前回まで3回にわたって”未来の覇権”を目指す中国をテーマに、技術、軍事、金融における米中の覇権争いについてお伝えしました。
そうした中、日本企業の今後のあり方の一つのヒントになる思う番組がありました。
2月6日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の決算会見について取り上げていたのでご紹介します。
ソフトバンクGは2018年4月から12月期の決算を発表しました。
その内容は“投資会社”としての性格を強く印象づけるものでした。
ソフトバンクGの孫 正義会長兼社長(以下、孫さん)は、2月6日の決算会見で次のようにおっしゃっています。
「いったいソフトバンクは何なのかと、ソフトバンクGの姿、かたちが複雑過ぎてよく分からないとおっしゃる方が沢山います。」
冒頭、孫さんのこの発言で始まった決算会見、ソフトバンクGのこの期の純利益は1年前に比べて52%増え、1兆5383円となりました。
その要因について、孫さんは次のようにおっしゃっています。
「ソフトバンクGはもはや通信事業会社ではなくて、純粋持ち株会社である。」
「一言でビジョン・ファンドが大きく伸びた。」
運用額が10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドの株式評価額などが利益を押し上げました。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、これまでイギリスの半導体設計大手、アーム・ホールディングスやアメリカの半導体メーカー、エヌビディアなどに出資、その多くはまだ上場していません。
上昇を続けていたエヌビディアですが、中国の景気悪化などを背景に急落、営業利益ベースで約4000億円のマイナス要因となりました。
しかし、孫さんは次のようにおっしゃっています。
「しっかりとほぼ全株、保険が打たれていた。」
「差し引きほとんど影響はなかった。」
ソフトバンクGは、金融派生商品を使い、エヌビディアの損失を相殺、大きなダメージは受けませんでした。
更にソフトバンクGは6000億円を上限とする自社株買いの実施を発表、これを受けて時間外取り引きで株価は一時8%上昇しました。
こうした中、世界では中国の通信機器大手、ファーウェイを排除する動きが広がっています。
ファーウェイの通信機器を使っている通信事業子会社、ソフトバンクへの影響を問われると、次のようにおっしゃっています。
「仮に(ファーウェイから)置き換えても50億円のワンタイムの費用だということですね。」
「ですからファーウェイの機器が経営の負担に大きくなるのではないかということはちょっと違うのではと。」
「大きな負担になるとは全く考えていない。」
この取材会見に出席していた、番組の解説キャスター、滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「(この会見で注目すべきポイントについて、)キーポイントは21兆円と9兆円のギャップがポイントだと思うんですね。」
「まず21兆円というのは、投資会社っていう言葉が出て来たじゃないですか。」
「ソフトバンクGが投資している先の企業の値打ちを足し合わせたものが約21兆円になるんですね。」
「一方、ソフトバンクGは上場してますよね。」
「株式の時価総額は9兆円なんですね。」
「ということは21兆円と9兆円で倍以上のギャップがあるんですね。」
「そこのポイントなんですね。」
「で、なんでギャップが生じるのかっていうと、言わば投資先の企業というのは孫さん自身の先行きに対するビジョンが示されていると思うんです。」
「ところが、中々投資家がそれについていけていないというところがポイントなんですね。」
「で、孫さんとしても手を打ったんです。」
「それは何なのかというと、自社株を買い戻しますということで、投資家に言わば利益を還元しますということで、投資家に利益を還元する策に出たんです。」
「ただし、それをやったからと言ってギャップが埋まるかどうか微妙なんです。」
「一例を挙げます。」
「孫さんは2035年、ニューヨークの五番街をAIによる自動走行のクルマがどんどん行きかっている写真を示したんです。」
「それはいいんですけども、孫さんご自身61歳じゃないですか。」
「69歳まで社長を続けられると言っておられるんですけども、2035年の姿というのは、孫さんが社長を辞められた後の姿なんですね。」
