2019年10月03日
アイデアよもやま話 No.4450 診療データは誰のもの?

5月22日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で病院で診察を受けた際の診療データは誰のものかについて取り上げていたのでご紹介します。 

 

皆さんは次のような経験はないでしょうか。

近所の診療所に行って、採血とCT、レントゲンの検査を受けました。

その一週間後、違う病院に行って、同じように採血とCTを受けることになりました。

CTは近所の診療所と大して変わらないのに、全く同じ高額な値段がかかってしまいました。

 

このように病院を掛け持ちすると、個人の医療費の暴騰にもつながります。

もし個人の診療データを自分自身で持っていたら、医療費の負担は減らせるのではないか、そんな新たな取り組みが始まっています。

 

愛知県一宮市にある総合大雄会病院、地域医療の中核を担う総合病院です。

その病院の中に設けられた「カルテコ」の案内所、「カルテコ」とは医師の診察内容を患者自身のパソコンやスマホで確認出来るサービスです。

患者自身がどんなことを確認出来るのか、このサービスを利用している林 直美さんに見せてもらいました。

林さんの頭の断面映像、CT検査で撮影されたものです。

他にも血液検査の結果や処方された薬の種類や効能などについても患者が簡単に知ることが出来ます。

林さんは、このサービスは医師とのコミュニケーションや他の病院に行った時にも役に立つといいます。

林さんは次のようにおっしゃっています。

「やっぱりお医者さんを前にすると、言いたいことがちょっと飛んでいってしまうんですね。」

「他の病院に行った時でも「いつ行かれましたか、どういう症状でしたか」って言われても、これ(「カルテコ」)を見て言えますし、これを出してもいいですし。」

 

こうした診察情報はPHR、パーソナルヘルスレコードと呼ばれる医療データを集積したものです。

総合大雄会病院では、3月末に導入し、既に1000人以上が利用しています。

病院側が導入を決めた理由について、高田基志副院長は次のようにおっしゃっています。

「患者と医療者のコミュニケーションツールなんですね。」

「いかに円滑に齟齬なくコミュニケーションを促すかが目的のものですので、そこらが(医師が)想像している患者さんの分からないことと実際に患者さんが分からないことはもしかしたら違うかもしれないですよね。」

「そこをもしかするとそこをシステムが埋めてくれるかもしれない。」

 

5月22日、東京都足立区にある総合病院、等潤病院が同じシステムの導入を決め、記者会見を行いました。

等潤病院の伊藤 雅史院長は次のようにおっしゃっています。

「(「カルテコ」は)全国の医療機関情報を集約する、究極のデータセンター型の医療システムになるわけです。」

 

等潤病院は病床数164を持つ、足立区の中核病院の一つです。

しかし、「カルテコ」の導入費用は2000万円、月額費用は50万円で済むといいます。

このシステムを開発したメディカル・データ・ビジョン株式会社の岩崎 博之社長は次のようにおっしゃっています。

「カルテってなんで個人に返らないんだろう。」

 

メディカル・データ・ビジョンは医療の電子化と個人が医療情報を持てるPHRの推進を掲げ、2003年に設立、このシステムが採用されたのは全国で7番目です。

ただシステムの広がり方は想定より遅く、協力病院を増やすことに苦労しているといいます。

導入が進まない理由について、伊藤院長は次のようにおっしゃっています。

「医師の中には、これ(カルテのデータ)を訴訟に使われるんじゃないかとか、そういったものを危惧する方がいます。」

「病院間の連携であっても、今まで進まなかった現実があるので、それを国に期待することも今は出来ない。」

 

医師の中には、医療情報の電子化に抵抗する声があり、国の動きも遅いためと説明しました。

ただ岩崎社長は、本人の医療データを個人がスマホで保存することが広がれば、他の病院の医師の意識も変えられると話します。

「中期の計画として、2025年までにテータの一元化を図るCADA(「カルテコ」のシステム)を(多くの病院が)入れていくことによって、地域のネットワークが出来るっていう道も十分に考えられると思います。」

 

実は医療情報の電子化については、政府は2020年度を目途に導入を進める方針を昨年の骨太の方針に盛り込んでいました。

ところが厚生労働省に取材してみると、担当者は次のようにおっしゃっています。

「コストを考えないといけないという専門家の意見は多い。」

「報告書をまとめるとか、そんな段階ではない。」

「とにかくこれから検討しますよ。」

 

具体的なスケジュールはまだ何も決まっていないといいます。

 

一方で、医療情報の電子化に向けて、積極的な検討を進めているのが自民党です。

データヘルス推進特命委員会の塩崎 恭久委員長らはPHRなどを本格的に稼働するため、近く提言をまとめる方針です。

塩崎委員長は次のようにおっしゃっています。

「(行政と民間が一種の縦割りになっているのではという問いに対して、)それは大変大事な問題なので、今回の提言に入れ込んでいまして、PHRは来年から少なくとも検診情報を見られるようになるということですが、まだ薬の処方(情報)などは来年間に合わないので、再来年出来るようになる。」

「それよりも医療の情報で画像なども見れるようにしていくように党側からプッシュしているということです。」

 

解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「塩崎委員長の頭の中にモデルケースとなる国はあるのかという問いに対して、」バルト海にあるエストニアという国を挙げてましたよね。」

「エストニアは人口130万人くらいの小さな国なんですけど、電子政府などで非常に進んでいる国として有名ですよね。」

「エストニアではもう既に今出て来たPHRが完全にシステム化されているんです。」

「医療情報を個人ごとに集約出来るようになっているので、大変なメリットがあるんですね。」

「例えば、この僕がエストニア人だったとして、交通事故で重い怪我を負ったとするじゃないですか。」

「病院に担ぎ込まれますよね。」

「電話で救急車を呼んで病院に行く、その間にお医者さんは例えば僕の病歴とかアレルギーの状況などをちゃんと把握して即座に治療に入れる。」

「例えばそういうようなメリットが非常に大きいんですね。」

「更にもう1点、時間軸との関係で挙げておきたいんですけども塩崎さんが厚生労働大臣だった2017年に、実は今のPHRみたいな考え方は既に提案されているんです。」

「ところが中々前に進まないということで、塩崎さんが自民党の部会でかなりこれをプッシュする提案を今考えているということなんですが、まさにあちこちにある縦割りですよね。」

「それをどうやって突破していくのか、突破力と指導力がカギだと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

私も病院の掛け持ちで、重複するレントゲンや血液の検査で医療費が二重にかかった経験があります。

これらの費用は個人の負担増のみならず健康保険組合の費用増にもつながります。

 

こうした問題の解決策として、今回ご紹介した医師の診察内容を患者自身のパソコンやスマホで確認出来るサービス、全国の医療機関情報を集約する「カルテコ」が全ての病院に導入されればとても有効だと思います。

他にも、患者が病院の掛け持ちをする際に、このサービスは医師とのコミュニケーションにも役に立ちます。

更には、病院ごとに処方される薬の組み合わせの問題の有無を判断するうえでも有効です。

 

この医療情報の電子化について、政府は2020年度を目途に導入を進める方針を昨年の骨太の方針に盛り込んでいました。

ところが、厚生労働省の担当者によると、具体的なスケジュールはまだ何も決まっていないといいます。

しかし、治療費用の削減、および病院の掛け持ちによる治療の効率化、あるいは緊急医療における素早い対応の必要性などの観点から、全国の医療機関情報を集約する「カルテコ」の導入はとても有効だと思われます。

 

ということで、解説キャスターの滝田さんも指摘されているように、政治家の突破力と指導力で「カルテコ」を早期に全国展開していただくようにお願いしたいと思います。


 
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