6月5日(水)放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合テレビ)で「マンモスが復活する」をテーマに取り上げていたので2回にわたってご紹介します。
1回目はマンモスの復活についてです。
ロシアで発掘されたマンモスの展示が、いよいよ6月7日から東京・お台場で始まります。(「マンモス展」が11月4日まで日本科学未来館で開催中)
実はこのマンモス、今、クローンなど、最新の科学技術を使ってよみがえらせようと、ロシア、アメリカ、そして日本など世界中がしのぎを削っています。
ブームの震源は、極寒の地、ロシア連邦サハ共和国です。
北極海に面し、冬の気温はマイナス30度以下です。
雪が溶ける短い夏の間、この地を目指して多くのハンターがやって来ます。
お目当ては、永久凍土の下に眠るマンモスの死骸です。
凍った土の中から、牙や体を掘り起こしていきます。
シベリアは突然のマンモスブームに沸いています。
その背景には、意外な理由があります。
マンモス博物館のセルゲイ・ヒョードロフ館長は次のようにおっしゃっています。
「第一の原因は地球温暖化で、たくさんのマンモスが見つかるようになりました。」
「第二の理由は中国市場でマンモスがとても高額になっていることがあります。」
.
中国・北京、発掘されたマンモスが高値で取り引きされる場所がありました。
「マンモスの牙」と書かれた店、店内には牙を用いた彫刻品が大量に売られています。
貴重な牙には5000万円の値が付いており、贈答品として人気が高まっているといいます。
一方、牙以外は、マンモス復活を目指す各国の研究者が買い取ります。
発掘ブームによって増える保存状態のいいマンモスの死骸が研究を加速させているのです。
マンモス復活にかけるキーパーソンは紀伊半島にいました。
和歌山県の近畿大学では25年前からマンモスの研究を続けています。
近畿大学 先端技術総合研究所の加藤 博己教授は次のようにおっしゃっています。
「(マンモスを復活させるために)今までやってきた研究は基本的にマンモスを体細胞クローンの技術を使って復活させる研究をしてきました。」
体細胞クローンには生きたゾウが必要なので、まずゾウの卵子の核とマンモスのを入れ替えるのです。
入れ替えた卵子に刺激を与え、分裂を始めたところで母親となるゾウの体の中に戻すのです。
うまくいけば、ゾウからマンモスが生まれるというのが作戦なのです。
近畿大学がクローン技術に取り組み出したのは1997年です。
しかし、なかなか状態のよい細胞が見つからず、復活の可能性は見えませんでした。
そこに転機が訪れます。
ロシアで極めて状態のいいマンモスが見つかったのです。
「YUKA」と名付けられたこのマンモス、近畿大学の研究チームもこの細胞を入手しました。
研究チームは、まずマンモスの細胞核をマウスの卵子に移植しました。
すると細胞が分裂するための準備「紡すい体」が出来始めたのです。
これはマンモスの核が活動する力を残していることを意味します。
近畿大学 生物理工学部の山縣 一夫准教授は次のようにおっしゃっています。
「夜中に動画を見たときに『うおッ!』って。」
「世界で誰も今までやったことのない実験、大興奮です。」
しかし、本来なら卵子は分裂を始めるはずなのに、実験を重ねても一向に進みませんでした。
詳しく調べてみると、核の中のDNAが大きく壊れていました。
これではマンモスのクローンを作ることは出来ません。
山縣准教授は次のようにおっしゃっています。
「なかなかクローンの方法による復活というのは難しい。」
マンモスの復活にはクローン技術以外のアプローチが必要になります。
そこで研究チームはある方法に着目しました。
加藤教授は次のようにおっしゃっています。
「今はある程度のところでDNAの合成が出来ます。」
「合成のいろいろな技術を使ってマンモスの細胞を合成することが出来ないか。」
マンモスを復活させる新技術とはどんなものか、その最先端を走るのがアメリカのハーバード大学です。
ハーバード大学医学大学院にある研究室の研究員の一人は次のようにおっしゃっています。
「新しいがんのワクチンをつくろうとしている人がいたり、マンモスを復活させようとしている人たちもいる。クレイジーな研究室よ。」
.
