取材しました。

 

「請求権資金白書」の中を開くと、次のような記述があります。

 

日本から無償3億ドル、有償2億ドル、合わせて5億ドルの請求権資金を1966年から1975年まで10年間にわたって受け入れることになりました。

 

農業や水産業、更に原子力研究などの科学技術にいたるまで日本の資金は様々な分野に使われたことが分かります。

中でも多く使われたのは漢江(ハンガン)鉄橋です。

ソウル市内を流れる漢江にかかる全長約1kmの漢江鉄橋、ここには約89万ドルが投じられました。

この他にもソウルと第二の都市、釜山(プサン)を結ぶ京釜(キョンブ)高速道路の建設には約690万ドルがつぎ込まれました。

白書には5億ドルのうち2割近くがインフラ整備に使われたと書かれています。

この日本からの資金により、韓国は急速な経済発展を遂げます。

これを韓国では“漢江の奇跡”と呼びます。

 

こうした日本の資金を使った経済発展について、国民は知っているのでしょうか。

日本から韓国への経済協力金、インフラよりも多くのお金が投じられたのが現在の韓国の製鉄大手、浦項(ポハン)総合製鉄(現ポスコ)の建設です。

ポスコは売上高6兆4000億円、世界第5位の粗鋼生産量を誇る韓国を代表する企業です。

その創設には日本からの5億ドルのうち実に24%を占める1億1948万ドルが投じられていました。

1970年、韓国・浦項で始まった製鉄所の建設、韓国は重工業化を掲げ、悲願の製鉄所建設にまい進しました。

そこに投じられた日本の経済協力金、建設を支えたのはお金だけではありませんでした。

実は浦項製鉄の建設のために多くの日本の技術者が技術指導にやって来ていたのです。

請求権協定で得た資金を経済成長のために使うと決断した朴 正煕(パク チョンヒ)元大統領、朴 槿恵(パク クネ)前大統領の父です。

朴大統領らは日本の有力者に製鉄所建設への協力を要請、お金だけではなく技術支援も取り付けたのです。

 

さて、大江麻理子メインキャスターは神奈川県鎌倉市在住の日本の商社、トーメンの韓国法人、韓国トーメンの百瀬 格(ただし)元会長(80歳)のお宅に取材に伺いました。

百瀬さんは当時の現場監督として浦項製鉄所の建設に係わり、工程管理や資材輸入などを手掛けていました。

当時について、百瀬さんは次のようにおっしゃっています。

「(浦項製鉄所の朴元社長と二人で話すことは多かったのかという問いに対して、)多かったですね。」

「浦項に派遣をされるきっかけについて、」1968年から1970年まで私2年間ソウル駐在してたんですよ。」

「ある日、突然のようなかたちでポスコから仕事をもらったんですね、うちの会社が。」

「で、えらいことになったと、どうするんだと。」

 

高炉を作るには高い技術力が必要でした。

それを持つ、当時の新日本製鉄などの日本企業グループが多くの技術者を派遣し、韓国人を指導しました。

百瀬さんは次のようにおっしゃっています。

「当時そこにいた人たちは「これが韓国経済にプラスになるよ」なんて考えてやってなかったです。」

「やっぱり自分の仕事だとやってたんです。」

「そのためには韓国の技術者と「あなた一生懸命やるね、じゃあ教えてやるから俺についてこい」みたいな・・・」

 

小さなミスが見つかれば、一から壊してやり直す、最高の製鉄所を作るため、お互いに妥協はしなかったといいます。

「“ワンチーム”で、けんかをしてやるんじゃなくて、どこか問題があるなら手伝ってあげるよというような気持ちをどこかに持ちながらやっていたんでしょうね。」

「今の日本と韓国の間は全然違いますよね。」

 

1973年、日本の資金と技術を基礎にして、韓国の浦項銑鉄所1号高炉が完成しました。

当時、朴元大統領は次のようにおっしゃっています。

「過去、我々の夢だと思っていたのが、夢ではなく、現実として我々の目で目撃出来ました。」

 

「請求権資金白書」では、次のように評価しています。

 