「言わば時間軸のギャップというのも投資家が戸惑っている原因じゃないかと思うんですね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
番組を通してあらためて感じることを以下にまとめてみました。
・今はまさにAIやロボット、IoTなど技術革新の時代であること
・そうした技術革新の時代には、続々と新しいベンチャー企業が誕生し、既存の大企業にとって代わる存在になること
・そして、時代の一歩先を見通すことが出来、しかも最新技術を取り入れた商品やサービスをいち早く市場に投入した企業がやがて大きな成長を遂げることが出来ること
・一方、こうした技術革新のスピードに付いていけない企業は、大企業といえども次第に凋落していくこと
・こうした状況は株式時価総額など数値化されたかたちで具体的に表されること
以上、まとめてみましたが、実はこうした構図は今に始まったことではなく、古来からのもので、言わば人類の歴史の原理原則の一つではないかと思います。
さて、孫さんは現在の産業界における成功要因を備えた経営者を象徴する人物の代表的なお一人だと私は思っています。
それを象徴する事例を2つご紹介します。
1つ目は、ソフトバンクGがソフトバンクの社名であった頃の役員会議で、インターネットや携帯電話、あるいはロボットなど新規事業を立ち上げる際、孫さんが提案しても、他の全ての役員に反対されました。
しかし、最終的には孫さんの一存で事業は進められたといいます。
その結果が今のソフトバンクGの成長につながっているのです。
2つ目は、昨年10月4日にプレスリリースされたように(こちらを参照)、ソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社は、新しいモビリティサービスの構築に向けて戦略的提携に合意し、新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)株式会社」(以下「MONET」)を設立したということです。
実は、この新会社設立については、別の報道によると、トヨタ自動車の豊田章男社長が孫さんの先見力を見込んでのトヨタ側からの提案によるものであるとされています。
さすがにこのトヨタからの提案には孫さんも驚かれたといいます。
さて、孫さんの持つ先見力を証明しているのは、世界的に見て他の企業がどこも気付かないうちに、これから成長しそうな、しかもいずれ業界のナンバーワンになると見定めたベンチャー企業を見つけ、そこに重点的に投資してきたことです。
その結果、番組でも取り上げていたように、投資による利益が全体の利益に占める割合が大きくなり、ソフトバンクGは今では“投資会社”としての性格を強く印象づける存在となっているのです。
この投資なのですが、その資金は今や10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドというかたちで、その投資先は主に先進テクノロジー関連の成長性の高いベンチャー企業といいます。
ですから、まさにハイリスク・ハイリターンなのです。
そして、最新の報道によれば、孫さんは更に同様の規模のファンドを新たに立ち上げるつもりのようでうす。
このようにみてくると、確かにソフトバンクGは“投資会社”指向のようですが、ベンチャー企業は一般的に開発資金が不足しており、また投資してもらえる投資家や投資機関を探すのは大変なのです。
ですから、ベンチャー企業にとってはソフトバンク・ビジョン・ファンドのような投資機関はとてもありがたい存在なのです。
そして、こうしたベンチャー企業は開発に加速がつき、やがてその中から産業界をリードする企業が誕生する可能性を秘めているのです。
ということで、ソフトバンク・ビジョン・ファンドはビジョンという言葉が入っているように、あるビジョンを達成するためのファンドですが、そのビジョンについて先進技術を最大限に活用して世界的にある分野で貢献出来る、世界的に競争力のあるベンチャー企業に資金的な支援をするファンドであると私は推測します。
そして、これからの企業にとって、こうしたビジョンを掲げ、そのビジョンを実現するためのプロデューサー的な事業に取り組むことこそ最も重要性を増すと思うのです。
こうしたプロデューサー的な事業により、単に一企業への投資ということではなく、相互に関連のある企業群の相乗効果を発揮することも出来るからです。
しかも、より広範囲での新しい労働市場を生み出すことが出来るのです。
ですから、こうした企業活動こそ、今後の日本企業のあり方の一つだと私は思うのです。