こちらの研究室のボス、ジョージ チャーチ博士は次のようにおっしゃっています。
「バラバラになっているマンモスの遺伝子をパソコンの上で組み立て、ゾウの細胞に移植するんだ。」
「すると、マンモスの特徴を持った生物になるんだ。」
チャーチ博士が使っているのは「ゲノム編集」という技術なのです。
ゲノム編集は、遺伝子の狙ったところを切ったり置き換えることが出来る技術です。
まず、壊れてバラバラになったマンモスのDNAをコンピューター上で組み立て直すのです。
そして、ゾウのDNAと見比べるのです。
すると、牙や耳など、違うところがたくさん見つかります。
そうしたら、ゲノム編集の出番です。
マンモスを手本に、ゾウのDNAを書き換えていくのです。
牙は長く、耳は小さく体の毛は赤くなります。
こうしてDNAを書き換えると、マンモスの特徴を持った生き物が生まれるのです。
チャーチ教授は次のようにおっしゃっています。
「生まれてくるゾウはフサフサの毛が生え、極寒の地でも活動出来る血液、小さい耳、マンモスと多くの共通点を持った生き物になる。」
「DNAをマンモスに近づけていくことは理論的にも技術的にも出来ない理由はない。」「遅くとも5年から10年以内にはマンモスを見られるだろう。」
こうした取り組みの意義について、慶應義塾大学の宮田
裕章教授は次のようにおっしゃっています。
「チャーチ教授たちの計画は、ツンドラにマンモスがかっ歩する、こういった生態系を構築し、ジュラシックパークならぬ、氷河期パークというものを作ろうとする。」
「この構想においては、マンモス復活はあくまでも手段です。」
「氷河期パークというのが実現するかはともかく、彼らの説明によると、寒冷地でも生存可能な草食動物が復活すれば、土壌が再生され、ツンドラを草原に戻すことが出来るんじゃないかと。」
「ここからさらに飛躍するんですが、そうした大規模な草原で、地球温暖化から救えというのが彼らの構想です。」
「一方で、彼ら、ハーバード大学の狙いは、こうした構想の中で技術を磨くということにあります。」
「ゲノム編集だったり、iPS細胞、こういった最先端技術を用いて、このマンモス再生に挑戦する前から彼らは老化防止とか、移植用臓器の培養というものを進めていたんですね。」
「こういった氷河期パークという大義があれば、最先端技術を磨く場を作れるということになるのかなと思います。」
また作家の石井 光太さんは次のようにおっしゃっています。
「(マンモス復活プロジェクトを後押ししているのが牙の高騰ということについて、)これは背景を見なきゃいけないと思うんですけれど、もともとは中国がアフリカで象牙の密輸入というのをたくさんやっていたんですね。」
「それによって、印鑑だとか細工目的で、アフリカゾウがあと1世代で絶滅してしまうぐらいの状況に追い詰められて、しかもその資金が、一部、地元のアフリカのテロ組織に流れていたりした。」
「中国はそういったことに危惧を抱いて規制をかけたんです。」
「そうしたら、そこの人たちが今度は象牙ではなくて、マンモスの牙にいこうとロシアに流れていった。」
「それが今、ゴールドラッシュのようなかたちで、本当にたくさんの人たちが、貧しい人たちも含めて行って、とにかくマンモスの牙を取り続けているという状況が起きているんですね。」
「やはり今、その中で密輸入の事件が起きたりもしています。」
「やはり今、我々がマンモスブームというふうに言いますけれども、実はそれを支えているのが、そういった象牙の系譜から来ているマンモスの牙のブームなんだということは、やっぱり忘れちゃいけないのかなというふうに思っています。」
「(ゾウのDNAを書き換えた動物はマンモスと言えるのかという問いに対して、)クローンではなくて、ゲノム編集でゾウから作られるマンモスのような生き物は、やっぱりマンモスではないんです。」
「私の友人の生物学者に言わせれば、「これはカニ味に似せたカニカマを食べながらカニについて語るようなものだ」と。」
