2019年12月02日
アイデアよもやま話 No.4501 千代田区立麹町中学校の革新的教育!

今や、教育の世界もパソコンなどの活用による改革が進みつつあります。

そうした中、7月24日(水)放送の「あさチャン!」(TBSテレビ)で千代田区立麹町中学校の革新的教育について取り上げていたのでご紹介します。

 

千代田区立麹町中学校では宿題は無し、定期テストも無し、クラス担任もありません。

これまで当たり前とされてきたことを次々と廃止してしまった異色の学校なのです。

番組コメンテーターで教育評論家の尾木 直樹さんはこの中学校を理想の学校と思っており、次のようにおっしゃっています。

「僕が叶えたかった夢をほとんど全部実現した、素晴らしい学校です。」

 

その素晴らしい学校に日本中の教育関係者が今視察に訪れているということです。

国会議事堂にほど近い、都心のど真ん中にある千代田区立麹町中学校、数学の授業を覗いてみると、先生が教壇に立っていません。

生徒がそれぞれタブレットを持ち、ある生徒は合同な三角形を求める問題、ある生徒は三角形の角度を求める問題と、それぞれ違う問題を解いています。

そして、解らない問題があると、先生はまるで家庭教師のように生徒一人ひとりと向き合うマンツーマン授業なのです。

数学担当の角方 寛介教諭は次のようにおっしゃっています。

「困っている子が「教えて下さい」と言ったら、教えに行く。」

「一斉に何かするということはあまりないですね。」

「一人ひとりの進度が合っている。」

「分からないところはその子はじっくり出来るし、先にどんどんやりたい子は先に進めるし、一斉授業だとそれは出来ないから、そこがいいところ。」

 

麹町中学校が廃止したのは数学の一斉授業だけではありません。

公立の中学校なら当たり前に行われている、1クラスを1人の教師が受け持つクラス担任制は廃止、更に私服姿やパーマの生徒もいて、服装や頭髪の指導も廃止しました。

こうした“学校の当たり前”を次々と廃止したのが、赴任して6年目、数々の著書でも有名な工藤 勇一校長(59歳)です。

工藤校長は次のようにおっしゃっています。

「学校でやらされている「これ無駄だろう」と思って授業を受けたことありませんか?」

「明らかにこれは自分のためにならないかもしれないと思うことも真面目にやっている。」

「みんな当たり前だと思っているだけです。」

「(今の教育は)同じことをずうっと何も変えずに繰り返している。」

「そうすると、子どもも何も考えなくなる。」

「自分で考えて、自分で判断して、自分で決定して、自分で行動出来る子どもたちになって欲しい。」

 

「学校の当たり前を疑え」、工藤校長が手始めに廃止したのが宿題です。

「例えば、同じ漢字を「30回ずつ書いて来い」と言われたことないですか?」

「「花という字を30回書くこと」と言われて花という漢字を既に覚えていたら、ただの苦行ですよね。」

「もし宿題を出されなければやらないですよね、そもそも。」

「学力を高めたいと思ったら、自律している人間だったら、言われなくても(宿題を)やりますよね。」

「言われなきゃやらないって言うんだったら、そういう人間に育っていくわけですよね。」

 

“言われなければやらない”、“言われたから仕方なくこなすだけの勉強”に意味はない、生徒が自発的に学ぶ仕組みを作りたいと廃止したのは宿題だけではありません。

中間テストと期末テストです。

「定期テストって、簡単に言えば成績をつけるためにテストしますよね。」

「僕らの仕事は差をつけることではなくて、全ての子どもたちの学力を全部上げていくことが目的です。」

 

成績をつけるためだけに行う定期テストに意味は無い、ましてや点数を取るために一夜漬けで勉強しても意味が無い、定期テストを廃止する代わりに始めたのが再テストです。

例えば、英語で「be動詞」の授業が終わったら、「be動詞」に特化したテストを行うというような小テスト制を導入しています。

点数が悪ければ再テストもありますが、再テストを受けるかどうかは生徒の自由です。

工藤校長は次のようにおっしゃっています。

「自分で「チャンスを下さい」と言って、(再テストを)受けて成績が上がったら、それが成績になる仕組みにしてあげればいいと思ったんですよね。」

「結果として100点を取った子がいたら、それでいいわけじゃないですか。」

 

工藤校長が考える勉強とは、“分からないことを分かるようにするため自ら学ぶこと”なのです。

この考えから授業も独特です。

社会の授業では、黒板には最小限の板書しかありません。

しかし、生徒たちのノートを見ると、何やら線が引かれた、変わったノートを使い、びっしりと文字が書かれています。

これは、麹町中学校の生徒が入学後にまず習う学校独自のノートの取り方です。

ノートの左側には板書、右側には授業の疑問点や今後の目標を書き込みます。

このノートの取り方について、ある生徒は次のような感想を述べています、

「(黒板に)いっぱい書かれると、何が大事で何が大事じゃないか分かんなくて、ノートがすごいごちゃごちゃになっちゃうんですよ。」

「逆に、少ない情報で「自分たちで考えましょう」という方が深い学びにつながるのかなって思います。」

 

黒板を写す作業が減り、考える時間が増え、授業中の集中力が上がったといいます。

生徒たちが自ら考えて学べるように、学校主導で“当たり前”を次々と廃止にすると、今度は生徒が自分たちの意思で学校の“当たり前”を見直すようになりました。

 

午後4時、放課後の教室からは何やら声が聞こえてきます。

生徒たちが話し合っているのは、11月に行われる文化祭についてです。

文化祭や体育祭などの学校行事は従来、教師が演目や進行スケジュールなどを決めていました。

しかし、現在では生徒たちが自主的に話し合って決めています。

工藤校長が課した体育祭のミッションはただ1つ、「生徒全員が楽しめ」ということでした。

 

運動が得意な子も苦手な子も全員が楽しめるようにするにはどうすればいいか、生徒たちは話し合いの末、クラス対抗の全員リレーを廃止したのです。

工藤校長はこうした生徒たちの自主的な行動について次のようにおっしゃっています。

「今までの当たり前を生徒たちは無くして、(運動が)苦手な子のためには「運動を競い合う」じゃなくて、「楽しめる種目」が何かを自分たちで考えて今年新たに出て来たのは「三輪車競争」。」

「学年で(足が)一番速い子が最も遅かったです。」

「もう、みんながその姿を見て笑ってくれるわけじゃないですか。」

「苦手な子のためにいろんな種目を考えるわけですね。」

「世の中にはいろんな人たちがいて、見方、考え方、価値観もみんな違う。」

「対話を通して「みんながOK」というものを探し出せるプロセスを経験出来る子どもたちになってもらいたい。」

 

学校に運動が苦手な生徒がいるのと同様に、社会に出たら多様な人とめぐり合います。

だからこそ、中学生のうちから話し合いで問題を解決する力を養うことが重要だというのです。

従来の公立中学校の当たり前をぶっ壊す改革を行ってきた工藤校長、最後に「工藤先生にとって学校とはどんな場所ですか?」という質問をぶつけてみました。

それに対して、工藤校長は次のように答えております。

「学校とは未来への社会を作るところ。」

「自分で考えて、自分で行動出来るっていう子どもたち、大人たちを増やしたかったら、そういう子どもたちを学校で生まれるような仕組みにすること。」

 

工藤校長により進められている麹町中学校の改革について、番組コメンテーターの尾木 直樹さんは次のようにおっしゃっています。

「麹町中学校の魅力は、勉強が出来る子を育てるというのではなくて、社会で通用する子を育てると。」

「その結果、学力もトップクラスに上がるということですね。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

尾木 直樹さんも絶賛しているように、私も千代田区立麹町中学校の工藤校長の教育方針は「これぞ理想的な教育」だと思いました。

そこで、その素晴らしさについて以下にまとめてみました。

・これまでの“学校の当たり前”の徹底的な見直し

・優れた教育方針

自律的な生徒の育成(自分で考えて、自分で判断して、自分で決定して、自分で行動出来る)

学校とはより良い未来の社会を作る人材を育成するところであること

・一人ひとりの生徒の理解の進度に合わせたマンツーマン授業

・生徒の成績評価ではなく、生徒の学力向上を主眼とした学習

  分からないことを分かるようにするため自ら学べる環境づくり

宿題、定期テスト、クラス担任の廃止

再テストの導入

・社会人としてのあるべき姿の育成

  見方、考え方、価値観の違う人同士の対話による課題や問題の解決の大切さの理解

・服装や頭髪の指導の廃止

私服姿やパーマなどが自由

 

従来の教育は一人ひとりの生徒の学力向上よりも学校が生徒を教育し易いような、あるいは管理し易いような仕組みに重点が置かれていたように思います。

以前、アイデアよもやま話 No.3569 日本の消費回復のカギとは!で消費回復のためにはプロダクトアウト的な考え方からマーケットイン的な考え方への転換が必要であるとお伝えしました。

この考え方を学校教育に当てはめると、工藤校長の教育方針はプロダクトアウトからマーケットインへの徹底的な大転換と言えます。

 

しかし、考えてみれば、産業革命以降、モノを作れば作るだけ売れる時代においては、言われたことを、あるいは決められたことを着実にこなす人材が最も求められていました。

なので、従来の教育方針はそれに応えるという意味ではそれなりに理に適っていたのです。

しかし、既にこうした大量生産、大量消費の時代は先進国を中心に曲がり角をとっくに迎えているのです。

また、地球温暖化問題や環境問題もその影響が大きくなりつつあり、単純にモノやサービスの売り上げにまい進することは許されなくなりつつあります。

一方で、AIやロボットの導入があらゆる分野で進みつつあり、従業員に求められる能力やスキルも今後急激に変わっていくことが見込まれます。

 

ではこうした状況において求められるのはどういう人材かと言えば、それはAIやロボットには出来ない能力を持った人材です。

一言で言えば、どの領域においても“創造力”だと思います。

そして、この創造力の源はまさに自分で考えて、自分で判断して、自分で決定して、自分で行動出来る“自律的な思考能力”です。

 

そういう意味で、千代田区立麹町中学校の革新的教育は、これからの日本の学校教育のみならず、企業における人材育成においても大いに参考すべきだと思います。

 

さて、前回、堺屋太一さんの金言についてご紹介し、そこでは子どものような夢を持つことの大切さについて触れましたが、今回ご紹介したような教育を受ければ、自ずとそれぞれの生徒がそれぞれの夢を抱き、更にその夢を実現させるために自発的に取り組む能力を身に付けられるようになると期待出来ます。

そして、こうした一人ひとりの活動の成果がより良い日本社会、あるいはより良い世界の実現につながると思うのです。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています