2019年07月07日
No.4374 ちょっと一休み その676 『様変わりする就活』

2月28日(木)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で様変わりする就活について取り上げていたのでご紹介します。

 

2月29日から多くの企業で説明会が始まり、本格化する就職活動、今それが様変わりしているというのです。

入社試験や面接では以下のような問題が出されています。

 

東京オリンピック・パラリンピックで、社会・経済にどのような影響や課題があるか、あなたの考えを述べて下さい

 

こうした問題は、どう始めていいのか、大人でも難しいと思います。

今、就活の現場では、こうした“正解のない”時事問題で学生の資質を測ろうとする企業が増えているのです。

 

2月中旬、就活生のための時事問題講座が同志社女子大学(京都)で開かれていました。

新聞を読んだ後、気になるニュースについて意見を述べ合います。

最近では知識よりも“自分の考え”を求められることが増々多くなっているといいます。

株式会社モザイクワークで多くの企業の採用に携わるコンサルタントで社長の杉浦 二郎さんは、情報が簡単に手に入り、AIで素早く処理出来るようになった今、これまで以上に“正解のない課題”について考える力が求められているといいます。

そして、次のようにおっしゃっています。

「(ビジネスも時事問題も)一問一答型の正解探しではないんですよね。」

「今ある課題ですとか、今ある世の中のことをもう少し整理をし、それを組み合わせていきながら、新しいビジネスや新しいサービスにつなげていくという考え方が必要になると。」

「“今どれだけ考えられているのか”が重視されていくのかなと思います。」

 

そうした中、思い切った採用方法を取り入れる企業も出始めています。

杉浦さんはこの日、インターネットで事業を展開するじぶん銀行を訪ねました。

今年から始める新しい採用方法について打ち合わせに来たのです。

杉浦さんが提案したのが、時事問題と面接だけの採用試験です。

学生は事前に出題された課題に答え、そこを通過したら後は最終面接のみ、これで内定を出そうというのです。

出題されるのは、例えば次のような問題です。

 

ニートやひきこもり問題に対する国の対応のあるべき姿とはどういうものでしょうか。

現状を把握し、これからどのようにしていけばいいのか、あなたの意見を述べて下さい。

 

他にも環境問題や長時間労働まで今の社会の課題となっているテーマの中から一つ自分の考えを自由に述べてもらいます。

 

この会社が求めるのは、“周囲を巻き込みながら問題を解決しようとする人材”なのです。

 

そこで杉浦さんは締め切りまで1週間の時間を設けることを提案、そうすることによってコミュニケーション能力まで測ろうというのです。

杉浦さんは次のようにおっしゃっています。

「自分だけの意見ではなくて、いろんな方たちの考えだとか意見をしっかりと集約をして、一緒になってブラッシュアップしていく過程がとっても大事なんですよね。」

「むしろ全然お互いにカンニングというか一緒になってオープンに議論し、オープンに考え、オープンに集約していって欲しいなということで、事前に出しましょう。」

 

じぶん銀行 総務人事部の玉井 陽司さんは次のようにおっしゃっています。

「こういうことをあえてチャレンジするような、そういうことを面白いと思ってくれる方が、結局仕事も周囲を巻き込みながら調べて自分で考えをまとめてアウトプット出せると思っているので、そういう学生の方に一人でも多く会いたいなって・・・」

 

では実際に就活生たちはこうした採用にどう臨むのか、8年前から正解のない時事問題を出題する生命保険会社、ライフネット生命を訪ねました。

その課題に挑み入社した、入社4年目でシステム戦略本部所属のBさんと入社3年目で営業本部所属のHさんが実際に記述した回答は徹底的にデータを集め、周りの意見なども取り入れながら作り上げたといいます。

当時のことについて、Hさんは次のようにおっしゃっています。

「データ収集とかも基本的にはインターネットで調べてとかというところをやっていたので、考えていくうちに最終的なアウトプットが導き出されたみたいな考え方だったかなと。」

 

またBさんは次のようにおっしゃっています。

「大学院の人とか先生にもちょっと聞いたりとか、「ちょっと参考に聞いてもらえませんか」みたいな感じでやってました。」

「事実と論理と数字を追っていけば、必ず答えは導ける。」

 

オリジナリティと説得力のある回答が評価され、内定した二人、現在はAIを活用した社内でも重要なプロジェクトを任されています。

ライフネット生命 人事担当マネージャー、篠原 広高さんは次のようにおっしゃっています。

「しっかりと自分なりに多角的に情報を集めて来て、しっかりと相手を説得しに行く、提案をしに行くというような姿勢がこの課題から通じてにじみ出ている。」

「リアルのビジネスの場で壁にぶち当たった時にそれを突破する力をしっかりと持っている。」

「そこは狙い通りだな・・・」

 

知識はAIがやってくれるから、考える力が必要だというのは、採用する側の企業が経験や慣習だけでは次の時代を戦っていけないということから来る新たな人材探しなのではといいます。

それほど社会人として羽ばたく世界が様変わりしているということです。

 

さて、杉浦さんによると、正解のない時事問題のポイントは、事実をなるべく多く集め、自分なりの仮設を持つ、そして周囲の人とディスカッションをすることだといいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組でも指摘しているように、これからの時代の労働環境は目まぐるしく変化すると見込まれます。

その背景として、これまで何度となくお伝えしてきたように、AIやロボット、IoT、あるいは自動運転などの技術進歩があります。

ですから、これまでのような単純作業はどんどん機械やシステムに取って代わられていきます。

そしてこうした流れは一気にではなく徐々に進んで行きます。

 

こうした状況を受けて、就活も変わろうとしているのです。

ここで一つ面白いと感じたのは、杉浦さんのおっしゃっている「カンニング」を良しとする考え方です。

学校の試験で参考資料を持ち込むことは許されることはあってもカンニングが許されることはないと思います。

それは学校の試験の狙いが生徒や学生一人ひとりの相対評価であったり、入学試験ではある人数枠しか受け入れることが出来ないという事情から点数でふるいにかける必要があり、カンニングを許せば、そうした評価が出来なくなってしまうからです。

 

しかし、企業においては、まず一人ひとりの業績評価ありきではなく、いかに自社の業績を上げるかが重要なのです。

では競合他社よりも出来るだけ業績を上げようとした場合、これから求められる人材は以下のような能力が求められるのです。

・あらかじめ決められた業務をしっかりこなす能力よりも新しい事業を開拓出来る能力

・これまでの業務を見直し、AIやロボットなどを活用して業務改善を実施する能力

・組織を動かすリーダーシップ能力

・部門間の調整能力

 

ですから、一部の企業が取り組みつつある、今回ご紹介したような入社試験を導入することはとても理に適っていると思います。

 

しかし、今後の日本の将来を考えると、就活の時点でいきなり今回ご紹介したような“正解のない”時事問題を入社試験の題材にして受験者を評価するのでは遅すぎます。

重要なのは小中高、更に大学での教育内容です。

子どもの頃から、それぞれの年齢、あるいはレベルに合わせて“正解のない”問題を解けるような能力を育成するための教育内容を取り入れることが求められるのです。

従来の“暗記重視”から“思考重視”への教育方針の大転換が遅ればせながら求められているのです。


 
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