2019年12月04日
アイデアよもやま話 No.4503 中国の経済進出は曲がり角に来ている!?

No.4458 ちょっと一休み その690 『「米中対立の世界」その先は?』でマレーシアのマハティール首相による中国との非凡な係わり方についてお伝えしました。

そうした中、7月25日(木)放送の「国際報道2019」(NHKBS1)で中国の世界各地への経済進出について取り上げていたのでご紹介します。

 

中国が進出しているアフリカ、インフラ整備などで膨らむ中国への借金が問題になっている国が少なくありません。

その一つがアフリカ南部のザンビアです。

現地では中国への不満が高まっています。

アフリカに積極的に進出する中国、中でもザンビアでの存在感は際立っています。

ザンビアの首都、ルサカの町ではいたるところで中国語を目にします。

例えば中国の大手銀行である中國銀行、鉄鋼会社の看板、それに学校の案内などです。

中国企業は大規模なインフラ整備をはじめ、あらゆる業界へ進出しています。

その数は500社を超えていると言われています。

多くの中国人も移り住み、ザンビアには正式に登録しているだけでも2万人の中国人が暮らしています。

 

しかし、今ザンビアで深刻になっているのが増え続ける中国への借金です。

首都、ルサカで中国の支援で進む建設工事の取材が許されました。

国際空港の工事現場、中国の資金で中国企業が建設を担っています。

建設費用は日本円で360億円あまり、現在の空港の10倍の利用客を受け入れられる巨大空港となる予定です。

一方、競技場の建設費は日本円で96億円あまりです。

しかし、巨額の建設費は最終的にはザンビア側が返済することになっています。

ザンビアの対外債務は年々増え続け、GDPの4割にあたる100億ドルに上ります。

その最も額の多い相手が中国なのです。

それでも政府はあくまで中国と協力して大型のプロジェクトを進める構えです。

地元の専門家、ザンビア大学のルビンダ・ハーバゾカ教授は政府の立場を次のように擁護しています。

「中国はビジネスをしたがり、ザンビアはそれを受け入れています。」

「債務は確かに巨額ですが、管理は出来ています。」

 

しかし、国民からは“中国の過剰な進出”だと不満の声が強まっています。

街中のある男性は次のようにおっしゃっています。

「中国の投資はザンビア経済のためにならない。」

「ザンビア人で出来ることも中国人に乗っ取られてしまう。」

 

別の男性は次のようにおっしゃっています。

「ザンビアに利益が還元されるのか、それが一番重要なことだ。」

 

更に、中国企業での労働環境を巡る問題にも批判が広がっています。

ムサカから北にクルマでおよそ10時間。一帯は世界有数の銅の産地です。

20年近く前から中国企業が進出し、銅の採掘をしています。

地元教会の活動家、ユーゲン・ムレンガさんのもとには中国の鉱山会社で働く労働者たちから長時間労働や不十分な安全管理などの訴えが相次いで寄せられています。

ムレンガさんは次のようにおっしゃっています。

「労働者は安全基準に不満を持っています。」

「労働時間が長いと疲労が溜まり、意欲がなくなり事故につながります。」

「中国系企業は現場の安全を最優先に考えるべきです。」

 

昨年11月、人々の不満が噴出しました。

中国企業への抗議が暴動に発展したのです

しかし、治安機関は118人を拘束し、中国への批判を抑え込もうとしています。

ムレンガさんも政府の情報機関から監視されるようになりました。

私たち(NHK)の取材の後にも、誰と会って何を話したのか、明らかにするよう求められたといいます。

 

人々の間に広がる中国の進出に対する不信感、野党は中国への借金がこれ以上膨らめば、国の利益が大きく損なわれると批判しています。

野党指導者のネバース・ムンバさんは次のようにおっしゃっています。

「中国の融資は略奪的です。」

「借金の返済が出来なくなれば、ザンビア国民の財産を奪おうとするのではないかと危惧しています。」

 

