2019年07月14日
No.4380 ちょっと一休み その677 『”老後2000万円必要”について思うこと』

6月11日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で”老後2000万円必要”を巡る報告書について取り上げていたのでご紹介します。 

 

夫婦で95歳まで生きるには約2000万円の蓄えが必要だと試算して波紋を広げている金融庁の金融審議会の報告書について、担当大臣を兼務する麻生財務大臣は6月11日、「報告書は受け取らない」と述べ、金融庁に報告書は撤回させる考えを示し、次のようにおっしゃっています。

「これまでの政府のスタンスとも異なっておりますので、担当大臣としては正式な報告書としては受け取らないということを決定したと。」

 

この日の閣議後の会見で、こう切り出した麻生大臣、問題となっているのが5月3日に公表された「高齢社会における資産形成・管理」です。

夫が65歳以上、妻が60歳以上で年金に頼る無職の世帯だと、毎月の赤字額は約5万円と指摘、残り20年〜30年の人生があるならば、不足額の総額は1300万円〜2000万円としました。

報告書が提出された翌日、麻生大臣は次のようにおっしゃっています。

「人生設計を考える時に、100歳まで生きる前提で退職金を計算したことはあるか、普通の人はないよな、ないと思うね。」

 

強きだった麻生大臣、ところが報告書を巡って国会では野党から厳しい追及を受けました。

報告書を受け取らないという異例の決断には、参議院選挙での争点化を避けたい考えがあったと見られています。

一方で街の人からは次のような冷めた声があります。

20代の男性は次のようにおっしゃっています。

「僕が年金をもらう時に、もうもらえないかなと思っている。」

「結構貯蓄しようかなというのは日頃から意識はしています。」

 

40代の男性は次のようにおっしゃっています。

「やっぱり年金はアテには出来ない。」

「不安と言えば不安。」

 

実は今回の報告書以外の試算でも貯蓄や資産運用の必要性を指摘する数字が出ています。

全国銀行協会の研究会がまとめた試算では、世帯主が60歳以上の夫婦では毎月約6万円が不足するとして、最小限2500万円程度を蓄える必要性を指摘しています。

 

報告書をまとめた有識者会議のメンバーの一人が番組の取材に応じました。

金融審議会 市場ワーキング・グループのメンバーでみずほ総合研究所の高田 創さんは次のようにおっしゃっています。

「2000万円近くなるという一つの試算に過ぎないわけなんですよね。」

「どちらかと言えば、それを受けた今後の設計をどうしようか、場合によっては自助努力も考えましょうと、そういうようないろんな意味での選択肢を提示したいということだったと思うんですよね。」

 

また、高田さんは、かなり時間をかけて作ったものなので、今回残念なことになったという反応だったのですが、「多くの人が今後の高齢社会の資産形成を考えるきっかけになったのは重要なことなのではないか」とおっしゃっています。

 

解説キャスターで日経ビジネスの編集委員、山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。

「カギを握っている試算は、総務省の家計調査(「高齢夫婦無職世帯の収支(2017年)」)なんですよ。」

「これで収入の方は(年金とその他で)20万9198円、それに対して支出は(住居、食料、高熱・水道など)諸々あって26万3717円になるから、不足分が約5万5000円、これを95歳まで30年間掛け算すると約2000万円足りませんという。」

「これが大元になっているんですけども、これそのものはそんなに間違っていない。」

「確かに平均でやっちゃうんで、実態が見えにくいところがあるんですが、私がこれを見て一番思うのは、若い現役世代はもっときつくなるなと思いますね。」

「一つは、住居のところが少ないじゃないですか。」

「でもこれよく調べてみると、持ち家の比率が9割以上なんですよ、この人たち。」

「でも今の人たち、賃貸派でしょ。」

「もっとこれ膨らみますよ。」

「それから収入の方も明らかに厚生年金も入っているんですけども、今、非正規雇用が増えているでしょ。」

「そうすると、その厚生年金もあまりアテには出来ないということが考えられますね。」

「これは現実をちゃんと見せているんですよ。」

「だからそこは間違ってないんだけども、やっぱり選挙前で、どうしても選挙の争点にしたくないってのが有り々でしょ。」

「そこが非常に残念です。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

この報告書について、6月17日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で、番組コメンテーターで日本総研のチェアマンエメリタス、高橋 進さんは次のようにおっしゃっています。

「日本の年金制度というのは、元々老後は年金だけで暮らせるという設計にはなってないんですね。」

「で、年金をもらえるから貯蓄はゼロでいいという話はちょっと虫がいいと思うんですよ。」

「で、制度としては一定の年金は出るけども、足りない分は自分で若い時から貯蓄で賄いましょうという、そこをはっきり言えばいいと思うんですよね。」

「ただ、そのことについても問題がありましてね。」

「これは政府が出したデータ(「所得階級別の割合変化 60歳未満・男性」 出所:未来投資会議)なんですけども、この25年ぐらいの間(1992年〜2017年)に実は年収が300万円〜700万円ぐらいの中間所得層の割合が日本は減っちゃっているんですね。」