「「マンモスの生態に迫ることは出来ないだろう」と。」
「ただ一方で、先ほどお話したように、チャーチ教授たちの狙いは氷河期パークです。」「寒冷地で生きることが出来るようなマンモスライクな生物を再生することができれば、彼らは成功だと考えているんですね。」
「その中で磨いているゲノム編集という技術は、今、医学でも非常に応用が注目されていて、例えば遺伝子が原因となる糖尿病の治療だったり、あるいは遺伝子変異によって抗がん剤が効かなくなったがん患者さんの治療、こういったことへの挑戦も続いているという注目すべき技術だと思います。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
今、シベリアは突然のマンモスブームに沸いているといいますが、その第一の原因は地球温暖化で、たくさんのマンモスが見つかるようになったこと、そして第二の理由は中国市場でマンモスがとても高額になっていることがあるというのは、とても皮肉に聞こえます。
人類の経済活動がもたらした地球温暖化により、これまで永久凍土の下に眠っていたマンモスの死骸が見つかるようになり、一方でこれまで高額だった象の牙が獲り過ぎて手に入りにくくなったので、その代わりにマンモスの牙に5000万円という値が付いているというのです。
これでは永久凍土の多いシベリアが突然のマンモスブームに沸いているのも当然です。
一方、牙以外はマンモス復活を目指す各国の研究者が買い取り、発掘ブームによって増える保存状態のいいマンモスの死骸が研究を加速させているといいます。
ハーバード大学では「ゲノム編集」により、壊れてバラバラになったマンモスのDNAをコンピューター上で自在に組み立て直す研究を進めています。
DNAを書き換えると、マンモスの特徴を持った生き物が生まれるのです。
その結果、遅くとも5年から10年以内にはマンモスを見られるといいます。
更には、ツンドラにマンモスがかっ歩するような生態系を構築し、氷河期パークという計画があるというのです。
この構想においてはマンモス復活はあくまでも手段であり、寒冷地でも生存可能な草食動物が復活すれば、土壌が再生され、ツンドラを草原に戻すことが出来ると考えられています。
そうした大規模な草原で、地球温暖化から救えというのです。
一方で、ハーバード大学の狙いは、こうした構想の中で技術を磨くということにあると考えられています。
また、ゲノム編集やiPS細胞などの最先端技術を用いて、このマンモス再生に挑戦する前から老化防止や移植用臓器の培養の研究を進めていたといいます。
こういった氷河期パークという大義があれば、最先端技術を磨く場を作れるということになるのではという見方もあります。
こうした中で磨いているゲノム編集の技術は、今、医学でも非常に応用が注目されており、遺伝子が原因となる糖尿病の治療や遺伝子変異によって抗がん剤が効かなくなった場合の治療などへの挑戦も続いているのです。
「ジュラシックパーク」という映画がありましたが、復元されたマンモスなどが闊歩する「氷河期パーク」が開園されれば、世界中からお客が殺到すると思います。
更にツンドラを草原に戻すことが出来れば、地球温暖化対策にもなるといいます。
また、ゲノム編集やiPS細胞などの最先端技術を用いて老化防止や移植用臓器の培養、難病の治療法が実用化されれば、多くの人たちが助かります。
このように、ゲノム編集やiPS細胞などの最先端技術は私たちに様々なメリットをもたらしてくれそうです。
特にゲノム編集によるマンモスの特徴を持った生き物の誕生は他の生物への展開の突破口となりそうです。
しかし、一方で“神の領域”とも言えるゲノム編集の副作用についても十分な検討が必要だと思います。
もし、クローンやゲノム編集の弊害に対するリスク対応策が十分に検討されなければ、人類のみならず多くの生物にとって取り返しのつかない状況をもたらす可能性を秘めていることを常に意識しておくことが求められるのです。