2019年09月10日
アイデアよもやま話 No.4430 最優秀ファンドの投資哲学とは・・・

5月7日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で最優秀ファンドの投資哲学について取り上げていたのでご紹介します。 

 

国内株の投資信託ファンドの2018年1月から12月までの1年間の騰落率、つまり1年で価格がどれだけ上がったかを示すランキング(1位から3位)は次の通りです。(出典:格付け投資情報センターまとめ)

1位 東京海上・ジャパン・オーナーズ株式オープン(東京海上)  5.76%

2位 イオングループ・ファンド(岡三)           −1.35%

3位 厳選ジャパン(AMOne)              −1.60% 

 

昨年はアメリカの利上げですとか米中通商摩擦による日経平均株価の急落などもあり、2位以下が軒並みマイナスでした。

そうした中で、1位となったのが東京海上の東京海上・ジャパン・オーナーズ株式オープン、こちらだけは5.76%というプラスという好成績を残しているのです。

5月7日に発表された格付け投資情報センターのR&Iファンド大賞で最難関とされる国内株式投資信託部門の最優秀ファンドにも選ばれました。

なぜこのファンドが好成績を収めているのか、その秘密を番組で探りました。

 

ジャパン・オーナーズ株式オープンを運用する東京海上アセットマネジメント株式会社で、2013年の運用開始以来その責任者を務めるのが北原 純平さん(38歳)です。

運用額は約330億円です。

北原さんは次のようにおっしゃっています。

「リーマンショックや中国、アメリカの貿易問題があったり、そういうような外部環境を乗り越えて成長をし続けられるような企業は、実はオーナー企業が多い時代だなと思っていますね。」

 

このファンドは経営者が会社の株式を5%以上持つ、いわゆるオーナー企業に限って投資をしています。

数年おきに社長が変わることが多いサラリーマン経営者の企業の株は一切保有していません。

柳井さんが率いるファーストリテイリングや孫さんが率いるソフトバンクグループなどが代表的なオーナー企業に当たります。

ただ、大塚家具などオーナー企業はお家騒動に揺れ動くことがあります。

なぜオーナー企業にこだわって投資をするのか、その理由について北原さんは次のようにおっしゃっています。

「一般的にオーナー企業というと、日本の場合ネガティブな感じで受け止められることが多いんですけど、実際はそんなことはなくて、オーナー自身が株主であるので、株主目線で長期にわたって株主の利益を最大化するような経営が可能になるということ、そして二つ目が迅速な意思決定が出来ること。」

 

一般的なファンドは市場環境や為替相場などの外部要因を分析し、今後業績が伸びる企業を選別することが多いです。

しかし、このファンドはそうした分析はあまり重視しないといいます。

北原さんは次のようにおっしゃっています。

「正直に申し上げますと、外部環境の変化を当てる能力が私にはないですね。」

「外部環境を私自身が予想するのではなく、そこにしっかり対応出来る、実行力のある経営者がいる企業を選別することに力を注いだ方がリターンが上がるんじゃないかな・・・」

 

このファンドの最新の主な投資先と比率は以下の通りです。(2019年3月現在)

1.ZOZO     6.7%

2.アダストリア   6.5%

3.ファイバーゲート 6.4%

4.ウェルビー    6.2%

5.ディスコ     6.1%

 

勿論、全てオーナー企業です。

最も投資をしているのは、前澤社長が率いるZOZOで約22億円、2月から買い始めたといいます。

ZOZOを巡っては、昨年12月に一律で値下げする「ZOZOありがあとう」キャンペーンを打ち出すも、加盟店からは不評を買い、“ZOZO離れ”の動きが鮮明になり、4月にキャンペーンを終了するなど混乱が続きましたが、そのさ中に株を買ったのだといいます。

この株購入の決定について、北原さんは次のようにおっしゃっています。

「(オーナー企業は)特に失敗した時の意思決定が速いと思っていますが、数ヵ月しか経っていない段階で自ら肝いりで始めた施策をすぐに手のひらを返せるのはオーナー企業の強みかな、良いところが出たと私は評価していますね。」

 

短期的なリターンよりも前澤社長の長期的な戦略に期待したためだといいます。

 

そんな投資戦略を取る北原さんが昨年最も成功したのが、2007年に創業した株式会社シルバーライフというオーナー企業です。

シルバーライフが手掛けるのは高齢者向けの弁当宅配サービスです。

ある工夫で急成長中だといいます。

調理済みの食材が工場から配送されるため、店舗にあるのは炊飯具と鍋のみです。

作業は弁当に詰めるだけというシンプルさにこだわっています。

フランチャイズオーナーにとっては、参入し易い条件が揃い、全国671店舗まで拡大しています。

売上はここ5年で3倍となり、65億円を超えました。

株価も2017年10月に上場して以来、約2倍となっています。

 

多くの有望なオーナー企業を発掘してきた北原さんは番組が取材した日にシルバーライフを訪問しました。

上場以来、この企業に投資をしている北原さんはある質問をぶつけます。

「何かアクシデントがあって、社長を辞めなきゃいけなくなった時、この会社はどうなると思いますか?」

 

シルバーライフの清水 貴久社長は次のように答えています。

「今、この業界、この事業では私以上に伸ばせる人はいないとも自負していますので、そこはきちんと自信を持って頑張っていきたいと思っております。」

 