「その分というわけではないんですが、実は(100万円未満の)低所得層が増えているんです。」

「結果、こういう状況だと中々こういう人たちは貯蓄をしたくたって出来ないんですね。」

「それから社会保険料も払えない人が出来れば、老後年金を受け取らない人も出てくるわけですよ。」

「ですから年金問題を考える時は、この低所得層の問題とか貧困の問題、こういうこともきちんと議論すべきだと思いますね。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

さて、ここで関連テーマについて取り上げていた6月6日(木)付け(詳細はこちらを参照)、および6月13日(木)付け(詳細はこちらを参照)のネットニュースを合わせて、その一部をご紹介します。

 

かつて政府は『年金100年安心プラン』をうたっていました。

ところが年金制度は、若い人が負担する保険料の総額と高齢者が受け取る年金の総額がちょうど釣り合う仕組みになっています。

 

かつては、この年金をいくら払うかを先に決めて、それに必要な保険料を若い人から集めるという、いわば「年金額重視」の方式でした。

しかし、この方式だと、年金を増やすたびに保険料もドンドン上がって、若い人たちから「負担が重すぎる!」という声が上がりました。

 

そこで、2004年に法律を大改正して、先にいくら保険料を負担するかを決めてその範囲で年金を配る、という方式に変更しました。

つまり、「年金額重視」から「負担重視」に変わったのです。

 

集まったお金の分だけ年金を払うということになったので、制度は安定することになりました。

つまり、「100年安心」という場合、それはあくまで制度が安心という意味で、もらえる年金の額が100年安心というわけではないと専門家の多くは受け止めているわけです。

 

でも、もらえる年金の額が今後どうなるかわからないというのは、高齢者にとっては不安です。

そこで、年金の水準は、現役の手取り賃金の50%以上を維持するというルールを決めて、ちゃんと今後も50%以上が維持出来るかどうか、5年に一度、定期的に検証することになっているのです。

 

以上、2つのネットニュースの一部を合わせてご紹介してきました。

 

ここで2つの番組、および2つのネットニュースの内容をざっと以下にまとめてみました。

・年金制度は若い人が負担する保険料の総額と、高齢者が受け取る年金の総額がバランスする仕組みで成り立っていること

・日本の年金制度は、老後は年金だけで暮らせるという設計にはなっていないこと

・年金の水準は、現役の手取り賃金の50%以上を維持するというルールを決めていること

・今回の報告書の前提には以下が含まれていること

  持ち家の比率が9割以上であること

  厚生年金が入っていること

・今回の報告書以外の試算でも貯蓄や資産運用の必要性を指摘する数字が出ていること

・非正規雇用の割合は今や4割近くと言われていること

・老後に必要な生活資金は、その前提となる健康寿命(*)や寿命に大きく左右されること

 

  • 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活出来る期間

 

こうしてまとめてみると、冷静に考えれば、私たちは病気にかかったり、思わぬ事故に遭ったり、あるいはリストラに遭ったり、更には何歳まで生きられるかといった様々なリスクを抱えながら生きているわけです。

そして、こうしたリスクの発生次第で、人それぞれにかかるお金は異なってきます。

ですから、いくらお金があれば安心と言っても、その内訳は基本的な生活費、結婚資金や子どもの教育費、それに趣味にかかる費用などを合わせてこのくらいあれば、と老後まで含めた必要な資金をはじき出すのです。

また、一人ひとりの置かれた家族環境によって、親から受け継いだ家に住んだり、自分でローンを組んで家を購入したり、あるいはずっと賃貸住宅に住んだり、更には親からの遺産相続など、いろいろな状況によって自分で手当てしなければならない資金は異なるのです。

 

ですから、今回の報告書でもいくつかの前提に基づいて、老後に“2000万円必要”と唱えているのです。

なので、一概に老後に資金がいくら必要とは言い切れないのです。

しかも、年金はどこかから湧いてくるものではなく、若い人が負担する保険料の総額の範囲内でしか支給出来ないのです。

ですから、高齢者が受け取る年金の総額は、当然のごとく限られてくるのです。

 

ということで、国は明確に国民にこうした状況、そして年金制度の持つ限界をきちんと説明すべきなのです。

それを国は『年金100年安心プラン』などと耳障りのいい言葉で国民の歓心を買おうとしてきたので、今回のような大きな問題になってしまったのです。

 

一方、私たち国民は、国の年金制度に全面的に頼らず、自分の収入やライフスタイルに基づいて、生涯資金調達プランを自ら考える必要があります。

 

さて、こうした年金制度とは別に、非正規雇用の割合は今や4割近くと言われ、格差化が進みつつあるという現状があります。

こうした中、国は「働き方改革」の一環として、正規雇用、および非正規雇用であるかに係わらず、収入の格差解消に向けて真剣に取り組む必要があります。

いくら年金制度が整備されても、そのための支払いが出来ないような国民が増えていけば、年金制度そのものがいずれ破たんしてしまうからです。


 
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