2月3日(日)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で“観光立国”を目指す日本の状況について取り上げていました。
そこで、番組を通してその達成要因についてご紹介します。
訪日外国人を年間4000万人を目標に、“観光立国”を目指す日本、そのカギは何か、番組ではデータから徹底的に分析します。
外国人旅行客の数は年々増加しており、政府は2020年に年間4000万人を目標に“観光立国”を目指しています。
しかし、GDPに占める観光業収入の割合の世界ランキングでみると、日本は30位で1.9%に止まっています。
では日本に何が足りないかというと、11.1%で1位のスペインを見ていくとヒントが見えてきます。
それは滞在日数が長いことです。
スペインを訪れる人は平均8日間も滞在しています。(2018年8月 スペイン国家統計局)
その理由は、人気の観光地が各地にあるからなのです。
そこで日本の今年2月の中国や香港、台湾からの宿泊者数の2015年から2018年の3年間の伸び率を見ると3.2倍に伸びている地域があるのです。
徳島市からクルマで2時間、四国山地に囲まれ、過疎化が進む大歩危(おおぼけ)・祖谷(いや)地区、今この山間の地に年間およそ2万人もの外国人観光客が訪れているのです。(2017年の宿泊者数)
10年間で30倍に増えました。
お目当ては渓谷の川下りや古い吊り橋、SNSなどで“日本の原風景”と紹介されて人気が広がりました。
今、訪れる外国人の間で評判になっているのが、地元の人たちとのふれあいです。
番組で取材した日、ニュージーランドから日本に初めて訪れた旅行客に声をかけたのは地元で商店を営む山口 由紀子さん(76歳)です。
自分のお店に招いた山口さんは、地域で昔から作られてきたお茶を石臼で挽いてもらい、無料で振る舞いました。
地域の人たちのこうしたおもてなしにはこれまで試行錯誤がありました。
急激に増えた外国人にどう振る舞うか、郷土料理や伝統芸能を紹介するイベントを通じ、少しずつ“もてなす心”を育んできたといいます。
官民で観光振興に取り組む団体の出尾 宏二事務局長は次のようにおっしゃっています。
「昔は外国人を連れて行くと、祖谷のおじいちゃん、おばあちゃんは逃げてたんです。」
「今はだいぶ変わりましたね。」
「外国人を見ると、自分で握手してハグしに行きますから。」
「単にレジャーを提供するということではなく、来訪者と地域の人が上質な交流をちゃんと紡いでいっているというのが、この地域が魅力的な地域だと評価される一因だと私は思っています。」
今や自ら率先して外国人をもてなす山口さんはとても元気です。
言葉は通じなくても気持ちを込めれば伝わることが分かりました。
ニュージーランドから日本に初めて訪れた男性旅行客は次のようにおっしゃっています。
「ここに“本当の日本”を見に来たんだ。」
地元の人たちが長年培ってきた暮らしが何よりの観光資源だと気づいたといいます。
山口さんは次のようにおっしゃっています。
「なんか温かみを感じてくれるんかな。」
「ほっとするような感じ。」
「なんとも言えない笑顔で「ありがとう」って。」
こうした地元の人たちとのふれあいは旅の何よりの楽しみ、思い出になりますが、ただ観光立国を目指すうえで、もう一つ課題があります。
それはいかにお金を使ってもらえるかです。
政府が掲げている外国人旅行客の消費額の目標は、2020年に8兆円を達成することです。
しかし、昨年の実績は4.5兆円です。
まだ目標の半分程度に過ぎません。
そこでどうすればいいのか、緻密な戦略を立てて効果を上げている自治体があります。
それは青森県です。
続々と青森空港に降り立つ人たち、冬の閑散期とは思えない賑わいぶりです。
実は皆、中国からの旅行客で、次のような言葉が出てきます。
「青森、有名ですよ。」
「家族もみんな知っています。」
「りんごが有名です。」
日本人の客足が遠のいていたスキー場は今や大盛況です。
実はこの3年間で外国人宿泊者数の伸び率が6.7倍と最も高いのが青森県なのです。
急上昇の背景は、官民をあげ訪日客の獲得に取り組んだことです。
まず航空路線を次々と誘致、韓国や中国からの定期便は昨年の冬、2倍に増やしました。
SNSの発信にも力を入れ、今や7億人が登録する中国のSNS「ウェイボー」でも47都道府県で1位のフォロ−ワー数を誇ります。
評判を聞きつけ、訪れる人々の心をどうつかむか、今力を入れているのが青森ならではの体験です。
雪景色を見ながら石炭ストーブで温まる名物「ストーブ列車」、冬の青森でしか体験出来ないと大人気です。
青森体験を前面に打ち出し、人気を集める旅館もあります。
星野リゾート青森屋では、到着すると出迎えてくれるのは、雪ん子に扮した係員とポニー、“雪国らしさ”を演出します。
地下に足を踏み入れると、そこは夏祭りの“ねぶた”一色です。
浴衣に着替え、行った先は雪ん子の家、昔ながらの遊びを体験してもらいます。
この旅館、青森の文化を体験出来るイベントが至る所に仕掛けられているのです。
こちらの支配人、山形 徹さんは次のようにおっしゃっています。
「“めんそれ(=めいっぱい)青森”っていう、めいっぱい青森県を表現して、外国の方にももれなく、分かり易く提供している・・・」
実はこうしたイベントの数々、接客から清掃担当まで従業員総出で生み出しているのです。
付箋一つひとつにアイデアを書き込み、週に一度の会議で披露します。
言葉が通じなくても楽しんでもらえるものは何か、知恵を絞ります。
売店担当スタッフは次のようにおっしゃっています。
「青森らしくて素朴なものですとか、仕事しながら何かいいネタにかなっていうのは常に考えています。」
ねぶた祭りのショーで山車を引き回すなど、イベントを率先して盛り上げるのも従業員です。
こうした熱のこもった取り組みが評判を呼び、外国人宿泊者はこの5年で3.5倍に増えました。
外国人宿泊者からは次のような感想が出ています。
「ねぶたが会場を一周するのを見て感動しました。」
「別の季節にまた来て、違う体験をしてみたいです。」
支配人の山形さんは次のようにおっしゃっています。
「1泊じゃ足りなかったと。」
「今度は2泊3泊していろいろなものをもう一回体験しに来ようって、それが我々のある意味“戦略”・・・」
青森県ではこうした取り組みが功を奏して、消費額が2015年から2年で1.5倍に増えました。(出典:観光庁
訪日外国人消費動向調査)
地域の魅力をいかに体験に結び付けられるかがポイントなのかなと思いますが、でも何から始めたらいいか分からないという声もあると思います。
そこで、魅力的な体験を提供するうえで、カギとなるのは何かについて、全国各地を周って自治体などにアドバイスを行っている、日本総合研究所の主席研究員、藻谷
浩介さんは次のようにおっしゃっています。
「外国人が喜ぶような魅力はそれぞれ(の地域に)あるわけでして、それを来て嫌な顔をしない、分かってもらうように言葉が通じなくても真心を込めて、外国の方が来てくれてありがとうという雰囲気でサービスしているところが先にお客さんが増えるんです。」
「目先(の数)増やすことだけに注力して、肝心の喜んでもらうことがおろそかになっている地域は必ずこれから落ちることになります。」
「キーワード「今だけ、ここだけ、あなただけ」のものを1円でも高くお買い上げいただくということを努力した自治体だけが経済効果が出ます。」
「今だけ、ここだけ、あなただけ」というキーワードですが、「今だけ」というのは、その時期にしか体験出来ないもの、「ここだけ」とは、その地方でしか体験出来ないこと、「あなただけ」とは、押し付けではなくて訪日客それぞれのニーズに合った体験、サービスを提供すること、こうしたキーワードがそれぞれの地方がどう実践出来るかが観光立国のカギだというのです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
政府は2020年に年間4000万人の訪日外国人を目標に“観光立国”を目指しています。
しかし、GDPに占める観光業収入の割合の世界ランキングでみると、日本は30位で1.9%に止まっています。
ですから、日本はまだまだ観光途上国と言えます。
しかし、それだけ伸びしろがあるということです。
そこで、番組を通して“観光立国”の達成要因を以下にまとめてみました。
・外国人旅行客の滞在日数を長くすること
・外国人旅行客の消費額を増やすこと
・外国人旅行客と地域の人との気持ちを込めた上質な交流(言葉の壁はネックにならない)
・地域の魅力をサービスや体験に結び付けること
・外国人旅行客を受け入れる地域の方々が外国人旅行客の満足度をより高くするために日々アイデアを考えること
そして、達成要因のキーワードは藻谷さんの指摘されているように「今だけ、ここだけ、あなただけ」だと思います。
更にこの標語の目指すところは、サービス業界全般に適用出来るのではないかと思います。