直接対話を終え、納得した様子の北原さん、実は投資先のオーナー企業には必ずあの質問をぶつけているといいます。

この質問の真意について、北原さんは次のようにおっしゃっています。

「私が好きなのは、「(私がいないと)この会社は立ち行かなくなる」というような企業に投資したいというような気持ちがありますね。」

「(「しっかりと優秀な後輩に引き継ぐ」と言いそうだが、)そういうことをおっしゃられる経営者もいますね。」

「そういう企業は私以外のファンドを買ってもらったらいいと思いますね。」

「弁当業界なんて私はほとんど知りません。」

「逆に言うと、それは知らなくていいのかなと思う。」

「業界に精通するよりも業界で活躍出来るオーナー経営者を見つけることだけに注力した方がいいと思います。」

 

オーナー企業に投資するという独自の視点で実績を上げる北原さんらの投資信託ですが、今回R&I大賞の最優秀賞に選出した格付投資情報センターのチーフアナリスト、岡 忠志さんは有望なファンドの見極め方について次のようにおっしゃっています。

「上昇局面ですと、どの銘柄を買っていても大きく上がりますので、中々真価が分かりにくいかと思います。」

「やはり株価の急落局面でいかにうまく運用出来るか、そこでファンドの真価が分かるのだと思います。」

 

2018年の株価の累積騰落率は以下の通りです。(出典:格付投資情報センター)

国内株投信704本平均 −18.02%

日経平均株価      −12.08%

TOPIX       −17.80%

 

こうした状況について、番組コメンテーターでみずほ総研エグゼクティブエコノミストの高田 創さんは次のようにおっしゃっています。

「本来でいうと、投資信託ですからプロがやっているわけなのでインデックスよりも本当は頑張んなきゃいけないはずなんですけども、実際問題としてはそれを中々上回ることが出来なかったということではあるんですね。」

「そう意味では、(2018年は)厳しい受難の年だったということでありますね。」

「逆に言えば、それだけ今後投資信託としては運用の高度化をしていかなきゃいけないという、またそれだけ期待も高いということではないかと思いますね。」

「(そうした中で、国内の投信部門でトップになったのは、オーナー企業に投資をする投信だったということについて、オーナー企業は)ネガティブに言われる部分もあるわけですよね。」

「世襲化だとか、私物化だとか、否定的に言われる部分もあるんですが、実際問題としては、グローバルに見ても結構最近注目されている部分て大きいと思うんですよね。」

「ただ、やっぱり長期的な観点で対応する、でこれだけ厳しい、また変動が大きい時代になりますと、そこに対応して非常に能動的に投資したりとか、そういうことが出来るのは中々オーナー企業じゃなきゃ出来ない部分があると思うんですよね。」

「ですからグローバルに見ても、例えば(巨大IT企業の)GAFAなんかもそうですよね。」

「創業者あたりが中心になって見直しも入っているということだと思いますね。」

 

また番組の解説キャスター、山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。

「やっぱり個人で株を大量に持っている人っていうのは覚悟が違うんだと思いますよ。」

「平成の名経営者の一人だと思いますけど、日本電産の永守会長、この人はM&Aで会社を成長させた人ですけども、当初から国内の企業を買収する際は、必ず個人で自分で借金して株を買って、個人の筆頭株主になるということを課していたんですよ。」

「それで自分を追い込んでいたんですね。」

「(オーナー経営者であることによる違いはあるかという問いに対して、)今VTRに前澤社長が出ていましたけど、あそこは一番納得出来る。」

「つまり、本当に修羅場になった時に、決断が早くて、オーナー経営者の強みとして“止血が早い”ところにあるんじゃないかと思っているんですよ。」

「ユニクロの柳井さんもそうですけども、非常に失敗した時に潔いいんですよ。」

「で、ぱっと駄目だと思ったら軌道修正するというところが早くて、これが中々サラリーマン経営者は出来ないんですよね。」

「自分の代の業績をどうしても良く見せたいんで、誰か膿を出し切ろうとすると特別損失が出ますよね。」

「これが中々出来ないということと、自分が社員だった頃、OBなんかがやった事業だとどうしても何となく見て見ぬ振りをしてしまうかたちで、致命傷になるまでそれは残ってしまうんですよね。」

「会社も人間の体も一緒で、“早期発見、早期治療”をやるところが長生きする。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

投資信託業界のカリスマ的な存在である北原さんは、経営に優れたオーナー企業を投資先を選択する際の最も重要な尺度としているといいます。

確かに一般的な企業ではせいぜい5年ほどで経営者が代わってしまうので長期的な観点からの決断がしにくいというディメリットがあります。

そういう意味で、今後著しい成長の期待出来る業界はまさに投資先として最も相応しいと思います。

なぜならば、こうした業界のベンチャー企業はほとんどがオーナー企業でもあるからです。

こうした観点から、今や投資会社と化した孫さんの率いるソフトバンクグループは、トヨタグループをも凌駕する勢いで収益を上げ続けています。(参照:アイデアよもやま話 No.4348 ソフトバンクグループに見る今後の日本企業のあり方!

 

世界に先駆けて今後とも少子高齢化の進む国、日本の企業のあり方として、ソフトバンクグループや東京海上アセットマネジメントの取り組みは大いに参考にすべきだと思います。

勿論、成長の見込まれる企業への投資以外にも、先端技術関連の研究開発機関やメーカーの育成もとても重要です。

この2つはクルマの両輪と言えます。

 

なお、今回ご紹介した北原さんの投資哲学、およびソフトバンクグループの投資方針を参考に、投資信託や個人での株式投資に参考にすべき投資対象の候補企業の要件について以下にまとめてみました。

・株主目線での長期的な利益の最大化

・長期的な観点からの経営決断

・素早い意思決定

・今後著しい成長の期待出来る業界(AIやロボット、IoTなどの先進IT技術、あるいは先進医療や宇宙関連産業など)

・分散投資


 
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