2019年10月18日
アイデアよもやま話 No.4463 クローン、およびゲノム編集技術の今 その2 ペットなどのクローンビジネス!

6月5日(水)放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合テレビ)で「マンモスが復活する」をテーマに取り上げていたので2回にわたってご紹介します。

2回目はペットなどのクローンビジネスについてです。

 

マンモス復活の実現には、あと少し時間がかかりそうですが、生物の再生はすでに身近な動物で実用化されているのです。

韓国にクローン技術でマンモス復活に取り組む研究所があります。

スアム生命科学研究所では、研究と同時に犬のクローンを作ることをビジネスにしています。

顧客の依頼でペットの犬から作られたクローン犬、カナダやドバイなど世界中から注文が殺到しています。

1匹の誕生を希望していても2匹生まれることがあり、みんなを引き取るのか1匹だけなのかは顧客に選択させています。

出産は万全を期して帝王切開で行われています。

 

犬の場合、元となるペットの核を別の犬の卵子に移植すると2か月でクローン犬が誕生します。

費用は1件当たり日本円で約1000万円といいます。

元のペットの皮膚の細胞は液体窒素の中で保存しており、クローンは何度でも作ることができるといいます。

ワン・ジェウン研究員は次のようにおっしゃっています。

「オリジナルとは、99.99%同じです。」

「みんな元気に生きていると聞いていますよ。」

.

これまでに作ったペットのクローンは1,400匹以上で、依頼者の多くは先進国の富裕層です。

日本からの依頼もあるといいます。

一体、どんな人がペットのクローンを求めるのでしょうか。

アメリカ・ノースカロライナの高級住宅街、昨年ペットのクローンを依頼した、会社経営者のブラーディックさん夫婦です。

この夫婦には、20年近く共に暮らした猫、シナボンがいました。

奥様は次のようにおっしゃっています。

「まるで私たちの子どものようでした。」

「シナボンが15歳ごろから、いつまで生きられるのか心配でした。」

「そして18歳になった時、本当にクローンをつくりたいと思いました。」

「シナボンなしの人生は考えられませんでした。」

 

死んだ猫と入れ代わるように生まれた、クローンの猫、付けた名前は元の猫と同じシナボンでした。

クローンのシナボンが生まれて半年、ある行動に驚かされました。

オリジナルのシナボンはいつもイスの上に座っていましたが、その習慣を新しいシナボンも、すぐに身につけたというのです。

ですから夫婦は元のシナボンがまだ生きているように感じています。

そして、これからもクローンをつくりたいといいます。

 

アメリカ・メリーランド、スポーツジムで働くミーシャ・カウフマンさんはチワワのブルースと、そのクローン4匹を飼っています。

2年前、ミーシャさんはブルースの他にもう1匹犬を飼いたくなりました。

その時、出会ったのがクローン技術です。

カウフマンさんは次のようにおっしゃっています。

「他に犬を飼うならブルースのような子が欲しいと思いました。」

「だからクローンのことを知ったとき、「これしかないわ」と思いました。」

 

しかし、実際に生まれたのは5匹でした。

1匹は養子に出し、4匹を飼うことにしました。

カウフマンさんは次のようにおっしゃっています。

「4匹はオリジナルと似ているところもあるけど、怒りっぽかったり甘えん坊だったり、性格はちょっとずつ違うわ。」

 

ミーシャさんにとって、オリジナルのブルースは今でも特別な存在です。

「私の中ではやっぱりブルースが一番。」

「たとえクローンでも彼の代わりにはならない。」

「でも他の子たちもかわいいし、彼らとの毎日は本当に楽しい。」

「明るいし笑わせてくれる。」

「本当にすばらしい子たちです。」

 

例えば食料を増産するためとか、医学の役に立つためにというふうに、これまで人類は、さまざまなかたちで生命に手を加えてきたわけですが、ペットを愛するがゆえに命を操作する、それはどこまで許されるのでしょうか。