ザンビアで取材にあたった、NHKのヨハネスブルグ支局長、別府 正一郎さんはザンビアにおける中国の存在感について次のようにおっしゃっています。

「もはや積極的な進出というレベルを超えているように思います。」

「ザンビアでは、中国は基幹産業である銅の採掘で中心的な役割を果たしている他、融資や援助の大部分を担い、ザンビアという国は中国抜きでは回らないような状況になっています。」

「しかも影響は政治にも及んでいます。」

「中国への批判は、その進出を許している政府への批判とみなされることから、例えば鉱山の取材では鉱山労働者は誰もが情報機関の報復を恐れて私たちのインタビューには応じませんでした。」

 

「こうした状況はザンビアだけに止まりません。」

「私は今、ザンビアの西隣りのアンゴラの首都、ルアンダに来ています。」

「後ろに見える高層ビルの建設も多くを中国企業が担っています。」

「インフラ整備や融資など、同じようにアンゴラも中国抜きでは国は回らないような状況です。」

 

「(どこを見回しても中国という感があるが、アフリカの中国依存はこれからも続くのかという問いに対して、)大きな方向性は変わらないと思います。」

「アフリカのインフラ整備を巡っては、莫大な資金が必要なことから各国の間では引き続き中国マネーへの期待が根強いものがあります。」

「それでも最近は風向きが変わっているのも事実です。」

「ザンビアの野党指導者の話していたように、最近は中国の“債務の罠”への警戒から以前ほど中国の融資について闇雲に歓迎するということは無くなっています。」

「また、中国によるインフラ整備にしても事業費が膨れ上がり過ぎるとして、アフリカ各地で見直す動きが出ています。」

「ここアンゴラでは首都ルワンダの主要駅の工事が、またタンザニアでは港が、シエラレオネでは空港の工事がストップしています。」

「中国の“一帯一路”はアジアだけでなく、ここアフリカでも一つの曲がり角に来ているようにも見えます。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

中国は“一帯一路”構想により、史上最大規模の広範囲にわたる途上国へのインフラ投資計画を進めています。

この壮大な構想の狙いはとても素晴らしいと思います。

しかし、番組を通して見えてくるその実態は中国資本、および労働力の途上国への進出であり、このままこの流れが続けば、あちこちの途上国が“債務の罠”にひっかかり、領土の一部を中国に乗っ取られかねません。

そこまで行かなくとも、国の経済は中国資本や労働力にその主導権を渡す結果となることは明らかです。

 

 

そうした中、ようやく途上国の中には“債務の罠”にひっかかるリスクに対して警戒する動きが出て来たようです。

また、自由主義陣営からみると、中国は共産党による一党独裁で、習近平国家主席は軍事、および経済における覇権主義を目指しているように見えます。

ですから、多くの途上国が共産主義陣営に取り込まれていくことは自由主義陣営にとっては大きな脅威となります。

アメリカもようやく中国のこうした動きに対抗する積極的な動きを見せ始めています。

 

さて、途上国が健全な経済成長を遂げるうえで求められるのは、支援する側の先進国と支援を受ける途上国とがWinWinの関係になることです。

ですから、アメリカを始め、自由主義陣営の先進国は、中国による“債務の罠”を反面教師として、途上国自らが主体的に経済成長に取り組めるようなかたちの支援をすべきだと思うのです。

 

一方、いずれ近い将来、GDPでもアメリカを追い抜くと予測されている中国には、覇権主義を振りかざすのではなく、途上国との関係がWinWinになる方向で“一帯一路”構想を展開していただきたいと思います。

覇権主義を振りかざして、このまま世界展開を推し進めれば、いずれアメリカとの覇権争いがヒートアップし、軍事衝突のリスクが高まってくることは容易に想像されます。

こうしたリスクは絶対に避けなければなりません。

ですから、アメリカのトランプ大統領も“アメリカファースト”を唱えて世界をリードする立場を放棄するのではなく、自国も含めて世界各国がWinWinの関係を維持出来る方向性でリーダーシップを発揮していただきたいと思います。


 
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