1月28日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で網膜投影による画期的なメガネについて取り上げていたのでご紹介します。
昨年11月、都内で開かれた視覚障碍者向け展示会「Sight World」で、文字を大きく見せる拡大読書器など、視覚を補助する器機が展示される中、人気を集めていたのがこれまでにない画期的なメガネのブースです。
このメガネをかけたある男性はメガネで矯正しても視力が0.04といいますが、目の前のサッカーの画面を見て識別出来ています。
別な男性はこれまでは視力が弱いため、テレビから遠ざかっていたといいますが、予想以上によかったと言います。
このメガネを製造しているのは株式会社QDレーザ(QD LASER)(神奈川県川崎市)で、レーザーで網膜に画像を書き込む新しいメガネを作っています。
従来のスマートグラスでは、メガネに小さなディスプレイが付いていました。
一方、QDレーザーは、見えるのはレーザーの点だけです。
この光がレーザー光線で、レーザーの点を覗きこんでみると、そこには映像が映し出されています。
レーザーを目の中の網膜に直接投影することで、映像を見せることが出来るのです。
ですから、コンタクトレンズを外しても全く同じ映像が見えるのです。
菅原 充社長は次のようにおっしゃっています。
「それが網膜投影です。」
「網膜が健全で病気になっていなければ、同じ画像を見ることが出来ます。」
網膜に直接投影するため、瞳のピント調整機能が要らないのです。
こんなことを可能にした技術ですが、その製造現場に入ると、仰々しい装置について菅原社長は次のようにおっしゃっています。
「中は宇宙空間並みの高真空になっていて、そこに半導体の材料を吹き付けることで、半導体レーザーの結晶を作っています。」
超精密技術で作り上げたのが、シャープペンシルの芯と比べても小さい粒の一つひとつがレーザー光を出す部品、半導体レーザーです。
この半導体レーザーの上には電極が付いていて、その電極に電流を流すと、レーザー光が出てきます。
半導体レーザーは、赤・青・緑の光を出し、それらを組み合わることで映像を作り出せるのです。
菅原社長は、かつて半導体物理の分野の研究者で、富士通研究所でこの技術の基礎となる研究を行っていました。
しかし、2001年のITバブルの崩壊で富士通は半導体レーザーの事業化を断念したのです。
そこで2006年に独立し、QDレーザを設立しました。
緑色の光を出す半導体レーザーを安価に量産化することに成功しました。
当時から持っている野望について、菅原社長は次のようにおっしゃっています。
「“半導体レーザー分野のインテルのような会社”になりたいと思っています。」
そして、半導体レーザーの技術を使って、あのメガネの基となる超小型プロジェクターを作る計画が浮上したのです。
しかし、立ちはだかったのは光の強さを制限する規制の壁でした。
菅原社長の研究は暗礁に乗り上げました。
打開策が見えず、暗闇にさ迷っていました。
そんな時、敢えて弱い光にして網膜に当てるという逆転の発想でした。
そして今、QDレーザは新たな使い方を模索し始めました。
奈良先端科学技術大学院大学の清川 清教授は最先端のAR、拡張現実を研究していますが、その研究室にあったのは、バドミントンのシャトルが飛んで行く未来の軌道を映し出すシステムです。
QDレーザの手嶋 伸貴さんはこのシステムを試しているうちにあることに気付き、次のようにおっしゃっています。
「シャトルを追いかけていると、画面を見るのとシャトルを見るのはピントの移動があるので・・・」
今までのARグラスでは、目のピントを「現実」と「グラスに映る映像」の間で移動させ続ける必要があります。
しかし映像を直接網膜に投影するQDレーザの技術ならピントの調節は要りません。
ARに活用すれば、目の不自由な人だけでなく多くの人の役に立つと考えています。
菅原社長は次のようにおっしゃっています。
「グーグルマップを目の前で網膜で見たりとか、料理をしているところでマニュアルやレシピを見たりとかですね、スマホが登場してイノベーションが起こったように網膜投影もそういったイノベーションを起こしたいと思っています。」
半導体レーザーの技術は富士通の中では事業化することを断念したものですが、このまま無かったことにするのはもったいないということで、会社の外に出て起業することによって、技術を生き残らせることを出来たし、進化させることも出来たということです。
今後、大企業から独立したかたちのベンチャーの活躍はもっと目立ってくるかもしれません。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
番組を通して感じるのは、レーザーで網膜に画像を書き込む新しいメガネ、QDレーザーの革新的な技術です。
その特徴を以下にまとめてみました。
・網膜が健全でさえあれば、誰でも同じ画像を見ることが出来ること
・網膜に直接投影するため、瞳のピント調整機能が要らないこと
・従って、従来のARグラスのように目のピントを「現実」と「グラスに映る映像」の間で移動させ続ける必要がないこと
ということで、QDレーザーは視力のない人たちだけでなく、視力のある人たちもARグラスとして使用する際に瞳のピント調整機能が要らないことからとても使い易くなるのです。
そして、ARグラスは、ゲームの世界だけでなく、様々な業務や日常生活においてもその用途はいろいろあります。
ですから、QDレーザーはまさに「メガネ革命」をもたらすと言っても過言ではないと思います。
さて、このQDレーザーの誕生についてですが、菅原社長は、かつて富士通研究所でこの技術の基礎となる研究を行っていましたが、2001年のITバブルの崩壊で富士通は半導体レーザーの事業化を断念したので2006年に独立し、QDレーザを設立したといいます。
当然のことながら、企業は業績が悪くなると、企業を存続させるために“選択と集中”の観点からどうしても断念せざるを得ない事業分野が出てきます。
そうすると、将来性があってもそのままお蔵入りになってしまう技術も出てきます。
しかし、当時の研究者、菅原さんは導体レーザーの将来性を諦めきれずに自らQDレーザを設立したのです。
これは何を意味しているでしょうか。
革新的な技術は、常に経営者とか技術者とか、特定の個人の独創的なアイデアと熱意、そして成功するまで諦めない粘り強さによってかたちになるのです。
菅原社長は、“半導体レーザー分野のインテルのような会社”を目指しているといいますが、このままQDレーザーの技術を進化させていけば、いずれ実現すると思います。
その理由は、QDレーザーの技術が今後の様々な分野におけるARグラスの普及にとって無くてはならない技術だからです。