6月4日(火)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で耳慣れない”アート力”について取り上げていたのでご紹介します。
ある本屋さんの棚にズラリと並ぶのは、アートの感覚を仕事に生かそうという本です。
中には10万部を超えるベストセラーになったものもあります。
今なぜビジネスにアートが求められているのでしょうか。
ビジネスマン向けのアートセミナーで取り組んでいるのは人物の絵を逆さにして模写することで固定観念を捨てる訓練、人の顔だという思い込みを止めて描いてみると、意外にうまく描けるといいます。
学んでいるのは、既成概念を打ち破り、ゼロから生み出す“アート力”です。
参加者の業種はITや不動産など、多岐に渡ります。
AI(人工知能)が急速に進化する中、自分の仕事の先行きに不安を感じているというビジネスマンたち、人間にしか出来ないゼロから生み出す力を身に付けたいのだといいます。
このセミナーを主催するアート・アンド・ロジック株式会社(ART&LOGIC)の代表で講師でもある増村 岳史さんは次のようにおっしゃっています。
「AIの時代になればなるほど、人がやる事というのは何だろうという、その先にやっぱり直観とか感性というのがとても重要になってくる。」
AI時代を迎え、“アート力”をものづくりに取り入れたメーカーがあります。
バイクなどを製造しているヤマハ発動機は、これまでマーケティングに基づき、売れると見込んだ機能性の高い製品を中心に作ってきました。
しかし近年、機能の面では他社との違いがつきにくくなっているのが課題だと感じています。
そこでカギとしたのが“アート”です。
この会社では市場調査などに頼らず、社員の感性を前面に出した斬新なモデルを次々と発表しています。
身体を優しく包む衣をイメージした電動アシスト三輪車、あるいは真っ白な車椅子、結婚式など“ハレの舞台”での利用を想定しました。
“アート力”で既存のイメージを打破し、これまでになかったニーズを掘り起こそうとしています。
ヤマハ発動機 デザイン本部長の長屋 明浩さんは次のようにおっしゃっています。
「(“アート力”で)お客さんのイマジネーションが発展していって、また次のものにつながっていくというようなことも連鎖が起こって来るので、そういうスパイラルが回っていくようなことを出来るといいなと思っていますね。」
一方、社員の“アート力”で新規事業を立ち上げた会社もあります。
日本事務器株式会社(NJC)は長年電子カルテなどの情報システムを手掛けて来ました。
変化の激しいIT業界で生き残りを賭けて新しい分野に進出しようと決めたこの会社、コンサルティング会社から“アート力”を生かすようアドバイスを受け、議論を始めました。
今ある技術で出来ることを探すというこれまでの発想を捨て、それぞれがやりたいことをトコトン出し合い、新たな可能性を探ります。
デザインコンサルティング会社、IDEOTokyoの野々村 健一さんは次のようにおっしゃっています。
「こんなことが出来たら楽しいのに、こんなことがあったら便利なんじゃないかとか、そういった感覚っていうのはまだまだAIでは補完出来ないところかなと思っています。」
そうして出来上がったのが農作物の流通アプリです。
生産者と流通業者が出荷数などの情報をいち早く補完出来、食品ロスや価格暴落を防ぐという新システムです。
“アート力”を生かしたことで、社員の誰もが想像していなかった新たなサービスが実現したのです。
日本事務器の松島 政臣さんは次のようにおっしゃっています。
「困っていることとか、こうなったらいいという理想の姿を共感出来た。」
「パッションというか、やりたいことがぶれないことが大事だんじゃないかと思いますね。」
ゼロからイチを生み出す“アート力”、それを生かそうという模索は管理部門にまで及んでいます。
アートセミナーで学んだ、丸井グループ人事部の宮崎 海さんは採用を担当しています。
これまでは決められたことを着実に進めることが求められてきましたが、今仕事のあり方を根本的に見直す必要に迫られています。
今後就活(就職活動)のルールが大きく変わる可能性があるからです。
現在は採用を始められる時期が決まっていますが、今後は1年を通じていつでも採用出来るようにしようという議論が起きているのです。
いつどんな説明会や採用をすれば、会社の求める人材が集まるのか、これまでのやり方に囚われない“アート力”を生かし、部全体で新しい採用方法を模索しています。
丸井グループ人事部の宮崎 海さんは次のようにおっしゃっています。
「新しいアイデアは出せっこないとかどこかで半分諦めてたんですけども、毎日毎日小さいことかもしれないけど積み重ねたら出来るんじゃないかなというふうには思えています。」
いつだって先行き不透明で大胆な発想が求められるのですが、AIの登場もあってか、今はゼロから新しい何かを生み出す“アート力”が求められるのです。
企業経営の専門家、多摩大学大学院の紺野 登教授は次のようにおっしゃっています。
「無駄を取る、今あるモノを考えるということは、結構日本の企業は大得意なわけだったですけども、これだけやっていても中々成長しない。」
「やはり引っ張っていくのは自分自身が内側から出てくる力を使ってイノベーションを起こす、新しいモノを作っていくと、そういうことではないかと思います。」
AIの進化に伴ってやはり仕事を奪われるのではないかという声もありますが、AIが得意とするのは飽くまで膨大なデータをもとに答えを導き出すことだとすれば、やはり全く新しいビジネスチャンスを生み出すには人間の直感、閃き力がこれまで以上に大事になるのではないかと感じます。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
今や、商品開発や通常業務への取り組み方において、これまでの発想による改善は飽和状態に達しているようです。
そうした中、AIやロボット技術の進化が大きなきっかけとなり、こうした技術の導入を前提にした商品開発や業務への取り組み方が大きな課題となっています。
さて、頭脳労働において、従業員による業務の多くはAIに取って代わられるという指摘がある一方で、AIの持つ限界が指摘されています。
それは直観とか感性、あるいは皮膚感覚といったような人間の持つ能力を現在のAIは持っていないということです。
そこで、こうしたAIにはない人間の持つ能力に焦点を当てた“アート力”が今注目を集めているのだと思います。
そもそもアートとは芸術や美術を意味します。
そして芸術や美術には想像力(イマジネーション)や創造力(クリエーション)が要求されます。
そして想像力や創造力は直観や感性、あるいは皮膚感覚を研ぎ澄ますことによって磨かれると思うのです。
こうした思考は、現状に囚われない自由な発想につながります。
番組でも指摘されているように、これまでの一般的な日本人の優れているところは現状の改善でした。
しかし、技術革新の速い今求められているのは、従来型の現状の改善よりも“アート力”、すなわち想像力や創造力なのです。
こうした能力を従業員一人ひとりが発揮することによって、生産性向上、あるいは経済発展は新たなステージを迎えることが出来ると大いに期待出来ます。