浦項総合製鉄工場建設は民族的な血で獲得した「対日請求権資金」で成し遂げた代表的な事業と見ることが出来る。

 

成果を誇る一方で、ある重要なことが記されていました。

 

民間人への補償について、この資金で国民所得を向上させることが何より至急な課題だったため民間人に対する補償問題を延期した。

 

白書によれば、1975年までに個人への補償に充てたのは5億ドルのうちわずか2000万ドル、元徴用工への補償は十分とは言えなかったのです。

釜山市在住の元徴用工、シン ヨンヒョンさん(94歳)は徴用工として招集され、日本の下関に渡り、炭鉱などで働かされたといいます。

シンさんは次のようにおっしゃっています。

「朴正煕元大統領が韓国のために資金を使った。」

「私たち被害者は(賠償金を)もらっていない。」

「朴正煕元大統領らがお金をもらってきて、道路やポスコを作ったんだ。」

 

韓国政府には請求権資金を本来の補償に充てて欲しいと主張しています。

 

そんな中、私たちはある重要人物に接触することが出来ました。

ポスコのユ サンプ元会長で、会長時代は当時の新日鉄と提携を強化し、ポスコの発展に貢献しました。

ユさんは次のようにおっしゃっています。

「(5億ドルの使い道は正しかったのかについて、)私はこの本(「請求権資金白書」)は読んでいませんけれども、実は一時ですけど、徴用工の補償についてポスコが出そうと思っていたんですよね。」

「ポスコとか現代(ヒュンダイ)自動車とかそういう企業と日本の企業と両方で出し合って収めようと・・・」

 

ユ元会長によれば、7月にポスコは韓国企業と日本企業が共同で数十億円規模の補償金を出すことを日本側に提案したといいます。

「ポスコとしては、製鉄をつくるのに成功したんだけど、ポスコのために犠牲になった人たち、元徴用工とか農民とか、日韓請求権協定によって全然恵みがなかったですからね。」

「じゃあ、助け合おうと。」

 

ユ元会長によれば、一部の日本企業側もこの案に同意しているといいます。

 

この案について、テレビ東京の取材によると、ある外務省幹部は次のようにおっしゃっています。

「日刊の企業間でそのやり取りがあることは把握している。」

「しかし、韓国政府が責任を持つ枠組みでないと解決には至らない。」

 

こうした状況について、解説キャスターで日経ビジネスの編集委員の山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。

「本来は個人に渡るべきお金が国家の方に渡ってしまい、そこから産業の発展に使われたと。」

「で、当然ポスコもそこで成長していったわけですから、ポスコが今贖罪の意識を持ってこの補償に取り組もうとする気持ちはよく分かるんですけども、じゃあ「一緒にやりましょう」と呼びかける相手が日本企業であり、日本政府なのかと。」

「やっぱりまず呼びかける相手というのは韓国政府じゃないかなと思うんですよね。」

「で、その主張として先ほど1965年の「日韓請求権協定」を説明しましたけど、もう1つこれを説明していかなければいけないと思うんです。」

「2005年、盧 武鉉(ノ ムヒョン)政権時代の見解というのがありまして、戦争被害者の救済をまとめる官民の共同委員会が立ち上がったんですけど、ここであらためて徴用工に関しては「解決済み」であると。」

「そして「責任を韓国政府が持つべきである」という再確認をしたんですけども、その時に、実はこの共同委員会の委員の一人が文 在寅(ムン ジェイン)氏、つまり当時の盧 武鉉大統領の側近中の側近だったわけです。」

「その人が今大統領になって、これを蒸し返すというのはやはりおかしいと思うんですよね。」

「(しかも今、文大統領は動く気配はなく、)昨日(8月15日)のスピーチを見ても徴用工については一切言及がなかったんですけども、やはりこの件については外交文書から明らかにボールは韓国政府側にあるわけですから、韓国政府が何らかの提案をしないと、日本政府としては動きようがない状況だと思うんですね。」

「(こういう政治が膠着している状態に見かねて、今経済界から声が上がったとう状況ではという指摘について、)経済界は動きたい、お金でもう1回補償して、それで収まるものなら収めたいという気持ちがある人も多いんですけども、やはり韓国政府が主語にならないと収まらないと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

日韓の5億ドルを巡る日韓経済秘史を以下にまとめてみました。

・1965年に国交を正常化する日韓基本条約とともに日韓請求権協定が締結されたこと

・それに伴い、日本政府から韓国政府に当時の韓国の国家予算を大きく上回る5億ドル(有償・無償)、現在の価値で約7500億円が経済協力金として支払われたこと

・そのうち、個人への補償金については韓国政府の手で行うということが両政府の間で確認されていること

・この経済協力金により、現在の韓国の急速な経済発展の礎とも言えるインフラ建設や基幹産業の育成が出来たこと

・この経済発展には日本企業による技術支援も大いに貢献したこと

・日本政府は韓国政府に支払った5億ドルで請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決したとして、日本企業に賠償金の支払いを命じた昨年の韓国最高裁の判決を受け入れないという考えであること

・従って、日本政府は韓国が国際条約を破っているというスタンスを取っており、韓国政府に是正に向けた措置を要求していること

・44年前に韓国政府が発行した「請求権資金白書」には以下の記述があること

  5億ドルのうち2割近くがインフラ整備に使われたこと

  現ポスコ)の建設にはインフラよりも多くのお金が投じられたこと

  民間人への補償について、この資金で国民所得を向上させることが何より至急な課題だったため民間人に対する補償問題を延期したこと

  1975年までに個人への補償に充てたのは5億ドルのうちわずか2000万ドルで、元徴用工への補償は十分とは言えなかったこと

  2005年、盧 武鉉(ノ ムヒョン)政権時代の見解として、戦争被害者の救済をまとめる官民の共同委員会が立ち上がり、ここであらためて徴用工に関しては「解決済み」であるとしたこと

そして「責任を韓国政府が持つべきである」という再確認をし、その時にこの共同委員会の委員の一人が当時の盧大統領の側近中の側近だった現在の韓国のムン ジェイン大統領だったこと

  一部の元徴用工は、韓国政府には請求権資金を本来の補償に充てて欲しいと主張していること

  ポスコは今年7月に韓国企業と日本企業が共同で数十億円規模の補償金を出すことを日本側に提案したといい、一部の日本企業側もこの案に同意していること

 

こうしてまとめてみると、ムン ジェイン大統領の罪が以下に示すようにいかに重いかが分かります。

・2005年に立ち上がった官民の共同委員会の委員の一人であったにも係わらず、そこで「責任を韓国政府が持つべきである」という再確認を承知していたのも係わらず、こうした事実を隠して偽情報をまき散らしていること

・多くの韓国国民の反日感情を煽り、日本商品の不買運動などを引き起こしていること

・これまでの日韓政府間での合意事項を蒸し返し、日韓関係を戦後最悪な状態にしていること

・日韓の経済状況の悪化を招いていること

・日米間の安全保障上の協力関係を危うくしていること

 

なお、11月27日(水)付けネットニュース(こちらを参照)によれば、民間企業のポスコによる補償金の拠出の提案とは別に、韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が強制徴用問題の解決策として日本側に提案した案を法案にまとめたことが11月26日に分かりました。

韓日両国の企業、政府、国民が参与して「記憶人権財団」を設立し、被害者1500人に総額3000億ウォン(約277億円)の慰謝料を支払うのが骨子です。

 

しかし、議長秘書官らによる被害者団体の代表らへの説明会の席で、以下のような質問の声が上がったといいます。

 

「日韓基本条約を基本とするならば、まずは韓国政府が補償するべきではないのか?

 

 「徴用工裁判で日本企業の資産が差し押さえられ、現金化されようとしている事態についてはどう説明をするのか?

 

アイデアよもやま話 No.4491 “ファクトフルネス”の必要性を示す2つの事例!でお伝えしたように、残念ながら元徴用工を巡る法的解釈には異論もあり、また「個人請求権」における日本政府のこれまでの対応が二転三転してきたという事実があります。

ですから、日韓問題を巡ってはこれからも当分尾を引きそうだと思われます。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています