2019年11月16日
プロジェクト管理と日常生活 No.615 『プロジェクト管理の観点から見た東京オリンピックのマラソン会場の変更!』

プロジェクト管理において、プロジェクト計画の一環として作業計画(マスター・スケジュール)を作成し、その進捗状況を把握するために定期的に進捗管理を実施します。

そして、プロジェクトを成功裏に完了させるために、作業計画の中でも重要なポイント(時点)をチェックポイントと呼び、これについては特に注意を払って管理します。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.116 『チェックポイントはマスター・スケジュールの重要な通過点!』

 

さて、先日、東京オリンピックの開催まで1年をきった段階でマラソン会場の変更の決定が突然報じられました。

そこで、今回は10月17日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)、10月18日(金)放送の「あさチャン!」(TBSテレビ)、そして10月31日(木)放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合テレビ)の3つの番組を通して、主にチェックポイントの観点からお伝えします。

 

まず、「ワールドビジネスサテライト」からです。

来年開催される東京オリンピックのマラソンと競歩の会場を札幌に移す案が突如浮上し、波紋が広がっています。

開催まで10ヵ月に迫った時期での会場の変更は異例の事態で、各所で驚きの声が上がっています。

日本時間で10月17日、カタール・ドーハにおいて、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は次のようにおっしゃっています。

「組織委員会とマラソン・競歩の会場を東京から札幌に変更することを決めた。」

「札幌は東京よりも気温が5℃から6℃低い。」

 

突如、札幌案が発表された背景には、IOCの暑さに対する強い危機感がありました。

9月から中東・ドーハで開かれていた世界陸上選手権ではマラソンや競歩で棄権者が続出、女子マラソンは深夜のスタートにも係わらず、気温30℃、湿度70%を超える厳しい環境が選手を襲い、68人中28人が途中棄権する異常事態となりました。

 

9月に東京で開催されたオリンピックのテスト大会、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、給水ポイントを増やすなど、暑さ対策が行われました。

それでもIOCは東京の高温多湿という気候を問題視したのです。

 

一方、大会に向けて準備を進めて来た東京都では、小池知事が会場の変更について聞いたのは、10月16日、IOCが発表する直前だったといいます。

東京都は、暑さ対策としてマラソンコースを含む約136kmの道に「遮熱性舗装」を施すなど、巨額の費用を投じてきました。

IOCの提案にすぐには同意しがたいのが本音です。

 

一方、開催地として突如浮上した札幌市は歓迎ムードです。

秋元札幌市長は、2030年冬季オリンピック招致の後押しになるとおっしゃっています。

ただ、開催まで10ヵ月を切る中、運営面での準備など、大会関係者からは不安の声が出ています。

IOCや東京都は、10月末に開催される会議で“札幌案”について協議し、方針を決める考えです。

解説キャスターで日経ビジネスの編集委員、山川 龍雄さんは、この“札幌案”について次のようにおっしゃっています。

「私は賛成ですね。」

「やっぱり選手の健康というよりは人命最優先だと思うんですよね。」

「私はトライアスロンですら移転を考えるべきじゃないかと思っているぐらいでね。」

「(既にチケットの販売済であるとか、いろいろなところに影響が出るのではという指摘に対して、)そういう事情以上に人命が優先されるんじゃないかと。」

「仮にこれで決行して、マラソンや競歩で死者でも出たら、それだけでオリンピックも失敗のレッテルが貼られますからね。」

「考えたら、やっぱりそこを最優先すべきだと思いますよ。」

「(ただ、開催まで10ヵ月に迫っていることで、これから会場の整備などが大変ではという指摘に対して、)でも北海道もいいとこいっぱいアピールしましょ。」

「ポジティブに考えましょ。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

次は「あさチャン!」からです。

突如浮上した札幌案について、北海道の関係者からは歓迎ムードの一方で次のような懸念の声も出ています。

北海道の鈴木 直道知事は次のようにおっしゃっています。

「300日切ってまして、非常に時間がないんですね。」

 

また、北海道陸上競技協議会の足立 亨さんは次のようにおっしゃっています。

「運営に携わるものとしては、やはり“これはちょっと大変だぞ”というのが率直な感想ですね。」

 

そして、スポーツライターの小林 信也さんは、札幌開催には新たな問題も発生すると指摘します。

「今はテロの危険というのがあるわけですから、これが一番心配事として上げられると思います。」

 

警察はこれまで東京のマラソンコースに合わせて警備のための綿密な対応をしてきたといいます。

しかし、コースが札幌に移った場合、一からやり直しになります。

小林さんは次のようにおっしゃっています。

「そのコース周辺の建物だとか地形だとか、そういったものをもう1回精査して対応を練り直さなきゃいけない。」

 

この他、ボランティア募集やチケット販売も一からやり直しになります。

また、男子マラソンの代表に内定している服部 勇馬選手は次のようにおっしゃっています。

「やはり(札幌は)走ったことが無いコースなので、中々地の利を生かすことは難しいのかな。」

「準備をしていかなければいけないと思っています。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

次は「クローズアップ現代+」からです。

マラソン・競歩の日本の代表選手は今回の異例の札幌移転案をどう捉えているのかについて、元マラソン選手でスポーツジャーナリストの増田 明美さんは次のようにおっしゃっています。

「選手たちはすごく、この札幌に移ることに関しては残念がっています。」

「なぜかというと、リオのオリンピックが終わってから女子マラソンは直後から荒川の河川敷などで強化指定の選手たちが暑い中で30km走を何度も行って、日本陸連の科学委員会の方が血液の検査をしたり、いろんな検査をして、データも残っていて。」

「だからもう準備は3年前から行われているんですね。」

「だから今までやってきたことが“水の泡”になってしまうっていう声もありますし、それから何といってもMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)ですよね。」

「1発勝負で、全力であそこを走った、この地の利はすごく日本選手にとってはすごく有利なんですね。」

「また、選手の中には新国立競技場に戻って来て大歓声を浴びることをモチベーションにしてやってきた選手もいますので、いろいろな意味でなぜこのタイミングでこういうことになるのっていうのが選手たちの多くの声だと思います。」

 

「(代表の選手は既にMGCで東京のコースを走っているが、そこから課題や教訓を得た選手も多いのではという問いに対して、)そうなんです。」

「鈴木 亜由子選手なんかは、終わってすぐに、最後の上り坂で両太腿の前側が痛くなったと。」

「そういうこととか、自分と40km走の質をもっと高めないと前田 穂南選手のように優勝は出来ないんだから、次回の選手と戦かう時にもやっぱり40km走の走り方をなんて、コースを全力で走っているからこそ体感したことっていうのがあるんですね。」

「だから、そういった面でやっぱりこのタイミングでこういうことで変更になると、準備してきただけに残念だと思います。」

「(コースと選手の準備というのは不可分だという指摘に対して、)そうなんですね。」

 

なお、外国の有力選手はツイッターで次のように発信しています。

女子マラソンのリンデン選手(アメリカ)は次のようにおっしゃっています。

「オリンピックスタジアムにゴールすることが魅力で、そこを目指してきたのに。」

 

男子競歩のダンフィー選手は次のようにおっしゃっています。

「これまで暑さ対策を頑張ってきた。」

「なぜ対策していない選手に合わせるのか?」

 

増田さんは次のようにおっしゃっています。

「私が話を聞いたのは、イギリスのホーキンス選手で、強いんですよ。」

「この前のドーハで行われた世界陸上で4位に入った、アフリカ勢の後(にゴールイン)。」

「で、その選手がなぜドーハを走ったかというと、2020年の東京(オリンピック)を見据えて暑さに慣れたいと思って走ったっていう選手などもいますので。」

「だから、やっぱりそういう選手にとっては「どうして?」でしょうし。」

「ただアフリカの選手たちはあまりコースの下見とか試走をしないので、そんなに準備をしない選手にとっては「言われたコースを走るわ」っていうことだと思うんですね。」

「(比較的冷静に見ている海外の選手もいるのかという問いに対して、)アフリカの選手は。」

「ただケニアの選手は高地が涼しいので暑さ対策を(ちょっと暑い)モンバサでしてきた。」

「だからみんな準備はしていますね、アフリカの選手でも。」

 

「選手にとっては、札幌にもしなっても、コースはどうなのか、スタート時間は何時なのかっていうことが決まれば、1日も早く準備が出来るので、そういった意味では今もどかしい気持ちで結果を見ていると思うんですね。」

 

さて、IOCは今回の札幌移転については選手のためだと強調しています。

10月25日、IOCのコーツ調整委員長は次のようにおっしゃっています。

「アスリートの健康を常に念頭に置いているため、変更を決定した。」

 

以下はIOCが東京都に示した資料の一部です。

陸上の世界選手権が開かれたドーハの暑さ指数と東京の暑さ指数の比較では競技環境がとても似ているとしています。

9月27日、カタールのドーハでは暑さを避けるため、マラソンや競歩は深夜のスタートとなりました。

観客もほとんどいない中で行われたレース、ところが女子マラソンは深夜でも気温30℃以上、湿度は70%以上の過酷なコンディション、レース途中にリタイヤする選手が続出しました。

出場した68人のうち実に4割を超える28人が棄権に追い込まれたのです。

海外メディアからは、レースが強行されたことに対し、次のような痛烈な批判が相次ぎました。

 

アスリートたちは“実験体”として扱われている(英ガーディアン紙)

 

アスリートへの敬意がない(英BBC)

 

東京でも同様の事態に陥るのは避けたいと考えたIOCのバッハ会長は、カタールで10月17日に次のようにおっしゃっています。

「マラソンと競歩の会場を札幌に変更することを決めた。」

 

実は東京の暑さは上昇傾向にあるというデータもあります。

東京都が開催都市に決まった2013年の時点では、選手にとって理想的な気候だとアピールしていました。

東京の暑さ指数を時間ごとに色分けして示した図(7月31日〜8月9日)ですが、2013年の時点では危険を示す赤や極めて危険を示す紫はわずかでした。

ところが現在(2019年)では赤や紫が目立つようになり、地球温暖化などの影響で真夏の暑さが厳しくなっていることが分かります。

IOCは、暑さ指数のより低い札幌であれば安全にレースを実施出来るとしています。

IOCのコーツ調整委員長は次のようにおっしゃっています。

「東京よりも800km北で、気温も5〜6℃低い。」

「東京と比較して札幌の方が条件が良いことを示していきたい。」

 

これに対し、東京都は、長期間かけて様々な暑さ対策を行ってきたと強く反発しています。

小池都知事は次のようにおっしゃっています。

「東京都、そして都民にとりましては大変な衝撃であり、納得出来るような経緯や理由について丁寧なご説明をいただきたいと思います。」

 

マラソンと競歩のコースでは、既にコースの7割以上で道路の表面温度を下げるとされる遮熱性舗装を整備、更に沿道ではミストを噴射する装置を設置したり、日陰を増やすため剪定を工夫して街路樹を大きく育てる取り組みも行ってきました。

小池都知事は次のようにおっしゃっています。

「アスリートファーストという観点は言うまでもございません。」

「だからこそ、東京の気候・ルートに合わせましてコンディションを整えてきた選手の方々、「選手のために最高の舞台を」と準備を進めてこられた地元・地域の皆様方の気持ちをないがしろにすることは出来ないのであります。」

 

さて、アスリートファーストとはいったい何なのでしょうか。

IOCは、選手の命と健康を守ることが大事なんだとしています。

一方、小池都知事は、命と健康は勿論、選手の想いなども尊重しなくてはいけないとしています。

どちらもそれぞれの立場で選手のことは考えているというように見えますが、こうした状況についてスポーツ倫理学が専門の友添 秀則早稲田大学教授は次のようにおっしゃっています。

「難しい問題ですね。」

「札幌か東京かという選択はどちらに行ってもしこりを残さないで欲しいなって思うわけなんですけども、元々オリンピックの価値は何かって考えてみる必要があるんですね。」

「それは何かというと、選手、アスリートにとっては最高のパフォーマンスが発揮出来るような場を提供することが一番大事なわけですけども、どうもドーハショック、つまり衝撃っていうよりも多分バッハさんやコーツさんにとってはもうショックだったと思うんですね。」

「これ目の当たりにしてしまうと、私は“ドーハの悲劇”って言ってるぐらいですから、こういう悲劇を目の当たりにしてしまうと、これはやっぱり命を懸けたサバイバルゲームになってしまっていて、実は本当はアスリートを全然大事にしていないことに通じてくる、オリンピックの精神に反するっていうことが彼らを動かした大きな理由だというふうに思います。」

「同時に、こういうところでストップをかけないと、まさに臨場感の中でストップをかけなければいけないということを思ったんだと思いますね。」

「(東京も努力をしてきていることについて、)勿論努力は大事だけれども、命と健康を守ることに勝るものはないということだろうと思いますね。」

「地球環境の大きな変動の影響を受けていて、実は今年8月初旬の温度はもう端的にいうと35℃ですよね、日本の場合。」

「で、35℃で湿度が70%を超える中でいくら日陰が多い東京でも、今度は沿道で住民たちが倒れる可能性があるわけですね。」

「セキュリティを重視していますので、例えば救急車が入れない地区がいっぱい出てくるわけですね。」

「例えば、誰かが死んでしまうと、もうオリンピックの持続可能の発展があり得ないわけですね。」

「危機感を抱いたと思いますね。」

 

一方、ドーハに行かれて、解説もしていた増田さんは次のようにおっしゃっています。

「先生言われるようにドーハショックでしたね。」

「ひどすぎる。」

「もう日中はオーブンの中にいるみたいで、女子マラソンは深夜でしたけどもミストサウナの中にいるみたいで、だから比べちゃいけないんですよ。」

「東京はずっと楽、楽です。」

「だからドーハの時には「これで女子マラソンやるの」と思うような、息が苦しくなっちゃうような感じだったんですけど、東京は全然楽ですし、私、東京8月2日と8月9日、1年前にちょうど同じ6時に何ヵ所かコースを走ったんですね。」

「東京って前半が高いビルの蔭になるから、前半は日陰なんですね。」

「そういうことも考えてみると、やっぱり(ドーハとは)全然違いますよね。」

「違うんだけれども、先生言われるようにIOCの方がドーハで体感したんだったら2020年に危機感を覚えるのも分かります。」

「でも違うと思います。」

 

さて、今回の問題で注目を集めているのが開催都市、東京都とIOCの関係です。

10月30日に行われたIOCの調整委員会、会場変更のプロセスについて、認識の違いがあらためて浮き彫りになりました。

IOC、東京都、そして組織委員会、それぞれの役割の違いは、そしてオリンピックは誰のものなのでしょうか。

オリンピックの主催者はIOCです。

東京都はIOCの承認を得ながら大会を開催するという立場、そして実際の大会運営の実務を担うのは組織委員会という関係にあります。

 

競技会場を変更するような場合、これまではまず開催都市と組織委員会が協議を行って、調整をし、その後IOCに提案して承認をもらうという、言わばボトムアップで決めてきました。

実際に東京大会の競歩の会場もこのプロセスで変更した経緯があります。

ところが今回は、IOCの一存で決定事項が伝えられるというプロセスでした。

極めて異例ということですが、NHKのIOC担当デスクの原口 秀一郎さんは次のようにおっしゃっています。

「今おっしゃったように、オリンピックの会場変更について最終的な権限、決めるのはIOCの理事会です。」

「ですから今回、IOCはこう決めたわけですけども、やっぱりドーハの現状を見て会場変更に舵を切ったIOCが危機感を持ったことがあるんですね。」

「それが、こちらを見ていただきたいんですねど、スケジュールなんです。」

「ドーハの世界選手権は(今年)9月27日に開幕しました。」

「女子マラソンも行われました。」

「で、この時点で(東京オリンピックの)開幕(2020年7月24日)まで10ヵ月切っています。」

「そして、今行われている調整委員会、これは準備状況などを確認するんですけども、これも(9月27日から)1ヵ月しかない。」

「この時間の間にはたして議論をボトムアップの時間があるんだろうかと思います。」

「そこが非常に迫っていたんだと思いますね。」

「それで決断が求められる中で、バッハ会長が主導して、極めて異例なかたちですけどもトップダウンでの決定になったということだと思います。」

「そして、今回はオリンピックという大会の価値にも、それを守ることにあったと思いますね。」

「沿道にほとんど観客もなくて、選手が次々とレースから外れる、あのドーハの異様な光景をやっぱり絶対東京では繰り返しちゃいけないという強い決意の表れでもあったと思います。」

 

今回の札幌移転における東京都の立場について、東京都庁担当記者の早川 沙希さんは次のようにおっしゃっています。

「ドーハでの女子マラソンの後、10月3日の時点でIOCのバッハ会長が東京で進められて来た暑さ対策について評価するという考えを示していました。」

「それから2週間も経たない間に、事前に開催都市に説明もなく、突然会場を変更するという案が出されたことは小池知事だけでなく東京での実施の準備に係わってきた多くの関係者からは納得がいかないという声が上がっています。」

「実際にIOCの発表の後に東京都には電話やメールなどで会場変更について1000件以上の意見が寄せられていて、その9割が会場変更に反対する意見だということです。

 

この一連の決定プロセスについて、スポーツ倫理学が専門の早稲田大学の友添 秀則教授は次のようにおっしゃっています。

「通常だとボトムアップが普通なんですけども、今回はそれだけ非常事態だということですね。」

「トップダウンで下さなければ間に合わないということが1つ。」

「もう1つは圧倒的にIOCが大きな力を、決定権を持っていますので、IOCが言えば従わざるを得ないっていうのが組織論の立場から言えばそうなんですね。」

「ところが、日本の社会はコミュニケーションを大事にして、みんなでゆっくり話し合いながら調整するっていうことで、ところが向こうのコーツさんもバッハさんも彼らは弁護士ですから、極めて合理的に法に則って対処するっていうことだったと思います。」

 

一方、増田さんは次のようにおっしゃっています。

「選手の健康を考えてくれているのはありがたいんですけども、タイミングが悪すぎるなっていうふうに思いますね。」

「だから、このタイミングでって。」

「でもこれから次のパリ(2024年)も、その次のロサンゼルス(2028年)も暑いじゃないですか。」

「だから、何か次につながるような、時期を変更するとか、そういうようなことを見直しとかにも発展してくれないと、あまりにもタイミングが悪すぎるなっていうのは感じます。」

 

最後に見ていきたいのは“曲がり角”のオリンピックについてです。

夏季五輪に立候補した都市の数は2004年の11から2024年の5まで減少傾向にあります。

2024年大会については、当初立候補したのは5都市でしたが、その後3都市が撤退し、残ったのはパリとロサンゼルスの2都市となり、結果として2024年パリに、そして2028年はロサンゼルスというように決まりました。

こうした状況について、友添教授は次のようにおっしゃっています。

「IOCは危機意識を持っていますので、アジェンダ2020という中長期計画を持って、改革をしていこうということで、大きくIOCは変わろうとしている時ですね。」

「だから本来なら、変わらなかっただろう東京の開催がバッハさんを含めて大きく選手を大事にしようということで選手の辞退も避けたいということで、持続可能性の観点から今回は対処したということで理解が出来ると思います。」

「(IOCが今一番改革しなければいけないのは持続可能性なのかという問いに対して、)そうですね、オリンピックって歴史的にみるといろんな問題を抱えて、それを乗り切って来たわけなんです。」

「戦争だとか、テロだとか、人種差別だとか、イデオロギー対立だとか、こういうのをうまく乗り切って来た、経済的にも乗り切って来たわけですね。」

「ところが、今またこういう問題が起こってくると、持続可能性で黄色点滅が起こってるということだと思います。」

「(それを乗り越えるためには今回のように柔軟な大会運営も必要だとの考えなのかという問いに対して、)大きく変わろうとしていますね。」

「一つは、私は恒久開催を考えていくべき時期じゃないか。」

「一つの都市で、ずっとオリンピックをそこで、アテネだったらアテネでずっとやるっていうのも一つの改革案だろうと思うんですね。」

「一番いいベストシーズンを選んで、例えば。」

「(古代オリンピックはずうっとアテネだったという指摘に対して、)そうですね。」

 

原口さんは次のようにおっしゃっています。

「今、友添さんおっしゃるように、やはり危機感覚えていますので、今アジェンダ2020の話がありましたけど、やはり既存の会場を有効出来るように、例えば国が代わっても、今までは都市で開催してたんですが、例えば違う国に行って、その会場を使ってもいいよ、国をまたいでもいいよっていう議論もありますし、バッハ会長は気候変動のこともやはり言いまして、持続可能性っていう言葉の中で、今の現状の7月、8月開催っていうことも変更する可能性も十分あり得るっていうことも今言及し始めています。」

「やはり柔軟さっていうのは確かに今見せているという印象です。」

「これはまさにオリンピックを長く続けていきたいという心の現れだと思います。」

「その一方で、今回の件に関して申しますと、開催都市が置き去りにされたということがあると思うんです。」

「やっぱりこの問題が残した開催都市の東京の不信感というものがあれば、もしかするとこれから先、オリンピックを開催したいという国、都市にとってはかなりマイナスの影響もあったんじゃないかと。」

「その点は、IOCはちゃんと考えておかなきゃいえないと思います。」

 

増田さんは次のようにおっしゃっています。

「(いずれにしても来年夏にはオリンピックがやってくるわけですけども、大会を成功させるためにはどういうことを大切にして欲しいかという問いに対して、)いろいろごちゃごちゃ言ってる場合じゃなくって、もう日本のオリンピックっていうことで、東京になっても札幌になっても何かみんなで盛り上がれるようにしていく、そして暑さ対策がもう一歩進んだなっていう方向性になればいいですね、これから。」

「(いずれにしても、大会を楽しんで成功させるためにも、しこりが残らないような解決策というのを、時間はあまりありませんけどやって欲しいとしう指摘に対して、)そうですね。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

なお、その後の報道では、東京か札幌か議論が続いていた東京オリンピックのマラソン・競歩の会場は、最終的に札幌に移されることになりました。

 

これらの一連の記事を通して、夏季のオリンピック・パラリンピックの開催時期に関する課題とその対応策について以下にまとめてみました。

勿論、その第一の狙いは選手の健康や最大限のやる気を引き出すアスリートファースト、そして観客の健康です。

 

(課題)

・開催期間の妥当性

・予想以上の地球温暖化の進行に伴う暑さ対策の必要性

・オリンピックの持続可能性

 

(対応策)

・オリンピック開催時期や開催場所の再検討

  気候など、開催国の環境を考慮して開催時期や開催場所を決定

・地球温暖化の進行に伴う暑さ対策

・持続可能なオリンピックへの取り組み

・オリンピック開催までの進捗管理にチェックポイントを追加

 

このようにまとめてみると、今回のIOCによるマラソン会場の札幌移転の決定プロセスにはいくつかの疑問が湧いてきます。

 

そもそもなぜわざわざ東京オリンピック・パラリンピックの開催時期を来年の7月24日から8月9日までという夏の暑い時期に決めたのでしょうか。

この答えについて、次のネット記事で以下のように記しています。(詳細はこちらを参照)

1964年に初めて東京で夏季五輪が開催された時期は、比較的涼しくて湿度も低い10月でした。

4年後のメキシコ五輪も同じく10月に行われました。

だが過去30年にわたり、ほとんどの夏季五輪は7、8月に開催されています。

テレビ局が大会を取材する上で理想的な時期と考えているからです。

IOCは、2020年夏季五輪の立候補都市に対し、7月15日から8月31日までの間に開催することを求め、東京は7月24日から8月9日を開催期間としました。

 

ということで、この記事から言えるのは、そもそもIOCがアスリートにとっては最高のパフォーマンスが発揮出来るような場を提供すること、すなわちアスリートファーストよりもテレビ局の事情を考慮してオリンピック・パラリンピックの開催時期を決めていることが今回の問題を引き起こしている根本原因なのです。

 

次に、東京都は暑さ対策としてマラソンコースを含む約136kmの道に「遮熱性舗装」を施すなど、巨額の費用を投じてきました。

東京都はこの対策による期待効果をどのように評価していたのでしょうか。

仮に期待効果が専門家の評価により、IOCの決めた基準を満たしているのであれば、少なくともアスリートファーストの条件はクリア出来るということになります。

しかし、期待効果が曖昧であったとすれば、今後の東京都の暑さ対策には寄与しても、東京オリンピックのマラソン大会の暑さ対策としては十分ではなかったということになります。

更に考慮すべきはマラソンコースの沿道を埋め尽くすと思われる観客への暑さ対策です。

仮に観客の中から熱中症で倒れる人が次々に出て来るようであれば、東京オリンピックは成功したとは言えなくなります。

 

次に、なぜ東京オリンピックの開催を翌年に控えた時期にIOCは今回の札幌移転を決定したのかについてです。

直接の理由はドーハの世界選手権でのいわゆるドーハショックです。

しかし、東京都が開催都市に決まった2013年の時点では、選手にとって理想的な気候だとアピールしていましたが、東京の暑さ指数を時間ごとに色分けして示した図(7月31日〜8月9日)ですが、既に昨年時点で今年ほどではないにしても地球温暖化などの影響で真夏の暑さが厳しくなっていることが分かっていたのです。

ですから、オリンピック開催時期の2年前をチェックポイントとして設定し、その時点でIOCの設定した基準に照らして開催時期に滞りなく開催出来るかどうかをチェックしていれば、その時点で更なる暑さ対策の必要性や札幌移転などの決断を下すことが出来たのです。

また、開催時期の2年前であれば、ある程度余裕を持っての対応も可能だったのです。

 

現在、東京オリンピック開催時期まで1年を切っています。

こうした状況において、開催地である札幌のオリンピック関係者、そして組織委員会は開催時期までにマラソンコースの決定など様々な準備を完了出来るのかが大きな問題となっています。

今回の決断はIOCによる独断ですが、東京オリンピック開催時期まで1年を切っている状況を考えるとやむを得ない面もあります。

しかし、これから来年のオリンピック開催までの札幌のオリンピック関係者の方々のご苦労はとても大変だと容易に想像さ出来ます。

こうしたことから、やはりオリンピック開催時期の2年前をチェックポイントとして設定することがとても重要だと思うのです。

 

そして最後はなぜオリンピック開催候補に手をあげる国が少なくなって来たのかということです。

2024年大会については、当初立候補したのは5都市でしたが、その後3都市が撤退したといいます。

ですから、残ったのはパリとロサンゼルスの2都市となり、結果として2024年はパリに、そして2028年はロサンゼルスというように決まりました。

こうした状況は、日本が立候補し、開催国として決定されるまでの国を挙げての大変な努力を考えると想像出来ません。

このままでは、オリンピック開催国として立候補する国が無くなってしまう可能性も出て来たのです。

こうした状況を受けて、IOCはアジェンダ2020という中長期計画を持って、改革をしていこうということですが、是非オリンピックの灯を消すことのないように取り組んでいただきたいと思います。

 

オリンピックは、アスリートたちの日頃の成果を発揮する最大の場としてだけでなく、平和の祭典、あるいは世界各国の国民の交流の場としても欠かせない、人類にとってとても大切な一大イベントだと言えます。

ですから、IOCの掲げる課題の一つ、“オリンピックの持続可能性”はとても重要だと思うのです。


 
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