作家の石井 光太さんは次のようにおっしゃっています。

「失った命を戻したいとか、純粋な気持ちだと思うんですよね、本人たちは。」

「ただ、それにはいろんな裏がある部分もあると思うんです。」

「例えば、今のVTRであれば、クローンを生むお母さんがいるわけですよね。」

「じゃあ、このお母さん犬猫の生きる権利はどうなのか。」

「あるいは双子、三つ子が生まれた時に、その養子に出された犬猫はどうなっていくのかという問題があります。」

「やはり、それを全部無視した上で彼らのビジネスは成り立ってしまっているんですね。」

「逆に言うと、そういったビジネスがあると、それを悪用する人もいると思うんです。」

「クローンの場合、人間には適用されませんけれども、例えば私が取材した中ですと、代理母出産の事件があったんです。」

「5年ほど前に、20代の日本人男性がタイで分かっているだけで19人の子どもを代理母出産でつくった。」

「それはすごく社会問題、国際問題になったことがあったんです。」

「やはり代理母が悪いわけじゃないんです。」

「だけれども、あることによって、それが悪い人、一部の人たちに悪用されてしまうというケースがあると思うんです。」

「会社、企業というのは、ニーズがあるからビジネスを作るというふうにいうんですけれども、実はよくよく考えなきゃいけないのは、きちんとルール、倫理を作った上でビジネスをやるんだったらいいと思うんですけれど、今、それが逆になってしまっている。」

「倫理とかルールを作らない状態の中で、ビジネスだけを先に走らせてしまっているんですね。」

「そこが一番の問題の根源なのかなというふうには思っています。」

 

動機には、純粋なペット愛だけではなくて、クローンを作るこんな理由、ケースというのもありました。

まずは、アメリカ・テキサスにある、きゅう舎です。

こちらには、競走馬、サラブレッドのクローンがいるんです。

オリジナルは、国内の大会で何度も優勝したことがある1億円以上を稼いだ実績のある名馬なんですが、去勢していたために繁殖が出来ず、まずクローンを作って、それを種馬として子どもを作ることにしたんです。

これまでに生まれた子どもというのは17頭、今後レースで活躍することが期待されています。

さらにこちらは、中国で作られた犬のクローンなんですが、オリジナルは優秀な警察犬です。

クローンを使えば、効率的に能力の高い警察犬を生み出すことが出来ると、中国政府の肝いりで力を入れています。

こうした能力や才能を引き継ぐためにクローンで子どもを増やしていくという実例がいくつもあるんですが、どんな立派な理由があっても、人が勝手に命を操っていいのかというふうに警鐘を鳴らす専門家もいます。

 

コロンビア大学 生命倫理学のロバート クリッツマン教授は次のようにおっしゃっています。

「クローンをつくる人に理解してほしいのは、その背後に犠牲となる動物がいるということです。」

「例えば1匹の健康な犬をつくるために4匹の犬を産む必要があります。」

「そのうち2、3匹は奇形だったり、死んでしまう犬もいます(という研究も)。」

「動物たちの命も尊重すべきです。」

「犬が欲しいという人間の欲望のために動物にひどい仕打ちをし、悲惨な目に遭わせることが許されるとは思いません。」

.

こうした状況について、慶應義塾大学の宮田 裕章教授は次のようにおっしゃっています。

「先ほどのクリッツマン教授の指摘の通り、クローンペットには母子双方の死産、あるいは遺伝子異常、リスクというのが相当程度あることが課題として残っています。」

「1匹のクローンペットの背景には大きな犠牲があるんですよね。」

「このような課題をはらんだ技術が研究としての規制、枠を外れて、ビジネスとして世に出されると、これは先ほど石井さんがおっしゃった通りなんですが、愛着とか有能さとか、こういったさまざまなニーズに飲まれて、拡大をコントロールすることが出来なくなってしまうんですね。」

「技術を開発するということと、社会の中でどういうふうに使うかと、これは分けて考える必要があるかなと考えています。」

 

マンモス復活は確かにロマンを感じますが、議論が十分でないまま技術が進んでいってしまう現状を少し踏みとどまって考えていかなければならないのではということについて、

石井さんは次のようにおっしゃっています。

「本当にそう思います。」

「やはり科学技術には矛盾もあると思うんですね。」

「ロマンがある裏で、例えば絶滅したマンモスをよみがえらせるために、今、絶滅危惧種のアフリカゾウを危険にさらすとか、あるいは本当に死んだ猫犬を再生させるために、今、生きている猫や犬を危険に追い詰めてしまう。」

「そういった矛盾をはらんでしまうものだと思うんです。」

「ロマンはいいんですけれど、その裏にあるものってなかなか見えてこないですし、議論されないと思うんですね。」

「やはりそこの部分というのは、メディアがどんどん議論する機会を与えなきゃいけない。」

「こういった番組の中で、そのことを見せる裏で、闇の部分を見せて、きちんと議論していく。これが必要なんじゃないのかなというふうに思っています。」

 

また、宮田教授は次のようにおっしゃっています。

「今日、科学技術のメリット、デメリットの話をしてきましたが、民主主義社会において、テクノロジーを軸に大きな物事を成し遂げようとする時には、人々、社会の支持が必須になります。」

「例としては、宇宙開発におけるアポロ計画というものがあるんですが、まさにチャーチ教授の掲げるマンモス再生氷河期パークというのは、ここからが正念場になると思います。」

「科学技術にはそれぞれ強み、弱みがあるので、重要なのはこれら技術を用いて、我々がどのような社会を目指すかということです。」

「現在のような転換期においては、一部の科学者や政治家だけではなくて、広く社会のメンバーが持ち寄って、ビジョンを考えていくことが必要になるのかなというふうに思います。」

 

少し前まで夢物語と考えていたようなことが、まさに現実として迫ってきているので、こうした議論を急ぐ必要があります。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

韓国のスアム生命科学研究所では、クローン技術でマンモス復活の研究と同時に犬のクローンを作ることをビジネスにしているといいますが、既にペットビジネスが誕生していることには驚きです。

犬の場合、元となるペットの核を別の犬の卵子に移植すると2か月でクローン犬が誕生し、費用は1件当たり約1000万円といいます。

しかも元のペットの皮膚の細胞は液体窒素の中で保存しており、クローンは何度でも作ることが出来るというのです。

これまでに作ったペットのクローンは1,400匹以上で、依頼者の多くは先進国の富裕層といいますが当然だと思います。

ペットロスという言葉があるくらい、ペットを亡くした人の中には家族を亡くした時と同様にショックを受け、暫く立ち直れない人も多いといいます。

こうしたペットを飼っている人にすれば、もし10万円前後で亡くなったペットをクローンとして誕生させることが出来れば、多くの人たちがこうしたビジネスに飛びつくだろうと容易に想像されます。

ですから、ペットビジネスはビジネスのニューフロンティアとして大いに期待されていると思います。

そして、一部の富裕層は既にペットビジネスの顧客になっているのです。

しかし、こうしたペットビジネスの裏では、番組でも指摘されているように、お母さん犬猫や養子に出された犬猫の生きる権利など様々な弊害があるのです。

 

一方、ペット以外にも競走馬のサラブレッドや優秀な警察犬のクローンも既に誕生しているといいます。

こうした状況が意味するのは、人類の様々な活動が環境破壊や地球温暖化をもたらし、その変化が新たな環境をもたらし、その環境によって生じた状態に合わせて新たなビジネス、あるいは新たな研究が生まれているということです。

一方で、クローンやゲノム編集などの最新医療技術は、いよいよ人類は“神の領域”に踏み込んだことも意味しています。

 

ここでとても重要なことは、前回もお伝えしたように、クローンやゲノム編集の研究が自由に進められ、それが様々な生物に応用されると、取り返しのつかないとんでもない状況をもたらしてしまうリスクがあるということです。

極端な例では、人にゲノム編集の技術を応用すると、頭脳明晰、容姿端麗でしかも健康優良児のような子どもを自在に誕生させることが出来てしまうのです。

しかもこうした子どもの誕生の裏では、何人かの犠牲になる子どもも生まれてしまうのです。

こうした状況を考えると、早急にこうした技術の歯止め策を世界各国が共通に策定することが必要です。

そのためには、まず“生命とは何ぞや”という根源的な命題の検討を十分にすべきだと思います。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています