4月26日(金)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で平成から令和へと持ち越される課題、”所得格差”について取り上げていました。
そこで、番組を通してプロジェクト管理の観点から”所得格差”の是正という大きな課題についてご紹介します。
平成の30年間で平均世帯所得を見ると、平成元年(1989年)は566.7万円、平成28年(2016年)は560.2万円とそれほど変化していません。(厚生労働省調べ)
しかし、その実態についてよく見ていきますと、平成元年(1989年)と比べて増えているのが、400万円以下、そして1200万円以上の人たちです。
その代わりに中間層が減っているのです。
この背景の一つが非正規雇用労働者数の増加です。
平成元年(1989年)は817万人、そして平成30年(2018年)には2120万人と、平成元年から2.5倍以上になりました。(総務省調べ)
多くの人が時代に翻弄され、格差を感じながら生活してきました。
今まで300社以上の正社員採用の試験を受けて来た木村 武さん(仮名 46歳)が就職活動を始めたのは平成11年(1999年)、就職氷河期真っただ中でした。
この年は大学生の5人に1人が就職出来ずに卒業しました。
木村さんも出版社や小売業など、50社以上受けましたが正社員にはなれませんでした。
木村さんは次のようにおっしゃっています。
「雇用情勢が良い時に社会に出るのと悪い時に社会に出るのとではものすごい、えらい違いなんですよ。」
「本人にとって選べないことではありますからね。」
アルバイトを転々とする中、平成13年(2001年)、28歳の木村さんにようやく正社員の道が開かれます。
就職活動の時に取得したワインの資格が役に立ち、酒の輸入販売の会社に入社します。
給料は手取りでおよそ18万円、暮らしも安定しました。
木村さんは次のようにおっしゃっています。
「正社員で雇ってもらうことには相当気合が入りました。」
「だから多少無理してでもサービス残業をしたりとか、そういうものも平気ではあったんです。」
しかし、上司からのパワハラが続き、結局1年3ヵ月で退職しました。
この頃、社会は小泉内閣が進める構造改革真っただ中、派遣業の規制緩和を進め、非正規雇用が増大しました。
会社を退職した木村さんは工場などの派遣や契約社員として働き、非正規雇用の職をつなぐしかありませんでした。
そうした中、平成20年(2008年)9月リーマンショックが起きます。
この時、木村さんはスーパーで契約社員として働いていましたが、不況のあおりを受け、雇い止めになりました。
この状況から抜け出すため、木村さんは平成23年(2011年)に大学院に通うことを決意します。
フランス文学を専攻し、ワインの知識もより深めることにしました。
しかし、この時既に38歳になっていました。
木村さんは次のようにおっしゃっています。
「普通の人だったら、もう落ち着いて家庭を構えている。」
「自分は取り残されているなという感じがしました。」
大学院を卒業して4年、木村さんに再び朗報が届きました。
今年2月、都内の老舗フレンチレストランに正社員として採用されたのです。
社員5人の小さな会社です。
ワインの知識を生かし、お店で扱うワインの選定や接客など、専門性が期待されています。
手取りは22万円、契約社員の時とほとんど変わりませんが、それでも憧れだった正社員の仕事です。
正社員になれた背景には雇用状況の改善があります。
最近は人手不足が深刻で、正社員の求人も増えています。
非正規社員から正規社員への転換(15〜54歳 総務省調べ)は、平成23年(2011年)、24年(2012年)とマイナスですが、平成25年(2013年)以降はプラスに転じています。
一方、一人当たりの求人倍率(今年3月)は、大企業が1.04倍で、中小企業は9.91倍で、求人は中小企業の方が圧倒的に多いのです。(出典:リクルートワ−クス研究所)
また、正社員と非正規社員の賃金格差は以下の通りです。(平成30年(2018年) 厚生労働省調べ)
大企業 小企業
正社員 37万5900円 27万7800円 1.3倍の格差
非正規社員 22万 100円 19万5100円 1.1倍の格差
1.7倍の格差 1.4倍の格差
小企業では正規社員として働いても非正規社員として働いても大企業ほど待遇が変わらないのです。
木村さんの場合も契約社員の場合と賃金はほとんど変わらないといいます。
そして体力的にも厳しいものがあるとして、会社に対して退職をしたいと申し出ているのです。
木村さんは次のようにおっしゃっています。
「周囲から寄せられる期待ですとか、自分が負う責任の問題ですとか、私自身がそれに耐えていけるのかという問題もそれに伴って浮上してくる。」
一般的に40歳代以降に正社員になると、新たな環境に順応出来ないことがあったりとか、同じ世代の正社員に求められるスキルを持ち合わせていなかったりして、結果的に離職してしまうケースも珍しくありません。
この結果、正社員と非正規社員では将来の年金額も変わってきます。
以下は公的年金受給額の比較です。(平成29年度 厚生労働省調べ)
正社員中心 187.5万円
常勤パート中心 91.7万円
アルバイト中心 91.8万円
このように、非正規社員のまま年を取ると、正社員のほぼ半分の年金額となるというデータもあります。
年金だけで暮らせず、生活保護を受ける可能性もあるのです。
こうしたケースを自己責任として切り捨てるのは簡単なんですが、それでは社会全体の負担が増すだけです。
そこで、今後どうしていくべきか、番組では3人の専門家に聴いてみました。
まずは、非正規雇用で働く人たちをどう底上げしていくかという提言です。
貧困問題に詳しい早稲田大学の橋本 健二教授は次のようにおっしゃっています。
「進めていっていただきたいと思っているのが労働時間の短縮です。」
「短縮すれば、正規雇用として働く人数が増えます。」
「そうすると、非正規から正規に転換出来る人々が増えていきます。」
「現在の非正規雇用の職は人手不足になりますから、当然時給を上げなければ人が集まらないという状況になります。」
「最低賃金の大幅引き上げをして、非正規雇用の人々の待遇を改善することも必要じゃないでしょうか。」
労働問題に詳しい人事コンサルタントの城 繁幸さんは次のようにおっしゃっています。
「正社員と(非正規雇用者が)同じ土俵で健全に競争して、そこから落ちてしまった人には非正規、正社員に関わらず、同一のメンテ(処遇)をするような社会保障の整備が重要になると思いますね。」
「全ての労働者が自身の能力をフルに発揮して報われるような仕組み・ルール作りが今社会に必要だと思いますね。」
更に日本の産業構造そのものを変えていく必要があると指摘する専門家もおります。
雇用問題に詳しい千葉商科大学の常見 陽平専任講師は次のようにおっしゃっています。
「儲かる産業・次世代の産業が日本になくなってしまった、あるいは弱くなってしまったということがそもそもの論点だと思います。」
「次の産業を作ろう、そして全うなビジネスをしようということがやはり日本企業に求められると思いますよ。」
「僕はモノづくりだと信じたいですね。」
「“IT×モノづくり“で何か新しいものを生み出せないか。」
格差の放置は令和の時代につけを回すことになります。
いかに格差を無くすことが出来るのか、待った無しの取り組みが求められています。
以上、番組の内容をご紹介してきましたが、まず、以下に番組の内容を要約してみました。
(“所得格差”の状況)
・平成の30年間で平均世帯所得はそれほど変化していないこと
・しかし、平成元年(1989年)と比べて増えているのが400万円以下、そして1200万円以上の人たちであり、その代わりに中間層が減っていること
・この背景の一つが非正規雇用労働者数の増加であり、平成元年から2.5倍以上になっていること
・そこには小泉内閣が進める構造改革による派遣業の規制緩和があったこと
・平成20年(2008年)9月リーマンショックが起き、多くの非正規社員が不況のあおりを受け、雇い止めになったこと
・その後、景気の持ち直しにより雇用状況の改善し、最近は人手不足が深刻で、正社員の求人も増えていること
・求人は大企業に比べて中小企業の方が圧倒的に多いこと
・また、正社員と非正規社員の賃金格差は以下の通りであること(平成30年(2018年) 厚生労働省調べ)
−大企業における正社員と非正規社員の賃金格差は1.7倍であること
−小企業における正社員と非正規社員の賃金格差は1.4倍であること
−大企業と小企業における正社員の賃金格差は1.3倍であること
−大企業と小企業における非正規社員の賃金格差は1.1倍であること
・この結果、正社員と非正規社員では将来の年金格差も生じてくること
・更に非正規社員の場合、年金だけで暮らせず、生活保護を受ける可能性もあること
(専門家の提言)
・労働時間の短縮
−短縮により正規雇用者数の増加が見込めること
−その結果、非正規から正規に転換出来る人々の増加が見込めること
−同様に非正規雇用の職は人手不足になり、時給の上昇が期待出来ること
・最低賃金の大幅引き上げにより、非正規雇用者の待遇改善が必要であること
・非正規、正社員に関わらず、同一の処遇をするような社会保障の整備が必要であること
・全ての労働者が自身の能力をフルに発揮して報われるような仕組み・ルール作りが必要であること
・“IT×モノづくり“で日本の産業構造そのものを変えていく必要があること
上記の要約、およびその他の情報をもとに“所得格差”の解消という課題対応策を産業界と国による制度の2つの視点から私の思うところを以下にまとめてみました。
(産業界)
・“IT×モノづくり“で日本の産業構造そのものを変えること
・企業は国際的な競争力のある新しいモノづくりを志向し、6年連続で過去最高を更新している内部留保(詳細はこちらを参照)を積極的な投資と同時に従業員の給与増に投入すること
(国による制度)
・“IT×モノづくり“による日本の産業構造転換を産業界が実施し易いように、制度面で支援すること
・以下の施策により、消費を推進する柱と言える中間層の全体に占める割合を増やすこと
−労働時間の短縮を図ること
−最低賃金の大幅引き上げにより非正規雇用者の待遇改善を図ること
−非正規、正社員に関わらず、同一労働同一賃金を図ること
−非正規、正社員に関わらず、同一の処遇をするような社会保障の整備を図ること
・新たな産業構造に沿った法人税のあり方を検討することにより税収増を図り、国の施策に要する資金源とすること